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 頭に鋭い痛みが走る。

 思わず額を抑え、よろよろとよろめく。

 近くの壁に手を付き、ゆっくりと目を開く。

 くすんだ窓ガラスに映るのは1人の少女だ。

 歳は幼いが、顔立ちは整っている。数年も経てば、美人に成長する事だろう。


「…………?」


 ガラスに映る少女に見覚えがあった。

 否、ガラスに映っているのは他でも無い自分自身だ。見覚えがある、なんておかしな話だろう。だが、見た事がある。

 一体何処で見た事があったのだろうか……?


「って、アリサじゃ無いか!?」


 パズルのピースがカチリと嵌まるような感覚。

 アリサ、と呼ばれた少女は思わず叫ぶ。


「最悪だ! どうしてよりにもよって『狂い咲く彩華』の主人公なんだよ! もっとマシなゲームなんて、他に幾らでもあっただろうが!」


 仮に他人の目があったとすれば、精神病院に送られたとしてもおかしくはない奇行。しかし、幸いにも周囲の目は皆無。

 暫く時間をおいた後、アリサは状況を整理する。

 にわかには信じ難い事実。

 しかし、頭の中にある記憶や情報を精査した結果、1つの結論に辿り着く。


「……どうやら僕は転生してしまったらしい。しかも、よりによってあの『狂い咲く彩華』とかいうクレイジーな乙女ゲームの主人公として」


 一体、どうしてこうなってしまったんだ?

 アリサと言う少女として過ごした数年の記憶と、所謂前世と呼ばれる数十年の記憶がごちゃ混ぜになってしまった結果、発生した痛みに顔を顰めながらアリサはため息を吐く。

 因みにだが、前世は男性だったりする。





『狂い咲く彩華』とはシュミレーション型RPGと言うジャンルのゲームであり、主人公であるアリサが幾人ものイケメンを攻略していく乙女ゲームだ。

 舞台は剣と魔法のファンタジー。

 世界を救う救世主『白の聖女』を継承したアリサが、学園を舞台に攻略キャラーーイケメンーー達と親睦を深めつつ『魔王』を討伐すると言うストリー。

 一見すると、何処にでもある乙女ゲームの様なストーリーだと思われる。しかし、このゲームの真骨頂は攻略キャラ達の灰汁の強さ。


 親交度が深まっていくのに比例して、醜悪な本性が露わになる。

『魔王』を討伐した後に迎えるエンディングは目も充てられず、間違っても羨ましいなんて感情は沸き上がって来ない。

 余りにも酷過ぎるエンディングのお陰で有名となり、ネット上でも度々話題に上がる事となった問題作。

 それこそが『狂い咲く彩華』だ。


「……本当にどうしよう? 本当にどうしよう。本当にどうすれば良いんだろう!?」


 幸か不幸か、前世で『狂い咲く彩華』はプレイした事が有る。怖いもの見たさで遊んでみた経験が、まさかこんな所で役に立つなんて予想もしていなかった。

 ましてや、他でも無い自分自身が主人公に転生してしまうなんて。


「取り敢えず、攻略キャラの暗殺を……」


 いいや。駄目だ。

 攻略キャラは軒並み貴族様。

 平民であるアリサにとっては雲の上のような存在だし、暗殺は愚か話かける事すらも無理だろう。

 そこでアリサは気が付く。


「……あれ? と言うか、そもそも学園に入学しなければ良いだけの話なのでは?」


 ゲームではアリサが入学式に出席する所から始まる。

 アリサの身分は平民のままだが、特待生と言う扱いで学院に入学した。であれば、そもそも学園に入学する事が無ければ、攻略キャラ達と出会う必要は無くなる。


「よし。取り敢えず、最大の悩みは解決したな。となると、問題は『魔王』の方か」


『魔王』は途轍もなく強い。

 唯一対抗しうる存在こそが『白の聖女』だが、残念な事に『白の聖女』は後方支援向けのスペックだ。

 対する『魔王』は戦闘も回復も支援も何でもあり、と言う万能な力を持っていると言うのに。明らかな格差だ。

 理由としては、攻略キャラを後ろに押し退けて前に出るヒロインってどうなんだ? と言う、製作者側の事情だ。


 おのれ。制作会社のクロスエッジめ。

『魔王』を倒す為には攻略キャラの協力が必要不可欠になる。基礎ステータスが高く、親密度に比例して『魔王』との最終決戦ではステータスも上がる。

 だが、ソレは『魔王』を無事に討伐した後、攻略キャラと結ばれる事を意味している。

 論外だ。

 例え無事に『魔王』を倒すことが出来る、と分かっていてもその後の人生をアレらと共に過ごしたくない。


「……となると、頑張らないといけないのか。うわぁ。嫌だなぁ。やりたくないなぁ。でも、最悪のエンディングを回避する為だし、悠々自適な生活を送る為だし。……やるしか、ないかぁ」


 方針は決まった。

 本編が始まるのは、今から数年後。

 与えられた時間を無駄には出来ない。早速、アリサは動き始めるのだった。

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