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彼の岸の君へ

作者: ユコマ

人間というのはなんて儚くなんて寂しい生き物なのだろう。

 僕は双子の弟を亡くしたがそのときの霊安室で見たときの顔が脳裏を過って仕方ない。


最近親戚や親族の方が亡くなり葬式に出ることが多くなったが、何度も何度も弟の顔が出てきてはそのときの悲しみと重なる。


その日、弟はバイトの初出勤だった。今朝起きたとき体調が悪かった。体がとても重い、起きた頃には弟は準備を済ませバイト先へ向かうところだった。僕は「おは、いってらっしゃ~い」と何気なく一言弟へ掛けた。

 弟が家を出てから数時間後、お昼を過ぎた頃だった。バイト先から電話が掛かってきた。弟がお店に来ていないと言うのだった。胸騒ぎがした。動けなくなるぐらいに。母と父は急いでテレビを付けた。するとテレビには電車の事故が起きたという報道がされていた。僕は携帯のSNSで事故の事を調べた。するとホームから男性が落下し死亡。電車が遅延していると出てきた。頭が真っ白になった。

え?あいつバイト行ったよね。弟じゃないよね?

数時間後JRから電話が掛かってきた。身元が確認出来るものが出てきたので確認して欲しいと。母は急いで駅へ向かった。

帰ってきた母は嗚咽していた。こんな母はいつぶりだろうか。

「……かもしれない……弟かも…しれない。弟の物だったよあれ!」

警察に着き霊安室に連れて行かれた。警察から「遺体の状態が酷いのであまり見ないほうが」と言われた。そのため妹だけ部屋には入れずに両親と僕だけ部屋に入った。


 入った途端一瞬体の力が全て抜けた。自分の一部が無くなったみたいに。今日一日背負っていた体の重さ、胸騒ぎの理由がわかった。


 そこに横になっていたのはボロボロの弟だった。

電車に轢かれた弟。体、顔とてもは見られるような姿ではなかった。事故をSNSを見ると事件のコメントに「自殺なら他でやってくれ。」、「電車遅延て、勘弁してや」、「またか、、、」等とコメントがされていた。心無い言葉は僕の心をズタボロにした。ネットの普及したこの時代、好き勝手にコメントを書いている人達は沢山いるがこの時程のネットの世の中を恨んだことはないだろう。


警察から家に帰るまでの車の中は今にも潰されそうなほど空気が、重く母も父も今までに見たことない位に大粒の涙をボロボロ溢していた。帰って来て翌日には葬式の話が進んだ。僕と父は棺桶に入った弟を前に話をした。「大人になっお前らとお酒を飲むはずだったのにな」哀しい晩酌の肴は弟の話だった。父は「あいつは馬鹿だ、幸せだったのだろうか、親より先に逝くなよ」と泣きながら僕と弟に話をした。

 度々、家族で会話を弾ませている中で、「夢枕」の話が出た。「夢に出てくるかな?」、「俺は彼女のとこに行くわ」、「女湯覗きに行こうかな笑」とか他愛もない会話をした。その夜僕はそんな会話をした事を思い出し願いながら浅い眠りについた。


 翌朝から淡々と葬式の準備が始まった。窓からの朝日を浴びて静かに光る棺桶、こういう時に限ってなんて綺麗な青空なのだろうか。

霊柩車に乗せられ弟を囲むように僕と写真を持った母、仮の位牌を持った妹、父は祖父と祖母を送るため僕らの後ろを付いて車を走らせた。

 妹も頑張って我慢しているのだろう泣く母の背中をさすり続けて悲しいのを堪らえていた。

葬儀場に着いてからの準備はとても早かった。

弟の写真を囲むように大量の花束が飾られお供物の段には弟の好きだったアニメのフィギュアを数体かざせてもらいとても華やかだった。

 葬儀には僕の中学のクラスメイトと高校のクラスメイトと先生が来てくれた。前日の夜にタイムラインで連絡先を知っている人たちに知らせはしたのだが、まさかこんなに来てくれるものだとは思わなかった。中には弟と関わり合いの無い人もいたのに、、。こんなに嬉しい事は無い。


