20 魔法使いの才能
グレースとセルジオが帰ってから昼食を取り、叔父と二人で話をしていると、公爵家の執事がやって来た。
「アルベルト様、お客様をお連れしました」
「失礼します。叔父上、お久しぶりです」
「ああ。呼び出してすまないね。ディル」
執事に案内されて入ってきたのは見慣れた人物だった。
「ディル兄さん?」
「ニコ!お前も来てたんだな。王都はどうだった?やけに早いけど…行ったんだよな?」
「うん。王都は二泊で帰ってきたんだ。ディル兄さんこそどうしてリベルに?」
「フォルトナー商会としての商談だよ。ニコが電灯を宣伝してくれたおかげで、叔父上とリベルの冒険者ギルドマスター両方から声が掛かってね」
「あれからすぐ連絡したんだ」
叔父のアルベルトが笑顔で言う。電灯の話をしてからまだ一週間経っていない。よっぽど気に入ったんだな。
「冒険者ギルドにはテストも兼ねて試作品を設置する代わりに魔石を融通してもらおうと思ってさ。雷の付与依頼も出してきたとこ。公爵家にも試作を設置して使用感を確かめてもらおうと思って」
「なるほど」
ディルはフォルトナー商会の次期会長として精力的に動いているようだ。会長のバルトが来るより、公爵の甥っ子のディルが来た方がくだけた話もできそうだ。
「電灯はニコが発案した雷の魔石を使った灯りの魔道具です。昼のような…既存のものとは比べ物にならない明るさです。現在フォルトナー商会で様々な試作品を作り検証作業中ですが、概ね問題もないので製品化を進めています。また、シャンデリアのような既存の灯りの魔石を交換して使うことも可能です」
「おお。それはいいな」
水晶のシャンデリアはお高いしね。せっかくあるものをそのまま使えるならそれにこしたことはないだろう。
「灯りは天井に付けた方が効率がいいので、手のひらサイズの電灯を天井に複数埋め込むように設計しています。今日は製品化する最終段階のものをお持ちしましたので設置できればと思います。天井に穴をあけることになりますが構いませんか?」
「もちろんだ。設置する場所はできれば食堂がいいのだが…」
「想定より少し広いですが…まぁ、やってみましょう」
公爵家の食堂は広い。長――いテーブルが置いてある。
ディルが連れてきた魔道具の職人と、公爵家の使用人が電灯の設置を始める。
夕食までには終わるようだが、時間が掛かるようなので庭の散策でもするかと思って庭に出ると、従妹のエリアナがやってきた。
「ニコお兄様!お勉強が終わったので魔法を見せてください!」
幼年学校へ行っているエリアナは午前中は学校、午後から家庭教師が来て、教養や礼儀作法などを習っているらしい。
金髪に公爵家の濃い青い瞳を持つエリアナは人形のようでとても可愛らしい。将来美人さんになりそうだ。
「エリアナは水と光の加護があるんだ。今は水だけ妻が教えているんだけど、10歳になったら本格的に魔法を習わせようと思っている」
「そうなんですね。どれどれ…」
アルベルトの言葉にエリアナを鑑定する。水の青と、光の白の魔力が胸の辺りに集まっているのが見えた。
「おー、本当だ。光の加護は珍しいね。水も万能魔法だしエリアナは運がいいよ」
「ほんとう?」
「薬師にも治癒師にもなれるよ。リアムみたいに医学の勉強をしてもいいかも。商人や農家でも大歓迎だね。エリアナは魔法学校に行くのかな?そしたらオレやリアムの後輩だ」
「ニコお兄様とリアムお兄様の後輩……お父様、私、魔法学校に行きたいです!」
「それはエリアナの頑張り次第だね」
アルベルトはにこにこしながらエリアナの頭を撫でた。
「うちはどうも女性にしか加護がつかないみたいでね。残念ながら父も私もレナートも加護がないんだ」
「確かにそうですねぇ…」
確かに偏ってるな。うちの母や伯母のルシアナを含め女性はみんな加護があるのに。
まぁ、女神様は魂に付属するって言ってたから、家系とかそういうのはないけどね。
「エリアナは水と光属性だから…そうだな。エリアナ、水魔法はどんな勉強をしてるの?」
「コップにお水がくめるようになったの!」
「そっかぁ。エリアナはまだ9歳なのにすごいな~。やってみせてくれる?」
「いいわよ!」
使用人がサッとコップを差し出してくる。むしろコップを用意してる使用人がすごいな。
「お水をください!」
エリアナがコップを持って祈ると、コップの半分くらいに水が溜まった。詠唱がお水をください…。
オレの従妹、かっわいい。
「じゃあ、エリアナが汲んでくれた水を使って、魔法を見せるよ」
エリアナが持っているコップから水を取り出して、円を描くようにしながら高く持ち上げる。
「わぁ…」
エリアナは、目をキラキラさせてその様子を見ている。アルベルトも興味深そうだ。
「雨」
