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写真で奇跡を起こします!絆をつなぐフォトグラファーの異世界物語  作者: 鶴丸 左京
第一章:フォトグラファー異世界へ
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8、気になる人物との出会い

 



 翌朝、ジェラルドの案内で市場を、回っていた。国境近くの山奥出身のおかげで、食材や調味料について質問しても不審に思われた様子は無さそうだった。実家が食堂だけあって、“こういう物がないかな“と相談すると提案してくれて、希望に近い物を調達できた。

 市場を回り終えて、ジェラルドと休憩することにした。初めての朝市場に、興奮していた気分を落ち着かせる為に、ジュースの屋台に立ち寄っていた。スイカを薄めたような、優しい甘さが体に沁みわたってわたっていく。

 ジュース屋台の横には、お花屋さんの屋台が並んでいる。生花の爽やかな香りに、ついそちらの店も覗いてしまう。


「いらっしゃい!新鮮な花が揃ってるよ!」


 元気なおばさんの声を聞きながら、花を見る。籐のかごを階段のように段差をつくり、様々な大きさのかごをいくつも並べて、色や形で楽しませてくれる。


「すごくいい香りで、きれいなお花がたくさんありますね。」


「お姉さん、わかるかい?丹精込めて育てた花ばかりさ。プレゼントにも自宅用にもオススメだよ!」


「月光亭のカウンターに飾ってもいいかも…。小さな花束をお一ついただけますか?」


「毎度あり!お姉さん月光亭の人なのかい?」


「はい、田舎から出てきたばかりで、しばらくお世話になることになりまして。」


「そうなのかい。この街は、王都からは少し離れているが、住みやすい街だよ。仕事にも困らないし___」


 おばさんが話し込みそうになった時、後ろから女性の声がした。


「ペチャクチャ喋ってないで、いつもの一つおくれっ!」


 厳しい言葉に少し驚いて、思わず振り向くと、初老の女性が両手を杖に乗せて、渋いお顔をして立っていた。ダークグリーンのスカートは、くるぶしまで長くシャツのリボンは、きれいに結ばれていてご年配なのにとても清潔感のあるシンプルな装いだ。


「おや、すまいないね、エリサ婆さん。はいよ。いつものね、毎度あり。」


「ふんっ。アンタのおしゃべり癖は、薬をつけても治らないだろうね!」


 店主のおばさんは慣れているのか、言われた事を気にすることなく、変わらない態度でエリサ婆さんと呼んだ女性の対応をする。数本の花を束ねた、花束というには小振りな束をサッと作ると、エリサお婆さんに渡した。

 その光景を数歩下がって見送る。お婆さんは、お金を払って受取ると、渋い顔をしたまま花束を買い物カゴに入れ、帰っていった。


「あの婆さん、3日置きに買いに来るんだよ。近所に住んでる頑固で有名な婆さんさ。口も悪くてあの調子なもんだから、いつも一人なのさ。どこで買い物しても、ああやって小言を言っていくらしいよ。困ったもんだよ。」


「そうなんですね…。」


 私は、その話を聞きながら、何故かエリサお婆さんのことが気になった。お婆さんの瞳の奥に、悲しみが見えた気がしたからだ。そしてもう一度、お婆さんを振り返り、後ろ姿を見つめる…。

 足が良くないのか、杖を突きながらゆっくり歩いている。その後ろ姿はやけに、もの寂しさを感じる小さな背中に見えた。


「リン、どうかした…?」


 一部始終を見ていたジェラルドが、不思議そうに声をかけてくる。


「うん…。あのお婆さん、何だか気になるんだよね…。どう説明したら良いか分からないんだけど、たぶん…悲しみを心の奥に隠してる。」


「…俺には、分からなかった。なんで…わかるの…?」


「瞳の奥に、見えた気がしたから…。私、たくさんの人と関わった仕事してたから、その人の本質とか人間性の一端を、瞳の奥を見つめることで感じ取るようになったんだよね。100%正しいわけではないんだけどね。」


「そう…。」


 そう言って、ジェラルドが私の瞳をジッと見つめてくる。


「やっぱり、分からない…。奥って…どうやって見る…?」


「フフフッ。だから、説明が難しいんだってば。」


 心底不思議そうにしながら、質問をしてくるジェラルドと談笑しながらお店へ戻る。エリサお婆さんの事が気になりながらも、購入したものを抱えて歩くうちに、今日の仕事の方へ意識を切り替えていった。



 数日後、私は初めてのお休みをもらい、散歩兼、朝市場の散策に来ていた。ジェラルドと来た時にいろいろ教えてもらったので、一人でゆっくり見てみたかったからだ。もちろん、カメラも持ってきている。


「こういう、朝の空気や街の風景、好きだなぁ。この街のことを、少しずつ知っていきたいから、スナップを撮りながら歩くの楽しいな。」


 野菜や調味料、お肉屋さんに小物屋さん、古着や屋台。一通り回っていたら、大聖堂が見えた。そういえば、教会があったと思い出し、向こうの世界にあった教会みたいなのか、異世界の教会に興味を惹かれたので行ってみることにする。

 近くまで来るとかなり大きい建物のなのが分かる。向こうで言う、ゴシック様式のような建物は巨大で、尖った三角錐の屋根に、いくつもある大きな窓と装飾が、より教会らしさを醸し出している。


