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何か不自然な場所は無いか? 疑問を解消する為の手掛かりは無いか? 引っかかる部分は存在していないか?
正義感とは違う。
何方かと言うなら好奇心の方が大きいだろう。
無論、孤児にとっての居場所が無くなってしまう、と言う事は防ぎたい。だがこの違和感を解き明かしてみたい! と言う気持ちの方が強い。
やはり、前世の記憶を思い出したとしてもアリサはアリサなのだろう。
監禁されても笑い、セクハラされても笑い、暴力を振るわれても笑い、誰かを傷付けても笑う。イカれた攻略キャラ達よりも、何処か頭のネジが外れてしまった少女。
それこそが『狂い咲く彩華』の主人公であるアリサなのだ。
「……結局、前世の記憶を取り戻した所で本質は変わらない、か」
考え方は変わった。価値観は変わった。性格も若干変化した。しかし、その芯の部分。アリサがアリサである、と言う根底が覆る事は無い。
それで良い、と思う。
しかし、果たしてそれで良いのか? とも思ってしまう。
「お姉ちゃん、もしかして具合が悪いの?」
誰かに声を掛けられて、ハッとする。
考える事に夢中で、周りを見ていなかった。
アリサの傍に現れたのは、年端も行かない少女。髪はややボサ付き、服も若干ボロボロ。手に抱えられたぬいぐるみは若干汚れてしまっている。
「具合が悪い、と言う訳ではないですね。何方かと言えば、悩んでしまっていると言った方が正しいかもしれません」
「悩み? それって、どんなの?」
「私は私のままで良いのだろうか? ……って言う悩みですね。まあ、流石に貴方にこんな事を言っても分からないですよね?」
「うん。分からない」
「ですよね。ですが、いつかその時になれば分かる時が来るかもしれませんね」
アリサは少女の頭に手を置き、優しく撫でる。
一切邪気を感じられない、純粋無垢な笑顔が妙に眩しく感じられた。
「あ! だったら、お姉さんがお姉さんの悩みを話してくれたお礼に、私の秘密も教えるね! まだ、誰にも言って無いんだ!」
「秘密、ですか?」
何処かに宝物でも埋めているのだろうか? 或いは、美味しい花の蜜を吸える場所を見つけた? はたまた、無知故に理解していないがトンデモ無く危険な場所を見つけた、と言う可能性も……。
少女に手を引かれて、暫く歩く。
「ここだよ!」
孤児院から歩いて少し。
そこには、ポツンと置かれていたのは古びた物置が。
廃材を用いて作られたのか、形は酷くいびつ。軽く衝撃を与えれば、ソレだけで崩れてしまいそうな程に脆そうだ。
縦横高さ共に数メートル程あり、そこそこの大きさ。
ただし、孤児院からだと目に付きにくい。
アリサでも気付けない。
ソレこそ、少女が教えてくれなければ知らずに終わったかもしれない。
「それで、この物置がどうかしたんですか? 見た所、とても壊れやすそうに見えますが、まさか中に何か隠してるんですか?」
「フフッ。ソレよりも凄い物だよ!」
「凄い物?」
いまいち想像が付かない。
少女は周囲に人が居ない事を確認した後、小声で教えてくれる。
「あのね、コレは皆に内緒なんだけど、私、夜にね、間違ってここら辺まで来ちゃったの。それでね何か変な影を見たんだけどね、その影はこの物置の中に入って消えちゃったの。私ね、勇気を出して物置の中を開けてみたんだけど、中には誰も居なかったの。不思議だよね? だって、大きな影さんは消えちゃったんだもん! だから、この物置には大きな影さんが隠れてるの!」
「な、成程」
孤児院の方から鐘が鳴る。
カーン、カーン、と安っぽい。
金属の響く音。
少女はハッ、とした様子で。
「あ! そろそろおやつの時間だ! お姉ちゃん、バイバイ!」
手を振りながら、孤児院の方へと去っていく少女。
見送った後、アリサは物置の扉を開ける。
木の軋む音。粗雑な作りだったせいか、スムーズに開かない。ブワッ、と鼻を刺すような悪臭。刺激臭や腐乱臭。人体にとって拒否反応が出てしまいそうな匂いをブレンドした、まさに人避けの匂いと言い換えても良い。
思わず顔を顰める。鼻を摘まむが、物置から出ようとはしない。
中は幾つものガラクタが積み上がり、組み合わさって一種の芸術的なオブジェクトを形成している。
コレを全て取り出して物置を捜索する、と言うのは中々に骨だ。
大きな影が物置の中に消えた、と少女は言っていたが、やはり所詮は子供の言った事。ある種の見間違いか何か、とアリサは思わなかった。
孤児院を訪れた時から感じた違和感。一つ一つは些細な物だが、積み重なれば疑惑へと変わって行く。
そして今、アリサの脳裏には一種の推測が立てられている。
荒唐無稽な話だが、生憎ここは剣と魔法の世界だ。
ファンタジーな要素は、寧ろこの世界では常識。
孤児院周辺に怪しい場所は無かった。消去法として残るのは、孤児院から離れた物置。少女の話も恐らく嘘では無い。
違和感を抱いた原因は、恐らくココに存在している。
(いや、頻繁に人が出入りする可能性を考えるのであれば、このガラクタをわざわざ動かすと言うのは非効率的。だとすれば、案外単純だけど見落としてしまうギミックが……)
ガラクタ積み重なったオブジェの傍。
木々の腐った箱がある。
丁度、蹲ったアリサがすっぽりと入る程の大きさ。
箱を動かしてみれば、そこには大きな穴が存在していた。人一人が中に入るには余りにも容易な巨大な穴。
「成程。隠し穴か」
穴に近づき耳を澄ましてみるが物音は聞こえない。
アリサは意を決して中に足を踏み入れる。
土を固められて作られたであろう階段は果てしなく続く。
コツン。コツン。靴の音がよく響く。
途中から螺旋階段へと変わり、やがては地下に到着する。




