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6 家族会議 その2


「では、とりあえず夕食にしよう。話は食べながらでもできるだろう」

父が執事のクラウスに夕食にすることを伝えると、メイド達が給仕を始める。


ちなみに今家族が集まっているのは厨房に隣接した食堂だ。厨房との仕切りはあるが、ガラス越しに厨房の様子がよく見える。フォルトナー家では、ここで食事をするのが一般的だ。


アステーラの夕食は、貴族も含め大皿で提供されることが多い。フォルトナー家の夕食は、スープと軽く摘まめる前菜、葡萄酒などの飲み物が最初に提供される。

少しおいてメインが何種類かとサラダ等が大皿で運ばれ、それをメイドが好みを聞きながら取り分ける。最後がフルーツやデザートだ。

フォルトナー家では、多国籍な食材が集まる美食の街らしく、様々な種類の料理が出る。


今日のメインは魚介がたっぷり入ったパエリアに、鶏肉のトマト煮、白身魚のムニエルなどだ。酒のつまみになりそうなフレッシュチーズが乗ったトマトやフライドポテト、生ハムなどもある。見た感じはビュッフェに近い。取り分けるのはメイドだが。

ちなみに余った料理は使用人達が美味しくいただいているそうなので、お残しを気にすることもない。


アステーラの料理は普通に美味い。洋食中心で、ほとんどがオレが日本で食べたことのある料理だ。

ふわふわパンもチョコレートもカレーもポテトチップスだってある。スイーツも豊富。

オレが食の改革をする必要がないほど豊かだ。和食がないのは心残りだけど。


まぁ、そんなわけで美味いフォルトナー家の夕食をいただきながら、オレは家族皆からの質問を受け付けていた。

学校のこと、飛行機や自動車などの交通手段やテレビなどの娯楽についてなどなど。前世の話は家族皆が興味津々で、会話が尽きることはなかった。


食卓にはフォルトナー家の家族が勢揃い。

せっかく家族全員が揃って食事をする機会だ。オレは皆の反応を見たいもの…この世界に来てから、ずっと思っていたことをやってみることにした。


「オレのいた日本では、夜はもっと明るかったんだよね…再現してみるね」


電気だから、雷魔法でいけるだろう。テーブルに設置されている魔道具の燭台に灯っていた火を消す。

3本立ての燭台がテーブルの真ん中と両端に3つあるので、全部で9箇所に電気の灯りが点くようにイメージする。


「ライト」

成功した。LEDのライトみたいに白く明るい光がテーブルを照らしている。

「おお!」

「すごい!明るい!!」

火魔法の灯りではない明るい光に皆は興奮しているようだが、オレ的にはもう一声というところだ。テーブルの周りしか明るくないからね。


「もーちょいかな。…スイッチオン」

やっぱり明かりは天井にあった方がいいだろう。

パチン、と部屋の電気を点けるイメージで。うん、こんな感じ。


「昼間のように明るいぞ!?」

大騒ぎだ。そんな騒ぎになるようなことなのか?日本では普通の灯りだけど。


この世界に来て思ったこと。

夜は家の中が暗い。真っ暗ではない。薄暗いのだ。

家の中にある灯りは火魔法で作られていて薄暗い。灯りが照らす周辺しか明るくないし、色もオレンジっぽい。現代日本で暮らしていたオレには違和感があったのだ。


「どんな魔法なんだ!?光魔法?」

「属性は…光じゃない。雷だね」

ロイの言葉に頷く。そう、雷だ。


「雷は電気なんだよ」

「電気?」

「そう。静電気はわかる?物がこすれ合うと静電気が発生することがあるけど、雷は、雲の中で氷の粒がこすれ合って静電気が発生するんだ。それが溜まって放電すると雷になると言われている」

「はー…すごいなニコの知識」

ディルは感心したように言う。


「雷はエネルギーの塊なんだ。雷が光る時、ものすごいエネルギーが放出されている。光った瞬間はすごく明るいだろ?」

「確かにそうだな」


この世界で雷魔法は灯りとして利用されていない。

何故か?それはイメージ出来なかったからだ。

この世界の人は、雷―――電気がこんな風に明るいものだと知らないのだ。


そもそも雷や光属性を持つものは少ない。火魔法のようにたくさん使える人がいれば研究もされたのだろうが、希少な人材を無駄に使う人はいない。

高価で治癒魔法のイメージが強い光魔法の灯りは使えないので火魔法で、というのが常識。


「オレのいた世界では、電気が様々なものの動力として利用されていた。灯りはもちろん、暖房や冷房、冷蔵庫、火の代わりに料理を作ったり、ありとあらゆる機械を動かしていたよ」

日本では何にでも電気が使われていた。現代社会に電気がなくなったら、一気に文明は後退するだろう。現代社会の発展と切り離せないエネルギーだ。

この世界にいわゆる発電して使う電気はない。その代わりになりそうなのは雷魔法だ。


「雷の魔石は、動力として使えると実証されている。魔法部隊でも研究が進められているんだ。雷属性持ちが少ないのと、雷の魔石が割高で流通していないので一般的ではないけどね」

