高度情報技術社会における新たなマスコミ職業倫理について ~松本人志性加害疑惑報道を受けて
日本国内において、犯罪が成立し処罰される流れは大体以下のようなものです。
1.(政治家)法律が作られる
2.(警察)法律に基づいて捜査が行われ、違反者は逮捕、起訴される
3.(裁判所)警察が起訴した内容から有罪か無罪か、また量刑を判断され、その過程、内容、理由はある程度は一般に公開され、妥当な判決が下されているか、監視できるようになっている。また、被告人側からの反論も可能。
4.(刑事施設)裁判所が決定した量刑に基づいて、刑が執行される
※“()”は、役割を担当する機関や職業を表しています。
これを見れば明らかなように、罪を犯した者を裁く“力”は、様々な機関に分散されています。更に各機関で権力が暴走しないように様々な制限が設けられてもいます。
民主主義や法治主義が未発達だった頃は、権力が一部に集中し、制限も設けられてはいませんでした。結果として権力者の横暴を許してしまっていたので、経済はあまり成長しませんでした。努力してビジネスで成功しても、その成功を権力者に奪われてしまうような社会では、人はあまり努力をしようとはしないので、経済成長が起こらないのです(参考文献『「経済成長」の起源 マーク・コヤマ、ジャレド・ルービン 草思社』96ページ辺りから)。また、権力が集中している社会では、戦争や紛争も起こり易くなる傾向にあるようです(参考文献『戦争と交渉の経済学 クリストファー・ブラットマン 草思社』290ページ辺り)。
つまり、権力の分散化やその制限は、豊かで平和な社会を醸成する上でとても重要なのですね。だからこそ、先進諸国はそのように社会発展して来ているのです。
――がしかし、問題を起こした者への制裁は常に法に基づいて行われるとは限りません。いわゆる“社会的制裁”と言われている類の制裁ではこのような過程を経ません。そしてマスコミと総称される機関には、この社会的制裁を誘発する能力があります。
例えば、雑誌社が誰かのスキャンダルを報道すれば、それによって社会的制裁が加えられる事になります。そして、この雑誌社による“社会的制裁の誘発”では、先に述べたような権力の分散もそれを制限する措置も執られてはいません。
分かり切ってはいますが、一応、それを先と同じ様に記述すると以下のようになります。
1.(雑誌社)独自のルールが内々で作られる
2.(雑誌社)独自のルールに基づいて秘密裏に調査が行われる
3.(雑誌社)調査内容に基づき、独自の判断が密室で行われて記事が作成され、ターゲットにされた者は社会的制裁を受ける。当然、ターゲットにされた人間からの反論が記事に反映されるとは限らない
或いは“独自のルールが作られる”という過程に違和感を抱いた人もいるかもしれませんが、このような過程を入れたのには理由がちゃんとあります。
2024年3月現在、松本人志さんに性加害スキャンダルが世間をにぎわせてます。週刊誌が彼の性加害疑惑を報道し、数多のネット上の記事や動画で話題にされ、そして、彼は活動停止にまで追い込まれてしまったのです。
ただ、その週刊誌の報道内容には疑問にすべき点が多々あり、容易に信じられるものではありませんでした。
世間の多くの人は、続報で何かしら客観的な証拠が出て来るものだと考えていたようなのですが、そのような事実は報道されず、そしてつい最近、週刊誌は「客観的証拠はない。法律上は恐らく無罪だが、独自のルールに基づいて罪があると判断して、スキャンダル記事を発表した」といったような意味合いの事を述べたのです。
つまり、少なくとも今回の松本人志さんのスキャンダルにおいては、「法律に違反したから糾弾した」という訳ではないようなのですね。流石に問題があると判断するべきでしょう。
もちろん、「法律が絶対だ」などと主張するつもりはありません。法律は完全ではありませんから。違法であっても、社会的に許容されるべき行動はあるでしょうし、合法であっても糾弾されるべき内容もあります。
――がしかし、ならば、少なくともその判断基準は明確化し、広く社会に向けて調査内容と共にその根拠を公開するべきでしょう。その上で社会的合意を得ようとしなければ、その判断が妥当であるかどうかを我々は判断する事ができません。週刊誌側の態度を疑問視せざるを得ないのです。
ダーティハリー症候群なんてものがありますが、本人達は正義を執行しているつもりで、それが単なる過度な暴力になってしまっている可能性がありますし、もっと酷く、スキャンダルが悪用されている可能性だってあるからです。
或いは、このような主張に対し、
「今更なんだ。週刊誌は今までずっとそうだったじゃないか」
という声もあるかもしれません。
ですが、今と昔では社会の状況が大きく変わってしまっています。かつては個人には情報を広く発信する事ができませんでした。それがインターネットの普及と伴に変わり、今では多くの人が情報を発信できるようになっています。そしてそれによって、“社会的制裁”の威力も信じられないレベルにまで上がってしまったのです。
一昔前なら「週刊誌の情報か。じゃ、嘘かもしれないな」で、スルーされていたかもしれない記事(今でもこうなるケースは少なくないです)が、現代では大きく取り扱われてしまうかもしれないのですね。
『大いなる力には大いなる責任が伴う』という格言がありますが、巨大過ぎる社会的制裁を誘発する能力を持つ週刊誌には、それなりの責任を持ってもらわなくては困ります。
その力の使い方によっては、世の中に好影響を与える事もできるし、悪影響を与えてしまうかもしれないからです。
これは飽くまで僕の個人的な想像に過ぎないのですが、週刊誌は始めはフィクションだと分かるように松本さんのスキャンダル記事を書いたのではないでしょうか?
