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17-2

 迫りくる攻撃。

 相手は鉄の塊だ。

 おまけに大剣。重量は相当であり、直撃すれば、グロテスクなミンチに変わってしまうだろう。


 だが、驚くべきはバートランドの膂力と剣術。

 重量のある大剣を軽々と扱える上に、剣技を披露する。

 少なくとも、彼が口だけの人間では無い証明になるだろう。尤も、決闘で有るにも関わらず相手を殺しにかかっている時点で、彼に対する評価は地の底まで落ちていく訳なのだが。


 地面と触れ合った瞬間、激しい衝撃音と共に砂埃が舞う。

 砂埃が晴れる。

 同時に、グロテスクなミンチと化したアリサが姿を現す――何て事は起こらない。


「ま、及第点って所か? 少なくとも、これ位は避けねぇと話にならねぇ」

「貴方、決闘の意味を理解していますか? 殺し合うんじゃ無いんですよ?」


 アリサがした事は至ってシンプル。

 数センチ、横に避けた。

 結果、大剣の直撃を回避出来た。


 周りから見れば、神業かもしれないが、アリサにとって大した事では無い。単に、少し移動しただけなのだから。

 残念ながら、アリサの抗議は聞き届けられない。


 バートランドの返答は「知るか。そんな事」であり、決闘にも関わらず対戦相手であるアリサを殺す気満々であった。

 やっぱりコイツ、頭がおかしい。

 次々と繰り出される攻撃を、アリサはヒラリヒラリと回避していく。


(さて。どうやって負けようかな? 大剣の攻撃をうっかり食らってリタイア――って言う流れが自然かな?)


 周囲が決闘を止める様子は無い。

 中世ヨーロッパでは娯楽が少なかった為、罪人の処刑が娯楽の1つとなっていると言う話だったが、もしかすると観客はこの状況さえも楽しんでいるのかもしれない。

 或いは、誰も止める事が出来ないのか。


(うーん。コレはさっさと負けてしまった方が良いか?)


 だが、タイミングは重要だ。

 露骨過ぎると、バートランドが何をしてくるか分からない。理想としては、バートランドが満足できるギリギリのラインを狙いたい。

 そして、アリサを実力者だと思っていたものの、どうやら自分の勘違いらしい。みたいな結論に落ち着いてくれれば言う事無し。


(……今か? いや、もうちょっと粘ってみるか……? いや、今なのか!?)


 頭の中は呑気なものだが、傍目には息を付く暇も無い戦いが繰り広げられている。一撃一撃が即死に繋がる攻撃を繰り出すバートランド。

 そんな攻撃を、紙一重で回避するアリサ。


 攻戦一方。防戦一方ではあるが、何方も観客達にとっては規格外。自然と周囲の熱気も上がっていき、歓声の声も大きくなっていく。

 次は一体、どんな展開が繰り広げられるか? 観客達は想像を巡らせていくが、ここから先の展開は、観客達が思い描いていた展開とは大きく異なっていた。


「おい。お前、舐めてんのか?」


 攻撃を止め、怒声混じりにそう言ったバートランド。

 一瞬、わざと負けようとしている事に気が付いたのか? と思ってしまったが、まさか人の心を読む事なんて出来ない。

 だとすれば、一体何故?


「一体、何の話ですか?」


 アリサは本気では無い。

 だが、全力だ。


 攻撃こそ仕掛けていないものの、バートランドからの攻撃は必死に避けている。幾らアリサと言えど、まともに食らえば命の危険があるからだ。

 だからこそ、回避に関しては手を抜いていない。


「まさか、攻撃まで行えと? ……見ての通り、私は回避するだけでも精一杯なんです。それに、昨日も言ったじゃ無いですか。私では、貴方の相手にはならない、って」

「んな訳が、ねぇだろうが!」


 一体、何が気に入らなかったのか。

 バートランドは叫ぶ。

 思わず、周囲がシンと鎮まり返ってしまう程の声量で。


「期待外れも良い所なんだよ! お前は俺の攻撃を避けるばっかりで、こっちの思い通りには動かない! お前は、この俺を舐めてるのか? この俺に、恥をかかせたいのか? それとも、この俺を馬鹿にしたいのか? もっと俺を楽しませろよ! クソが!」


 多分、違う。

 アリサが手を抜いているとか、わざと負けているとか。

 そう言う事には勘付いていない。


 単に、自分の想像とは違ったから怒っているのだ。

防戦一方の展開になるのでは無く、互いに力と技のぶつかり合いになる事を望んでいたのかもしれない。

 しかし、想像と現実は違った。

 だからこそ、ここまで怒り狂っているのだ。

 全くもって共感する事は出来ないが。


「だったら、俺がお前をぶっ殺してやるよ! そうすれば、案外面白くなるかもしれないよな? もしかすると、お前が強くなるかもしれない! だから、死ねよ――お前」


 バートランドの掌に赤い靄の様な物が宿る。

 嫌な予感がした。

 が、間に合わない。

 躊躇する事無く、自身の顔を覆い隠すように掌を押し付けた。

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