表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/40

20

 昼食会が行われる場所は、校舎裏。

 貴族――ましてや、王族が食事を取るべき場所では無い。

 何故、この場所を選んだのだろうか?

 アリサの疑問は、カイラが取り出したとある品によって氷解する。


「それじゃあカイラ。頼む」

「了解しました。殿下」


 何処からともなく取り出したトランクケース。

 一見すると、何処にでもある品。

 しかし、その中身が違った。


 取り出されるのは、明らかにトランクケースには入らないであろう品々。テーブル、椅子。ナイフやフォーク。食堂から持って来たのか、幾つもの料理。

 料理に関しては、さっき作られたかの様に湯気が立つ。


「コレはもしかして……マジックバッグですか?」

「知っていたのか? その通り。コレはマジックバックだ。どんな物でも入れる事が出来るし、この中では時間が経過しないと言う面白い特性も持っている。とても便利な品だからこうやって常に持ち運んでいるんだ」


 魔法道具。

 魔法を使う事の出来る道具。

 ないし、魔法が秘められた道具の事をそう呼ぶ。


 基本的に魔法道具は高値で取引され、発見される主な場所は迷宮。

 中でもマジックバッグは、その利便性の高さ故に、莫大な値が付く。王族であっても、簡単に手に入る品では無い。


(いいなぁ。マジックバッグ。欲しいなぁ。下さいって言ったらくれるかな? ……いや、流石に無理か)


 手際よく準備は行われ、食事の場が整えられる。

 机にずらりと並ぶ料理。

 アリサとジュダスは、互いに向かい合う様にして座る。

 早速料理に手を付けようとするが、ジュダスに話を振られる。


「そう言えば、君は決闘でバートランドを倒したようだな?」


 ジュダスも学院の一生徒。

 学院中で噂になって居れば、嫌でも聞いてしまうだろう。


「正直な事を言うと、運も有りました。バートランド様はとても強かったですから。行動が一つ異なって居れば、勝者はバートランド様になっていたかもしれません」

「だが、君はバートランドに勝った。彼の素行は問題ではあるが、それでも第三騎士団団長の息子と言う肩書は大きい。誇っても良いんだ。まぐれだろうと何だろうと、君はバートランドに勝利したのだから」


「…………もしかすると、まだ実感が湧かないのかもしれません」

「誰しも、初めての勝利と言うのはそう言うものだ」


 食事は始まる。

 護衛であるカイラは食事に参加せず、周囲に目を光らせる。

 ジュダスは優雅な所作で食事を行う。


 対するアリサは、別段食べ方が汚いと言う訳でもない。料理は味わっているし、よく噛んで食べている。

 にも関わらず、まるで二倍速された映像のように、次々と机に並べられた食事を平らげていく。一応、沢山食べても構わないと言う言質は貰っている。


 カイラが何か言いたそうな目でアリサを見つめているが、意図的に無視する。

 食べ終わったお皿はどんどん積み上がっていく。


(もしかしてコレって、カイラがジュダスが好きな物とか、好きそうな物を片っ端から用意したからこんな数になったのか? いや、ジュダスは大食いじゃ無いんだから、もう少し位量を減らしておけよ……。まあ、そのお陰で僕はこんなに沢山食べる事が出来るんだけど)


 ジュダスが、アリサを見つめている事に気付く。

 何か嫌な予感がする。

 一度、食事の手を止める。


「殿下。私の方をじっと見ているようですが、何かありましたか?」

「あ、いや。……別段大した事では無いんだが、君の頬にな……」

「私の頬にですか?」


 一瞬、言葉の意味が分からず、首を傾げるアリサ。

 それをどう受け取ったのか、ジュダスは机から身を乗り出し、アリサへと手を伸ばす。正確に言うなら、アリサの頬へと。

 伸ばした手は――アリサが避ける事によって、空を切る。


「…………」

「…………」


 右の頬を指でなぞると、アリサの指先には食べかすが付いていた。


「ああ。何かが付いていましたね。殿下、ありがとうございます」

「……いや。礼には及ばないさ。……うん」


 何とも言えない空気が漂う。

 アリサは内心、胸を撫で下ろす。


(危ねぇ! マジで危ねぇ! もしもあの時、頬についていた食べカスを取られていたら、きっと何かトンデモナイ事が起きてた! マジで危ねぇ! ナイスだ、僕!)