「週刊誌がまた嘘っぽい話を記事にしている」
で、一時は騒がれても、数週間経てば忘れ去られ、大事にはならないと踏んでいたのじゃないかと思うのです。
吉本興業への報復の為の嫌がらせ(吉本興業は、この松本人志さんのスキャンダル記事の少し前、浜田雅功さんへの記事で法的措置を執ると週刊誌を脅していたのです)と小金稼ぎをする程度の目的だったと考えるのが妥当だと少なくとも僕は判断しています。
本気で読者を信じ込ませようとしているにしては記事にリアリティがなく、荒唐無稽で、矛盾点や明らかに取材不足だと分かる内容になっているからですね。つまり、洞察力がある人ならば、誰でも「おかしい」と思うような記事なんです。
以下に、その点を述べていきます。
■松本さんが「俺の子を産め」といったような非常識な発言をしたという話を、何の裏付けも取らずに記事にしている
記事の中で松本人志さんは、女性に対し、「俺の子を産め」といったようなセリフを言った事になっています。松本人志さんに限らず、このような発言をする男性は滅多にいないでしょう。ならば、この女性の証言の信憑性を上げる為には、松本さんがこのような発言をしそうな男性なのかどうか裏付け調査をしなくてはならない事になります。具体的には、普段から松本さんと親交のある人達に取材をし、彼が飲み会などでどういった発言をしているのか聞き取り調査をするべきなのです。それで卑猥な発言を松本さんがしていたという証言が取れたなら、そこで初めて「俺の子を産め」という発言に信憑性が出て来ます。
ところが、テレビやネット上の記事などで松本さんと親交のある人達は口をそろえて、「そんな発言を松本さんがしているのは聞いた事がない」と証言しているのです(少なくとも、僕が知っている限りでは一人もいません)。更に親交がない人も、「松本さんがパワハラやセクハラをやったという話は一度も聞いた事がない」といった発言をしています。
仮に裏付け調査をしていて、週刊誌にとって都合の良い話が得られたならそれを書くでしょう。ですから、記事の趣旨に合わない話しか採取できなかったか、或いは、そもそも取材自体がされていない可能性があります。
被害に遭ったと訴える女性にばかり取材をするのなら、それはダブルチェックにはなりますが、クロスチェックにはなりません。そして女性の話の信憑性を上げる為には、クロスチェックをする必要があるのです。プロの記者がこの程度の常識的な手法を知らないとは考え難いので、仮に取材をしなかったのだとすれば、この発言は記者の捏造である可能性も疑った方が良いでしょう。
■警察に刑事告訴、或いは刑事告発を頑なにしようとしない
仮に一連の松本人志さんに関する性加害疑惑の内容が事実であるのなら、刑事事件になります。刑事事件なのだから、当然、刑事告訴か刑事告発をするべきでしょう。性犯罪は近年になり、親告罪ではなくなりましたから、第三者による刑事告発が可能になっています。ですから、被害女性だけでなく、週刊誌にも警察に通報する事が可能なのです。
更に、被害女性は記事になっているだけで十人以上で、記事によると芸人達による性犯罪はシステム化しているそうなので、仮に本当にそのような犯罪が組織的に行われていたとするのなら、百人以上の規模の被害女性がいたとしても不思議ではありません。
が、それだけの途方もない数の被害女性がいるとされているにも拘わらず、誰一人警察に刑事告訴しようとしないのです。
非常に不可解だと言わざるを得ません。
最近になり、週刊誌は、
