14、クリスさんとの挑戦2
翌日、ランチ終わりの時間に合わせたように、クリスさんが月光亭に訪れた。
「いらっしゃいませ。あ、クリスさん。今日はランチですか?それとも打合せですか?」
「その両方よ。リンもランチしない?昨日の話の続きをしたいわ!」
「リン、落ち着いたから大丈夫だよ。」
クリスさんの声が聞こえたのか、レイラさんが厨房の扉から声を掛けてくれる。
「レイラさん、ありがとうございます。そうさせて貰いますね。」
私は2人分のお冷を用意して、奥のテーブルにつく。お冷で喉を潤しながら、話を始める。
「それで、モデル…えぇと、着てもらう人は決まったんですか?」
「えぇ、何人か話してみたら、面白そうって引き受けてくれたお姉様がいるの。それでね、サイズを測らせて貰ったから、手直ししているところよ。」
「もう決まったんですか?凄いですね(笑)。昨日、凄い勢いでお店を飛び出して行ったから、クリスさんの行動力に感心していたんです。私もあれから色々考えてみたんです。それで、クリスさんにお願いがいくつかありまして…。」
「あら、そうなの?遠慮なく、何でも言ってちょうだい。」
「売り込み方も、写真のイメージも含めて考えた結果、もう一種類下着を用意して貰えませんか?
今製作している白いタイプのコンセプト…商品テーマは、”清楚"。清らかで品の良い印象のデザインです。
それでもう一種類、製作して貰いたいテーマは、"妖艶”。色っぽくて美しい、性的に刺激する艶かしい印象のデザインです。色は紫や黒が良いと考えてます。
その、正反対の二つのデザインを、同じ方に着てもらうことで、どちらの方にも変身できると、演出するのはどうかなって。それに年齢で好みも変わりますし、一先ずはその二種類を推していけば良いと思います。写真のイメージを絵に描いてあるので、それに近い画角で、それぞれ雰囲気を変えて撮影します。」
クリスさんはポカンと口を開けたまま、私を見つめている。
「リン…あなた……。素っ晴らしいアイディアだわっ!なんて素敵な提案なの!?そうよね、あの下着なら今までの様に『白』である必要はないのよね!私とした事が…!こうしては居られないわ!早速、製作にとりかかるわっ!」
立ち上がって、今にも飛び出していきそうなクリスさんの腕を、思わずガっと掴む。
「ま、待ってください!まだ話の途中です!」
「あらヤダ、ごめんなさいね。創作意欲が湧くと、いても立っても居られないタチなのよ。悪いクセだわ〜。」
「その行動力は、本当に凄いと思います。ただ、話は最後まで聞いてくださいね。」
そう言って笑い合いながら、撮影の構想を説明して、細かな事も打合せをした後、お店に戻るクリスさんを見送った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の休みの日、エリサおばあさんと朝市で買い物を楽しんだ後、お茶をご馳走になっていた。
「ところで、前に話してた洋服屋との撮影はどうなったんだい?」
「お休みをとったので、5日後に撮影の予定なんです。でも、まだイメージの場所が、見つからないんですよね…。」
「イメージの場所?どんな場所を探してるんだい。」
「撮影した写真に、合成出来るような景色の場所を探してるんですけど…。あ、合成っていうのは、複数の物をひとつに混ぜて、組み合わせることを言うんです。
本当はその場所で撮影できれば、一番良いんですけど、下着姿ってほぼ裸なので、そういう訳にもいかなくて…。だから、合成に使えそうな場所を探してるんです。」
そう言いながら、無意識に頬杖をついてため息をついてしまう。
そうなのだ、イメージをクリスさんに提案した日から、脳内でCMをイメージして、乙女心や憧れを表現出来そうな場所を探していた。
「白い花が咲いていてる、草原や森…のように感じられる所がいいなって思ってて…。可憐な妖精が出てきそうな場所を探しているんですけど、中々見つけられなくて…。」
「ふむ…、妖精が出てきそうな白い花の咲く所ねぇ…。花が沢山あるような場所なら、心当たりがあるよ。」
「え!本当ですか!?」
「あぁ、花屋だよ。朝市でいつも行く、あの花屋さ。あの花屋は、親から継いだって言ってたからね、様々な種類の花を扱っているし、家で育てた自慢の花だって、話していたからね。聞いてみたらどうだい?」
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