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 カミーラにとって、世界は必要な者と不必要な者。二択によって構成されている。

 ソレは選民思想が強い両親の教育の賜物であり、悪役令嬢と言われたる由縁と居ても過言ではない。

 前者は貴族。後者は平民。


 だからこそ、伯爵令嬢であるカミーラは平民を見下す。

 不必要な者は身の程を弁えて、目障りにならないように大人しくしていれば良い。実際の所、今の今までカミーラの中で世界は上手く回っていた。


 綻びが出たのはアリサと呼ばれる平民の少女。

 最初は目に付く程度だった。

 しかし、次第に周囲に注目されるような行動を取り始める。


 極めつけは精霊に関する講義の時。嫌がらせを行うよう取り巻きに命じ、精霊召喚の実習に付き合わされる、と言う形で嫌がらせは成功。

 低級の精霊を召喚すれば溜飲も下がる。

 そう思っていた。しかし、実際には上級よりも更に上。超級の精霊を召喚し、大衆の注目を集めた。


 お前は不必要な者なのだろうが。

 どうして必要な者である自分よりも目立っている?

 苛立って、ムカついて、腹が立って。その結果、手を出したのが虐めだった。虐めを行う事によって、身の程を弁えさせる。

 だが、結果は失敗。


 本人は虐めを受けても尚、全くもって動じなかった。寧ろ、此方が被害を受けてしまう始末。花瓶を売りに出したと言うのは余りにも衝撃が強すぎた。

 カミーラは実力行使に出た。


 自身が持つ圧倒的な力をもってして、身の程を思い知らされてやろうと思ったのだ。幸いにも、カミーラの取り巻きの数は多い。

 おまけに魔法の練度も高く、例えアリサが拒絶したとしても力で思い知らす事が出来る。執拗に暴力を振れば、今度こそあの仏頂面も歪む事だろう。

 また失敗した。

 カミーラの目論見は全て失敗し、アリサは無傷だった。


「わ、私は伯爵令嬢よ! 良いのかしら? 私に手を出せば、どうなるのか分からないわよ! い、今ならまだ……」

「それがどうかしましたか?」


 あの時のアリサの目は、きっと一生忘れる事は無い。

 貴族。伯爵令嬢。

 平民で有れば、誰もが頭を垂れる。

 向ける視線は憧れや崇拝。そして僅かな恐怖。


 だが、どうだ?

 アリサがカミーラを見つめる眼は、路傍の石ころでも見るようだった。

 カミーラは価値ある者で、アリサこそが価値の無い者だ。だが、結果はどうだ? カミーラの計画は全て失敗。

 完膚なきまでの敗北だ。


 その瞬間、何かが変わった。まるで自分の価値観が、根底から覆されるような。頭を思い切りぶん殴られたかのような衝撃を味わった。

 気が付けば、カミーラはアリサに対して土下座をしていた。

 貴族が平民に対して土下座を行う等、信じられない行為だ。仮に両親がその様を見ていれば、ヒステリックに喚き散らしながら「ご先祖様に顔向けできないでしょうが!」と叫んでいたかもしれない。


 しかし、カミーラにとってはどうでも良い。

 アリサは価値のある人物だ。価値が無い、なんて判断した自分の目は節穴だった。或いは、他でも無い自分こそが価値の無い存在である可能性だって……。

 アリサと出会う事で、自分は変わる事が出来た。


 だから、彼女はアリサを慕う。

 彼女は自分の価値観を丸ごとをぶち壊してくれた救世主であり、自分が進むべき道を指し示してくれる天使の様な存在なのだから……。




「はっ! 今何か、私の過去が脳裏に過った気が! と言うか、一体どう言う訳!? お姉さまのお手伝をしてただけなのに、気が付けばこんな場所に!?」


 カミーラは『次元の穴』を見つけ、うっかりその中に落ちてしまった。結果、迷宮主と命掛けの鬼ごっこを行う羽目に。

 迷宮主は巨大な石の塊を幾つも積み上げた人型。


 子供が積み木を使って作り上げたように、粗雑で乱雑。されど、身に纏う威圧感はカミーラが出会って来た魔物とは一線を画す重圧感だ。

 あれが迷宮主と言う事は確実だ。


 しかしカミーラは対抗する術を持っていない。カミーラが行使する魔法は風。風の刃を放ったり、移動速度を上昇したりする事が出来る。

 迷宮主から逃げ回る事は可能だが、迷宮主を倒すには余りにも火力が低すぎた。

 現状は移動速度上昇の魔法を行使し、逃げ回る事で精一杯。

 

 下手を打てば、カミーラは呆気なく死んでしまう事だろう。

 出来る事は時間稼ぎ。

 アリサ達が到着するまでの。

 圧死は余りエレガントな死に方とは言えないし、押し潰されて死んでしまうと言うのはビジュアル的に嫌だ。


「くっ! こんな、所で死んで堪るかぁ! …………あ?」


 自分自身を鼓舞する為に大きな声で叫ぶ。

 直後、カミーラは地面の凹凸に足を取られてしまい、盛大に素っ転ぶ。


(ここで!? ちょっ、ちょっと待って! 迷宮の罠に引っかかるならまだしも、こんな何の変哲もない場所に足を取られてしまうなんて!)


 自身の不注意さを呪うが、時すでに遅し。

 そもそもがギリギリだった。何方かが足を止めれば差が詰められるのは当然であり、命懸けの鬼ごっこが終了する事を意味する。

 胸に込み上げてくる絶望感を必死に抑えて、カミーラは立ち上がる。


 怖い。とても怖い。戦ったら間違いなく死ぬ。死んでしまう。死ぬのは嫌だし、出来る事なら死にたくない。

 それでも、無様な姿を晒す事が出来ない。

 自分自身に価値がある、と思っているのであれば。


「さあ、来なさい!」


 まるでカミーラの言葉に従うように迷宮主はカミーラを攻撃。

 幾つもの石塊が連なった両腕を振るう。鈍重な見た目とは裏腹に、攻撃は鞭の様にしなる。持ち前の重量でカミーラを圧死させようとする。


「いや、速すぎるでしょうが!」


 ソレが伯爵令嬢であるカミーラ・フォン・エヴァルドレッドの最期の言葉となり、彼女の体は原型も留めずにグチャグチャになる――筈だった。


「何とか間に合いましたね」


 カミーラは自身の眼前に現れた人物を目にして、大きく目を見開く。

 どうしてここに居るのか? と言う衝撃があり、それって人一人でも受け止める事が出来るんですかと言う衝撃があった。


「凄いですね。カミーラさん。貴方は、あんな状況にも関わらず諦めたりしなかった。とても素晴らしいと思いますよ」


 丸眼鏡に、お下げの茶髪。

 下手を打つと死んでしまうかもしれない迷宮探索。にも関わらず、普段と変わらず学院の制服を身に纏い、普段と変わらない態度の少女。


「お姉さま! 助けに来てくれたのね!」


 カミーラが慕って止まない。アリサその人だった。

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