4、最初の街ヘルゲートへ
明け方まで語り合っていた私たちは、少し仮眠をとったあと朝食を済ませてから、ヘルゲートに向けて出発した。
ヘルゲートまでは、徒歩で二時間ほどかかるらしい。道すがらこの国のこと、貨幣価値や魔法について詳しく説明してもらい、使えるように練習しようということになった。
この国の貨幣は
鉄貨1枚 → 10円
銅貨1枚 → 100円
銀貨1枚 → 1,000円
金貨1枚 → 10,000円
大金貨1枚 → 100,000円
白金貨1枚 → 1,000,000円
アイザックさんが食べていた、屋台の串焼きが1本鉄貨2枚ということだった。金貨5枚くらいで、4人家族で3か月は最低限暮らしていけるらしい。
他にも、国に依存しない冒険者ギルドと商人ギルドというものがあって、このどちらかに所属していると、国から国へ街から街への移動がスムーズにできるそうだ。
冒険者ギルドか商人ギルドのギルドカード以外の身分証を提示すれば、街に入れる。身分証なしの場合は国や街によっても違うが、入るのに税金がかかるらしい。田舎出身者や孤児などは身分証を持ってないということだった。
そしてこの国は、グランデ王国。王家が統治しているらしい。身分は平民と貴族の身分制度が存在する。
貴族階級は、ファンタジーにありがちな、公・侯・伯・子・男の階級だそうだ。
公爵:国内で最も高位の爵位で、多くの広大な領地を統治している
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侯爵:公爵に次ぐ高位の爵位で、主に国境地域の防衛や統治に従事している。
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伯爵: 侯爵の下に位置し、一般的に特定の地域を統治している。
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子爵:伯爵に次ぐ爵位で、地方統治に従事することがあるらしい。
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男爵:最も低い貴族の爵位で、通常は一部の土地や領地を所有している。
暦や数字は地球と同じ、365日12ヶ月、数の数え方も同じだそうだ。
1月→一の月、2月→二の月、 こんな感じで、少し呼び方に違いはあるが、四季もあるから地球とほぼ同じ。
魔法を使うには、属性と魔力量とイメージが必要らしい。ゲームやアニメなんかに、よくある設定だな~。だから理解は早かった。
アイザックさんが、お手本として火魔法を見せてくれる。ファイアーボールと唱えると、掌の上に小さな火球が現れる。
同じように私も試してみる。今見た火球をイメージして…。掌を開いてイメージしたとたん、ソフトボールくらいの大きさの火球が現れた。
「わ!ビックリした~。こんな感じですか?」
「ハハハ…。すごいな~。普通は何度も練習するものなんだが…。やはり界渡りは、特別な力を持っているのかもしれないな。」
「自分では自覚ないです…。魔法を使うこと自体が初めてなので。」
「まあ、そうだよな。他の魔法も試してみるか!」
「はい!お願いします。」
ヘルゲートまでの道中はこうして、魔法練習をしつつおしゃべりも楽しみながら、進んでいくのだった。
ようやくヘルゲートの外壁が見えてきた頃、休憩をとる。
「ヘルゲートまでもう一息だな。リン、俺の外套を羽織れ。そのままだと、少し目立つからな。街に入ったら、まずは服を調達しよう。」
「はい、わかりました。ありがとうございます。」
アイザックさんから外套を受け取り、羽織る。
「外壁門番に身分証の提示を求められるが、“国境近くの田舎の村から出てきた“ということにしておこう。まあ、その辺りは、俺が門番に説明するから任せておけ。」
「はい、お願いします。」
「それとしばらくは、俺の家に泊まれ。部屋は余ってるし、こっちの金、持ってないだろ?落ち着くまで居たらいい。」
「申し訳ないですが、すごくありがたいです。でも、突然私が転がり込んでも、奥様は大丈夫ですか?」
「居ないぞ。俺は独り身だ。」
「えッ?居ない?お付き合いしてる方も?」
「ああ、居ない。だから遠慮するな。」
「そうなんですね。では、しばらくご厄介になります。」
そうだった、お金…。言われて初めて、お金のことを失念していたことに気づく。考えることが多すぎて、何をするにも必要なお金のこと、確認するの忘れていた…!
