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アンジェラ様はウェンディの影に隠れることを良しとされていました。
二人で得た万救の乙女の称号が彼女一人のものとされても、一向にかまいませんでした。
けれど、自負はありました。
ウェンディには自分がついていなければならない。
ウェンディには自分が必要だと、信じて疑っていませんでした。
だからこそアンジェラ様は、ウェンディの宮廷入りを認められなかったのです。
万救の乙女として宮廷に招かれたのは、ウェンディ一人でした。
アンジェラは憤慨しました。
自分の支え無しに、ウェンディが宮廷で貴族たちと渡り合えるはずがありません。
政治利用される姿しか、魔法師として酷使される未来しか見えませんでした。
けれどなんの力も持たない十一歳の少女がいくら喚こうとも、聞き入れてもらえるわけがありません。
姉の宮廷入りを妬む哀れな妹として、アンジェラ様は軽んじられるばかりでした。
「お姉さまなんて、――――お姉さまは宮廷なんてふさわしくない。怪物たちと深淵にいるのがお似合いなんだから!」
まったく心にもないことを口にしてしまうほど、アンジェラ様は追い詰められていたのです。
アンジェラ様はなにも悪くありませんでした。
いったい誰が、アンジェラ様を責めることができるでしょうか?
アンジェラ様自身にも、アンジェラ様を責めることは許されませんでした。
けれどアンジェラ様はご自身を責めました。
姉にひどい暴言を吐いたことを。
すぐ過ちに気づいたのに、謝ることもできず、その場を逃げ出したことを。
妖精の王と出会わせてしまったことを。
アンジェラ様は生涯に渡って悔い続けました。
それを罪と認め、残りの生涯のすべてを、贖罪に費やしました。
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ウェンディを妖精の魔の手から遠ざけるために、アンジェラ様は手を尽くしました。
ウェンディを妖精の王から守るたったひとつの方法が、彼女を修道院に送りこむことでした。
アンジェラ様はそのために、尊敬する姉を貶めなければなりませんでした。
心無い言葉で幾度となく傷つけ、笑いものにしました。
万救の乙女であった過去さえ否定し、落ちこぼれというレッテルを張りました。
力を失った価値のない存在として無視し、また周囲の人間が無視するよう仕向けました。
ウェンディ自身が、修道院に入ったほうがマシだと思うよう仕向けました。
アンジェラ様は、ウェンディを守るためなら、ウェンディに憎まれようともかまわない覚悟でした。
けれどそんな妹の心を踏みにじるように、ウェンディは屋敷に留まり続けました。
社交界でどれだけ辱めを受けても、軽んじられても、その存在を忘れられようとも、ウェンディは屋敷を出ようとはしませんでした。
アンジェラ様のことを憎むこともありませんでした。
婚約者探しの夜会を台無しにされたときでさえ、アンジェラは本当に人気者ね、と嬉しそうにする始末でした。
白状すると、私はこの頃からウェンディを憎むようになっていました。
悪意がないのはわかっています。
彼女は被害者です。
アンジェラ様がなにも悪くないように、ウェンディだってなにも悪くはありません。
ですが、それでも、私はアンジェラ様が不憫でならなかったのです。