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28-2

「クッ、何をしてる! 魔法だ! 魔法を放て! 幾ら化け物染みた力を持っていたとしても、魔法の直撃を受ければ只では済まない!」


 指示を受け、横一列に並び始める崇拝者達。

 全員が全員両手を突き出して魔力を練る。


 一人は周囲に槍の様な形状をした炎が。一人は鳥の形を模した水の塊を。一人は頭部の大きさの倍はある巨大な土塊を。一人は掌サイズに収まる、絶えず回転を繰り返す竜巻を。


 それぞれが放つ。

 驚嘆すべきは崇拝者達の練度。

 全てが中級の魔法。


 直撃すれば一溜りも無い、と言うのは誇張では無い。

 されど、アリサは切り抜ける。


 鳥を模した水の魔法も、巨大な土塊による土の魔法も、小規模な竜巻の風の魔法も、複数の炎の槍による火の魔法も。


 回避し。そこら辺に転がっている崇拝者を盾にして。或いは、真正面から打ち砕いて。

 だが、


「……ッ!」


 全てを切り抜ける事は出来なかった。


 直撃は免れたものの、ローブに炎の槍の火が燃え移ってしまう。普通の火と魔法の火では何方が強力かなんて明白だ。


 ましてや、炎の槍は中級魔法。

 どれだけ小さな火種だったとしても、ローブ程度であれば簡単に燃やし尽くしてしまう事だろう。


「ああ、もう! どうしてこんな時に!」


 必死に火を消そうとする。

 しかし、アリサの危機的な状況などお構いなしに崇拝者達は攻撃を仕掛けて来る。


「おい! 異端者が足を止めたぞ! 炎だ! 炎の魔法こそが有用だ! 行け! ありたっけの魔力をつぎ込んで奴を消し炭にしろ!」


 その言葉を聞き、火の魔法を行使しようとする崇拝者達。

 アリサにとっては最悪の流れだ。


 何とかローブの火を消化する事は出来た。

 しかし、一部が燃えた。

 アリサは体をブルブルと震わせて怒る。


「お前ら! 人が嫌がる事をするんじゃねぇ!」


 ブチ切れた。


 もう、形振りなど構っていられない。

 急いでこいつらを片付けなければいけない。

 手段は問わない。


 そこら辺で伸びている崇拝者を投げ槍の要領でぶん投げ、相手が動揺している隙をついて距離を詰める。


 そこら辺に倒れている崇拝者を武器として扱い、次々と崇拝者達をぶちのめしていく。


「な、なんて奴だ! 奴は、化け物……ゴァッ!」


「魔法だ! 幾ら奴が化け物だったとしても、魔法は有用だったんだ! 魔法が直撃する事さえ出来れば……ガハッ!」


「駄目だ! アイツ、意識を失った同志を盾にしてやがる! しかも、もう動けなくなった同志を武器として使ったり、投げたりしやがって……! 狂ってやがる」


「うるせぇ! さっさと、死に晒せぇ!」


 それは一方的な蹂躙。

 例えどれだけ手を尽くしてもアリサを止める事は出来ず、次々に崇拝者達は倒れていく。


 そして、ほとんどの崇拝者は倒された。

 正に死屍累々。

 地面を埋め尽くす、倒れた崇拝者。


 アリサのローブは無事だ。

 しかし、まだ一人残っていた。


「ほう。まさか我らが同志を全員倒してしまうとは」


 格好こそ普通の崇拝者と似通っているものの、ローブに意匠が施されていたり、仮面にはエンブレムの他に奇妙な紋様が刻まれている。


 崇拝者リーダー。

 魔王崇拝者と言う敵の中で、ボスに分類される存在だ。


 その強さは他の崇拝者達とは一線を画す――と言う訳ではない。実の所、崇拝者リーダーの強さは崇拝者と余り違いが無い。


 崇拝者と崇拝者リーダーの異なる点はたった一つ。


「同志を倒した貴様の技量は称賛に値するだろう。だが、幾ら貴様が同志を倒した所で貴

様の敗北は決まっている。何故なら、私にはコレがあるのだから!」


 懐から取り出したのは両掌に収まるサイズの水晶玉。占い師が使う物とは異なり、その

中身は濁ってしまっている。

 闇色に染まる水晶玉は見ていて禍々しく、酷く不気味で恐ろしい。


「この力を解放したが最後! 貴様は凄惨な最期を――」

「そう言うのはもう良い!」


 ボスの前口上。

 ゲーム的には雰囲気作りであったり、重要な情報を手に入れる為に大切なシーンだったりするのだが、アリサは気にせずに攻撃。

 情報とか雰囲気とか、正直どうでも良かった。

 

