表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
写真で奇跡を起こします!絆をつなぐフォトグラファーの異世界物語  作者: 鶴丸 左京
第一章:フォトグラファー異世界へ
12/28

12、写真の価値

 


 その夜、いつもより早い時間に迎えにきてくれたアイザックさんの家で、夕食を作っていた。故郷の味というリクエストをもらっていたけど、色々考えた結果、トンカツに決めた。本当はご飯で食べたいところだけど、パンとも相性良いし、男子は肉好きが多いから喜んでもらいたい。それに私も久しぶりに食べたい!

 こちらは油で揚げるという概念自体が無かったようで、月光亭で唐揚げを作ったとき驚かれたなぁ。今では、月光亭の定番になりつつある人気メニューだ。だから、トンカツも同じ揚げ物でも、月光亭では食べられないから特別感があっていいかなと、考えた。

 アイザックさんの家は、3~4人住めそうな二階建ての一軒家で、キッチンも普通に広い。この大きさの家に一人で住んでいるのが不思議に思っていると、顔にでていたのかアイザックさんが説明してくれた。


「若いころはパーティーを組んでいてな、仲間で共同生活していたんだ。金銭的にその方がラクだったしな。だがまあ、結婚したりケガで引退したり、故郷へ帰ったり、第二の人生に進んでいったんだ。それで今は、俺一人って訳だ。」


「そうだったんだね。男性の一人暮らしにしては、すごく綺麗にしてるよね。ひょっとしてアイザックさん、綺麗好き?」


「ハハッ!今日はさすがに掃除したぞ。招いておいて、家が散らかってたらかっこ悪いだろ?」


「フフフッ。確かにそうだね。じゃあ、早速作っちゃうね。」

 帰り道に買ってきた食材や調理器具をキッチンに並べて、調理に取り掛かる。


 オーク肉の赤身と脂身の中間部分、5~6か所に包丁を入れて筋切りをしたあと、両面に軽く塩をふり、片面にこしょうをふる。それができたら薄力粉をまんべんなくまぶし、少量の油を混ぜた溶き卵にくぐらせて自作のパン粉をつける。この時、パン粉がはがれたり、薄いところがあったりしないように、しっかりと衣付けする。

 熱した油に肉を入れたら30秒以上は触らないことがポイントなんだよね。衣がはがれる原因になってしまうからだ。はじめは大きな泡がたくさん出てくるけど、泡が小さくなって肉の表面が少し色づいてきたら裏返す。全体がきつね色になるまで揚げたら、しっかり油をきるために、網にのせて粗熱がとれるまで置いておく。

 その間に付け合わせの野菜を用意する。一応心配なので、クリーン魔法をかけ、キャベツに似たコルを千切りに、ナスの形をしたトマトもどきはマータル。これはくし切りにする。

 トンカツソースが無いので、何にしようか考えて色々試作した結果、ハーブソルトを使うことにした。月光亭の調理場で試行錯誤しながら、日本の食品会社さんへの尊敬とありがたみをヒシヒシと感じた。こっちの世界にも調味料の会社、作ってほしい…!自分で作るとなると、かなりの労力と根気が必要になる…、と考えて早々に調味料開発は諦めて、自作できそうなものを考えたら、ハーブソルトに行き着いたのだった。

 タイム、イタリアンパセリ、ローズマリーに似た3種類のハーブを細かく刻んで、塩と合わせる。分量は、1:1:1:1くらい。瓶にいれてよく振って混ぜ合わせたら完成。あとは盛り付けるだけだ。


 出来上がりが近づいたのがわかったのか、アイザックさんがバケットをテーブルに用意してくれる。

 それにお礼を言いながら、トンカツと野菜を盛り付ける。アイザックさんがワインを用意してくれて、料理をテーブルに運んだら席に着く。


「美味そうだ。見ただけで美味いって、わかるぞ。食べるのが楽しみだ。」


「フフッ。そうですか?これはトンカツという料理だよ。上手くできたとは思うけど、アイザックさんのお口に合うといいな。このハーブソルトをつけて食べてね。」


 アイザックさんは日本式のいただきます。をしてから、一切れフォークにさして口に運ぶ。


 サクッ


 良い音をさせながら、トンカツを食べたアイザックさんが目を見開いたと同時に、う~ん!と唸る。塩を付けながら、ふた口み口とドンドン食べて一切れ食べ終わる。


「やっぱり美味いな~!サクサクとした食感ももちろんだが、いつもよりオーク肉が柔らかくて、食べやすいな!これがリンの世界の味か~。」


「本当は、専用のソースがあって、それをつけるともっと美味しいんだけど、下味はしっかり付けたから、十分美味しいね。私もガッツリ食べたい気分の時は、いつも食べてたんだ。」


