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翌朝、修道院から迎えの馬車がやってきました。

馬車は修道院の廃材を利用して作られたもので、修道院同様、妖獣は近づくことができません。

これに乗れば、道中ウェンディが襲われることもないでしょう。


「今日まで大変お世話になりました」


ウェンディは見送りに来た父母と使用人たちに、深々と頭を下げました。


「そんな他人行儀な挨拶はよしてちょうだい」


母親のメアリー・ダーリング夫人は、ハンカチでしきりに涙を拭いながら言いました。


「ここは貴方の家よ。いつでも帰ってきていいんだからね」


ウェンディは切なそうに微笑み、頷きました。


「そう言っていただけて、本当に嬉しいです」


「毎月会いに行くわ。毎週手紙を書くわ。毎日、あなたが健やかでいられることを願っているわ」


「私も、毎日お母様のために祈ります」


「ウェンディ……!」


夫人はウェンディに抱きつきました。

ウェンディは涙を一筋だけ零しました。


「本当に、行くのか」


ダーリング伯爵は、ウェンディの頭をそっと撫でます。


「はい。なんの孝行もできないまま発つことを、どうかお許しください」


「孝行など考えなくていい」


伯爵はその大きな腕で、夫人ごとウェンディを抱きしめました。


「お前はただ自分の幸せだけを求めればいいんだ」


「……はい」


「私たちはいつでも、お前の幸せを一番に願っている」


ウェンディはまた一筋、涙を流しました。


「そう言っていただけるだけで、私は世界一の幸せ者です」


それは美しい別離でした。

親子の、感動のお別れでした。

見送りに出た人びとははみな、涙ぐんでそれを見守ります。


ただ二人、アンジェラとその侍女を除いては。


「お別れは済んだかしら?」


馬車の中から、アンジェラが声をかけます。


「そろそろ出発するわよ。いつまでもぐずぐずしていて、気が変わった、やっぱり残る、なんて言われたらたまったものじゃないもの」


ウェンディは父母の抱擁から離れ、涙を拭いました。


「安心して。いまさら撤回なんてしないから」


「そう?ならいいんだけど」


アンジェラは不信感たっぷりに返しましたが、ウェンディは大人しく馬車に乗り込みました。

荷物は身の回り品が入った小さな鞄ひとつです。

修道院までの供を申し出たアンジェラの方が、何倍も多くの荷を載せています。


「本当に貴方も行くの?」


ウェンディは心配そうに訊ねます。

修道院へは三日三晩かかります。

馬を変えるために宿場に寄ることはありますが、寝泊まりは馬車の中で行います。

食事も、身支度も、すべて馬車の中で行わなければなりません。

用を足す短い時間を除いては、馬車を出ることは許されないのです。

そんな過酷な道のりに、無理して付き合う必要はないと、ウェンディはアンジェラに言いました。


「私、逃げたりなんかしないわよ」


「お姉様にその気がなくても、いやらしく唆してくるやつがいるかもしれないでしょう?」


「それは――――」


ウェンディの反論しようとしますが、父母の声によって遮られてしまいます。


「いってらっしゃい、ウェンディ。道中の無事を祈っているわ」


「アンジェラ、ウェンディのこと、よろしく頼んだぞ」


姉妹は両親に手を振ります。

安心させるように、微笑みながら。


「いってまいります」


似てない姉妹でしたが、その笑みだけは、うり二つでした。

いかにも姉妹らしい、そっくりの笑顔でした。



**



道中は平和でした。

馬車は順調に進み続けました。


ですが、車内の空気は重苦しいものでした。

ウェンディは意気消沈した様子で、ずっと俯いていました。

ピーターのことが気がかりでならなかったのでしょう。

アンジェラはそんな姉の態度に、ひどく苛立っていました。


「お姉様、お願いだから、馬鹿なことは考えないでくださいね」


「……馬鹿なことって?」


「あの男はお姉様を捨てたのよ。一緒に修道院に行く道を用意してやったのに、あいつは結局、俗世を捨てられなかったのよ。お姉様に人生を捧げる気概がなかったのよ」


「彼を責めないで。彼は正しい選択をしたのよ」


「そう言うならいつまでもメソメソするのはよしてちょうだい!」


アンジェラは馬車の戸を叩きました。


「まだ着かないの?もっと急ぎなさいよ!」


御者からの返事はありません。

中から声をかけても、扉を閉めたままでは、御者まで聞こえないのです。


車内は密閉されていました。

馬車の中には窓ひとつなく、風景を見ることはおろか、地を駆ける車輪の音を耳にすることすらできませんでした。

身体に伝わる振動だけが、馬車がつつがなく進んでいるということを教えてくれます。

ひどく息苦しい旅路でした。

決して上等とはいえない馬車の中で、しかし二人は耐え忍びました。

座り通しであるため、身体の節々が痛んでいたにも関わらず、それに対する不満は一言も漏らしませんでした。

馬を変えるために寄った宿場でも、二人は一歩も外へでませんでした。

ウェンディが外に出ることをアンジェラは許しませんでしたし、ウェンディを見張るために、アンジェラも外へは出ようとしませんでした。


