3 転生したら魔法使い(チート)でした
家の裏庭に移動する。フォルトナー家では馬車用と騎乗用に20頭ほどの馬を飼っているので、馬を運動させたり馬車の調整をする大きな運動場が裏庭にあるのだ。一年中綺麗な芝生だよ。さすが貴族。いや、自分の家だけどな。家というかほとんど城だよ。
一緒に来たのはロイとリスト、そして父だ。
「ごめん、ロイ兄さん、悪いんだけど基礎の魔法の発動から教えてくれる?どうも感覚が鈍っててうまく発動が出来ないんだ」
「え?発動から?」
「うん。できれば父上にも分かるくらい初めからお願い」
「…分かった」
不思議そうな顔をしながらロイが頷く。
ニコの記憶では初めて魔法を発動させたのは7歳頃だ。しかしどうやったのか全然覚えていない。
ニコは魔法使いだったけど、発動とか気にすることもなく普通に魔法を使えていたので、一応やってはみたけど発動しなかったのだ。
子供が読むような基礎の魔法の本とかも読んでみたけど、火事になったり水浸しになったりと被害が出ることがあるので、初めての発動は必ず人がいるところで、と最初に書かれていて不安しか感じなかった。うっかり爆発とかさせても嫌だし、きちんと習おうと思う。
「じゃあ、アベル兄さんにも分かるように説明するね」
ロイの言葉にオレと父は頷いた。
父は魔法は使えない人だけど、弟と息子が魔法使いだけあって理解はある。
「えーっと、まず基本中の基本だけど、魔法とは魔力をイメージにのせて発動したもので、魔法を使うには、大気中の魔素を魔力に変換して溜めておくための魔力の器と、属性の加護が必要になる」
これは女神様からも聞いたな。魔力の器と属性の加護があって、イメージできれば誰でも魔法は使える。
この世界には魔素という魔力の素となる物質が大気中に溢れている。それを吸収して魔力に変換して使う。特にこれは意識して行う訳ではなく、魔力の器の自動制御だ。魔力の器が大きいと溜めておける魔力の量が多くなる、という訳だ。
魔法使いと呼ばれる人達は、魔力が高く、2属性以上の加護がある場合が多い。
ニコも火、土、風と3属性の加護があり、魔法学校を出ていて、魔法使いと名乗れるくらいの実力はあった。女神様がニコを転生先に選んだ理由の一つだろう。
魔法の素質のなかった人間がいきなり魔法使いになるのは大変だけど、もともと魔法使いであれば基礎ができているから属性が増えたところで問題ないだろうしな。合理的だ。
「魔法とはイメージが重要だよ。どれだけ魔力を詳細なイメージに近付けられるかによって威力が変わってくる。イメージができても、属性に加護がなかったり、魔力が少なかったりすれば発動しないから……まぁ、魔力の塊みたいなニコには当てはまらないけど。一般論として覚えておいて」
「はは…」
女神様もオレの魔力の器は巨大って言ってたしな。イメージは…頭の中で想像すればいいのかな。全属性のオレはどんなイメージでも形になるということだろうか?うーん、要検証だな。
「まず火。一番使える人が多い魔法だね。イメージしやすいし、加護も持っている人が多い」
ロイが指先に炎を出す。指先の小さな炎はロウソクみたいだ。すごいな。この世界へ来て、初めて見る魔法に感動する。
「体の中に魔力があるのは分かる?」
ロイの言葉にオレは頷く。意識すると確かに体の中に、温度を持った流れのようなものが感じられる。日本にいた時には感じなかった類いの感覚だ。
「イメージしながら魔力を使いたい場所に出力することで魔法が発動する。発動を習う時はコントロールしやすいように短い杖を使うんだけど、今日は持ってきてないから手だね。今回は火だから、火が点くイメージをする。火はどうやって燃えるのか、どんな色でどんな形か、を考えて発動。言葉に乗せると発動しやすいよ。火、とかだね」
「分かった。…やってみる」
火を思い浮かべる。色や形。それから火がどうやって燃えるか。酸素と、可燃物、そして着火材。酸素は空気中にある。可燃物は空気中の魔素。着火材は自分の魔力から出す静電気だ。よし!
