表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/21

4 早速ですがバレました


「さて…君は誰だ?」


ロイの言葉に頭が真っ白になる。


「誰…って、」

何て言えばいい?やだなあ、ニコだよ、何言ってるの?と誤魔化そうとして、思考に時間を掛けすぎたことに気付く。駄目だ、不自然だ。

ロイを見て、父を見る。どちらも笑っていない。真剣だ。

「………」

どうしよう。


「…人は、習っていない魔法はすぐにはできない筈なんだ。イメージを掴むのに時間が掛かるからね。君はニコが使えなかった属性の魔法をいとも簡単に発動した。しかも有り得ないほど強力に」

オレが黙っていると、ロイが話し始める。


「使った魔法はみんな上級魔法以上の威力だった。それから魔法部隊にいる…いわゆる専門家の僕達が見たことのない魔法がいくつか……というかすごく色々あったね」


…まずい。魔法を使えるのが楽しくて調子に乗りすぎた。冷たい汗が背中を伝う。

アステーラは騎士団と魔法の国だ。魔法使い(ソルティースト)協定のある6カ国の中でも一目置かれる存在であり、様々な研究もされている。ロイはその中枢である魔法部隊の副隊長だ。


「魔法はイメージ。僕達には想像すらできない魔法だった」

「…………」

「口から魔法を出すことも、水が壁を切ることも、光が攻撃に向いていることも、影を使うことも、僕は想像したことがない」

ロイの言葉にリストも頷いている。


オレは普通に思い付いたものを魔法として使ってみたけど、この世界の住人と、日本でテレビや漫画なんかに囲まれて過ごしてきたオレには圧倒的な違いがあった。

イメージの幅だ。

魔法を発動するにはイメージが重要であり、鮮明なイメージを作れるほど強力な魔法になる。頭の中で異世界の鮮明な情報を思い浮かべられるオレは、おそらくこの世界の誰よりもイメージする力が強い。


「あと、詠唱で言ってたカマイタチやレーザービーム?という言葉は聞いたことがない。でも、魔法が発動したってことは、君は僕達が知らないそれをイメージした訳だ。明確にね」

日本で使ってた言葉だからな。そりゃこの国の人には通じないだろう。うっかり詠唱の時、アステーラの言葉でなく日本語(英語?)をかなり使った気がする。……やってしまった。


「君は人間なのか?」

「…っ、人間だよ!それは間違いない!!」

ロイはオレのことを人間じゃないと思ってたのか。


「でも君はニコじゃない。…別人だね」

ロイは確信を持ってそう言っている。言い訳しようにもうまい方法は全く思い付かなかった。


「……どうしてそう思った?」

顔も体も一緒なのに。記憶もあるし性格だって似ているのに。

「疑う理由は散々言ったと思うけど。ああ、もう一つ大きな理由があるよ」

「…なに?」

魔法使い(ソルティースト)としての()だよ。以前のニコと全てが違う。魔力量も、属性も、その使い方も、発想も」

「………」

「僕はニコの魔法を何度か見たことがあるよ。魔力の消費を抑えたやり方で、教科書通り、基本に忠実な魔法だった」

ニコの魔法を思い出す。ニコは魔力が多い方ではなかったから、魔力を無駄遣いしないように堅実なやり方で魔法を使っていた。


「魔力が増えることはあったとしても、魔法の使い方は変わらないと思うんだ。今まで幾度となく使ってきただろうからね」

「………」

「君は誰だ?何が目的だ?」

ああ。これは認めるしかなさそうだな。


「…オレがニコじゃなかったらどうする?……殺すのか?」

オレ、この世界に来て1ヶ月で2度目の人生終了のお知らせ?


「君が本当はニコの体を乗っ取った凶悪な悪魔で、世界征服を企んでいるとかならそれも考えるけど…とりあえず話を聞いてからだ」

ロイは話を聞く気はあるらしい。

オレは魔力は多いが病み上がりなのもあって身体面では底辺だ。取り柄の魔法もまだ全然使いこなせない。とりあえずすぐに殺される心配はなさそうでホッとする。


「それはないけど。オレも面倒見てもらってる以上は、家族には話した方がいいと思ってた。信じてもらえるかは分からないけど……ただ…」

「何か問題でも?」

言い淀んでいるとロイが先を促してくる。


「これを話すと、頭がおかしいと思われるだろうし、信じてもらえたとしても家族を余計な騒動に巻き込む可能性があるから、なるべく知っている人を少なくしたい」

「…分かった。まずここにいる3人で話を聞いて、大丈夫だと判断したら他の家族にも話をしよう。アベル兄さん、リストもいい?」

「もちろんだ」

父は大きく頷く。

「俺部外者だけど…いいのかな…」

「リスト、諦めて聞け」

巻き添えを食ったリストは、少々困った顔だ。善意で来てくれただけなのに申し訳ない。



話をするために移動すると、庭にある東屋に、お茶の用意がされていた。できる使用人達だ。

レモンが差してある冷たい紅茶を一口飲み、大きく息を吐く。落ち着いたところでオレは真実を話し出した。


「オレは…ニコ・フォルトナーであってそうじゃない。体と、記憶…この世界の知識はニコのもので間違いないよ。そこに元のオレの記憶が融合してる。魂…人格はオレであって、ニコじゃない」