 僕ら遺族は葬儀場の入口に並び参列者に礼をして迎えた。みんな礼をしてくれたり手を握ってくれたりしてくれた。僕は泣けなかった。親が泣いているから、みんなの前で泣いてはいけないと思ったから。先生達は手を握ってくれたり優しく抱きしめてくれたり。僕の着ている学ランのボタンを直してくれたり「しっかりな!」「負けるなよ」

単純で簡単な一言二言だったが、なんと心に染みるものだろう。


 人の流れが落ち着いてから僕はクラスメイトと合流をした。みんなの顔が見たかった。少し安心したかったのだ。

来た人の中には弟の彼女もいた。弟の写真の前で大粒の涙を流してワンワンと泣いていた。僕は彼女が嫌いだった。色々といざこざが合って長い間避けていた。しかしその時だけは、静かに彼女の隣に立った。深い意味はない。こんな時に喧嘩の理由を持ち出すのは駄目だと思った、女の子のなく顔は見たくなかったから。

 「おい。テメェの彼女泣かすなよ、馬鹿。」

心の中で弟へ言葉を放った。

式が始まった。親族の挨拶。父と母は参列者の前に立ち話をする予定でいたが、代わりに式場スタッフが挨拶の手紙を読み上げた。スタッフが手紙を読み上げている間父と母は僕や妹以上に泣いていた。涙や鼻水で顔がグシャグシャだった。こんな親の顔は見たことがない。母は立っているのがやっとな位だ。スタッフの読む手紙は落ち着いた声でゆっくりと読み上げられた。涙を誘うように静かに。両親の話を元に書かれた手紙で弟の事を何も知らないはずの人が読んでいるはずなのに僕の眼から静かに涙が一滴頬を伝った。

その時の気持ちはなんと言えばいいのだろうか。悲しみは勿論あるが、他にみんなを悲しませた怒り、皆お前のために集まってくれたよというような嬉しい気持ちが入り混じった感じで、自分が今どんな顔をしているかわからなかった。

お焼香をあげる参列者の中に1人ニコッと口角が上へ上がっているやつがいた。中学からの僕の親友だ。こいつが悲しんでいるのはわかっていた。こんな場所で好きで笑っているわけではない。元々こういう顔のやつなんだ。僕は中学の時転校しその時のクラスにいたのが、この親友だ。クラスの皆から紹介されたとき「こいつはずっと笑ってるぞ!」と言われた。それから本当にずっとニコッと優しく笑っている顔なのだ。困っている時も起こっている時も体調が悪いときも、終いには卒業アルバムの写真で「どうしよう。ねぇ真顔ってどうやるの?」と聞く始末だ。その瞬間笑ってしまって僕は何回か写真を取り直した。こいつの笑顔で今僕は気持ちが、楽になった。こいつと友達になれて良かったなと長い付き合いで強く感じた。

 葬式では大勢の人達が悲しむ。親族としても死者を思って悲しんでくれるのは心底ありがたいが、もし僕が死んだとしたら僕はこのみんなが泣いている現状はとても悲しい。みんなには笑って送ってもらいたいと思った。みんなを悲しませてた弟は許せなかった。それだけは心底弟を恨む。

 まぁこんだけグチグチ言っても意味ない。喧嘩するやつがいないから。

 葬式は無事に何事もなく終わった。みんなに見送られた弟は火葬場へと向かっていった。火葬場の焼ける匂い、重たい空気、晴れている青空が僕にはどんよりとした灰色に見えた。目に映る全ての景色が灰色になったみたいだった。

 待ち時間部屋の中は重たく鉛がズーンと自分の上に乗っているみたいだ。

遺体が焼き終わりスタッフに呼ばれ弟の元へと向かった。

弟の元へと向かったている途中ハンカチを手にフラフラと歩く母を支えながら僕は何を思っていたのだろうか。ふと言葉が出た。「あいつ一足先に修学旅行行ったんだよ。楽しくやってるよ。きっと」今振り返ってみると何言ってるんだろうと思う。

