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10-1

 学生寮の自室。

 アリサはベッドの上でだらしなく寝転ぶ。


「どうすれば良いと思う? 僕、結構困ってるんだけど」

「私に言われても困ります。貴族の方に慕われているのであれば、ソレは喜ばしい事なのでは? アリサ様は平民なのですから」

「……それはそうかもしれないけどさぁ」


 どうしてこうなった?

 アレ以降、アリサはカミーラから熱烈なラブコールを受けている。

 数日前とは態度が大違いだ。


 カミーラ自身、ゲーム本編ではそこまで重要な役柄では無い。精々、アリサに対して嫌がらせを行う程度の小物。

 ゲームではアリサに嫌がらせを行ってしまったばっかりに、攻略キャラの逆鱗に触れてしまい、なんやかんやあって学院を去っていく。


 しかし、結果はどうだ?

 学園を去る様子は見せず、何故かアリサを慕う舎弟的ポジションに収まってしまった。

 貴族が平民にへりくだるとか、御先祖様に恥ずかしく無いんですか? 


「取り敢えずカミーラの件は保留にしておこう。ストーカーされてる気がするから放置すると不味い気もするけど。そう言うのは明日の僕に任せよう。大丈夫。きっと、明日の僕なら何とかしてくれる筈だ」

「現状が変わる事は無いと思いますよ」


 クマアの鋭い指摘を、耳塞ぐ事によって聞かなかった事にする。

 そろそろ寝てしまおうか? しかし、眠ってしまえば今日の自分は明日の自分になってしまう。このまま寝ずに夜を明かしてしまおうか? と考えていると。

 ベランダの方から、バシン! バシン! と窓を叩く音が聞こえて来る。


 突然の物音に思わず驚く。

 クマアも似たような反応だ。

 警戒した様子で、カーテンに覆い隠された両開きの窓を睨みつけている。因みに、窓はちゃんと鍵を掛けている為、侵入される事は無い。


「誰だろう?」

「もしかして、カミーラ様でしょうか?」

「………………」


 咄嗟に否定しようとするが、否定できない。

 カミーラもアリサと同じく寮に住んでいる為、可能性が無いとは言い切れない。


「兎に角、誰なのか確認しないといけません。私が確認するので、アリサ様は万が一の事態に備えて離れて下さい」


 懐からナイフを取り出すクマア。

 カーテンへと近づく。

 何処となく既視感があった。


 多分、カミーラがやって来たのではない。では、誰がやって来たと言うのか? アリサにとって知り合いと呼べる人物など片手しか居ない。

 その中に、一応は攻略キャラも含まれてしまっているので、出来れば今すぐ記憶を洗浄したい所だが……。


「あ」


 思い出した。

 同時に、カチッと音が鳴る。

 窓の鍵が外れる。


 両開きの窓が開け放たれ、風が室内に入って来る。

 カーテンが舞い上がり、澄んだ闇色の夜空をバックに姿を現すのは、全身をローブですっぽりと覆った不審者。


「おっと。驚かせてしまったかな? でも、安心して欲しいボクは決して……」

「不審者だ!」


 即座に、撃退しようとする。

 うっかり相手を殺してしまったとしても仕方が無いだろう。さあ、今すぐ死ね! 攻略キャラの1人よ!

 アリサはローブ姿の不審者が何者なのかを知っている。

 

 だからこそ、嬉々として襲い掛かる。

 だって4人から3人に減るのであれば、自身の負担が軽くなって万々歳だからだ。

 嬉々として襲い掛かるアリサ。

 彼女の行動にギョッ⁉ としつつも、不審者は掌を前に突き出す。

 

 ローブ姿の不審者が出したのは土の壁――アースウォールだ。以前、カミーラの取り巻き達が使っていた物よりも堅牢。

 しかし、アリサにとっては関係無い。

 実に呆気なく、アースウォール破壊される。


「はぁ!? ボクのアースウォールを破壊が破壊された!?」

「お覚悟!」

「ちょっ……! タンマ! ボクは決して怪しい輩じゃ無いからぁ! 危ない! ヒィィ! 君の拳、床にめり込んでるんだけど!? 一体、どんな力してるんだよ!」


「信用が出来ません。恐らくは、いたいけな少女を食い物にする、下衆な詐欺師と言った所でしょうか? おのれ、幼気な少女を食い物にするなんて許せません! ここで私が引導を渡してくれます!」