「客観的な証拠はなく、警察に告訴をしても立件できない(つまり、無罪になる)」
ので刑事告訴しないといったような事を述べているのですが、弁護士によると被害者の証言だけで有罪になる可能性は十分にあるのだそうです。実際に性加害の容疑で捕まった映画監督は、9年前の事件でちゃんと立件されています。仮に一連の報道が全て事実だったのならば、まず間違いなく松本さんは警察に捕まります。
また、仮に無罪になる可能性がかなり高いのだとしても、事実が記事の通りなら、刑事告訴しない理由にはなりません。刑事告訴や告発にはそれほどコストはかかりませんしリスクもないからです。
が、仮に記事の内容がほとんど嘘であったのなら、刑事告訴、告発しない理由ができてしまうのです。その場合、虚偽告訴罪になってしまうからですね。松本さん側が、「虚偽告訴をしている」と週刊誌や女性を訴えたなら、警察の捜査によって、嘘の記事である事が明るみになるかもしれません。
もし、そうなったら、週刊誌にとって非常にまずい事態になるのは言うまでもありません。
週刊誌がそれを恐れているのなら、刑事告発や告訴をしない点にも納得ができてしまえるのです。
以上の理由から、被害女性か週刊誌が松本さんを刑事告訴、告発しない限り、彼のスキャンダル記事は信頼するべきではないと僕は考えます。
もう一度繰り返しますが、記事の内容が虚偽でない限り、週刊誌が松本さんを刑事告発しない理由がないからです。
■報道以前には、誰もSNS等で性被害を発信していなかった
松本さんの性スキャンダルで、よくジャニーズ事務所の性加害事件が引き合いに出されます。
「ジャニーズ事務所の性加害事件は、近年になるまでまったく話題になっていなかった。松本さん性加害も似たような事件なのではないか?」
って感じですね。
ですが、ジャニーズ事務所の性加害については、1980年代には既に暴露本が出版されていて、騒がれる以前からSNS上でも話題になっていたんです。
ですが、松本さんの性スキャンダルではこのような話は出ていません。
現在はインターネット上で誰でもSNSで情報を発信できます。仮に女性達への性加害がシステム化されていたのならほぼ確実に誰かがSNSで発信しているはずです。ですが、報道以前には、誰もSNSでそのような性被害を訴えてはいなかったのです(少なくとも、そのような話はニュースにはなりませんでした)。箝口令を徹底させるのは至難の業で、組織内部ならまだ実例がありますが、不特定多数の一般女性達に対しどうすればそのような事が可能なのか、その手段すら僕には思い浮かびません。
「口止め料として3千円を女性達に渡した」
なんて記事もあったみたいですが、無理ですよ、3千円じゃ。
仮に被害に遭ったのなら、「他の人が被害に遭う前に警告しなくてはならない」と多くの被害女性は考えるでしょうから、恐らくは止められません(“他人を助ける”という発想がない人には想像できない話かもしれませんが)。
最も不可解なのは、一連の記事の中でも異質なマッサージ店の女性店員が松本さんから性加害を受けたという記事です。この記事では被害女性は警察に相談した事になっていて(刑事告訴はしなかったのですかね? 不思議ですが)、最後の手段として週刊誌を頼ったみたいな内容のようですが、週刊誌に頼らなくても今ならSNSで被害を発信できますし、顔を出されるのが嫌ならば、暴露系動画チャンネルを頼るという手段だってあります。
どうして週刊誌のみをわざわざ選ぶのでしょう?
