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ある朝のことでした。

灰色砂漠の修道院で、水棲植物の世話をしている私は、いつも通り朝食前に植物たちの様子を見て回っていました。

植物たちは元気がありませんでした。

原因はわかっています。

照明に不具合があるからです。

五十年間使い続けてきた、魔力の込められた石によって光を放つ照明具は、もう寿命を迎えていました。

幸いなことに、修道院の蓄えには十分な余裕があります。

新しい照明具はすでに購入済みで、すぐにでも入れ替えることができます。

私は朝食を済ますと、もう一人の修道士の手を借りて、照明具の交換を行いました。

私も、彼も、もう七十半ばの老体です。

けれど私たちは修道院で最も若い人間でした。

私が五十年前に入ったのを最後に、修道院には人が入ってこなくなったのです。

理由はわかっています。

妖精に憑りつかれる人間がいなくなったからです。

修道院は次第に人が減っていき、今ではほとんど寝たきりとなった男が二人と、かろうじて動くことのできる私と彼の、合わせて四人だけになっていました。


私たちは苦労して、どうにか照明を交換しました。

新しい照明は好調で、植物たちの顔色も瞬く間によくなっていきました。

古い照明は処分することになりましたが、私はその前に、長年の労をねぎらって、きれいにしてやろうと思いました。

照明は吊り下げ式で、花形をしていました。

硝子の花弁を重ねた薔薇のような形状です。

中心には魔力のこめられた魔法石が埋め込まれており、これをお刺激することで、光を放つ仕組みでした。

私は花弁の隙間に挟まったほこりを、ひとつひとつ丁寧に拭い取って行きました。

灰色にくすんでいた照明具は、みるみるうちに、本来の透明感を取り戻していきます。

こんなに簡単に汚れが落とせるのなら、もっとまめに手入れをすればよかった、と後悔しました。

花弁を磨き終えた後は、魔法石です。

魔法石は掌ほどの大きな宝石でした。

真っ赤なその石を、私は花弁の傘から取り外し、磨きあげました。

美しい石でした。

磨き上げられたそれは、輝きを反射させるための切込みが無数に入った、珠玉の一品でした。

宝石自体の価値はもちろん、拵えも素晴らしいものでした。

さぞ名のある名工が作ったのだろうと、私は宝石に見入りました。

目を惹きつける、抗いがたい魅力がある。

そう感じた、次の瞬間でした。


ガシャンッ!


私は手にしていた宝石を、床に落としました。

宝石とは思えない脆さでした。

それは硝子細工のように粉々に砕け散りました。


そしてそれが砕けると同時に、私の頭に、すべての記憶が蘇ったのです。




妖精の王は私に魔法をかけました。

おそらくウェンディにかけたものと同種のものでしょう。

私はあの日から今日まで、五十年もの間、アンジェラ様のことを忘れてしまっていました。

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