「ニコの体を乗っ取ったのか?」

「あー、まぁそう取られるよね?オレもそう思ったし」

ロイの疑念ももっともだ。でもそれは否定しておく。


「…信じられないかもしれないがオレは転生者だ。地球…こことは別の世界にいたけど事故で死んで、ちょうど魂の抜けたニコの体に転生させられた」

()()()()()、って誰に?」

「神様だよ。女神様……アスなんとか」

あれ、何て名前だったっけ?


「アストライアか?」

「あ、そんな感じだった」

名前が出てきた父に感心する。よく分かったな。

「アステル教が信仰する女神の名前だ。アステル教では、アストライアがこの世界を作り、最初にアステーラを作ったと言われている」

父が説明してくれる。アストライアって、ちゃんと認知されている女神様なんだな。

アステーラに国教はないが、いくつか宗教は存在する。その筆頭がアステル教だ。アステーラ至上主義であり人間至上主義。結構国に入り込んでいるが、その思想のせいでフォルトナー領での評判はよくない。


「その女神様が言うには、オレは魔力が多くて全属性。でも元の世界には魔力…魔素がほとんど存在しなくて魔法は一切使えなかった。女神様も何で地球にオレの魂があったのか不思議がってたよ。魔法の素質のあるオレを、女神様はアステーラに行かせたかったんだと思う。ニコの体は用意されていて、オレはそこに入るしかなかった」

「…本物のニコはあの時死んだってことか?」

ロイの言葉に頷く。

「そうだね。ニコはこの世界では不治の病だった。ニコの魂が抜けたタイミングで転生して、オレはニコとして目が覚めた」

ざわりと風が吹き抜けて、辺りが一瞬、静かになる。


「信じられないが……辻褄は合う、か」

しばらく黙って思案していたロイは、嘘がないかを確かめるようにオレの目を見ながら呟いた。


「女神様はオレを魔法使い(ソルティースト)として転生させたかったみたいだから、資格のあるニコは都合が良かったんだと思う」

ニコは魔法使い(ソルティースト)で、不幸にも命が尽きることは決まっていた。きっと、オレの魂を転生させる器としてちょうどよかったのだ。


「異世界から来たというのも信じられないが…」

「そこは信じてもらうしかないけど」

証明できるものは何もない。…いや、知識はあるか。この世界にはなくて、前の世界では普通だった様々な知識。


「えーと…オレがいた世界……地球、っていうんだけど、魔素がないから魔法は全くなくて、変わりに科学や医学など文明が発展した世界で……アステーラよりも文明レベルはかなり上だと思うよ。オレは17歳で死ぬまで普通の高校生だった」

地球では役に立たない魔力の器のせいで死んだけどな!


「高校生?とは?」

ロイが尋ねてくる。そうか、アステーラに高校ないもんな。

「高校生っていうのは高等学校に通ってる学生のことだよ。オレが住んでいた国、日本では7歳になる歳から15歳までが義務教育で国民の義務として学校に通う。義務教育が終わった後に通うのが高等学校…略して高校で、ほとんどの人が進学するね。だいたい16歳から18歳までが高校生」

「そんなに勉強するのか…」

リストが少しうんざりした顔で言う。アステーラでは誰でも無料で通える幼年学校は12歳までで、そこから働きに出る者も多い。


「高校の後に大学っていうのがあって、これはだいたい22歳まで通う専門的な学校だね。オレも行こうとしてたよ」

「…勤勉な国民なのだな」

「学歴社会なんだ。いい大学を出るといい仕事に就きやすくなるんだよ。あとは大学って勉強もするけど結構自由っていうか…就職する前に好きなことやってみたいってのもあるかな」

父の言葉に答えると、アステーラにはない考えだな、と父は呟いた。


「残念ながらオレは高校3年生のはじめで交通事故にあって死んだから、大学には行ったことないけどね」

「交通事故って何?」

「交通事故は…あー、馬車にひかれたみたいな感じだよ」

少し考えてロイの質問に答える。


「…なるほど。アステーラでもたまにあるな」

「地球では馬車ではなくて自動車だけど。この世界では移動手段は馬車が一般的だよね?馬車とはタイヤの付いた箱形の入れ物を馬に引かせることで動く」

「そうだね」

「地球では少人数の移動は自動車が一般的。タイヤの付いた箱形の乗り物という点では同じだけど、動力は主にガソリンていう燃料を使って、運転手が操作することで自動で走る。スピードも馬車の10倍以上。もっと速くて大人数を乗せられる乗り物もある。空を飛ぶ乗り物もあるし。それを全部科学の力でやっている」