もちろん、事件発生から期間がわずかしかなく、タイミング良く週刊誌が現れたとかいった事情なら納得できるのですが、事件の発生は十年程前となっているのです。この間にSNSや暴露系動画チャンネルを頼ろうとしない理由が思い付きません。
(因みに、この件、内容があまりに信じ難いものだったからでしょうが、他の件では中立の立場であった複数の芸能人が疑問を口にしていました)
そして、最近になって、反対に「スキャンダル記事は嘘だ」とする告発が、SNSや動画チャンネルで上がっています。
このうち、AV女優の方の証言は、「別の飲み会のもの」という指摘がされているようですが、動画チャンネル(こじらせ美女チャンネル)では恐らくは同じ類の飲み会に参加していたと思われる女性の「記事のような事実はなかった」というような証言が紹介されてあるんです。松本さんは人見知りで、大人しかった、とのこと。また、暴露系動画チャンネル(コレコレチャンネル)では、動画主さんが実際に「松本さんから性被害を受けた」とする女性と話をし、告白に矛盾点があると指摘しています。
もちろん、これら情報が間違っている可能性もあります。「スキャンダル記事は正しい」とする主張もありますからね(ただ、証拠があるように訴えている人達も、警察に通報したりはしていないようなので、信頼はしない方が良さそうですが)。
いずれにしろ、少なくとも週刊誌側の取材不足は言えるのではないかと思われます。もし仮に取材をしていたなら、SNSなどで“松本さんによる性被害”が発信されていなかった事も分かっているはずですし、「松本さんは人見知りだった」という証言もあると、その内容を紹介していなければおかしいですからね(記事にとって都合の良い情報のみを取捨選択した可能性もありますが、それはそれで問題があります)。
■性加害スキャンダルの時期が、いずれもかなり古い
第一弾の記事は、8年も前の出来事だそうですが、その後のスキャンダルについてもいずれも時期が古いです(最も直近のもので、2019年でしょうか?)。記憶に頼って書いてしまうので、間違っているかもしれませんが、15年前とか、20年前とか、記憶が曖昧になるに充分な時が経過しています。
時期が古いことにすれば、「時効だから、刑事告訴できない」という言い訳にできますし(2019年のスキャンダルは、性加害事件としては報道されていなかったはず)、そもそも嘘をつくのなら、古い事にしたほうがバレ難いです。
(因みに、20年前の話、という記事を読んでみたのですが、何故かその女性は20年も前の飲み会なのに事細かに内容を覚えていました。もし、本当に覚えているのだとすれば物凄い記憶力ですね)
仮に僕が「昨日、アンミカさんに殴られた」と嘘をついても直ぐにバレるでしょうが、「10年前に飲み屋でアンミカさんに殴られた。ベロベロに酔っぱらっていたので、本人は覚えていないかも」などと嘘をついたら、簡単には嘘だと証明できません。
■客観的証拠がなく、「警察は立件しない」と判断しているにも拘らず、その事を記事に書かなかった
前述しましたが、週刊誌は松本さんのスキャンダル記事について「客観的証拠はない」と認めています。そして、だからこそ「警察は立件しない」と、つまり、“松本さんは無罪になる”と考えているのだそうです。
ならば、その点を明確に記事に書くべきでしょう。もし第一弾の記事に書いていれば、随分と松本さんやその他の芸人へのダメージも少なくなっていたはずです。
これは週刊誌自らが、公平性のない偏向記事である事を認めたようなものです。当然、他にも週刊誌にとって不都合な事実を隠している可能性があります。
(一応書いておくと、“疑わしい記事”の見分け方の一つに、偏向しているかどうか、があります。記事にとって都合の良い情報のみを取り上げ、それ以外は隠してしまうという印象操作を行っているかもしれないからです)
■「3年あまり取材した」と主張しているが、その場合、常習的な性犯罪者を長期間放置してしまった事になる
週刊誌は「被害女性に対して3年あまり取材をした」と主張しています。この話が事実だとするのなら、週刊誌は“松本さんを常習的な性犯罪者”と考えていながら、3年間も野放しにしてしまった事になります。普通ならば、被害者を増やさないように早急に何かしら手を打つはずです。
警察に相談しても良いですし、「確定の情報ではないが、犯罪予防の観点から、取材が不十分な状態で記事にした」と断った上で発表しても良いでしょう。
因みに犯罪の事実を知りながら、それを警察に通報しない事は、一般的に不道徳だとされています。例えば、日本では罪になりませんが、アメリカでは犯罪を知りながら警察に通報しない事は罪になります。