「ええ!? 詐欺師じゃ無いんだけど!?」


 アリサの言っている事は間違っていなかったりする。

 攻略キャラは全員、碌でも無い。

 目の前の不審者もその例に漏れず、主に女性関係に関してクソだ。

 だからこそここで仕留めたい。


「分かった! ボクの正体を明かそう! そうすれば、君も攻撃を待ってくれるよね! 僕の名前はベテ! ベテ・フォン・カーソンだよ!」


 被っていたフードを上げ、自身の正体を明かすベテ。

 やや伸びすぎな、ボサついた黄色の髪。容姿は整っているものの、何処かチャラ付いた軽薄さを拭う事が出来ない。

 身長は高く、身体つきは細い。


 衣服は着崩されており、その姿が更にチャラ付いた印象を倍増させる。

 ――ベテ・フォン・カーソン。

 攻略キャラの1人であり、この国の筆頭宮廷魔導士の息子。

 四人いる中で1、2を争う程に嫌いなキャラクターだ。

 どう言った人物なのか? と説明するなら、女たらしのクソ野郎の一言に尽きる。


 息を吐くように女性を口説く癖に、口説いた相手本人を見ていない。口説いた女性や知り合い、と言う大きなグループに属している一人としか見ておらず、そこら辺が奴のクズ差を際立たせている。

 ベテがアリサの部屋にやって来たのは追手を差し向けられているからだが、追手を差し向けられた理由は他でも無いベテが原因だ。

 つまりは、自業自得。


 ゲーム本編で、主人公はベテを助けているが、アリサはベテを助けるつもりはさらさらない。さっさと出て行って欲しい。

 ジュダスと似た様に、主人公であるアリサと親交度が深まっていくのに比例してセクハラ行為が酷くなっていく。

 最初は頭を撫でたり、肩を触る程度だったのだが、お尻を触って来たり服の内側に手を入れて下着の肌触りを確かめてきたりと。


 イケメンでも許されないセクハラ行為の数々。

 その上、ベテはアリサとそれなりに深い関り合いを持っているにも関わらず、他の女性に声を掛けたりセクハラを行ったり、二股かけたりする。

 完全に人間の屑だ。


 互いに結ばれる事によって、ベテは初めてアリサを口説いた女性と言う枠組みでは無く、一個人として認識してくれるのだが――女癖の悪さが改善される事は一切ない。

 正に女の敵だ。

 しかし、相手は一国の王子様に監禁されても笑顔で受け止めた主人公。自身の恋人が他の女性と浮気をしても「そうなの? 頑張ってね!」と応援する始末。

 普通にヤバイ。


(とどのつまり、ここでコイツを殺して置けば僕にとっての最悪が排除される! その上、このカスによってかどわかされる未来の被害者たちも救う事が出来る! さあ、お前が泣かせた女の数えろ! そして、死ね!)


 だが、一筋縄ではいかないだろう。

 攻略キャラは主人公であるアリサが攻略する対象であると同時に『魔王』を討伐する為の戦力となっている。


 一人一人特徴が異なっており、例えばジュダスで有れば万能型。魔法と剣術の両方を万遍なく扱う事が出来る。

 では、果たしてベテは?

 荒れ狂う暴風によって、アリサは吹き飛ばされる。


「本当は女の子と戦いたくは無いんだけど……ボクとやり合う、って言うなら魔法を使わせて貰うよ? さっきのよりも、更に強力な魔法を」


 ベテの手に握られているのは細長い杖。

 魔法の杖だ。

 彼の周囲に現れるのは4色の弾。

 火に。水に。風に。土。


 攻略キャラには各々特徴が存在している。その中でも、ベテのステータスは別格と言っても良いだろう。何せ、複数の属性魔法を行使する事が出来るのだから。

 尚、近接戦闘はクソ雑魚なので、体に一発入ったら倒れる。


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