二人はほとんど会話を交わしませんでした。

それどころか寝ることさえ、ほとんどありませんでした。

ただ重苦しい空気の中、ひたすらじっとして動かずにいました。


ただ動かずにいるということは、時として、一日中駆け回るより消耗します。

ウェンディとアンジェラも、灰色砂漠が目前に迫った三日目の朝には、すっかり疲れ果てていました。

顔色は悪く、髪からも艶が失われています。


それでも灰色砂漠を囲う森に入ると、アンジェラの方はいくらか気力を取り戻したようでした。

姉を修道院に入れるという悲願が叶うまで、あともう一歩のところまできたのです。

馬を休ませるために馬車が止まると、彼女は馬車の戸を開け、大きく息を吸いこみました。


「いやだわ。こんなに晴れやかな気分なのに、ずいぶん霧が濃いのね」


「朝もやでしょう。きっとすぐに晴れるわ」


そう返すウェンディもまた、いくらか表情が明るくなっていました。

彼女はアンジェラと違い、長い旅路の終わりに安堵しているわけではありません。

ここにきて、ようやく諦めることができたのです。

この三日間で、ピーターとはあれで最後だったのだと、自分の中で決着をつけることができたのです。


「残念ね、お姉様。最後に太陽を拝めないなんて」


アンジェラは心の底から同情したように言いました。

灰色砂漠は一年中曇天に覆われています。

灰色砂漠の上空には黒い靄が滞留しているため、朝も夜もないのです。


「でもよかったんじゃない?日に焼けることがなくなるんだから、肌荒れに悩むこともなくなるでしょうし」


「……そんなに悩んでいたわけじゃないのよ」


ウェンディは自分の頬に触れました。

庭仕事をするようになってから、ウェンディの肌は日に焼けて、もとの透けるような透明感を失っていました。

それでも十分に美しく、白い肌でしたが、よくみればうっすらとそばかすが散っているのです。


「彼とお揃いみたいで、むしろ――――」


「いつまでも逃げた男のことを引きずるのはやめたら?」


アンジェラは憎々し気に吐き捨てました。


「お姉様のそういうところ、本当にむかつくわ」


ひどい言いようでしたが、ウェンディはそうね、と自虐的に笑いました。


「はやく忘れてしまわないとね」




「――――その必要はありません」




アンジェラとウェンディは、はっとして森の奥へ視線を走らせました。


「忘れたりする必要はありません。僕はもう二度と、貴方の傍を離れないと決めていますから」


霧の中から、声の主が姿を現します。


「ピーター……」


ウェンディは瞠目します。


「どうしてここに……」


「貴方を迎えにきたんです、ウェンディ」


ピーターは馬車の前で立ち止まり、手を差し伸べました。


「僕と一緒に行きましょう」


「行くって、どこへ――――」


「いまさらどういうつもり?」


ウェンディに差し出された手を、アンジェラは払いのけます。


「信じられないわ。こんなところまで追いかけてきて、なおもお姉様を求めるなんて――――恥知らずにもほどがあるわ」


ピーターはアンジェラを無視し、再びウェンディに手を差し伸べます。


「どうか馬車を下りて、この手をとってください」


「……できないわ」


「僕と一緒に行くと、言ってください」


「言えないわ」


「ウェンディ、お願いだ。僕を選んで」


「――――いい加減にしなさいよ!」


憤怒に顔を染めたアンジェラは、ウェンディの前に立ちふさがります。


「意気地がないだけじゃなかったのね、あんた、とんでもない愚か者だったのね!」


「愚かなのは貴方です」


「なんですって?愚かな上に常識もないの?平民風情が口を慎みなさいよ!」


アンジェラは馬車を降り、ピーターの横っ面を平手打ちしました。

バシンと、重たい殴打の音が響きます。


「ピーター!」


ウェンディは悲鳴をあげて馬車を飛び降り、ピーターに縋りつきます。


「平気だよ」


ピーターはシャツの袖口で唇の端を拭いました。

袖口には、墨を擦ったような、どす黒い汚れが染みこみました。


「ピーター……?あなた――――」


それを見たウェンディはなにか言いかけましたが、アンジェラに腕をつかまれ、ピーターから引き離されてしまいます。


「本当に馬鹿な女ね!こんな身勝手な奴のいいようにされて!」


アンジェラはピーターの口から漏れた黒い血に気づいていませんでした。

怒りで、すっかり冷静さを失っていました。


「お姉様と一緒にいたいなら、修道院に入りなさいと言ったじゃない!こっちは紹介状まで書いてやったのに、それを全部踏みにじっておきながら、こんなところまで追いかけてきて、お姉様を誘惑して……妖精よりたちが悪いわ!」


「実の姉を修道院へ追いやろうとする貴様こそ、妖精よりたちが悪い」


「すべてお姉様のためよ!」


「ならば僕のこれも、彼女のためです」


「あんたと駆け落ちして、お姉様にいったいどんな得があるっていうの?あんたはただの庭師よ。平民よ。お姉様を妖精の王から守るどころか、ただ養うことだってできるかどうかわかったもんじゃない!まさか愛する人と一緒にいれるならそれだけで幸せだろう、なんて子どもじみたこと言わないわよね!?」


