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ギリギリセーフ。
もしもカミーラが落ちてしまった『次元の穴』を見つけるのが僅かにでも遅れてしまっていたら、その時点でカミーラはミンチになってしまっていただろう。
知り合いが肉塊へと変わってしまう、と言うのは普通に見たくない。だからこそ、攻撃を止める事が出来た事にホッと一息をつく。
(と言うか、本当に何処にあるのか分からなかったなぁ。ゲームだったら攻略情報とかも見る事ができるから、ある程度は楽になると思うけど……それでも『次元の穴』を初手で見つける事が出来たカミーラは普通に凄い……のか?)
勝てるかも分からない。下手をすれば死んでしまうかもしれないボスと強制的にエンカウントさせられる、と言うのは果たして幸福な事なのか?
少なくとも、幸運じゃない事は間違いないだろう。
アリサに続いてやって来たアインとマインの2人。一階層から最下層までやって来た、と言う未知の体験に驚愕しつつも、自分の役割を忘れてはいない。
慌てて転んでしまったカミーラを助け起こす。
「危ないので離れください」
「はぁ!? 貴方達、お姉さまを置いて行けって言うの!?」
「アリサさん本人たっての希望です。正直、私達は足手まといだと思います。何せ、私達も含めた取り巻き十数名を返り討ちにした人な訳ですから。案外、迷宮主を返り討ちにしてしまう可能性も……」
「そん……な事は、無い……わよね?」
カミーラの質問には誰も答えない。
最初に迷宮主が仕掛ける。
アリサが受け止めている片腕とは別の片腕を使い、アリサを圧殺せんと、岩の塊である腕を鞭の様に振るう。
回避。しかし、掴んでいた片腕を離してしまう。
迷宮主は両手を使えるようになった。
「……脅威と言えば脅威なんだけど、簡単に勝つ事が出来るんだよなぁ」
友人を守る為に、一人強大な敵に立ち向かう。
今の構図は正しく主人公に相応しいが、悲しいかな。所詮は難易度が低い迷宮の迷宮主。簡単に倒す事が出来てしまう。
そして、時間をかける義理はない。
「んじゃまぁ、早く終わらせますか」
攻撃は単調。
そして、振り下ろした腕を再び上げるまで、僅かに時間がかかる。
アリサは迷宮主の腕の上に乗り、迷宮主の腕を橋代わりにして接近する。
迷宮主の名はゴーレム。
土の魔法や、重量感のある自身の肉体を用いて攻撃を行う。余り火力が出せない序盤にとっては中々に厄介な敵ではあるのだが、アリサは弱点を知っている。
それこそが頭部に存在するコア。
ゴーレムにとって、コアは心臓部と呼ばれる程に重要な場所であり、コアを破壊されるとゴーレムは動かなくなる。
コアの位置は固定で、頭部。
「だから、お前は僕にとって鴨なんだよ!」
巨大な岩の上に、チョコンと乗せられた小さめの岩。
ゴーレムの頭部であり、弱点。
思い切りぶん殴る。
自身の弱点と言う事もあり、その硬さは他の部分とは比べ物にならない。
だが、アリサの前では無力だ。
ヒビがすぐさま頭部全体を侵食していき破壊。
コアが剥き出しになる。
「やった! 迷宮主を倒したわ!」
喜ぶのはまだ早い。
ゴーレムは、例えどれだけ強力な攻撃だったとして一発は耐える。ソレはゲーム上必要な演出であり、ゴーレムが隠し玉を放つ時に必要なトリガーとなるからだ。
コアは透き通るような赤い水晶玉。
ピカッ! と眩い光を放ったかと思えば、極太なレーザーが放たれる。
完全な不意打ち。
直撃すれば、例え相手が誰であっても確殺出来る性能を持つ、悪辣な切り札。凡そ、初級の迷宮に登場して良い存在ではない。
「お姉さま!?」
だが、不意打ちは不意を打つからこそ効果を発揮する。予めゴーレムが隠し玉を撃ってくる、と知っているのであれば大した脅威ではない。
跳躍して、ビームを切り抜ける。
「相手が悪かったですね」
果たしてゴーレムが何を思ったのか分からない。
アリサは拳を強く握り締めて、今度こそゴーレムのコアを粉砕する。
パキッ! と。ガラスが割れるような音と共に、コアは破壊。心臓部を失った事によりゴーレムは沈黙し、やがてはその骸も積み上げられた灰のように掻き消えていく。
残ったのは赤い水晶玉と、幾つかの鉱石。
「と言う訳で、迷宮主を討伐しました。この水晶玉だけでも、かなり評価は高くなると思いますよ。もう、戻りますか?」
迷宮の脱出方法はもと来た道を戻れば帰る事が出来る、と言う訳では無い。迷宮の入り口は一方通行。
戻るには迷宮の何処かに存在する出口を見つけるか、迷宮主を倒さないと迷宮の外に出る事が出来ない。
前者の方法は、過去にプレイしていた時、全くと言っていい程に出口が見つからず迷宮を駆け巡った記憶があるので遠慮しておきたい。
無事に迷宮主を倒す事によって、地面の中心に巨大な魔方陣が浮かび上がる。魔方陣の中に足を踏み入れる事で、迷宮の外へ帰還する事が出来る。
「……そう、ね。出来る事なら、自分の手で倒して見たかったけれど……。仕方ないわよね。全部、私が弱い事が原因なのだから……」
「また迷宮主と戦いたいんですか? でしたら、暫く待つと新たに沸いて来ると思いますけど。……どうしますか?」
「え」
「え?」
「……え?」