 いたたまれない空気ではあるが、再び食事を再開しようとしたその時。

 何処からともなく、笑い声が聞こえてきた。


「あはっ。アハハハハハハハハハ! 王子様ともあろう人が、さりげない気遣いも成功する事が出来ないなんて!」


 聞き覚えのある声。

 思わず顔面をぶん殴りたくなってしまう、腹立たしい声だ。


「誰だ!」


 叫ぶジュダス。

 その声に応える様に、四人目の来訪者が姿を現す。

 恐らくは魔法によって、自身の姿を隠していたのだろう。

 徐々に、その姿が露わになる。


「このボクを知らないなんて酷いなぁ! ボクの名前はベテ・フォン・カーソンさ! 王子様である君の行動が何とも初々しくてねぇ、思わず声を掛けてしま……」

「曲者!」

「……え?」


 カイラはベテに蹴りを食らわせる。

 まさか攻撃されるなんて、想像もしていなかったのだろう。

 おまけに、ベテは打たれ弱い。

 カイラが見舞う全力の一撃によって、ベテの体は呆気なく吹き飛ぶ。そのまま木に直撃し、体がくの字に曲がる。


「……がっ、はっ!」


 白目を向き、力無く倒れるベテ。

 体は小刻みに痙攣を繰り返し、足や腕は曲がってはいけない方向に曲がっている。

 明らかな重傷だ。


「殿下! ご無事でしたか!?」

「いや、俺は大丈夫だが……彼は辺境伯であるカーソン家の者では無いのか!?」


「関係ありません」

「いや、関係なくは無いだろ!? 相手に敵意は無かったんだぞ!?」


 ベテは虫の息と言っても良い。

 このまま何もしなければ、ベテは死んでしまうだろう。

 攻略キャラの死亡。


 アリサにとっては喜ばしい事ではあるが、ジュダスはアリサを見ている。恐らく、知っているのだろう。

 聖属性の使い手は、回復魔法が使える事を。

 そして、アリサは回復魔法を習得している。


「回復魔法を使う事は出来るか? どうか、カーソン家の彼を治して欲しい」

「殿下の頼みとあれば」


 こう答えるしかない。

 アリサは半死状態のベテに近づく。

 掌を翳せば、淡い光がベテの体を包み込む。

 弱々しい光は次第に光の勢いが増していき、ベテの体を呑み込んでいく。時間にしてほんの数秒。光が消えると同時に、ベテの傷は治っていた。


「完了しました」


 ベテは目を覚ます。


「あれ? ここは一体?」

「何処か、体に異常は感じますか? 記憶に、何かしらの齟齬などは? 意識はハッキリしていますね? 私が立てている指は何本か分かりますか?」

「あ? え? 3本だけど……」


 残念ながら、何処も異常は無さそうだ。


「念の為に、先生を呼んで来ます」

「本当に助かった。君が居なければ、一体どうなっていた事か……」

「大丈夫ですよ。私は人として、当たり前の事をしただけですから」


 そう。普通の事だ。

 目の前で死にそうな人が居たら助ける、なんて事は。

 攻略キャラが3人もいる危険地帯から逃げ出す口実が出来たので、アリサは早速校舎裏を後にする。

 教員に関しては、保健室の先生が妥当なのだろうか?




「えっと……ボクの身に一体何が……?」

「何から説明するべきか。本当に申し訳ない。コラ! カイラ! お前も謝れ!」

「……すいませんでした」


 ジュダスに怒られても尚、カイラはベテに対して警戒を続けるのだった。

 コイツ、反省していない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