「火」
掌の上で小さく火を点けるイメージをして言葉を乗せると、ボッとソフトボール大の炎が掌の上に乗った。
「点いた!熱っ!?」
慌てて火を消すと、ロイが初心者がやりがちなミスだ、と笑った。少し火傷をしてしまったので、リストが光魔法の癒しで治してくれる。すごいな治癒魔法。さすが異世界。ファンタジーだ。
「手から少し離して点けるイメージにするといいよ」
「なるほど」
火は熱いものだしな。少し離す、を意識して火を点けると、今度はうまくできた。ロイから合格点をもらったので次のステップだ。
「じゃ、火の魔法を使うから氷の壁を作るね」
ロイは「氷壁」と言って10mほど先に縦横2mほどの氷の壁を作り出した。
ニコの知識だと壁を作り出す壁系の魔法は中級魔法だ。ニコは水は加護がないので使えなかったけど、土魔法の土壁はよく使っていた。
「詠唱は何でもいいんだ。イメージできれば無詠唱でも構わないけど、強力な魔法ほどイメージするのに言葉に乗せた方が効果が高くなると言われているね。僕は一般的な魔法の名前を詠唱してるよ」
なるほど。魔法の名前ならイメージしやすくていいな。オレもそうしよう。
「火球」
ロイの手から野球ボール大の火の玉が勢いよく飛んでいく。氷の壁に当たって、溶けて丸く穴が開いた。
「おお~」
凄い。炎の魔球みたいだ。凄いな魔法。
「これが最初に習う攻撃系の魔法。火の魔力を丸めて投げる感じね。やってみて」
よし、イメージは炎の魔球だ。キャッチャーがいると思って、火の玉を丸めて、投げる!
「火球!」
ドッカーン。火魔法の筈なのに衝撃音と共に氷の壁が破壊された。
「あれ?思ったのと違うな…」
何故か大玉転がしの玉くらいの大きさになってしまった。野球ボールをイメージしたのになんでだ?
「…でかくね?」
リストの呟きが耳に届く。確かにでかすぎたな。
「これ、火以外に風の魔法も使ってるね。無意識っぽいけど」
ロイは何やらオレの魔法を分析しているようだ。さすが副部隊長。風…加速するようにイメージしたからそのせいかな?
「………」
父は笑顔のまま固まっている。
「よし、次行ってみよう」
気を取り直したロイがまた氷の壁を作成する。さっきよりも一回りほど大きい壁だ。
「火矢」
ロイが氷の壁に向けて数本の炎の矢を飛ばす。勢いよく飛んでいった炎の矢は、氷の壁に刺さり周りの壁を溶かしながら消失した。
矢系の魔法は、魔力を矢のように何本も飛ばす初級の基本攻撃だ。
「こんな感じ。ニコ、やってみて」
「分かった」
ロイの言葉に頷く。
イメージする。炎の矢。あの氷の壁に刺され!
「火矢!」
壁に手を向けてイメージすると思ったより沢山の矢が出た。100本くらい?
あれ?氷の壁が溶けてなくなったよ。
「…多くねぇ?」
リストの呟きが的確だ。オレもそう思う。
「火矢って初級魔法だよね?今の雨と変わらなくない?」
「確かに」
ロイの言葉にリストも頷いている。ちなみに雨というのは火矢の雨という上級魔法のことだろう。炎の矢を雨のように降らせる範囲魔法だ。ニコも使えたし、メジャーな魔法の筈だが。
「………」
やはり父は笑顔のまま微動だにしない。
「イメージすればいいんだよな?」
なくなってしまったので氷の壁を作ろうと思う。土の壁はニコもよく作っていたし、さっきロイが作ったのも見ているので形のイメージはできる。氷は水魔法の派生だ。
えーと、水は循環している。海の水が蒸発して雲になり、やがて雨になる。大地に降った雨が川になり海に流れる。水蒸気は空気中に存在しているのだ。つまり、どこにでも水はある。
水が氷になるのは氷点下。熱を取り除き気温を下げて素早くカッチカチの氷になるようにイメージ!
