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写真で奇跡を起こします!絆をつなぐフォトグラファーの異世界物語  作者: 鶴丸 左京
第一章:フォトグラファー異世界へ
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1、異世界転移



 鼻をくすぐる自然の香りを感じて目を開けると、なぜか森の中だった。


「あれ…私、何していたんだっけ…?」


 驚いて周囲を見回す。そこで自分の状態に思い至る。どうやら自分は大きな木にもたれ、座り込んでいるようだ。


「そうだ…森の中を歩き続けて疲れたから、休憩したんだった。」


 いつの間にか眠ってしまったようだ。上を見上げると、濃い緑の隙間から木漏れ日が差している。まだ昼間らしい。


「ふー、暗くなる前に一晩過ごせそうな場所を探さないとね。よっこいしょ。」


 ため息を吐いた後、立ち上がる。すぐそばにある自分の荷物を見る。


「これを担ぎながらの移動って疲れるんだよね…」


 そこにあるのは、カメラバックや撮影に使用する様々な小物や機材の入った細長いボストンバッグ。荷物の総量は15kg弱。3歳の子供一人分くらいの重量だ。職業柄、こういった機材の持ち運びには慣れているとはいえ、長時間持ち運ぶのは初めてだ。


「重くても今の私の全財産だからなぁ。」


 そう呟きながら、カメラバックを背負い、ボストンバッグは肩に斜めにかける。背中と肩に、ズシリと重みを感じながら、歩き出す。そして私は数時間前に起きたことを思い出していた。





 ーーー目の前に広がる海を眺めながら、私はウエディングロケーション撮影の依頼を受け、ロケハンの為に海辺に来ていた。


 私はスタジオからロケーションまで、幅広く撮影するフォトグラファー。20歳で写真館に就職し、アシスタントの下積みから始めて同期や後輩たちが挫折していく中、踏ん張り続けて生き残り、10年目に独立した。小さいながらも自分の会社を立ち上げ、様々な撮影の依頼を受け、この2年必死に働いてきた。


 記念写真はその日の、その瞬間だけだから同じ瞬間は二度とない。その分やり甲斐はあるけれど、失敗できないプレッシャーもある、責任の重い仕事だ。撮影後は、地味だが手間のかかるデータの処理作業が待っている。色調補正や修正加工を加える為、すぐに納品できるものでもない。


 だが、クライアントの中には写真やデータに対しての認識が『簡単に撮れる』『すぐに出来上がる』と考えている人が多く、納期を早めてほしいという要望に、できる範囲で応えてきた。

 フォトグラファーという職業は、芸術性を求められ常に感性を磨かなければならず、被写体とのコミュニケーション能力も必要とされる。


 その中でもウエディングフォトは、クライアントの要望やイメージをいかに具現化して表現できるかを求められる。その為、事前の打合せやロケハンは必須だ。当日の天候も季節も考慮して、自分の中のイメージを膨らませ、撮影に臨むことが私流のやり方だ。


 今回は20代後半のお二人が“海外のウエディングフォト”をイメージしているらしく、海辺で撮影してほしいという要望だった。そういう経緯で仕事の合間を縫って訪れた場所で、テスト撮影をしながら日光の位置や砂浜の状態を確認していると、突然足元から光が溢れ眩しくて思わず目を閉じた。

 光が収まったことを感じた私は、目を開けたと同時に固まった。



 目の前に木々が生い茂っている。驚きのあまりしばらく呆然としていた私は、ふと我に返った。


「え!なに!なんで?さっきまで海にいたよね?!」


 そう言いながら、見回す。足元が急に光りだしたよね?そう思い足元を見下ろすと、ボストンバッグが目に入った。手には商売道具の一眼レフカメラ、リュック型のカメラバッグは背負ったままだ。スマホや財布などが入った、ウエストポーチも腰についたままだ。荷物を確認すると、少し冷静になれた。


「もしかして…」


 一つの考えが浮かぶが、まさかと打ち消す。でも、それ以外に考えられない…。

 ラノベによくある、あの展開。それを確かめるために、まずはここから移動しなければ。そしてスマホを取り出してみたが、画面は真っ黒で電源が入っていないようになっている。


「あれ?電源切れてる?」


 電源ボタンを押してみる。すると、再起動したように画面が動き出した。


「良かった~!誰かに連絡できるかもしれない。」


 すると、見たことがないタウンロード中という表示が現れる。不思議に思いながら起動が終わるまで待ってみる。

 圏外にはなっていないが、アンテナマークと時計は10:23としっかり表示されている。バッテリー残量には∞マークがついている。他の機能やアプリを確認していくと、地図・カメラ・写真・音楽再生アプリは、使えるようでそれ以外は反応しない。地図アプリ使えるなら、人がいる場所まで移動できるかもしれない。


 ここが安全とは言い切れないし、どんな猛獣に遭遇するとも限らない以上、長居は無用だ。

 足元のボストンバッグを肩にかけ、スマホを片手に私は歩き出したのだった。



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