「そんなことは言いません」


ピーターはアンジェラの後ろにいるウェンディに目を向けました。


「灰色砂漠で幸せになることはできません。貴方も、僕も」


「それは――――」


ウェンディは声を詰まらせました。


「やってみなければわからないじゃない!」


代わりに、アンジェラが叫びます。


「勝手に決めつけるんじゃないわよ!結局自分が俗世を捨てられないだけのくせに!」


「なにもかも捨てれば幸せになれるというものでもない」


ピーターは冷やかに言い放つと、アンジェラを強引にウェンディの前から押しのけました。


「ちょっと、この――――っ!」


アンジェラはピーターを押し返し、ウェンディから離そうとしますが、彼はびくとも動きません。


「ウェンディ」


ピーターは再び、ウェンディに手を差し伸べました。


「無理やり連れて行くようなことはしません。僕は貴方と、正しい形で結ばれたい。だから――――だからどうか、この手をとってください」


「……私、万救の乙女じゃないのよ」


ウェンディは涙を堪え、震えた声を絞り出します。


「何のとりえもない、ただの人間よ」


「貴方がなに者であろうとも、僕の想いは変わりません」


ピーターの眼差しは、真剣ですが、温かいものでした。

ウェンディの目から、涙が溢れました。


「私もよ」


ウェンディは泣きながら笑いました。


「私も、貴方がなに者であったとしても、変わらないわ。貴方と一緒にいたい。貴方と一緒に、生きていきたい」


ウェンディはピーターの手をとりました。


「ウェンディ……!」


ピーターは感極まったように表情を崩すと、ウェンディを胸に抱き寄せました。


「ありがとう。我を選んでくれて……!」


「ううん。私こそ、追いかけてきてくれて、選んでくれて、ありがとう」


こうして、出会いから長い時を経て、二人は結ばれました。

けれど二人の門出を、アンジェラが祝うはずはありません。


「ふざけないでよ!」


アンジェラは甲高い怒号をあげ、二人に殴り掛かります。

ピーターはそれを軽く払いのけると、ウェンディをひょいと抱き上げました。


「行こう、ウェンディ」


ピーターはアンジェラに背を向け、ゆっくりと歩き出します。


「待ちなさいよ!」


アンジェラは追いすがります。


「どこに行くつもり!?」


「彼女は我を選んだ。もう自由の身だ。どこへ行こうと勝手だろう」


「自由なわけないでしょう!?お姉様はダーリング伯爵家の令嬢よ。あんたみたいな庶民が結婚できる人じゃないのよ!なにが正しい形で結ばれる、よ!あんたとお姉様の間に正しさなんてひとつもないわ!」