「氷壁!」
言葉と共に溶けた壁があった場所に氷の壁が形成された。
「おっ、できた」
なかなかうまくできたんじゃないだろうか。イメージして魔力を発動させる感覚は掴めたので、どの属性でもいけそうな気がする。楽しいぞ、魔法。
「…だからでかいって!」
リストがつっこむ。
確かにかなり大きくなってしまった。高さは10mほどだろうか。威圧感がある。おかしいな?ロイが作ったのと同じくらいの大きさをイメージしたはずなのに。
「ていうか水より先に氷って。自信なくすわー」
リストが呆れたように言って、ロイは何かを考えるように口を開いた。
「…思うに、ニコは魔力が多すぎて威力がおかしなことになってるっぽいね。あと、イメージが強すぎるのかも」
ロイの分析になるほどと思う。確かにオレはアステーラの人よりはイメージの力が強いのかもしれない。日本はテレビや漫画やアニメが普通に溢れていたし、映像のイメージがしやすい気がする。
「ちょっと試してみていい?」
火を吐けたらすごいよな?あれだ、某忍者漫画のパクリ。『火遁、豪火◯の術!』口に魔力を溜めてるので詠唱は省略!
口を開けた瞬間に火を吐いたよ。思ったより威力が出て、ドラゴンのブレスみたいになってしまった。
「口から…」
「ドラゴンか」
リストはツッコミ役と化している。確かにドラゴンぽかったけれども。
あ、ちなみにこの世界にはドラゴンがいるよ。見たことはないけどね。うーん、ファンタジー。
でもこれで、イメージできることは魔法の形になることが分かったぞ。なんだかテンション上がってきた!
「よーし、じゃあ水魔法いってみよー。あ、氷じゃなく水ねー」
何だかロイがなげやりだ。呆れられたっぽい?
水魔法か。氷なら威力が高いけど水だと攻撃にはいまいちな印象だ。津波とか?渦潮とか……庭が水浸しになるな。やめよう。
そういえば水を使って刃物のように切れる機械があるってテレビでやってたな。圧力をかけて細い穴から出すんだったかな。熱が加わらないから熱に弱い加工に向いてるとか。よし。それで行こう!
「ウォータージェットカッター!」
ヒ○チカッターの真似してイメージすると、氷の壁は横に真っ二つになった。壁の上の部分が地面に落ちてズーンと地響きがする。おお。意外と威力があるな。
「え?水って切れるの?」
「マジか」
二人がすごく驚いている。父に至ってはずっと口が開きっぱなしだ。あ、技術的にやっちゃ駄目なやつだったか?
「次、土魔法」
ロイの声が掛かる。
土は…石つぶてかな。土魔法って少し物理攻撃っぽいよね。石当たったら痛いし。そこら中にある石が自分めがけて飛んできたら恐怖だ。よし。
「石つぶて!」
壁の周りの石を、壁めがけて勢いよく飛ばす。氷の壁は無数の穴があいて崩れた。あー、また作り直さなきゃ。
「まぁこれは中級魔法の石礫……なのかも?」
ロイが首を傾げながら言う。
「ていうか石の数多くねぇ!?」
リストのツッコミが心地よくなってきた。確かにニコの石礫はもう少し小規模だったかも?いや、勝手にこの規模になるんだから仕方ない。
「はい、次、風魔法」
ロイに促され風魔法を考える。ニコも使えていた属性だ。組合せがきく属性で、攻撃の補助に優れる。
えーと、風は空気の流れ。確か気圧が高い方から低い方へ流れるんだっけ。攻撃となると、竜巻?台風?
いや、風魔法のイメージはやっぱり鎌鼬だな…。ニコが使ってた中で似た魔法があったな。風切り?いいやそのまま!