「そうなのか?リンの世界の食文化は面白いな。オーク肉で他にはどんな料理が作れそうなんだ?」


「そうだねぇ、生姜焼きとか角煮とかだけど…、調味料を探してみてかなぁ。アイザックさん、絶対に生姜焼き気に入ると思う!」


 そんな風に食べながら会話が弾み、いつの間にか食べ終わっていた。一緒に片づけたあと、食後のワインを飲みながら、話題は今日の出来事に移る。

 エリサさんの話をしながら、また泣いてしまい、自分の考えを話す。


「今日のことで、改めて思ったんだ…。写真でこの世界の人の役にたとうって…。世界も文化も価値観も違う、この国に来たってことに私の役割があるんじゃないかって…。私の魔法で、人を癒せたり勇気づけたり、私にしかできないことを探そうって…。自分の魔法の力の事もまだまだ研究中だし、分からないことも多いけど、頑張ろうって決意できた…。

 時間を切りとって形に残すことは、その人の人生の歴史であり記憶でもあると思うんだ。いくら頭の中で覚えていたいと思っても、記憶は時間と共に薄れて風化する。人間である以上、仕方がないことだよね。だけど、その時のその瞬間の感情も想いも、それを見ることによって思い出すことができれば、癒しになったり、頑張れる原動力になったり、未来を生きる力にすることができる…。」


 アイザックさんは、真剣に話を聞いてくれたあと、ワインを飲みながら少し考え込む。そして、眉間にしわを寄せ、私を見ながら話しだす。


「…なるほどな、写真というもの自体がこの世界にないからな…。リンの言う、写真の価値とは、色々な可能性があるよな。今回のエリサお婆さんのように、救われることもあるだろう。……しかし、歴史や記憶が蘇るということは、解明されていない謎や犯罪の真実も、分かってしまうかもしれないだろ?希望や勇気を与えるだけではなく、真実を隠したい人間にそれを知られたら危険だ。貴族に囚われて、政治的に利用されかねない。ましてやリンは異世界人だ。こちらの常識や価値観を持っていない分、思考が柔軟だ。発想力が豊かで、魔法も斬新なものが多いから表立って使うよりも、慎重に使用した方が良い。身分の高い貴族だけじゃない、国にだって利用されるかもしれないぞ。リンのやりたい想いも、写真の価値も理解した。だが、今後の方向性はもう少し考えないか?」


 そっか……、そういう危険もあるんだ…。


「わかった、ありがとう。アイザックさん。指摘されるまで、そういう危険性に気付かなかった…。そもそも、異世界の物を持ち込んで商売しようとしてるんだから、注意しなきゃだよね…。」


「仕方ないさ。」


 肩をすくめながらアイザックさんは、少し表情を和らげた。


「それにしても、リンにかかれば暴かれたくない秘密も、知られてしまうってことだよな~?恐ろしい女だなぁ。」


「ちょっと!変な言い方するのやめてよ~。私だって好きでこんなチート持ってるわけじゃないんだから…!――――それに、真実が必ずしも正しいとは限らない…。人によっては、真実が残酷な場合もあるよね、きっと。だから、使う時は、その人にとっての真実っていうのを大事にしたいな、とは思ってるよ…。今回のエリサさんみたいに。」


 そうなのだ。必ずしも真実が、自分の期待した結果や答えではないこともあるんだよね…。アイザックさんの言うように、このカメラを使った写真でなら、色んな事を知ることができると思う。

 例えば、親子鑑定として両親の顔をイメージとして映すと念じて撮影したとする。それが、一緒に暮らしている人ではないのかもしれない。それを知らないままでも、その家族が幸せであるならば、知らないままでもいいと思う。犯罪にしたってそうだ。毒を盛った犯人が身近な人の場合もある。


『真実を映す』とは、写真の本質だけど、人を幸せにする真実の方が大切なのではないかと思う。



 そんな風に、宅のみだったからか、リラックスして飲むワインは、いつもより美味しく感じて、色んな話をして楽しい時間を過ごす。話が弾む夜は、少しずつ深まっていくのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