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すべてを思い出した時、私はもう老婆でした。
すべては過去に変わっていました。
アンジェラ様のことを知っている人は、もうほとんどいません。
ウェンディは未だに、妖精の王妃として、救世の乙女として、人びとに愛されています。
一方でアンジェラ様は、その名さえ忘れられ、ただ怪物令嬢としてだけ、童話の悪役としてだけ、この世に残されています。
五十年という月日は、それだけ長い時間でした。
それなのに、私は、
私はこの五十年間、一度として主のことを思い出すことができませんでした。
主が貶められていくのを、ただ横目で見ていることしかしませんでした。
それどころか、私は、愚衆に混じって主を嘲りました。
強欲で傲慢で滑稽な悪女だと嗤いました。
お前のせいで私の人生はめちゃくちゃになったと、心の底から憎みました。
五十年。
五十です。
一生を捧げると誓った相手のことを、私は人生の半分以上の間、忘れてしまっていたのです。
妖精の王に記憶を封じられていたことなど、言い訳にもなりません。
私は四肢を捥いででも、思い出さなければなりませんでした。
思い出せないなら死んだ方がましでした。
それなのに。
それなのに!
私は!
五十年間、ただのうのうと生きていました!
身を滅ぼしていく主を止めることもできず、
主と共に妖精の王に立ち向かうこともできず、
主の名誉を守ることもできず、
私は生きていました。
許されることではありません。
なにも知らず、無垢なまま、今でも深淵で幸福を享受しているであろうウェンディも。
真の怪物たる妖精の王も。
アンジェラ様を怪物令嬢と呼ぶお前たちも!
我々は誰一人として許されない!
いまさらなにを訴えたところで、すべてが手遅れであることはわかっています。
アンジェラ様は死にました。
五十年かけて定着した悪女の汚名を濯ぐことは、容易ではないでしょう。
ですが私は、せめてもの贖罪として、アンジェラ様の名誉回復に、残りの人生を捧げようと思います。
七十も半ばの老婆に、どれだけのことができるかわかりません。
けれど私は、この身に火をつけてでも、訴えます。
叫びます。
五十年間眠っていた分の働きをします。
すでに私は、アンジェラ様に合わせる顔を失っています。
死後も、生まれ変わっても、私は二度と私の主に会うことはないでしょう。
けれど私は、一人では地獄に落ちません。
私はアンジェラ様を貶めたすべての者たちを道ずれに、地獄へ行きます。
それを例えアンジェラ様が望んでいなかろうとも。
私は地獄の底で、すべての者に懺悔させます。
ウェンディに。
妖精の王に。
そしてこれを呼んでいるお前に。
泣いて詫びさせるのです。
それだけが、私にできる、最後にして唯一のご奉仕ですから。