「そりゃ、遠くからでも見えるシンボル的な建物だからね…。しかし、立派だわ…。」


 首が痛くなりそうなほど、見上げて感嘆する。こうなると、中の内装がすごく気になる。はやる気持ちを抑えながら、扉についたドアノッカーのような、輪の取っ手を引いて扉を開ける。ギギッと、音を立てて木製の扉が動く。そして見えた景色に言葉を失った。

 私のいる入り口から奥に続く通路は、学生の頃の100メートル走を思い出させる、何十メートルあるのかわからない直線の先に祭壇がある。その祭壇までは何本もの柱が立っており、柱身部分には縦に線の装飾が施されておりランプが取り付けられている。天井までは10メートルほどだろうか、高くとても大きな空間は、音が良く響きそうだ。柱の間にはチャーチベンチが整然と並んでいる。

 祭壇は低い階段を5段ほど上がると、神様の像らしきものが祀られている。その祭壇の手前が少し開けたスペースになっており、天からスポットライトがあたっているかのように光が降り注いでいる。上部はドーム型の窓になっているようで、柔らかな光が雲間から太陽の光が漏れ、まるで天使の梯子がかかったように神秘的な美しさがある。

 そして祭壇の奥の大きな窓にステンドグラス。ブルーが中心の爽やかな色合いの花々が描かれており、冷たい印象の石造りの教会内に華やかさを添えている。



「仕事で教会を利用する以外に、来たことが無かったけど…。こんなに荘厳な教会、見たことない…。」


 神気って本当にあるんだな…。澄んだ空気がそう感じさせるのか、不思議な霊気みたいなものを感じる。まだ早い時間ということもあり、とても静かだ。教会内の神聖な空気を味わい、観察しながらゆっくりと歩く。前列の方に、女性の背中が見える。

 早い時間から熱心な方もいるんだな…。

 私はただの見学だから、邪魔にならないようにこの空気を味わおう。そう考えて通路を挟んだ反対側、女性の視界に入らない位置のチャーチベンチに座り、祭壇上の神様の像を見つめる。

 何となく手を組み、目を閉じて像に向かうと色々な言葉や疑問がこみ上げてくる。何故この世界にきたのか、どうして私なのか、本当は理不尽に思っていること、心細く自分の弱さを感じてしまうこと、問うても返ってこないとわかっていても、気持ちが溢れてきてしまう。どれくらいの時間、そうしていたか分からなかったけれど、気づけばいつの間にか、目から涙が流れていた…。


 流れる涙を感じながらも、目を開くことができない。もう少しこのままでいたい…。そんな風に考えていると、隣に誰かが座る気配がする。驚いて、隣を見るとアイザックさんが心配そうな顔で私を見ている。少しの間見つめ合う形になり、泣いていたことを思い出した私は、慌てて涙を拭う。すみません、と言おうとした瞬間、温かいものに包まれる。固まること数秒…、私はアイザックさんに抱きしめられていた。


「リン。いいんだ、我慢しなくていい。今は泣いていい…。俺が隠してやるから、泣け…。」


 諭すように言われ、その言葉が私の中に優しく響き、その温かさも心に沁みわたるように広がっていく。


「アイザックさん…。」


「本当は心細かったよな…?いきなり知らない所に連れてこられて、大人だって不安に思って当たり前だ。リンが笑顔で振る舞っていたのも、強がってるって気づいてたんだ…。リンは一人じゃない、俺は味方だからな。大丈夫だ。」


 その言葉を聞いて、再び涙が頬を伝う。家族も友人も仕事も仲間も、全部置いたままこちらに来てしまった。元居た世界で私は行方不明にでもなっているのかな…。帰れるのか帰れないのかも分からない。ただ、向こうの世界から拒絶されたような…漠然とした孤独感を感じている…。


「きっと、ここで何かすべき事があるんだ…。リンだから、こちらに来たのだと思うようにしよう。…お前は強いよ、自分の弱さを知ってるんだ。その弱さを悟られないように、強がることで自分の心を守っていたんだな…。

 お前はあの日、会った時からずっと前向きでいようと努めていた…。愚痴や嘆きなんかを言うこともなく、進むことだけを考えていたな。だから俺は、リンの味方でいようと、見守っていこうと思えたんだ。」


「…………ふっ…。」


 アイザックさんの存在がありがたくて、32歳にもなって孤独に怯える自分が情けなくて、整理しきれていない抑えていた感情の席が切れてしまった。

 アイザックさんの言葉が温かくて涙腺が緩んで、次から次へと流れる涙が頬を伝い、服を濡らしていく。申し訳ないと思いながらも涙をとめることができない。


 しばらくすすり泣き、やっと落ち着いて少し体を離すと、アイザックさんの心配そうな瞳が至近距離から見つめてくる。


「す、すみません…!」


 泣いてしまった恥ずかしさと距離の近さに、距離をとりたくて腕を突っ張るが、ことのほか力強く抱きしめられていて距離をとれない。


「大丈夫か?」


 覗き込みながら、私の顔を両手で包み、親指で頬の涙を拭われる。鼻先が触れてしまいそうな距離で見つめ合う形になって、時が止まること数秒…。ちょっと、この体勢はマズいのではないかと焦り始めた時、棘のある声が聞こえた。


「ふんっ。イチャつくなら他でやりな!」


 聞こえてきたのは、エリサお婆さんの声だった。


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