「鎌鼬!」
新たに作った石の壁がバラバラに。今度はもっと堅い壁をイメージしようかな。岩とか。
「あ、これは普通。風切りだね」
「カマイタチって何?」
あ、妖怪です。
「雷は基本の5属性に入ってるけど、使える人は少ないよ。僕も使えないから何かあればリストに聞いて」
雷…、雷の素は静電気だ。物がこすれ合うと静電気が発生することがあるけど、雷は、雲の中で氷の粒がこすれ合って静電気が発生する。それが溜まって放電すると雷になる。雷は映像でよく見るしイメージしやすいかもしれない。
「雷!」
予想外に何本もの稲妻が出てしまい、堅く作った岩の壁が吹き飛んだ。
「おー、雷神の怒りだ」
「最上級魔法の詠唱が雷…」
ロイが頭を抱えている。いや、雷神の怒りなんてたいそうな名前を詠唱したら庭破壊しちゃいそうだし。
ちなみに5属性単独の最上級魔法は『神の怒り』という名称で統一されている。自然現象を元にした大規模攻撃魔法である。ちなみに結構な量の魔力を消費するため、ニコは上級魔法までしか使えなかった。いや、使うと魔力がすっからかんになるので使えるけど使わない、が正しいか。
「次、光魔法。ここから特殊属性ね。光も僕は使えないよ」
光は……回復と浄化って感じだけどそっちは仕組みがよく分からないな。光で回復できるの何でだろうって考えてしまってうまくイメージできない。
攻撃だと光線銃とか。ラピ◯タのロボット兵が撃つビーム、みたいな感じだ。あれ、格好いいよな。光がシュバッといった後に爆発が起きるやつ。よし、それにしよう。
「レーザービーム!」
壁までの距離を眩しい光が直線で走る。その少し後に壁の所で爆発が起きた。ほぼ想像通りだ。爆発したので壁は粉々である。
「なにこれ」
「光魔法で攻撃?いや、確かに光は使ってるな…。駄目だ、考えが追い付かない」
理解不能、という顔で2人がオレを見る。あれ、もしかして光魔法って攻撃に使わないのか?やっちゃった?
「よし、とりあえず闇魔法いくね」
誤魔化すために次の闇魔法を使ってみることにする。ロイ達は何か言いたそうだが放置だ。言い訳は後で考えよう。
闇は…精神攻撃?影?…あ、そうだ。思い付いたものがあったので壁ではなくロイに向けて発動した。
「影しばり!」
「ぎゃっ!動けない!?」
あ、できた。忍者漫画のパクリその2。
影がロイの足を縛ったようだ。地味だけど使えそうな魔法だ。
この調子で時魔法もいっとこう。
時は……時間を止められるのかな?時間よ止まれ!
「止まれ!」
あ、これは無理だった。イメージが足りないのかな。普通にロイは動いている。
「んー…」
確かに時を止める、って反則技みたいな感じだよね。できたらやりたい放題じゃん。
「スロウ!」
「!?」
これは効いたみたいだ。ロイの動きが鈍くなっている。デバフみたいな感じか。ヘイストもかかるかな。
時魔法って、あまり単独での使い道はないのかな?転移は闇と時、って女神様言ってたっけ。後で誰か教えてくれる人がいないか聞こう。
「ロイの甥っ子すげぇな」
リストが呟く。光魔法でロイにかけた魔法を解いたようだ。うーん、原理が謎だ。光魔法。
「間違いなくニコは全属性になってる。魔法の威力はこの国の魔法使いの中でもトップクラスだね。初級魔法で国を滅ぼせそうだ」
ロイが若干疲れた顔でそう告げた。これで全属性の検証は終わったらしい。
「アベル兄さん、聞いてる?」
反応がない父の肩をロイが軽く叩く。
「…すまん、現実逃避していた」
「分かる」
「分かります」
我に返った父に、何故かロイとリストが同意する。
「…では、全属性というのは本当なんだな?」
「間違いないね」
父の質問にロイが答え、リストも頷く。
「そうか…」
父は考え込んでしまう。全属性だと何か問題があるんだろうか。
「ところでニコ、魔力減ってる感じはする?」
「んー?特に変わらないかな…」
魔力の残量というのは正確には分からないけど、検証を始める前とあまり変わってないように思う。
「結構使ってると思うけどな。…確かにあまり減ってないね。器が大きすぎてよく分からないけど」
「俺なら枯渇寸前だな」
リストが呆れたように言う。うーん、やっぱり女神様の言ってたのは間違いないのか。オレの魔力の器は他の人よりかなり大きいんだな。
「分かったことがある。ニコ、君は非常識だ」
「それだ。非常識」
「え、2人ともひどい…」
オレの何が非常識なんだろうか?ニコの記憶があるからアステーラの常識はある筈なんだけど。
いや、さっきの検証で、なんかやらかした気がしなくもない。
「さて…君は誰だ?」
問い掛けられたロイの言葉にオレは固まった。




