13、クリスさんとの挑戦1
私がこちらの世界に来て3ヶ月が経った。帰ることは一先ず置いておいて、こちらの生活に慣れる事に注力する毎日を送っていた。
規則正しい生活を送れるようになって、カメラとパソコン仕事からくる、肩こりは解消され、立ち仕事と徒歩移動で体を動かすようになったおかげで、体重も20代の一番痩せていた頃に戻っていた。
健康的に痩せられて、内心喜んでいる。元の生活は仕事に追われて、慌ただしい毎日だったから、不健康そのものだった。
そう思えば、今の文化水準の生活も悪くないと思える。きっと以前の生活が、便利過ぎたんだと思う。
ただ、あると良いなと、思う物は色々あるから、そのうち商業ギルドに相談しようと考え中だ。
先日、エリサお婆さんの為に改良した、歩行補助の四脚杖は商業ギルドに登録された。
とにかく、健康的に痩せられたから、今日は洋服を物色しに来ている。お店はもちろん、クリス服飾店だ。
クリスさんとは、洋服というか下着製作の相談をきっかけに仲良くなった。
この世界のモノは、コットン生地のような伸びない素材で、胸当て(着物用の下着に似ている)にヒモパンが一般的で、レイラさんみたいに大きい人は、
チューブトップのようなものを使用しているらしい。
しばらくは、元々つけていたものを魔法で複製していたので、特に困ってはいなかったのだけれど、痩せた事で、サイズが合わなくなってしまい、思い切ってクリスさんに相談したのだ。
それにしても…あの日に限って、シンプルなデザインを着けていたことを何度悔やんだか…!白シャツだから透けない様にと、装飾も無いベージュの可愛くないタイプを…。
それから数日しか経ってないのに、クリスさんからお店に来て欲しいと連絡を受けて、お店の扉をくぐる所だ。
「こんにちは〜。」
「いらっしゃいませ〜!って、リンじゃない!待ってたのよ〜!早速、奥で試作品見て貰えないかしら?」
クリスさんは凄い勢いで駆け寄って、私の背中を押しながら、奥の作業場へ誘導する。
「伝言聞いてから、楽しみにしてたんです。」
イメージが膨らんで、形にする事を抑えきれずに熱中して作業したんだろうな。そういう部分はクリエイターとして、気持ちは理解できる。
そして、作業場でワイワイ意見を出し合いながら、下着開発の時間は、楽しく過ぎていくのだった。
そうして話が一段落して、出してくれたお茶を飲みながら、休憩する。
「完成品が出来上がったら、まずはお得意様に売り込む予定よ。だけど、どうやって進めようか、考え中なのよね〜。この下着を着用して貰えないと、良さを理解して貰えないわ。それに付けてみたいって思わせる事が大切よね〜。」
「ん〜、それなら理想の姿や自分に、置き換えて視覚的に想像出来るようにしたらどうですか?例えば、着用前と後の違いとか、凄くキレイな方に付けて貰って、目指す理想像を提案する、とか?それも、肌を露出することに慣れている、歓楽街のお姉様にお願いするっていうのもアリですよね。」
思いつくままに提案してみる。言った後、クリスさんの方を何気なく見ると、目をキラキラさせて私を見ていた。
「素晴らしいアイディアだわ!!良いわね!着用前と比べるのは、分かりやすくて良いわ!」
「それと、あとは看板ですかね?お店の前に一目見てわかる写真とか。ついでに、お店の名前の看板にクリスさんの顔も載せちゃうとか(笑)」
最後の方は冗談半分で言ったけど、クリスさんは食いついた。
「何それ!それも良いわね〜!なんだか、ワクワクしてきちゃったわ〜!こうしては居られないわ!歓楽街にはお得意様も多いのよ、早速行って相談してこなきゃ!写真や看板については、リンに任せるわ。考えておいてね!色々詳しく決まったら、月光亭に行くから、よろしくね〜!」
やる気に溢れたクリスさんが、早口にまくし立ててそう言うと、お店を飛び出して行った。
「行動力半端ないな…」
やや圧倒されたが、新しい事に挑戦する時の、ワクワク感や充実感は、共感できる。
私もイメージ膨らませて、撮影に備えよう。あの様子だと、きっとスグに連絡が来るだろうな。
取り残された、お店の店員さんに会釈し、挨拶しながら店を出て、このクリスさんとの新しい挑戦に、胸を踊らせながら月光亭に戻るのだった。