弟のところについて弟を見て僕は呆然とした。僕より背の高かった弟はとても小さくなっていた。小さな骨壷を見て、おかしいな。今まで弟に身長で勝ったことないのにな。勝っちゃったよ。

 「どうだい?弟。悔しいでしょ?何も言えないだろ。死人に口なしだよ。」

弟に話しかけた。

全ての工程が無事終わり親戚達は家に帰っていった。

皆が帰ったのを確認し僕らも家へと向かった。

家へと向かう車の中はいつも五月蝿すぎる程の音楽がかかっていたが、音楽は流れておらずシーンとして誰も言葉を発さなかった。

 車の中の人数は父と母、僕に弟と妹。祖父に祖母と人数は変わってはいないが、車の中のシートは一人分空いている。

弟は母の腕に抱えられている。

それから数日経って家の和室には仏壇が置かれ弟の好きだったものやお菓子が沢山置かれるようになった。バイト先にも顔を出すと、バイト先の副店長が、弟が働いた分のお金とエプロンをもらった。

母は何処から貰ったのかわからないが、全身マネキンを和室に置き丁寧にバイト先の服に着替えさせた。

弟が働き始めたらバイト先へ冷やかしに行こうと思っていたのにな。それから大きなコルクボードに弟の写真が飾られて

た。

 冬休みが終わり学校に登校した。教室に入ると弟の机には花瓶が置かれていた。

その日クラスメイトの中に数名「自殺したんでしょ?」と僕の方を見てゲラゲラと笑っている奴らがいた。葬式には来なかったクラスで調子をこいて意気がっている連中だ。

僕の方を向いてわざと聴こえるように大声で喋っていた。

自分は余り怒るような人間ではなかったがこの時だけは、自分でも驚くほど怒りが腹の底から湧いてきた。殴り飛ばしたかった。殴り飛ばして窓の外に放り出してやりたかった。

 「弟は自殺じゃない!お前も上から落ちて死んでみるか!おめぇも弟と同じように死んでみろ!」と。

 しかし出来なかった。就職もかかっていたし両親に幼い頃から「手を出したら負けだ」「手は出すな」と言われて育ったから自分にずっと言い聞かせた。強く我慢し握りしめた拳は爪が食い込み血だらけだった。僕の友達は気晴らしにゲームをしたり話しかけてくれたりした。卒業まで我慢できたことは凄いが、この時のことだけは僕は後悔している。思いっきり殴っとけば良かったな。

 月日は流れ母や父は調子を戻し今までの楽しい家族に戻りだした。

それから2年後僕は就職のため実家を離れた。

 お盆やお正月には実家に帰省し皆で楽しくご飯を食べたり

お墓参りをしたりした。お盆休みのお墓参りは先祖に挨拶しに行くのは大切だが、そのお墓には弟は居ない。

弟は今もずっと家にいる。いつ弟がお墓に入るかはわからないが、それまで家族みんなでお酒を飲む。

最初は悲しく父だけお酒を飲んでいたが、今は違う。

僕や妹も成人しみんなで楽しくお酒を盃を酌み交わしている。お休みの期間が終わり家へ帰る前の晩、僕は仏壇の前に、弟の前に座り

 「まだそっちには行かないけどいつかみーんな死んで家族揃ったらご飯食べてお酒飲もうね」

言葉をかけ線香を立てて家を出た。


弟は今もあの家にいる。


















SNSが普及した時代。

何が話題になるかどんなことでバッシングを受けるか分かりません。コメントする、意見するのは人の自由ですが、人を傷つけるような言葉を軽々と言うものではありません。どんなことがあっても人の死を笑うものではありません。読んで頂いた方達にはこれだけは守って、分かって頂けたら幸いです。SNSに限らず世の中が優しい言葉で溢れたらいいなという願いと経験をしたお話でした。

ありがとうございました。

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