 早く倒して、早く終わらせたい。

 一気に距離を詰めて、崇拝者リーダーの鳩尾を思い切りぶん殴る。ついでに、両手で抱えていた水晶玉も打ち砕く。


 反応する暇さえも与えず、崇拝者リーダーの鳩尾にアリサの拳がめり込む。その衝撃で吹き飛ばされ、壁に激突。

 そのまま力なく床に倒れる。


「はい! これで終わり! 終了! ようやく帰る事が出来る!」

 

 孤児院を助ける為に崇拝者達を倒しに来た筈なのに、下に着ているのがバニースーツだとバレないように崇拝者を倒す、と言う目的に切り替わってしまった気がしなくも無いが、かくして悪は滅びた。

 アリサは急いでその場を離れようとする。


「おい。まだ勝利を確信するのは早いんじゃないか?」


 それは、崇拝者リーダーの声だった。

 アリサの全力の一撃を食らった筈なのに、崇拝者リーダーは立ち上がる。


 気付けば、周囲には瘴気が漂い始める。

 瘴気は次第に増えていき、崇拝者リーダーに集まっていく。


「人の話は最後まで聞く事だ。私が持っていたのは、魔物の力をこの身に宿す宿すアイテムだ。発動する方法は水晶玉を壊す事。感謝しよう。私の代わりに水晶玉を破壊してくれたのだからな」


 崇拝者リーダーが崇拝者とは異なる点。

 ソレは強力なアイテムを所持している、と言う点だ。

 

 ゲームの設定によると、崇拝者リーダーが保持しているアイテムは全て違法。中でも魔物の力をその身に宿す、と言う水晶玉はとんでもない重罪が課せられている。

 因みに崇拝者リーダーの中では件の水晶玉を持つ奴が一番強い。


( しかも、水晶玉の中にどんな力が入っているのかも未知数。雑魚筆頭のゴブリンだったとしてもそれなりに戦えるから厄介だし、最悪の場合は竜クラスが呼ばれるんだっけ? もしもそうなったとしたら勝てるか? )


 竜と言うのは軒並み強力だ。

 とある一体を除き、勝てる自信は余りにも少ない。


 乱数。乱数の女神よ! あの崇拝者リーダーに最低保証を与えてくれ!


 既に賽は投げられてしまった。アリサに出来る事は、存在するかも分からない乱数の女神様に祈るだけだ。

 瘴気は崇拝者リーダーの体を包み込み、その姿を化け物へと変えた。


「ククク。フハハハハハハ! 素晴らしいコレこそが魔物の力! 力が、力がみなぎって来るぞ! 今なら、例え相手が誰であろうと負ける気がしない!」


 人と魔物を足して2で割った姿。 

 所々に人の面影は残している。されど、魔物の要素が強すぎるせいで、ソレが同じ人間であると認識する事は出来ない。


 と言うより、したくない。

 ローブも仮面も消え失せ、裸となった全身。その皮膚は、ゴツゴツとした鱗でビッシリと埋め尽くされている。


 爬虫類特有の鋭い目。

 鞭の様にしなる尻尾。

 大空を羽ばたく事が出来そうな、巨大な羽。

 鋭利で強靱な爪。


 そして、一回りも二回りを大きくなった体躯。

 頭の先から天辺まで、全てが人間から逸脱している。


「恐れおののくが良い! この私の体に宿った力はワイバーン! 強力な竜種が一種、ワイバーンだぞ! 数多の同志を倒した貴様であっても勝つ事は不可能だ!」


 竜種が一体。ワイバーン。

 得意技は炎のブレス。


「どうしてワイバーンなんだよ!」


 思わず、アリサは叫んだ。

 魔物の種類はかなりの数に上る。


 その中から炎の扱いを得意とする魔物が出て来てしまうなんて。

 乱数の女神が、アリサに向かって中指を立てていた。


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