「信じられないな…」

「オレからしたら魔法の方が信じられないよ」

科学は説明ができるけど、魔法は原理が謎だ。


「…まぁ、交通事故は珍しいってほどでもない死因かな。多いって訳でもないけど」

オレの母親も交通事故で亡くなってるしな。


「魔素や魔法がないっていうのも本当なのか?」

ロイの言葉に頷く。

「ああ、それは転生する時に女神様から聞いたから間違いないよ。オレはもともと魔力の器と加護はあったらしいけど、地球で魔法が使えたことなんてないし」

家電は壊れたけどな!


「魔法は便利だけど、地球は魔法がないからこそ科学や医学が発展してきたんだと思うよ」

日本は豊かな国で、あらゆるものが手に入った。望めば高度な医療も受けられる。教育も娯楽も最高水準だ。

その便利さ、快適さはアステーラと比べるまでもない。


「例えばニコの病気、特徴からいっておそらく白血病だと思う。簡単に言うと体の中で正常な血液が作られなくなる病気だね。アステーラでは原因不明の不治の病だったけど、オレがもともといた世界では難しい病気ではあるけど不治の病ではなかったよ」

話を聞いて3人が驚いた表情でオレを見る。


「…ニコの前世の知識があれば治ったということか?」

「んー、白血病の治療はアステーラでは無理だと思うよ。抗がん剤もないし、骨髄移植でも型を調べることすら不可能だろうし、外科手術ができる設備もないしね」

ロイの言葉は否定する。オレは抗がん剤なんて作れないし、医者でもないから詳しい治療の仕方だって知らない。


「言っていることがよく分からないな…」

「言葉の説明は面倒だから割愛するけど、この世界はおそらく治癒魔法があるせいで、医学が発達していないんだよ」

アステーラには病院と呼ばれるものがない。医者と呼ばれる者はいるが、ほとんどが治癒院か騎士団の所属だ。病気の研究もあまりされていないし、原因不明の不治の病がとても多い。

ニコもそうだ。薬や治癒魔法では治らず、だんだん弱って命が尽きてしまった。だからこそオレはここにいるんだが。ニコには悪いけど、オレはニコの体で生きていくしかないのだ。


「…オレは女神様の願いで魔法使い(ソルティースト)になるために、それから前世で早く終わってしまった人生を続けるためにこの世界に来たんだ」


オレは若くして死んでしまった人生を続けたくてアステーラに転生した。たまたま魔法使い(ソルティースト)の才能があって女神様の目に止まったけど、ニコに成り代わりたかった訳じゃない。


「オレを信じられないっていうなら、フォルトナー家の迷惑にならないように出ていくよ。名前も変えるし、今後一切関わらないと約束する」

フォルトナーは貴族だし、国での評価に関わるというのならニコ・フォルトナーの名前は捨てても構わない。ニコは予定通り病で死んだことにしてくれればオレも自由に生きられるだろう。


「冒険者になるなり、働くなり、ニコの知識も前世の知識もあるし、魔法も使えるし、何とかなると思う」

前世では学生で、働いたことはなかったけど、できることはあると思う。一から冒険者でやってみるっていうのも悪くはなさそうだ。というかそれが異世界転生のテンプレだしな。



「……私としては、本当は死ぬはずだったニコが生きていてくれるだけでいいと思っている。追い出すような真似はしたくない」

「父上…」

皆が黙り静かになったところで父が口を開いた。


「それにニコの言っていることは嘘ではないと思う。もちろん全てを容認することはできないが辻褄は合うし、異世界の話は興味深かった。…私はニコを信じたいと思う」

「そうですね。俺も嘘を言っているようには聞こえませんでした。確かに異世界の話はとても興味深いですし、納得のいく話でした。俺もニコを信じたいと思います」

父がそう言い、リストがそれに追随する。2人に信じてもらえたことがすごく嬉しかった。


「僕としては魔法部隊の副隊長としての立場もあるし、一応もう少し監視をしたいかな。君の話を完全に信じた訳ではないけど、作り話でないことは分かる。追い出すべきではないと思うよ」

ロイの言葉に頷く。

「そう思ってくれるだけでありがたいよ。オレだってこんな話をしてすぐに信じてもらえるとは思わないし、気の済むまで監視してくれ」

むしろ頭のおかしいやつだと思われて切り捨てられる可能性もあったのだ。監視くらい安い話だ。


「家族には真実を話した方がいいと思う。一応意見を聞いて…アベル兄さんがそのままでいいと言っているし、おそらく悪い結果にはならないだろう」

「そうだな。では、この後夕食の席で皆に話そう」

ロイの提案を父が肯定し、それにオレも頷く。



とりあえず、首の皮一枚は繋がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