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ニキビ

作者: 西順

「あ、思われニキビ」


 隣の席の内田さんが、「おはよう」もなく朝一でそう声を掛けてきた。内田さんはショートカットの快活な女子で、僕は密かに想いを寄せていた。


「何それ?」


 僕はニキビが出来ているアゴが恥ずかしくて、手でアゴを隠しながら尋ねた。


「ニキビの出来る場所で分かる、恋愛のジンクスがあるんだよ」


 占いみたいなものかな?


「アゴにニキビが出来ているって事は、きっと千葉くんの事を好きな子がいるんだよ」


 にやにやと僕の顔を覗き込む内田さん。「何だそれ?」とは思いながらも、自分の事を好きな女子がいるかも知れないと思うと、僕の顔も自然とにやけてしまう。


「満更でもない感じ?」


「う、うるさいなあ」


 と顔を背けながらも、視線だけは内田さんから外さない。


「あれ? 内田さんもおでこにニキビが……」


 僕がそれを指摘した瞬間、内田さんは手で額を抑えて顔を真っ赤にした。


「な、何でもないよ、これはただのニキビだから。恥ずかしいなあ。あははっ」


 明らかに動揺している。こう言う嘘が吐けない所も可愛くて好きなんだよねえ。


 恥ずかしそうに顔を手で仰ぎながら、内田さんは朝のホームルームが始まるからと席に座った。


 その日一日僕の頭の中は、内田さんのニキビの事でいっぱいだったけど、学校ではスマホの使用が禁止されているから調べようもなかった。なので、帰りのホームルームが終わってすぐに僕は家へと帰ると、スマホでニキビに関して検索したのだ。


 結果はすぐに判明した。アゴの思われニキビに対して、額のニキビは思いニキビ。誰か好きな人がいる証であるらしい。


 内田さんに好きな人がいる。それってもしかして、僕なんじゃないか? だからこそ内田さんは僕のニキビにいち早く気付いて、指摘したんだ。そんな気がして僕は、その日は夜遅くまで寝付けず色々考え込んでいた。


 もしそうなら、内田さんの方から告白してくるかも知れない。だって僕の事が好きなんだから。いや、ここは男らしく僕の方から告白した方が格好良いんじゃないか? 株が上がるかも知れない。色んな事を考えているうちに、いつの間にやら眠っていた。


 翌朝、洗面台の鏡を見れば、僕の額にも思いニキビがあるではないか。これはきっと神様も内田さんに告白しなさいと言いたいんだ。そう思いながら学校へ行く。


「おはよう!」


 今日は僕より早く登校していた内田さんは、アゴを隠しながら、「おはよう」とモゴモゴ返してきたのだ。あの感じきっとアゴに思われニキビが出来ているに違いない。やっぱり僕と内田さんは両思いだったんだ。


 告白はいつにするか。DMかな? 古風に手紙とか? やっぱり直接言った方が良いのかな? その日の僕も気がそぞろで、良く先生に怒られた。僕をこんなにさせるなんて、内田さんは罪深い。


 翌日の放課後、上手い具合に教室で内田さんと二人きりになったのをチャンスと捉えた僕は、思い切って気持ちを告白する事にした。結果は分かっていたしね。


「あ、あの、内田さん、前からシュキでしてた! つつつ、付き合ってください!」


「え? ごめん。私、千葉くんの事を恋愛対象として見た事無いから」


 嘘だろ!?


「私、これから用事があるの。じゃあね!」


 内田さんはその場にいるのが気不味くなったのか、走って帰って行ってしまった。はあ。占いやジンクスなんて、結局こんなものだよな。そうやって気持ちを切り替えようと思いながらも、胸が痛むのを抑える事が出来ずに、僕はとぼとぼと家路についたのだ。


 翌朝。どんな顔をして内田さんと顔を合わせれば良いのか分からないと思いながらも、僕は親に叩き起こされ、洗面台に向かう。すると僕の顔の眉間にまたニキビが出来ていた。ニキビ占いの事を思い出す。確か眉間のニキビは失恋の予兆だったはずだ。もう失恋しているけどね。


 足取り重く学校に行くと、少し遅れて内田さんが登校してきた。


「おはよう」


「おはよう」


 挨拶をしないと言うのも変かと思って声を掛ければ、内田さんも暗い声で返事をしてくれた。いや、暗すぎる。内田さんは席に着くなり机に向かって顔を伏せてしまったのだ。振った相手の顔をそんなに見たくないのだろうか? いや、僕が好きになった内田さんはそんな人じゃない。


「どうかしたの? 体調悪いなら、保健室行く?」


「ううん、大丈夫。ありがとう、気にかけてくれて」


 そう言ってこちらに顔を向けてくれた内田さんを見て、僕は理由を察してしまった。内田さんの眉間にも、ニキビがあったからだ。


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