「それはお前たち人間の尺度での話だろう」


お前たち人間。

その言葉に、アンジェラははっとしました。

そしてみるみる顔色を失って行きました。


彼女はいまさらになって気づいたのです。

自分たちが馬車から降りてしまっていることに。

ここはまだ安全な灰色砂漠ではなく、その手前の森の中だということに。


「うそ――――まさか、あんた――――」


ピーターは不敵に笑いました。

そして次の瞬間、彼はその姿をまったく別人のものへと変えていました。



「妖精の王であれば、伯爵令嬢の相手として不足ないだろう」



赤毛とそばかすが特徴の、素朴な庭師の青年は、透けるように白い肌とサテンのように艶めく白金の髪を持った、見目麗しい男性へと姿を変えていました。

妖精の王です。

ピーターの正体は、妖精の王だったのです。


「貴方が、妖精の王……」


彼の腕の中で、ウェンディは呆けたように呟きます。


「ペテロです」


「ペテロ……」


「貴方がつけた名ですよ」


「私が……?」


ペテロは微笑み、ウェンディをそっと地に下ろしました。

そして彼女の前に跪きます。

いつの間にか彼は、継ぎだらけの作業着から、純白の紳士服へと衣装を変えていました。

ボタンから靴の裏に至るまで、すべてが白一色でした。

まるでどこかの国の王子様です。

いえ、事実、彼は妖精の王であるわけですが。


「預かっていたものを、返します」


ピーターはそっとウェンディの手をとり、その甲に口づけます。

すると、ウェンディの身体に、たちまち魔力が溢れました。

ウェンディは大きく目を見開きました。

彼女の中で、魔力と共に、妖精の王と出会った日の記憶が蘇ります。


「そう――そうだったの――――貴方が――――」


ウェンディは気を失いました。


妖精の王は彼女をそっと抱き留め、ひゅう、と口笛を吹きました。

すると霧の中から、一頭立ての馬車が現れました。

いえ、よく見るとそれは馬車ではありません。

獣です。

熊のような巨大な堕獣が、荷車を引いてやってきたのです。


堕獣は妖精の王の前で、ウェンディが回復させたものでした。

堕獣は相変わらずおぞましい見た目をしています。

その巨躯も、飛び出した牙や目玉も、なんら変わりはありません。

けれどふつうの堕獣と異なり、人間を目にしても襲い掛かってくることはありません。

大人しくウェンディの横で荷車を止め、それどころか彼女を心配するように鼻を寄せました。


「眠っているだけだ」


ペテロは宥めるように言うと、荷車にそっと彼女を横たえました。

荷車に屋根はなく、椅子も置かれていませんでしたが、柔らかい草花が敷き詰められていました。

草花はウェンディの身体を優しく包みこみましたが、荷台の枠木が黒く塗られていることもあり、まるで棺の中に収められているようでした。

ペテロは満足そうに目を細め、ウェンディの額に、そっと口づけをしました。


「さあ、行こう」


ペテロは堕獣の背を軽く叩きました。

堕獣はしずしずと歩きはじめます。


「――――待ちなさい」


アンジェラは呼び止めましたが、ペテロは応じません。


「お待ちになって下さい、妖精の王――――ペテロ様」


名を呼ばれ、ペテロは足を止めました。

そしていかにも怪訝そうな顔で、アンジェラを振り返りました。


