7 転移魔法を習うよ
「おはよー、ニコ」
「あ、ロイ兄さん、おはよう」
約束の6日後。朝食の席につくと既にロイがいた。約束通り転移魔法を教えてくれるようだ。ありがたし。
ロイは父の弟、オレの叔父である。父は先妻との子、ロイは後妻との子で末子のため歳も離れている。そのためロイはオレ達兄弟と一緒に育ってきていて、グレンツにある屋敷にも部屋が残っている。寮に置ききれない魔道具とか本とか服とか色々と置いてあるようだ。
長寿アニメのカツ○とタ○ちゃんのような関係だ。
朝食を食べながらロイと打ち合わせる。今日の朝食はスクランブルエッグにハーブ入りのソーセージ、温野菜サラダがワンプレートに乗っている。コーンスープとフルーツヨーグルトがついてフォルトナー家の定番な朝食だ。パンは焼き立てのクロワッサンやロールパン、バゲットなどが大皿に乗っていて、食べられるだけ自分で皿から取って食べる。素材が良く、高級ホテルの朝食といった感じで美味しい。
「やっぱりここの食事は美味しいねぇ。騎士団の食堂もまずくはないんだけどさ、なんか違うんだよね」
「そりゃ素材も手間隙も違うだろうしね」
ロイがもりもりと朝食を平らげていく。オレの倍は食べてるぞ。細いのによく入るな。
今日は家の中で練習できる魔法らしい。朝からロイが来てくれたので朝食後に家のホールでやることにした。ダンスの練習をしたり、小規模なパーティーとかもできる大広間だ。さすが貴族。
そんなわけで転移魔法を教わるよ!
「転移魔法は闇と時の属性を使う。時空を越えて移動する魔法だね。便利だけどなかなか癖のある魔法で、覚えるのに時間が掛かるよ」
ロイの説明にオレは頷く。
「注意点だけど、転移では行ったことのある場所にしか行けないよ。あと、術者しか転移しない」
ふむふむ。確かにルー◯も行ったことのない街へは飛べなかったな。でも、自分しか転移できないのは残念だ。そっちは大抵のゲームでできるしな。
「自分以外の人を転移させることはできないの?」
「んー…できなくもないけど、やろうとするのは現実的ではないってところだね」
「できるの?」
「転移の魔法陣を使えば一応できる」
「転移の魔法陣?」
おっと、魔法陣出てきたよ。ファンタジーっぽいね!
ちなみにアステーラでは、属性の魔力を使う通常の魔法と、魔法陣を使う魔法は全く違うものとして扱われる。魔法陣を使う方が技術職で魔術っぽい感じ?魔法使いの資格がなくても魔法陣を描くことはできる。描く手間があるので即座に攻撃、とかには向かないけど、継続して魔法を使うことができるので魔道具に使われている。
「いくつか問題があって……。まず発動と維持に莫大な魔力を使う。どれくらいかっていうと、一度発動させるだけで魔法使いと呼ばれる人達が20人ほど必要なくらいだ。有事の際に一度だけ使われた記録があるよ。乗ったのは王と近衛騎士だね」
「へぇー」
「やり方はまず、起点と転移先と両方を繋げる魔法陣を描く。転移先にも描かないといけないから、そこに行ったことがある人が転移で飛んで、描くことになるね」
「なるほど」
そこからしてハードルが高いな。
「転移魔法陣は複雑で、人が通るから大きさもあるし描くのに時間が掛かる。魔法陣が描けたら両側から皆で魔力を籠めて…、準備に大体1日掛かり。まぁ、馬車よりは速いけど、魔法使い自体が希少だから、そんな魔力の無駄遣いするくらいなら別のことに使うよね」
確かにそうだな。
「例えばグレンツから王都まで、いつでも転移の魔法陣が使えれば便利だけど、そうするには常時20人、交代要員も入れるとその倍の魔法使いを時間で入替えして転移陣の前で待機させて置かなければならない。現実的ではないのでやってないって訳だね」
「ふーん…」
なかなか難しいな。魔法も便利なようで文明が発展するのを妨げてる気がする。
「ま、そんなわけで転移魔法に戻るけど、転移とは時空間を捉えてその中を移動する魔法だよ。時空間はどこにでも存在していて、そこを通ることで一瞬で目的地へ着ける」
うーん、改めて聞いてみても、夢のような魔法だね。
ぜひ覚えたい!