ロイの言葉に雷魔法のすごさが実証されたな。電気の代わりとして雷の魔石が使える日も近いかもしれない。


「すごい…!」

「え?」

「すごいぞニコ!!お前の考えがアステーラの常識を変えるかもしれない!」

勢いよくディルが立ち上がる。


「魔道具として雷の灯りが普及すれば、家の中も街も明るくなる。そうすれば夜に活動できるようになる。雷の魔石は光よりも手に入りやすいし、価格も抑えられそうだ…」

この電気の灯りがディルの商売人としての何かを刺激したようだ。


「とりあえずバルト叔父さんに連絡しなきゃ」


ディルがクラウスに伝言を頼む。クラウスの孫で執事見習いのカイルが行くようだ。

アステーラに電話はない。

連絡手段はいくつかあるが、近い場合は直接行くのが一番速い。バルトの家は徒歩で5分ほどだ。


「あ!ニコ、さっきの魔法の灯り、携帯用のランタンにもできる?」

「できると思うよ」

ランタンは火を使うので風で消えないようにガラス製の囲いがしてある。少し重いのが難点だ。明るめに付与するがガラスが遮って少しぼやけた感じになった。


「カイル、手で握れるくらいの、何か細長い筒状のものはあるかな?軽いやつね」

「携帯用の茶筒はどうでしょう」

「いいんじゃないかな」

カイルが持ってきた携帯用の茶筒は紙製で軽い。手で持った感じもちょうど良さそうだ。先の部分に雷魔法で灯りを付与する。光が自分の前を明るく照らすように。そう。懐中電灯をイメージした。


「おお!なんだそれ、すごいな」

ディルが懐中電灯を手に取りマジマジと眺める。

「懐中電灯だよ。持ち運びにいいだろ?」

「す、すごいですね。すごく明るいし軽いです」

カイルが驚きながらディルから渡された懐中電灯で周りを照らした。

「よしカイル!それを持ってバルト叔父さんのところへ行ってくれ。多分懐中電灯は取られると思うからランタンも持っていって」

「畏まりました」


10分後、ふっ飛んできた叔父とディルに拘束され、電灯についての話し合いがされたのは言うまでもない。



「あ、あと、全属性を持つ者が見付かったのは、国への報告事項だから。そのうち国王陛下から直々に呼び出しがあると思うよ」

「はっ?」


ロイがぶっこんできた。なにそれ、国王から呼ばれるとか聞いてない。この国のトップじゃん。いやいや普通に無理だろ。中身は庶民だぞ。


「もともと僕が呼ばれたのだって、ニコが全属性なら国に報告しやすいからだし」

弟だからって呼びつけた訳じゃなかったのね。ロイは騎士団の偉い人だもんなぁ。報告するかの確認も兼ねてたのか。


「6カ国全体でも6属性が最高で、7属性でさえいないんだ。全属性なんて未知の領域だし当然保護対象だよ」

「えぇ~黙っといてくれたりとかは…」

「無理だね」

「マジかぁ~」

王からの呼び出しって断れないの?すごく面倒なんだけど…。


「騎士団に入れられる可能性が高いな。もともとニコは病気がなければ騎士団に入団する予定だったんだし、そこを突かれて王が特例で入団を認める、さらに叔父である僕がいる魔法部隊所属と言えば断れない」

「妥当な線だ。全属性の魔法使い(ソルティースト)は国で管理したいと考えるだろうな」

父がロイの意見に同意する。全属性って、そんなに希少なのかぁ…。女神様、教えてくれればよかったのに…。


「ニコはどうしたいの?」

「とりあえず騎士団に入団する気はない。入団したら自由に動けなそうだし、せっかく転生して魔法使い(ソルティースト)になったんだから、やってみたいことも色々覚えたいこともある……体の調子が万全ではないのもあるしね。どうにかして断るよ」

ロイの問いに若干疲れぎみで答える。

魔法部隊に入れるなんてそんな栄誉、普通は断らないだろう。ニコも憧れていたしな。だがオレは純粋なアステーラ育ちではないし、囲われて見世物になるのはごめんだ。


「対応を考えておかないと逃げられなくなるよ」

「はぁ~」

面倒だな。


「じゃ、僕は帰るよ。明日も仕事だしね」

「ああ、ロイ、忙しいところ悪かったな」

「いいよ。可愛い甥っ子のためだしね」

手を振って帰ろうとする叔父。

オレはちょっとした違和感に気付く。

帰る…馬車で?フォルトナー領はアステーラの端っこ。王都から500キロほど離れている。明日の仕事って、間に合わないよね?

「…ロイ兄さん、ここまで何で来たの?」

「ん?転移魔法だよ」

転 移 魔 法!!


「転移っ!あの伝説の!!」


この世界に転生したら絶対覚えたいって思ってた超便利な魔法!


「いや伝説って…」

「それ習いたい!」

思わずロイの手をがしっと握る。

「………」

あ、勢いがよすぎた。ロイがどん引いている。

「ぜひ、教えてください!お願いします!!」

いや、諦めない!憧れの転移魔法をゲットするために!


「…いいけど今日は時間がないから無理だよ。来週の闇の日でいい?空けておくよ」

よっしゃ!言質取った!

「本当!?絶対だよ!」


返答がお父さんに休日遊びに連れていく約束を取り付ける小学生みたいになってしまった。


…ともあれ今日が闇の日なので6日後だ。すごく待ち遠しい。


アステーラの一週間は6日。曜日は魔法の名前で、光火水風土闇の順だ。光の日が週の始まりで、闇の日が週末、休息日であり日曜日のような休日となっている。お店も休みが多い。騎士団は曜日に関わらず警備の仕事があるが、魔法部隊は有事の際以外は闇の日は基本休みらしい。ホワイトだなぁ。




とりあえず。


オレがニコ・フォルトナーのままでいることは、家族の皆に受け入れられたのだった。


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