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 意識が途切れる時間はほんの一瞬。

 目を開ければ、そこは既に迷宮の中だった。

 周りを見回す。道が狭く、石造りの壁は床、左右、天井を囲む一本道の造り。等間隔で設置された松明は薄暗い周囲を照らす為の光源であり、不気味な雰囲気を醸し出す。


「うん。全員揃っているようね」


 声に振り向けば、そこにはカミーラ達が居た。


「方針の確認ですが、本当に迷宮主の攻略と言う事で良いんですね?」

「ええ。勿論よ!」


 アインとマインは何か言いたそうに見つめていたものの、説得しても無駄だと理解しているのだろう。


「では、迷宮主を倒す前提で動きましょうか」


 迷宮は幾つもの階層に分けられている。

 迷宮のボスである、迷宮主が居るのは迷宮の最下層だ。下層に進むにつれて攻略の難易度は高くなる為、一筋縄ではいかない。


(……が、アレを使えば時間の短縮にはなるか)


 アリサには原作知識がある。

 それを使えば、険しい道のりである迷宮主の元まで、あっという間に辿り着く事が出来てしまう。所謂、RTAと言う奴だ。


「私の記憶が正しければ、一瞬で迷宮主に向かう事の出来るルートが有ります」

「早速向かいましょう」


 間髪入れず、カミーラはアリサの案を採用。

 疑っても仕方がない提案なのだが、微塵も疑う様子は無い。


「今回私達が挑戦する迷宮主は迷宮の最下層に居ます。そこまで向かうとなると、次の階層へ向かう為の階段を探したり、襲い掛かって来る魔物。張り巡らされた罠を潜り抜けないといけません。なので、全部スルーしてしまいましょうか」

「排除って……如何にか出来るものですか?」

「地道に探索を続けるのが一番の近道だと思いますが」


 2人の意見は至極最もだ。

 RPGに於いて迷宮と言うのは一種の醍醐味。

 多種多様な魔物に、悪辣なギミック。最下層で待ち構えるボス。その全てがRPGを彩る為の重要な要素と言っても良い。


 しかし、今回はRTAを行うので、醍醐味は全て排除する。

 尤も、グリッチを行う道中で魔物や罠は登場する為、完全に排除する事は出来ないのだが。


「……ここら辺って言う事は、そろそろ近いですかね? あ、カミーラさん。そこに罠が有るので気を付けて下さい」

「へ? 罠? ……って、ギャァァァ!」

「カミーラ様!? ちょっ、大丈夫なのですか!?」


 罠は、気を付けて探せば簡単に見つかる。

 しかし、カミーラは吸い込まれるように罠に引っかかる。自重によって、床が崩れ去る。発動してしまった罠は落とし穴。

 そのまま穴の底まで落ちていきそうになるが、寸での所でアリサがカミーラの手首を掴む。常時、支援魔法を行使している為余裕だ。


「大丈夫ですか?」

「お姉さま。助けて頂き、本当に……何とお礼を言えば良いのか」


 カミーラを救出した後、移動を再開。

 うっかり罠に引っかかって死んでしまう、と言うのも珍しくは無い。幾ら難易度の低い迷宮だったとしても、常に「死」のリスクは付き纏って来る。


「すいません。もう少し、伝えるのが早ければこんな事には……」

「そんな! お姉さまが謝る必要なんてないわよ! そもそもの話、あんな罠に引っかかってしまった私が悪いに決まってるでしょう? でも、心配しないで! 次はもう、絶対に罠に引っかかったりしないから!」


 フラグにしか聞こえないのは何故なのだろう。

「先を急ぐわよ!」と言った傍から罠に引っかかるカミーラ。幸いにも、天井からタライが降って来るだけだったが、コレから先が不安だった。


「魔物に関してはそこまで強くありません。何処を攻撃しても問題はありませんが、頭部を破壊するのが一番効果的ですよ」


 アリサ達に襲い掛かる魔物は、白骨化した死体であるスケルトン。各々が錆びた武器やボロボロになった防具の一部を身に纏い、攻撃を仕掛ける。

 しかし、アリサの手によって呆気なく撃退。


 数を揃えようと関係無い。

 千切っては投げ、千切っては投げ、を繰り返す。

 倒されたスケルトンは遺体が消え去り、残ったのは一本の白い骨。スケルトンのドロップ品であり、数を揃えれば課外実習の評価に加点される事だろう。


 しかし、アリサ達の目的は迷宮主だ。

 スケルトンのドロップ品には目もくれず、先を急ぐ。

 立ち塞がる魔物を倒し、当然のように罠に引っかかってしまうカミーラを救出し、時折宝箱の中身を物色しつつも到着。


「ここが今回の目的地です」

「? こんな、何も無い普通の場所で何をするんですか?」

「迷宮主の元に向かう為に、儀式でもするのですか?」


 一見すれば、何の変哲もない開けた場所だ。内装は変わりが無く、石造りの壁。それ以外に特別な要素は無い。


「いいえ、儀式はしませんよ。皆さんにはこれから、この場所に存在している秘密の抜け道を探して貰います」

「「「秘密の抜け道?」」」


『狂い咲く彩華』には幾つもの迷宮が存在する。

 しかし、迷宮の構造は使いまわしだ。

 勿論レイアウトであったり、配置される魔物や宝箱の数は違う。


 迷宮によって階層の数も異なる訳だから、全てがそのままと言う訳では無い。しかし、迷宮の一階層に関しては全て、似たような構造となっている。

 製作者側の怠慢。

 その怠慢こそが、致命的なバグを生み出した。


 バグの名前は『次元の穴』。一見すると何も無い壁に近づいた瞬間、迷宮の最深部――迷宮主と強制的にエンカウントする、と言うバグだ。

 一階層のマップが完全に使いまわしと言うのも災いした。


 ゲーム側がどう言った処理を行っているのか分からないものの、理論上は全ての迷宮の一階層に『次元の穴』は存在している。

 その為、簡単に迷宮のボスに挑む事が出来てしまう。

 勿論、デメリットも存在する。


 あくまでも短縮できるのは最下層までの道のりだけ。そこから先は、操作するキャラクターの実力が伴っていなければ敗北してしまう。

 ある意味、初めて間もないばかりの初心者にとっては即死トラップとして機能してしまうのだ。

『次元の穴』は、アリサ達が今いる場所に存在している。

 しかし表面上は何の変哲も無い壁なので、入念に探さなければいけない。


(あれ? ここら辺にあった気がするんだけど……見つからないな。いや、所詮はゲームのバグ技だから当にするのは良くないかもしれないけど……)


 中々見つからない。

 ここは一度、休憩を取るべきかもしれない。

 声を掛けようとして、気が付く。


「……あれ? そう言えば、カミーラさんは何処に行ったんですか?」


 アインとマインの姿は見えるが、カミーラが見つからない。

 姿は愚か、声すら聞こえて来ない。

 まさか……。


「もしかして『次元の穴』に落ちてしまった?」


 それは最悪の状況と言っても良い。

 アリサならまだしも、今のカミーラでは迷宮主を相手にするのは難しいかもしれないのだから。


「すいません! カミーラさんが探してた場所って何処ですか? 急いで見つけないと、カミーラさんが危ないかもしれません!」


『次元の穴』を見つけ出す才能。

 今、この状況に於いては、羨ましくもなんともなかった。

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