「まず、転移をする時は行き先を明確にする必要がある。人が急に現れる訳だから、そこに人がいたり物があったりすると怪我するからね」
「確かに」
そこまで考えてなかった。確かに人の上に落ちたら大変だ。事故になる。
「具体的には家の中なら自室、街に入る門の前やギルドの裏庭には転移用に区切られたスペースがあるから、そこがいいと思う」
なるほど。ルー○も街の手前に飛んでたしな。
「あと、自分しか転移できないって言ったけど、身に付けてるものは一緒に転移するよ。手に持ってるものとか…背負ってるリュックサックとかは大丈夫。もちろん中身も」
「一応荷物も運べるんだね」
「そう。試しに猫を抱いて転移したら猫も転移できたよ。その分多めに魔力使うけどね」
「おお、小さければ生き物も可か…」
結構便利だな。人も抱えればいけるんだろうか?
「まずは、時空間を捉えること。時空間はどこにでも存在しているから、どこへでも繋ぐことができる」
喋っていたロイが消えたと思ったら、オレの後ろから肩を叩かれた。
「ひぇっ」
驚いて思わず変な声が出てしまった。
「ま、こんな感じ。近場の移動もできるから戦闘とかでも有効だよ。けっこう魔力使うから頻繁には使えないけどね」
「おお…」
確かに、突然後ろからブスリ、とかできそうだ。自分がやられることを考えると恐ろしいけど。
「僕は空間をすり抜けるイメージにしてる。すり抜けて、一気にその場所へ辿り着く感じかな。あ、ちなみに距離が遠いほど魔力食うからね」
うーん、やっぱり転移のイメージはルー○なんだよな。
周りにあるだろう時空間を意識する。まずは見える位置。この部屋の中央へ。空間から空間へ飛ぶ。
よし、ルー○!
オレの体はふわっと浮き上がり…。
「痛ってぇ~!!」
天井に頭をぶつけた。
「えぇ……どうしたらそうなるの!?」
ロイが理解不能だと叫んだ。
いや、ルー◯のイメージってひゅんって上に飛び上がる感じだから…。建物の中でかけると天井に頭ぶつけるイメージだから。…あ、室内ダメじゃん。
気を取り直して……よし!どこでも◯アにしよう。
飛ぶんじゃなくて、空間、を繋げる。ドアを開けたら行きたい場所に繋がっている。
右手でノブを持って押すイメージ。開けたら繋がる!
「出来た!」
次の瞬間、オレは部屋の中央へ移動していた。
「なにそのポーズ?」
「…ドア?」
右手が不自然に突き出ていた。ちょっと恥ずかしい。
「さすがニコ。非常識。こんなに早く転移を習得できる人はいないよ」
ロイが呆れたように言う。
オレ=非常識みたいな認識やめてもらっていいかな?
「転移魔法の習得は平均で一週間はかかるんだって。僕も3日かかったし」
ちなみにオレは30分くらいだ。破格なのは分かる。前世の関係でイメージする力が強いんだろう。どこでもド○とか具体的にイメージしたしな。できてしまったものは仕方ない。
「転移」
とりあえず自室に移動して、そこからまた転移魔法を使ってホールへ移動する。右手を使うのはやめたが普通にできた。
転移魔法、超便利だわ。
「問題無さそうだね。もっと掛かる予定だったんだけどなぁ。時間もあるし他に習いたい魔法はある?」
まだ昼にもなってないし…とロイが言う。
「えっ、いいの?」
他に覚えたいのは…。
「空間収納と召喚魔法、鑑定、錬金術かな」
「癖のある魔法ばかりだねぇ。空間収納と錬金術は加護がないから教えられないけど、鑑定と召喚は出来るよ」
「本当!?」
さすが魔法部隊副隊長!
「うん。でも召喚は魔法陣魔法だよ。準備が必要だから今日は鑑定だけね」
出た、魔法陣。確かに召喚する時って魔法陣使うイメージ。
転移魔法の他に鑑定を教えてもらえるなんて、すごくラッキーだな。