週刊誌報道の被害に今まで何度も遭ったという芸能人のGACKTさんは、「週刊誌にモラルはない」と語っているので、週刊誌が「いくら被害女性が出ても構わない」と考えて放置した可能性もありますが、それよりは、「3年あまり取材した」という主張か、そもそも記事自体が嘘である可能性の方が高いように思います。
嘘を誤魔化す為に嘘をつくと、どんどん整合性が取れなくなっていくものですが、そんな状態に陥っているように思えてしまいますね。
■“金目的じゃない”と主張しているが……
週刊誌は「金目的じゃなく」「社会の為だ」と松本さんのスキャンダル記事を報道した理由を述べています。が、記事の一部は課金になっているようですし、「売上を慈善団体に寄付する」といった事もしていません。
もし本当に“社会の為”なら、より広く読ませなければなりませんから、全て無料で記事は公開するべきです。
些末な点かもしれませんが、週刊誌が平気で嘘をつく実例ではあるでしょう。
■記事発表のタイミングに悪意を感じる
内容以前の問題として、そもそも記事が出たタイミングからしておかしいんです。
松本人志さんのスキャンダル記事が発表されたのは、これから年末年始を迎えるというタイミングでした、年末年始はお笑い芸人の繁忙期で、当然、松本人志さんも多くのテレビ番組に出演されています(もちろん、録画ですが)。当然ながら、テレビ局は急遽対応を迫られたでしょうし、このスキャンダルは、関係各社、スポンサーにも多大な迷惑をかけてしまっています。
スキャンダルとは関係のない何の罪もない人達も巻き込んでしまいますから、普通はこのような時期に記事を出すのは控えるでしょう。でも、週刊誌は出してしまったのです。
恐らく、週刊誌としては、
「吉本興業の所為で、あなた達はこんなにも大迷惑を被っているのですよ」
という筋書きにしたかったのではないかと思うのですが、このような卑劣な手段を執る時点で記事の内容の信憑性は疑うべきだと思います。
■事実と異なる記事を発表し、何度も裁判で敗けているにも拘わらず、原因究明や改善策の実施をしていない
以前からよく言われている話ですが、週刊誌は時折デタラメな記事を書きます。そして、裁判になれば当然敗けるケースもあります(中には、デタラメだと判明したにも拘らず、週刊誌側にお咎めなしといった理不尽に思える事例もあるようです)。
つまり、不祥事です。
一般企業の場合、そういった不祥事が起こったのなら、利害関係にない第三者機関を立ち上げて、原因究明や再発防止策の実施などを行います。ですが、週刊誌の場合は、裁判で敗けてもこのような措置を執ろうとはしないようです。
松本人志さんのスキャンダルが報じられてから、週刊誌の記事が事実無根だった事例が数多く紹介されるようになりました。ホリエモンさん、橋下徹さん、東国原英夫さんなどなど。いずれも裁判で勝訴し、記事自体がまったくの捏造だったケースすらあったと証言しています。ですが、週刊誌が再発防止を執ったという話は聞きません。だからこそ週刊誌は何度でもデタラメ記事を書き、そして敗訴もしているのでしょうから、これは自明ですね。
実質的に、これは「何度でも嘘を書きます」と宣言しているのと同じです。
週刊誌がこのような態度だからこそ、「松本人志さんのスキャンダル記事も信じられない」という人は多いのではないでしょうか?
恐らくは、このような何度民事裁判で敗訴しても反省しない週刊誌の態度もあるからだと思うのですが、タレントのデヴィ夫人が自身の記事に対し「週刊誌の記事は事実無根」とし、刑事告訴しました。つまり、警察に訴えたのです。
この件に関しては、それほど詳しくないのでどの程度の妥当性があるのかは僕には分かりませんが、少なくとも告訴したからにはある程度の自信があるのでしょう(明らかに刑事事件という内容を記事にしながら、頑なに刑事告発や告訴をしない週刊誌よりは遥かに信頼できます)。
これで週刊誌の罪が認められれば、或いは何らかの変化が週刊誌側にも生じるかもしれません。
さて。
“職業倫理”というものをご存知でしょうか?
これは特定の職業に要請される倫理の事を言います。当然ながらマスコミの職業倫理もある訳ですが、マスコミに限らず、これは変遷していきます。ですから、情報技術が進歩し、それが社会に普及している昨今は、かつてとは異なった職業倫理が求められる事になります。
ですが、その進歩の速度があまりに速ければ、職業倫理の醸成が追い付かないという事態は充分に考えられるでしょう。そしてその所為で、週刊誌の記事の作成に携わる人達の多くは、現代に相応しいマスコミの職業倫理を身に付けていないのではないでしょうか?