ウエストポーチから、折り畳み財布を取り出して中身を確認する。すると、持っていた30,000円分の現金がこちらの貨幣に自動両替されていた。
「ハハハ、持込みチートが発揮されていて、良かった~!」
驚きつつも安心した。
「アイザックさん、お金は自動で両替できているみたいで、金貨3枚分はあります。」
「驚いたな、リンの持ち物は国宝級だな…。このことは誰にも言わない方がいいだろうな。」
「そうします。私も驚いています。」
「それなら、宿を探すか?」
「そうですよね、お金があるなら独身男性の家に居候するよりも、安宿で構わないので宿泊先を見つける方が良さそうです。」
「冒険者向けだが、紹介できる宿はあるぞ。まあ、食事はイマイチだがな。」
「では、宿泊先の紹介をお願いします。」
おう、任せておけ。とアイザックさんは頼もしい返事をくれる。そうして、しばらく休憩した後、ヘルゲートに向けて再び出発した。
アイザックさんの言った通り、外壁門番に身分証の提示を求められたが、決めておいた事情を説明し、アイザックさんが保証人になるということで、入場税銀貨2枚を支払って通してもらえた。
門をくぐり街へ入り、目を見張る。そこには中世ヨーロッパのような街並みが広がっていた。まず正面は、大きな馬車もゆったり通れる道幅の広い石畳の大通り。そのずっと奥に見える教会だろう大聖堂が見える。大通りの両側には、木と石を組合わせた2~3階建ての三角屋根の建築物。商店なのか、店先に旗や看板がついている。
大通りには、冒険者グループや商人のキャラバンらしき人達、親子で買い物をしている人や荷物を運んでいるような労働者と、様々な服装の人たちが行き交い活気がある。
見るもの全てが珍しくて、ついキョロキョロと見回してみてしまう。完全にお上りさん状態だ。アイザックさんの案内で賑わう大通りを抜けて、クリス服飾店という店の前に来た。
「この店は俺の友人の店だ。新品も古着も揃っているし、面倒見の良いヤツだから安心して選ぶといい。」
そう話しながら、扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ~!」
あいさつをしながら、背の高い細身の男性が出迎えてくれる。
「あら、ザック。お客さんを連れてきてくれたの?」
おネエの方なんだ…。黙っていたら、モデルさんみたいに綺麗な人だな。身長はアイザックさんと同じくらいの185cmくらいで、金髪でストレートの髪は一つに結んである。肌は色白で、一瞬女性と見間違えそうな中世的な顔立ちだ。目は切れ長だけど、小さくなくて瞳の色はグリーンだ。薄いブルーのラフなシャツに、ブラックのパンツ。スラリとした足に程よくフィットしてスタイルの良さがわかる。
この世界は美形ぞろいなのかな。それともアイザックさんの周囲の人の顔面偏差値が高いだけなのかな。
「ああ、クリス。この子はリン。この国に来たばかりでな、街に馴染む服と生活に必要な細々したものを揃えたいんだが、頼めるか?」
「あら、そうなのね~!任せてちょうだい。リン、初めまして。私はクリスヴァルトよ、クリスって呼んでちょうだい。アイザックとは冒険者時代の古い馴染みなの。よろしくね~。」
「初めまして、リンです。よろしくお願い致します。」
「俺は、先に宿に行って話をつけてくる。」
パンッ!と手を叩き、さっそく選びましょ!と、クリスさんに手を引かれる。店奥にある、フィッティングルームのカウチに荷物を降ろして、服選びを始める。
「リンは、幼く見えるけどいくつなのかしら?」
「32歳です。若く見られるのは嬉しいことなのですが、幼くみえるのはショックですね~。」
答えながら、アイザックさんの外套を脱ぎ、畳む。
「なんですって⁈32歳?」
ギョッと目を見張りながら、クリスさんは私をまじまじと見つめる。ものすごく観察されてるな~。日本人は外国人と比べて若く見えるとは言っても、幼くって表現されると思わなかった。しばらく無言の時間が流れる。居たたまれなくなって、クリスさんに尋ねる。
