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「やっぱり、そう言う事でしたか」


 そこは開けた場所だった。

 数十名程度で有れば、余裕で入る事の出来る、土で固められた部屋。機材などが置かれているものの、部屋の広さも相まって酷く殺風景に見える。


 尤も、部屋の壁にデカデカと張られた一枚の布が存在している限り、殺風景の三文字が脳裏を過る事は無いだろう。


 その布が。否、そのエンブレムが存在している、と言う事は、この場所が酷く悍ましい場所、と証明している事に他ならない。


 中心には祈りを捧げる両手。その両手を挟み込むようにして、羊の様な2本の角が存在している。祈りを捧げている両手と、2本の角は白。それ以外は全て赤に染まり、まるで血塗られた場所で祈りを捧げているように見える。


 実の所、その認識は正しい。


 魔王崇拝者と呼ばれる者達が居る。

『魔王』を崇拝し、世界の破滅を望む狂人。


 世界にとっての救世主である『白の聖女』の暗殺を目論み、世界そのものを破滅に陥れようとする、正しく世界の敵。


 それこそが魔王崇拝者と呼ばれる、狂人たちの集団。

 周囲を見回すが、アリサ以外に人は居ない。


「不用心だなぁ。個人的には助かるけど、こう言うのって警備の1人や2人置いておくものじゃ無いのか?」


 余程発見されない事に自信があったのだろう。

 実際の所、孤児院の地下に魔王崇拝者のアジトが存在している、なんて誰も想像が付かないだろう。


 恐らくここの孤児院は本当に経営に困っていたのだろう。そこに救いの手を差し伸べたのが魔王崇拝者達。


 彼らは孤児院の立て直しを条件に、地下に隠れ家を作る事。そして、自身を匿う事を要求した。

 尤も、所詮は打算ありきの共存関係。


 何かしらの不備が生じてしまえば、奴らは容赦なく孤児院を切り捨てる事だろう。或いは、自身達にとって不都合な存在として排除する可能性だって。


 スリの少年は魔王崇拝者達の危険性に気付いていたからこそ、現状を打破する為に模索しており、そこで偶然アリサ達と出会った。

 奇妙な偶然もあったものだ。


「何か目ぼしい物は……お、色々と資料が置いてあるな」


 金目の物があれば拝借しようと思っていたが目ぼしい物は代わりに、幾つもの資料を見つけた。

 その大半がゲーム本編で目にした既知の情報。


 大した情報では無い。

 パラパラと流し読みしていくが、その内の一つで手が止まる。


「……ルミナス学院襲撃計画」


 それはゲームの中盤において引き起こされるイベント。

 読んで字の如く、武装した魔王崇拝者達が学院を襲撃する。


 計画は用意周到。かつ、水面下で行われていた上に、確実に成功する為の武力も保有していた。紆余曲折ありながらも、主人公であるアリサを始めとした攻略キャラ達の手によって魔王崇拝者達は撃退される。


 しかし、決して少なく犠牲を出す事になってしまい、王国中に知れ渡る大事件となってしまう、と言うのがゲーム本編の流れだ。


(だけど襲撃の経緯が異なっている? ゲーム本編では、アリサ自身が自分を『白の聖女』だと公言していた。だからこそ魔王崇拝者達はルミナス学院の襲撃を計画した。でも、僕は自分が『白の聖女』である事を明かしていない。学院の襲撃は起こらない筈だ)


 否、ソレは早計だったのかもしれない。


 学院には決して入学しない、と決意したにも関わらず入学してしまった様に。攻略キャラには関わらない、と決意したにも関わらず関わり合いを持ってしまった様に。運命と言う名の強制力が働いているのかもしれない。


「さて。……一体、どうするべきか?」


 一番簡単な方法はカミーラを経由して、国が運営する騎士団に密告する事。


 この国において騎士団は警察の様な役割を担っている。流石に前の世界の警察よりも融通は利かないが、伯爵令嬢からの密告となれば向こうも無下にはしない。


 しかし、騎士団が動いたとなれば間違いなくこの孤児院は取り潰されてしまだろう。当然だ。仕方がないとは言え、魔王崇拝者を匿った。世界に対する裏切り行為と言っても過言では無い。


 良くて孤児院の取り潰し。

 最悪の場合は、関わった者全てが処理されてしまう事だろう。


 孤児院の取り潰し。

 ソレは、孤児である子供達の居場所が消えて無くなってしまう、と言う事だ。居場所が無くなり、宛も無く彷徨ってしまう。


 その恐ろしさは他でも無いアリサがよく知っている。

 笑顔が消える。考え方が良くない方向に進む。何もかもが信じられなくなってしまう。


 宛も無く彷徨う放浪者の末路など、碌でも無いに決まっている。そして今、アリサはそこへ向かわせようと背中を押そうとしている状態。


 ――だからどうした?


 どうすれば良いのか? 他でもない自分自身に向けて投げ掛けた疑問に対する返答は、実に薄情なものだった。


 気にする事は無い。どうせ、所詮は赤の他人。

 目を掛ける方がおかしいんだ。


「まあ、それもそうか」


 例えここで孤児院を見捨てたとしても、きっと自分の人生には何も干渉して来ない。逆に、孤児院と引き換えに面倒なイベントを解消する事が出来た、と考えれば釣り合いが取れるのでは無いだろうか?


「全くもってその通りだ」


 だからこそ。

 そう、だからこそ。


「こいつらを潰す事にしよう」


 アリサは断言した。


 知っている。

 ――自分が薄情な事を。


 知っている。

 ――自分が、人とは違っている事を。


 知っている。

 ――実際の所、知り合いが死のうと、友人が死のうと、心の底ではどうでも良いと思ってしまう事を。


 知っているのだ。

 アリサは、自分自身が何処か狂ってしまっていると言う事を。


 狂っているから。

 壊れてしまっているからこそ。

「普通」を守らなくてはいけない。


 人としての「普通」を。アリサとして、暮らして来た当たり前を。そして、本来の自分自身と決別する為にも。


「やってやるよ。こちとら、前世の記憶を持っている転生者様だ。お前らみたいな端役、さっさとぶち倒してやる」


 アジトを壊してしまうのは悪手だ。

 一ヵ所に集まっている所を、一網打尽にした方が手っ取り早い。


 決行の日は今日の夜。

 魔王崇拝者達を1人残らずぶちのめそう。


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