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写真で奇跡を起こします!絆をつなぐフォトグラファーの異世界物語  作者: 鶴丸 左京
第一章:フォトグラファー異世界へ
16/28

16、クリスさんとの挑戦4

 朝市に出している花のほとんどは、彼女の自宅に併設された広大な庭で育てられている。撮影は快く了承してくれて、少し驚いた。


「――この庭は、私のご先祖様が植え始めたものなんだ。その人の特別な力は、“妖精の声を聞くこと”だと言っていたそうだよ。」


 私は思わず息をのんだ。先程聞こえた、あの不思議な声が頭をよぎる。


「小さな男の子のような声だったって……。花を植えるとき、『そこは日当たりがいいよ』とか、『こっちに水をあげて』とか……風に乗って語りかけてきたって、日記に残されているんだよ。」


「その声……本当に妖精だったんですか?」


「わからない。でも、こう書いてあった。――“姿は見えなくとも、あの声と花の笑い声が重なったとき、私は確かに、何かと心を通わせていた”って。」


 ミリアさんの声は穏やかだけど、どこか神聖な気配を帯びていた。彼女の言葉は、私の心の奥に何かを響かせた。


「その後も、代々この家の者は、この庭を大切に守ってきたのさ。親も私も、残念ながらその力を受け継いでいない…。声を聞いたことはないんだ。だけどね、感覚的に花たちの機嫌は少しわかるんだ。

 だから、もしも本当に妖精がいるとしたら、声を聞いてくれる人間を、ずっと待っているのかもしれないね。」


 私は黙って頷いた。やっぱり、あの声は――。



 『やっと来たね。ボクたち、ずっと待ってたんだよ。キミの“目”が、見えるようになるのをね。』



 あのとき花の中で聞こえた、いたずらっぽく響く、けれどどこか神秘的な声。きっと、あれが妖精の声なのだ。


 ◇◇◇


 撮影当日。朝もやがまだ残る時間、私は月光亭の面々や、クリスさん、そしてモデルを務めてくれるお姉さんたちとともに、ミリアさんの花園を訪れた。


「まさか妖精の庭で撮影することになるとはな。俺が来て大丈夫だったか?」


 アイザックさんは冗談めかして言う。


「大丈夫だよ。むしろ、いてくれると心強いよ。」


「そうか? じゃあそのへんで妖精の気配を察知したら、すぐに教えてやる。」


「頼りにしてる。」


 笑いながら返事をして、私は撮影の準備に集中する。


 モデルのお姉さんには、まず清楚タイプの白い下着を着てもらい、花園の中心に設けた簡易ブースの中で撮影する。


「リン、準備できたよー!まずは白い方から撮っていこう!」


 クリスさんの声に呼ばれて、私は現実に戻る。


「はい、今行きます!」



 風がそよぎ、白花が足元に広がる中、光の粒がきらきらと舞う。その姿はまるで妖精そのものだった。

 構図を調整しながら、シャッターを切る。


 カシャッ。カシャッ。

 ――カシャッ。


「いいですね……。ちょっと視線を斜めに。そう、今の角度……。」


 私は集中してシャッターを切り続けた。


「確認するので、小休憩にします。その場で少し待機していてください。」


 そう言ってから、プレビュー画面で撮影画像を確認する。


 だが、ふと、風の流れが変わった気がした。


 木々がざわめき、微かな風が吹き耳元にふたたび、あの声が忍び込む。あのときと同じ、少年のような声が微かに聞こえた。


『また、来たんだね。』



 私は目を開いた。はっとして、辺りを見回すが、誰も反応していない。声は、確かに聞こえた。でも、耳元ではなく――心の中に響くような、ふしぎな感覚だった。クリスさんは衣装の最終チェック、モデルさんはポージングの確認をしている。アイザックさんが荷物の警備をしながら遠くを見ていた。


「今の……また……。」


 確信に変わった。この庭には、確かに“妖精”がいる。



『もう少し……奥に来てごらん?』


 耳にふれる風が、まるで導くように私の髪をそっとなでた。


 私は一歩、カメラを持ったまま花園の奥へ足を踏み出す。だが、後ろから声がかかって立ち止まった。


「リン、どうしたの? 」


 クリスさんの声で、ふっと現実に戻る。


「いえ、なんでもありません。次は別の角度から撮りますね。」


 私は笑顔で返事をしながらも、さっきの声が頭から離れなかった。


 ――やっぱり、この庭には、何かがいる。でも心の中には、さっきの声の余韻が、まだ小さく響いていながらも、撮影を続けたのだった。




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