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28-1

 時間帯が変われば、一度行ったことのある場所でも雰囲気は変わる。


 孤児院が位置するのは、王都の中では治安の悪いエリアに位置する。建ち並ぶ建物はどれもこれもボロボロになっており、廃墟と見間違えても仕方がない。


 ましてや、暗闇に包まれてしまう夜ともなれば、 ホラーな雰囲気まで漂ってしまう始末だ。治安が悪いと言う事は、人が死ぬ数も決して少なくはない。


 案外、幽霊が出て来るかもしれない。


「…………」


 何処からともなく視線を感じるものの、遠巻きに観察しているだけ。

 襲い掛かって来る気は無いらしい。


 尤も、本人はローブの下に身に着けているバニースーツが気になってしまって、それ所では無いのだが。


 孤児院に到着。


 廃墟となった教会に明かりは灯っておらず、スリの少年や、ぬいぐるみを持っていた少女。院長などは、既に眠ってしまっているのだろう。


 だとすれば、アリサにとっては好都合だ。

 本来で有れば院長辺りに断りを入れるのが筋なのかもしれないが、相手は世界の敵だ。


 それに、利用価値が無くなれば孤児院に牙を剥くかもしれない。


 知らず知らずのうちに片付けられていたとしても、感謝こそされど、文句を言われる筋合いは微塵もない。


 魔王崇拝者達のアジトは、孤児院から少し離れた場所にある物置の地下。


 扉を開けた瞬間漂ってくる悪臭に顔を顰めつつ、木箱で隠された入口から中に入る。耳を澄ませば、微かに声が聞こえて来る。


 階段を降りる。

 声は、熱狂は、喧騒は大きくなっていく。

そして、いよいよ魔王崇拝者達のアジトに辿り着く直前で、アリサは呟く。


「……やっぱり引き返そうかな」


 別段、魔王崇拝者達に怖気づいた訳では無い。

 今のアリサの格好は仮面に、全身をスッポリと覆うローブ。されど、ローブを外せば露わになるはバニースーツなのだ。


 戦った所で十中八九アリサが勝つ。

 だが、戦っている最中にローブが破れてしまいバニースーツが露わになってしまったら眼も充てられない。


 恥ずかしい。

 とんでもなく恥ずかしい。

 シリアスな雰囲気に水を差されてしまう。


 孤児院が近くにある。


 そこで適当な衣服――少なくとも身に付けても恥ずかしくない物。みすぼらしくても問題は無い――に着替えてからカチコミに行ったとしても問題は無いだろう。


 寧ろ、こんな大事な戦いの場にバニースーツで来る事自体が無作法と言う物だろう。


 そうに違いない。

 回れ右して孤児院へ向かおうとするアリサ。

 しかし足がもつれてしまう。


「あ」


 やってしまった。


 アリサの体は後ろに、ゆっくりと傾いて行く。

 何とかして堪えようとするが、重力には勝てない。


 盛大に音を立てて、アリサは階段を転がり落ちる。


「何だ? 今、大きな音が聞こえてきたが?」

「まさか同志が階段から転んでしまったのか?」


「そんな馬鹿な! ゆっくり降りれば転ぶなんて事は無いのに、そんな間抜けな事をする奴が居る筈無いだろ!」


「間抜けで悪かったな、ゴラァ!」


 地面に倒れていたアリサは起き上がり、様子を見に来た崇拝者の顔面をパンチ。拳がめり込んだ崇拝者はそのまま吹き飛ばされる。


「ど、同志!」「おのれ、貴様は一体何者だ!」「不意打ちとは卑怯な!」「まさか、我々の遂行なる目的を嗅ぎつけて来たのか!?」


 目視しただけでも、数は数十人。

 かなり多い。


 おまけに全員が全員、黒色のローブを見に纏い、顔は魔王崇拝者のエンブレムが刻まれた仮面によって覆われている。


 何時かの今日。取り巻きをけしかけて来たカミーラとは比較にならない数。されど、アリサの敵では無い。敵では無いのだが……。


 崇拝者が持つ武器は短剣、槍、両手剣、片手剣、鎌……エトセトラ。

 全てが刃物だ。


「どうしてこんなに沢山いるのに鈍器を持ってる奴が 1 人もいないんだよ!」


 相性が悪い。

 回避する事は出来るが、全員の攻撃を全て回避する事は難しい。


 その果てに待っているのは……。

 最悪を想像してしまい、仮面の内側で顔を青ざめる。


「なんだ? アイツ、この数を見てビビッていやがるぞ! 同志よ! この不埒なる輩を早急に排除するのだ! そして『魔王』様へと捧げる贄としよう!」


 狂人のようなセリフに呼応する狂人共。

 各々武器を手にアリサに対して襲い掛かって来る。


 アリサは常に自分自身に支援魔法をかける事によって身体能力が上昇している。筋力や腕力が上がるだけではなく動体視力だって上昇する。


 崇拝者達の攻撃を避ける事は造作でも無い。

 造作でも無いのだが、向こうが武器を持っているのに対して此方は無手。


 最大限、近づかないといけない。

 その隙を付かれて攻撃を仕掛けられれば、回避の難易度は上がる。


「……ッ。本当に、やり辛い……!」


 おまけに魔王崇拝者達は雑魚では無い。


『狂い咲く彩華』において本格的に登場するのは学院襲撃編。しかし、とあるサブクエストにてストーリの都合上、敵として戦う事が出来るのだ。


 レベル差があっても機転を利かせたり、火力のゴリ押しによって倒す事は難しい。そのレベルと同等。或いは、上回る事が出来なければ中々に歯が立たない厄介な敵なのだ。


 無駄に体力が多い上に攻撃力も高く、魔法も中級以上を容赦なく使って来る。その簡略化されたデザインとは裏腹に舐めて掛かると痛い目を見る敵だ。


「……ッ!」


 回避。

 しかし、若干遅れてしまう。

 ローブの一部が切り裂かれる。


 集中出来ない。バニースーツを晒してしまう事になるかもしれない、と言う不安が動きを鈍らせてしまう。


「せめてリーチの長い武器が有れば……」


 理想は棍棒。

 単に振り回すだけでもかなりの攻撃力が期待出来る。


 だが、崇拝者達が持っているのは全員刃物。

 残念ながら棍棒の類は存在していな……。


「あ、崇拝者を使えば良いじゃん」


 アリサがぶちのめし、そこら辺で伸びている崇拝者の足首を掴む。


 棍棒の様に太く固くとはいかない。されど、鞭と棍棒の中間と思えば案外上手く扱う事が出来るのでは無いだろうか?


「なっ!? アイツ、我らが同志を武器として使っているのか!?」


「な、なんて野蛮な……ゴァッ!」

「んな事お前らに言われたくないわ!」


 優れた技能など必要では無い。

 適当に振り回すだけでも崇拝者に命中する。


 直撃した崇拝者は吹き飛び、そのまま撃沈。思い切り振り回している為、武器として使われている崇拝者の安否は定かでは無い――が、悪人なので何があっても問題はない。


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