「あの、そんなに幼く見えますか?」
「そうねぇ、顔は小さくて目は大きい、鼻も低くて成長途中の子供みたいな顔立ちに見えるけど…。肌もハリがあるし、32歳には見えないわね。よくて20歳前後ってとこかしら?」
「確かにこちらの人たちは、顔立ちがハッキリしてる人が多いですけど…。中身はオバさんですよ。」
「あらあら、拗ねちゃったかしら。正直に言い過ぎちゃったわね。だけどリン、老けて見えるよりは、マシよ!」
「それはそうですね。」
「でも、そうねえ。年齢を考慮して、落ち着いた色やデザインの服装が良いわね~。」
手のひらを頬にあてながら、クリスさんは服選びを始めた。
ワンピース、チュニック、スカート、パンツ、下着、ブーツなど、最低限必要な物を選んでもらい、購入する。下着以外は古着で一先ず揃えてもらった。しめて銀貨2枚。古着ということで安くしてくれた。勤め先が決まるまでは、節約しておかないとね。それから、クリスさんにお風呂について聞いてみる。
「クリスさん、お風呂で使う石鹸などは、どこで購入できますか?クリスさんの髪、すっごく綺麗なのでどんな石鹸を使っているか、教えてもらえますか?」
「あら~、褒めてくれてありがとッ!女性なら気になるわよね~。石鹸は雑貨店に行けば買えるわよ。でも、私の石鹸は手作りなのよ。だから特別に、リンには分けてあげる!」
「わぁ~!ありがとうございます!早くお風呂に入りたくて、石鹸欲しかったので、すっごく嬉しいです!」
「次からは、お友達価格で融通するわね~。家ので良かったら、お風呂貸すわよ。二階にあるから、入っていきなさいな。早く入りたかったんでしょう?」
「いいんですか?ありがとうございます!早速使わせて頂きます。」
クリスさんと一緒に二階に上がる。
「二階がご自宅なんですね。」
「そうよ。この街の商店は、ほとんど居住スペース付の店舗なのよ。」
支払いを済ませてから荷物を持って二階に上がり、突き当りにあるお風呂に案内してもらう。使い方や石鹸の説明を聞いて、お風呂を貸りる。ここのお風呂はシャワー式だった。汗を流せるだけでありがたい。
「昨日、汗だくだったから、ベトベトして気持ち悪かったんだよね。はぁ~!気持ちいい~。それにクリスさんの石鹸、すごくいい匂い…。」
バニラとジャスミンのような香りに癒される。サッパリできて気分が上がる。風魔法を発動し扇風機代わりにして、火照りを冷ます。魔法って便利だな~。
お風呂を出て麦茶でのどを潤した。次は、風魔法と火魔法を合成して、ドライヤー代わりに髪を乾かす。日本で使っていたシャンプーほど、サラサラというわけにはいかないけど、きしみはなく汚れはしっかり落とせたようだった。
先程購入した、カーキ色のワンピースに着替える。七分丈のパフスリーブに胸元は編み上げになっており、スカート部分はミモレ丈のフレアスカートで、落ち着いたデザインになっている。ブーツを合わせれば、この街に馴染んだ住民っぽく見える。
「うん、意外と似合ってる、ハズ…。」
自分で頷き、一階に戻る。
「クリスさん、お風呂ありがとうございました!」
「あら、似合ってるわよ~。石鹸どうだったかしら?使い心地と香りにはこだわって作ってるの。」
「すっごく良いです。使用感も文句なしでしたし、癒される素敵な香りでした。こんな素敵な石鹸、分けてくださってありがとうございます。」
「お褒めにあずかり、光栄だわ。」
そう言って、ニッコリとほほ笑むクリスさんは、嬉しそうだ。そして、外に指を向けながら教えてくれる。
「それとね、ザックが表のベンチで待ってるわよ。」
「待たせちゃいましたよね?クリスさん、また改めて買い物に来ますね。ありがとうございました。」
軽く頭を下げてお礼を伝える。
「ええ、また来てちょうだいな。待ってるわよ~。」
出口に向かいながら振り返り、ヒラヒラと手を振って、笑顔で応えてくれるクリスさんのお店を出るのだった。




