17-1
決闘の約束をした翌日。
学院のグラウンドは、沢山の野次馬で埋め尽くされている。
アリサは思い切り叫ぶ。
「どうして、こうなったんじゃ―!」
バートランドは自身とアリサが決闘を行う、と言う事を吹聴する性格ではない。だとすれば、あの時の話を誰かが盗み聞きしていたのだろうか?
ルミナス学院は優秀な人材を輩出している名門校だ。性格にはかなりの難があるものの、四人の攻略キャラ達も優秀と呼ばれる部類に入る。
だが、所詮は氷山の一角でしかない。
当然ながら、他にも規格外は存在している。耳敏い者。目敏い者。勿論、ソレだけには留まらない才ある者達。
ゲームに登場していなければ、流石のアリサでも如何にもならない。
(クッ! 一体誰なんだ? 裏で糸を引いている奴は! きっと、絶対、必ず目にも良い物を見せてやる! 絶対に!)
周りを見れば、屋台らしき物まで設営されている。
「さあ賭けた賭けた! 今回はあの第三騎士団団長の息子であるバートランドと、平民でありなが本校に入学して来た特待生との決闘だよ! 分はバートランドにあるものの、特待生の方は未知数! もしかすると、予想外の展開が見れるかもしれないよ!」
胴元の口ぶりから察するに、恐らくはバートランドの方がオッズは高いのだろう。
賭け場に集まる生徒達。
その中でも、一際目立つ女子生徒が1人。銀色のツインドリルは、人混みに紛れていたとしても目立つ事だろう。
「勿論、私はお姉さまに全額賭けるわよ! お姉さまがあんなのに負ける筈が無いでしょうが!」
カミーラが何処からともなく、ずっしりとした重量感のある財布を取り出す。ソレを見てざわつく周囲。
アインとマインも含む取り巻き達は、必死にカミーラを止めようとしている。
「こら! 放しなさい! コレは私が如何にお姉さまを慕っているのか。ソレを証明する為に必要なのよ! ソレに、お姉さまがあんな奴に負ける訳が無いでしょう!? お姉さま、私は貴方を応援してるわよ!」
アリサは他人の振りをする事に決めた。
決闘の場はグラウンドの中央。
そこに観客は居ない。
逆に言えば、それ以外は全て沢山の観客によって埋め尽くされてしまっている。だが、アリサがグラウンドの中央へ向かおうとすると、道が出来上がる。
「…………」
軽く頭を下げ、アリサはグランドの中央へと向かう。
周囲からの視線をヒシヒシと感じる。
平民を馬鹿にする――嫌な視線では無い。
寧ろ、好意的な視線と言っても良い。もしかすると、アリサが何かやらかしてくれるかもしれない、と言う期待の篭もった視線。
確かに、アリサは学院で幾度となくやらかした。
的当て用の鉄製の案山子を破壊してしまったり、うっかり超級の精霊を召喚してしまったり、挙句は伯爵家であるカミーラを自身の舎弟? にしてしまった。
だからこそ、今度も何かやらかしてくれるのかもしれない、と期待しているのだろう。
アリサは申し訳ない気持ちになってしまった。
(ゴメン。皆。僕、わざと負けるつもりだから。……と言うか、もう目立ちたくない。マジで)
アリサはバートランドに勝つ事が出来る。
余裕だ。
バートランドは、所謂脳筋キャラ。
近接攻撃が脅威となるが、ぶっちゃけアリサの方が脅威だろう。
基礎的なステータスを比較しても、課外実習で戦った、迷宮主のゴーレムの方が高い。そんなゴーレムに対して、力技で拮抗して見せた挙句、余裕で勝利出来たアリサ。
何方が強いかなんて明白だ。
手に汗握る勝負なんて起こらない。
スタートの合図と共に、顔面を殴って終わりだ。
(……だけど、そんな事をしてしまうと更に目立つからなぁ。……本当に面倒くさい)
決闘に勝利してしまえば注目を浴びてしまう。
だからこそ、決闘に負ける事は絶対。
問題はどうやって負けるのか? だ。
「どうやら逃げずに来たようだな?」
「そりゃあ、お金を貰っていますから。ちゃんと決闘は受けますよ」
中央で待つバートランド。
手には身の丈程はある巨大な大剣を握っており、明らかに女子と喧嘩をする為に持って来て良い代物ではない。
アリサとバートランド。
2人はグラウンドの中心で対峙する。
事前に用意していた訳では無いのにも関わらず、何処からともなく現れる審判。観客達の視線は2人に集まるが、当の本人達は気にした素振りすら見せない。
「これより、バートランド・フォン・ブリッジとアリサによる決闘を始めたいと思います! 何方も自身に恥じない戦いを! それでは、決闘、開始!」
――うん。まあ、戦いながらソレっぽい事を考えるか。
審判の決闘開始の合図と共に、バートランドは両手で握った大剣を振り下ろした。