何度も書いていますが、週刊誌の流した情報を多くの動画チャンネルや個人などが取り上げる事で反響し、以前ならばスルーされているような記事が世間で大きく取り上げられるようになっています。現代でも、あまりに嘘っぽい内容は大して騒がれませんが(一連の松本人志さんのスキャンダルでもあまり騒がれてない記事はあります。例えば、マッサージ店の店員に対する性加害の記事などは、もし本当だったら他の記事よりも遥かにインパクトがありそうですが、リアリティがないからか、ほとんどスルーされています)、時には週刊誌の予想を超えた影響力を持ってしまうのです。
そして、世間ではデマが原因で殺人事件も起こっていますし、またそうでなくても、デマを信じて長期間に渡り特定の人物を粘着的に攻撃し続けるという事件も起こっています(“スマイリーキクチ デマ”で、検索をすると顕著な例がヒットします)。
それを踏まえた上で、週刊誌は記事を作成しなければいけないはずですが、恐らくはそれを理解していないように思えます。
『現代では、週刊誌が大きな権力を持ってしまっている』
という主張を、どうも週刊誌側は理解できていないようなのですね。
この点は、記事の内容にも現れています。SNSや動画サイトを利用すれば、個人でも情報を発信できる時代であるにも拘らず、まるでその事を知らないかのような記事を書いているのです。
また、似たような話を書きますが、
松本人志さんのような有名人が性加害行為を常習的に長期間行っていたなら、ほぼ確実にSNSや動画サイトにその情報は洩れ、週刊誌が記事にする前にとっくに話題になっているでしょう。いえ、仮に話題になっていなくても、過去に誰かが被害を訴えた情報が発掘されるはずです。
記事によれば、被害者当人以外にもお笑い芸人達の犯行を知っている女性が何人もいる事になっているので、彼らの性加害を知った女性が精神的なショックから被害を口にできないという線も考え難いでしょう。精神的ショックを受けていない人もいるのですから。
週刊誌でデタラメ記事を書いている人達には想像もできない心理なのかもしれませんが、自分やその仲間が被害に遭ったのなら、他に被害が出ないように「気を付けて」と訴える優しい女性は少なくないはずです。
まだお笑い芸人の人達が、口封じの為に女性達を脅迫をしていたといった話があるのなら納得もできるのですが、そんな話も聞きません。隠蔽工作が成功をしている事例はありますが、そういった事例は閉鎖的な社会である場合がほとんどです。企業内部の犯罪や、学校でのいじめが明るみになり難いのは、それが“閉ざされた社会”だからです。今回のスキャンダルのような、一般女性に箝口令を強制するのはほぼ不可能です。
週刊誌はこれを理解してないのではないでしょうか?
そして、未だに情報を発信できるのは自分達マスコミだけのように錯覚して記事を書いてしまう。だから、SNSや動画などで個人が自分達の記事への反論をするなど想像もしていなかったのではないでしょうか?
“疑わしきは罰せず”という刑事裁判における原則があります(詳しくは、『“疑わしきは罰せず”が通じない社会 ~松本人志性加害疑惑から考える“力を持ち過ぎている雑誌”の危うさと解決案』を参照してください)。
これからの時代は、マスコミも、この原則に準拠し仮に記事として取り上げるべき事件だと判断しても、断定せず、また公平に双方の側からの意見を述べるべきでしょう。
被害者女性の訴えだけに耳を傾けるのではなく、反対意見も載せ、どの程度の事実性があるのかを詳述するといった公平な姿勢を見せるのであれば、今回の事件だって週刊誌がここまで批判される事はなかったはずです。
“遺伝的アルゴリズム”という考え方があります。これは生物の進化、適者生存の法則を思考方法として応用したものです。
この考えに則るのなら、こういった今の時代に相応しくないマスコミを批判していけば、やがては相応しい職業倫理を持ったマスコミが生き残っていく事になります。
恐らく、僕ら個人がするべきなのは、その為にマスコミの報道姿勢を批判する事ではないかと思います。
蛇足ですが、小説投稿サイトの類も今の時代に相応しい職業倫理を持ち合わせてはいません。
いくらなんでも著作権侵害を無視し過ぎでしょう…… 著作権侵害は親告罪なので、大きな問題にはなっていませんが、本来なら行政指導が入ってもおかしくないレベルに著作権法が意味をなくしています。
少しくらいは反省をして、何らかの対策を執って欲しいですね。
・小沢さん主催の松本さんも同席した飲み会に参加した女性のコメントを紹介した動画
https://www.youtube.com/watch?v=ddVjWIclipo
・松本さんから性被害を受けたとする女性の告白の矛盾点を指摘した動画
https://www.youtube.com/watch?v=5VWwMWm-xgw