「ああ……」


アンジェラは、恍惚とした表情で言いました。


「ああ、ペテロ様、ようやくお会いできましたわね」


先ほどまで憤怒に染めていた顔はどこへやら。

アンジェラは、どんな男も思わず息を飲むような、蠱惑的な笑みを浮かべていました。


「私、ずっと、貴方にお会いしたかったんです。七年前、はじめてお会いしたあの日から、貴方のことを夢に見ない日はありませんでしたわ」


アンジェラの顔からは、長旅の疲れさえも消えていました。

色っぽい、熱い眼差しで、ペテロを食い入るように見つめています。

けれど下品ではありません。

彼女はあくまで令嬢としての品位を保ったまま、ペテロに乞いました。


「ペテロ様。私は貴方を、ずっとお慕いしておりました」


アンジェラは恭しく膝をおりました。

これ以上なく優雅で、美しいカーテシーでした。


「――――俄かには信じられないな」


けれどペテロには通じません。

ペテロはただ冷やかにアンジェラを睥睨します。


「どういうつもりか知らないが、下がれ。不愉快だ。反吐が出る」


「ペテロ様は私を誤解しておりますわ」


アンジェラはカーテシーをとき、ペテロに近づいていきます。


「わかってください。私がお姉様を修道院に入れようとしたのは、嫉妬ゆえなのです」


「口を閉ざせ」


「貴方に私を選んでほしかったのです。貴方にふさわしいのはお姉様ではなく私です」


「殺されたいのか?」


ペテロは殺気を放ちます。

びりびりと、空気が震えます。

それまで成り行きを見守っていた御者は、悲鳴をあげました。

馬車を引いていた二頭の馬も、怯え、暴れ、駈け出してしまいます。

馬がやみくもに走ったので、車輪が木の根につかまり、荷台は大きく跳ねました。

いくつかの積荷とここまで同行していた侍女が振り落されましたが、馬車が止まることはありませんでした。

馬車はそのまま、走り去ってしまいました。


「ペテロ様が姉を欲するのは、姉の回復魔法に魅了されてのことでしょう?」


アンジェラはけれど、臆することなく続けます。

じりじりと、ペテロに迫り続けます。


「でしたら一度、私の回復魔法をご覧になって下さい。そうすれば考えも変わるはずです。私、貴方様のために、回復魔法を会得したんです。お姉様よりずっと、貴方を癒すことができますわ!」


アンジェラはペテロに手を差し出します。


「一度でいいから受けて見てください。そうすればわかるはずですわ。私がいかに貴方を想い続けてきたのか。私の愛が。真心が!」


ペテロは無言で、アンジェラに手を伸ばしました。

アンジェラは目を輝かせました。


バシンッ!


「――――は?」


けれどペテロは、アンジェラの手を取りませんでした。

それどころか、容赦なく、彼女の頬を打ち据えました。


「汚らわしい」


ペテロはアンジェラに触れた手袋を脱ぎ捨てました。


「ペテロ様――――」


アンジェラは頬を押さえます。

つう……と、一筋の血が口の端から流れ落ちます。


「やはり、貴方は――――」


アンジェラは血を舌で舐めとりました。

そしてペテロに向かって、唾と共に吐きかけました。



「――――お姉様にふさわしくないわ」

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