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『狂い咲く彩華』には、実は周回要素が存在している。
武器や装備は武器屋で購入する事が可能だが、倒した魔物の素材を使って新たに作り出したり強化したりする事も出来る。
一番よく使われる素材こそ迷宮主の素材で有り、必要素材数が大量と言う事も有って、迷宮主にはリスポーン機能が付いている。
時間にして大体数分。
ゲームのシステム的な話なのでリスポーンは可能なのか? と言う話にもなって来るが『次元の穴』が存在しているのだから、リスポーン機能が搭載されていたとしてもおかしくはない。
迷宮主の出現場所は、古びた闘技場の中心。
観客席は地面から数メートル離されており、中心を囲む様に、円状に設置されている。椅子は用意されているが、背もたれは用意されていないので快適とは言えない。
因みに、観客席と中心を繋ぐ階段が存在しており、行き来は可能だ。
ゴーレムと戦っている時は見かけなかった為、迷宮主と戦っている時は出現しない設計となっているのだろう。
話し合いの結果、アリサを除くカミーラ。アイン。マインの三人のみで迷宮主と戦う事が決定。アインとマインは乗り気では無かったが、カミーラが権力で無理矢理黙らせていた。
万が一の事が有ればアリサが助けに入るし、迷宮主であるゴーレムがどのような行動を取るのかは一度見ている。
苦戦するかもしれないが、勝利を手にする事は決して難しくない。
数分が経ち、地面が隆起。
新たな迷宮主が姿を現す。
相対するのは三人の少女。
アインが火の魔法をゴーレムにぶつけ、戦いの火蓋は切られる。
カミーラ達は、迷宮主を相手に善戦している。
三人が戦う様子を、アリサは観客席から眺めていた。万が一の事態に備えているだけで、高みの見物をしている訳では無い。
「…………?」
何処からか、人の声が聞こえて来る。
(まさか、僕達以外にも最下層に辿り着いた人が居るのか?)
今回は校外実習だ。
当然、アリサ以外にも最深部に到達する生徒達が居たとしても不思議では無い。
声の聞こえてきた方向――二階層と三階層を繋ぐ道に視線をやる。
連中の姿が目に入った瞬間、咄嗟に姿を隠していた。
(は? は!? どうしてアイツが、こんな所に居るんだよ!)
次第に声は大きくなっていく。
粗野で粗暴で、ガサツな印象が強い連中。
全員が全員、不良と言う言葉が似合う程に柄が悪い。
どいつもこいつもゲームの序盤で倒されてしまいそうな雑魚キャラの風貌を漂わせているものの、先頭に立つ1人の男子生徒は違った。
狼の鬣を彷彿とさせる、紅色に染まる髪。
容姿は飢えた獣を連想させる、野性味の溢れる面持ちだ。鋭い瞳は獲物を精査する肉食獣そのものであり、口元から覗く鋭い牙は分厚い肉を簡単に食いちぎる事が出来そうな程に太く鋭い。
体格は大柄。
制服は着崩されており、露わになる素肌の筋肉は凄まじい。余りにも凄まじい筋肉は、制服そのものをはち切らんばかりではあるもののちゃんと制服を着用しろ! と思わず注意したくなってしまう。
バートランド・フォン・ブリッジ。
四人いる攻略キャラの内の一人であり、人間性が最悪とも呼べるセクハラ大魔神であるベテ・フォン・カーソンとは、また別ベクトルで酷い存在と言えるだろう。
(本当に、タイミングが悪すぎる……!)
幸いにも、バートランド達には気付かれていない。
カミーラ達が戦っているのに気付いたのか、観客席からその戦闘風景を眺めている。
「おい! 誰かが戦ってるぞ!」
「はぁ!? 俺達が一番乗りの筈だろ⁉ 何が、一体どうなってるんだよ!」
カミーラ達は今も迷宮主であるゴーレムとの戦いに集中している。
観客席に座るバートランド達の事には気付かない。そもそも視界に入れる余裕すらも無いだろう。全力で戦っているのだ。
執拗な攻撃によって、ゴーレムの体はボロボロ。頭部にも確実なダメージを与えられており、もう暫くすれば勝利する事が出来る。
しかし、水を差す輩が1人。
「お。アイツら迷宮主を倒せそうだぜ! ……あのさぁ、俺達が乱入してアイツらの代わりに迷宮主を倒してあげねえか?」
「お前! 酷い奴だな! たった3人しか居ないのに、頑張って戦ってるんだぜ? でも、結構苦戦してるなぁ! このままだと怪我を負ってしまうかもしれないな!」
「確かにな! このままだとあの可愛い子ちゃん達が手に負えない怪我を負ってしまうかもしれないよな! だから、仕方がないよな! 獲物を横取りにする様な形になるけど仕方がないだろ!」
バートランドはカミーラ達を一瞥した後、一言。
「別に構わねえぞ」
不良達は下卑た笑みを浮かべ、嬉々として邪魔をしようとする。
カミーラ達の状況は悪くない。このまま行けばゴーレムを倒すことも出来るだろう。だが、新たに不良達がやって来たらどうなる?
連携どころでは無い。
明らかに邪魔だ。
時間稼ぎをしなければいけない。少なくとも、カミーラ達がゴーレムを倒す事が出来るまでは。
「待って下さい!」
隠れるのを止めて、注目を集める様に叫ぶ。
視線がアリサに集まる。
「誰だ? お前」
「私は、今、あそこで戦っている皆のパーティーメンバーです。皆の邪魔をしようとしていたので止めに来ました」
気の小さい者であれば竦み上がってしまうだろう。
だが、アリサは毅然とした態度で理由を述べた。
「お前、平民だよな? 何だよ? 平民の癖に、貴族様である俺達に楯突くつもりなのかよ?」
模範的過ぎる、不良ムーブだ。
怖がる振りをしつつ、内心で思わず拍手をしてしまう。
「頼み方って言うのがあるよな? ましてや、平民風情が貴族様に頼み事をしてるんだぞ? 勿論、それ相応の頼み方じゃ無いと俺達も納得出来ないよなぁ?」
その言葉に同調するように、他の不良達もそうだ! そうだ! と言う。
「……どうすれば良いのでしょうか? 土下座をすれば、皆の邪魔をしてくれないと約束してくれんですか?」
「ハァ? お前さァ、自分の置かれた立場を理解してるのかよ?」
胸倉を掴まれる。
踏ん張れば余裕で勝てるが我慢。
服が伸びてしまった事にイラッとしてしまうが我慢。
「俺達の機嫌を損ねないように、お前が俺達に出来る事はさぁ――奉仕するだけなんだよ。言ってる意味、分かるよな? まさか、分かりませんなんて言わせねぇぞ?」
カッ、となって暴力を振らなかった自分を褒めてやりたい。
「分かり……ました。ですが、見られるのはとても恥ずかしいです。せめて、物陰などでお願い出来ないでしょうか?」
「それ位、全然構わねえよ?」
「だって俺達は優しいからな!」
「テメェみたいな薄汚い平民一人で我慢してやるよ!」
バートランドはアリサを見ようともしない。
如何やら興味無いようだ。
不良3人を連れて、アリサは適当な物陰に向かう。
「さて。それじゃあ、精々俺達を満足……」
「取り敢えず、そこで寝ていて下さい」
「は? テメェ、一体何を……グギャッ!」
男の急所を思い切り蹴り上げた後、鳩尾を思い切りぶん殴る。アッパーカットを決めて3人をノックアウト。
怒りが収まらなかったので、気絶した後も、執拗に痛めつけておいた。