生活魔法で公爵家の庭に細かい雨を降らせた。人のいる所は避けて広範囲に降るようにする。
「それから太陽の光」
低い位置から雨に向けて、っと。
「うわぁ…!きれい…!!」
見事にアーチ型の虹が出た。大成功だ。
叔父のアルベルトや庭にいた公爵家の使用人たちからも歓声があがる。
「すごーい!ニコお兄様!」
エリアナは興奮したようで抱き着いてきた。
「水と光を使った魔法だよ。エリアナもできるようになるよ」
「私にもできるの!?」
「もちろん」
オレが頷くと嬉しそうだ。うーん、オレの従妹かわいいな。
「それならエリアナは雨と光魔法を覚えないといけないな。お母様に相談するといいよ」
「お母様に相談するわ。ニコお兄様、魔法を見せてくれてありがとう!」
アルベルトの言葉に頷くとエリアナは走って家の中に入っていった。途中で執事に注意されて早歩きになっている。
アルベルトがこちらを向いた。笑顔なのが逆に怖い。
「…さて、ニコ。聞きたいことがあるのだが」
ですよねー。
とりあえず場所を移した。
「全属性になったというのもそうだが、電灯や色紙など…発想力も別人のようだ。…正直、中身が入れ替わったのではないかと疑っている」
うーん。鋭い。確かに魂は入れ替わってますけどね。体と記憶のベースはニコだしな。
叔父には前世があることは伝えておくべきだろう。今後も付き合いがありそうだしな。
「…信じてもらえるかは分かりませんが……実は闘病中、死にかけたけいか、前世の記憶を思い出したんです」
「前世」
「ええ。アステーラではなく、別の世界に住んでいた記憶ですね。オレが住んでいた世界は魔法がなく、代わりに科学が発展した世界でした。電灯とか色紙の包装紙とかも、前世では普通にあったものなんですよ」
アルベルトが納得したように頷いた。
「なるほど。ニコのその知識は前世の記憶が元になっている、ということだな。…父母と妻には話しても構わないだろうか?」
「ええ。構いませんよ。家族は知っていますし。ただ、あまり人に知られたくないので内密にしていただきたいのですが…」
「もちろんだ」
叔父は普通に信じたようだ。
夕食時、食堂は電気のお陰で明るくなっていた。これなら日本の夜の明るさと遜色ないだろう。
「おお!これはいいな!」
「すごいわね。とても明るくてお料理も美味しそうに見えるわ」
祖父母も大変喜んでいる。
スイッチを押すと一気に明るくなるのにも驚いていた。これも日本では普通だけどアステーラにはないので、ぜひ取り入れたかったんだよね。
「魔石は、どのくらいで交換が必要なんだい?」
「試作してからまだ時間が経っていないので確実ではありませんが、おそらく火の魔石を使った灯りと同じくらいは持つと思います。1年に1回は交換をすることを想定しています」
「なるほど。悪くないね」
アルベルトが頷く。
火の魔石を使った灯りも大体1年に1回ほどの交換を必要とする。既存の灯りと変わらないうえに明るいのであれば上出来ではないだろうか。
「ディル兄さん、雷の魔石は供給できそうなの?」
「ああ。魔石はギルド経由で集められるだけ集めてる。付与の方も意外と雷の付与ができる人がいてな。付与依頼もあまりないから競合しないんだ。値段も火の魔石と同じにしたけど問題なさそうだよ」
「そうなんだ」
雷魔法は派手で威力の高い攻撃魔法が多い。その反面、他の属性のように魔道具で使うことはあまりなく、魔石としてはそれほど使い道がないのだろう。
「…で、ディル、電灯はすぐに購入できるのかな?」
「半年ほどはフォルトナー領の普及を優先します。その後で徐々に他領に販売するつもりです」
「すぐにでも設置したいが仕方ないか。フォルトナー領の普及が終わったら頼むよ」
「魔石の確保と雷の付与をしておいていただけると更に速くなると思いますよ。もちろんお値段もその分安くします」
「まったく、抜け目ないな」
さらっと公爵に魔石の準備を丸投げしたぞ。すごいなディル兄さん。
「そういえばディルはフォルトナー商会長のお嬢さんと結婚するのよね?フォルトナー商会はディルが継ぐの?」
「そうですね。今は商会員ですが、叔父に付いて勉強しています」
ディルが祖母の言葉に答える。
ディルはルチルの姉のアリアが婚約者だ。従兄妹同士で歳も同じである二人は、王都の商人学校へ行っている間に付き合いはじめて皆を驚かせ、同時に喜ばせた。
結婚式の準備をしようとした矢先にニコの病気が発覚し、先伸ばしになってしまって申し訳ない。結婚式は今年の秋にする予定で、グリーベル公爵家にも打診はしている。
「ニコはもう帰るのか?」
「ううん。明日叔父上とラソワに行くんだ。泊まりになるから帰ってくるのは3日後の夜かな」
ディルに予定を伝える。
「ラソワか。銀絹を作ってる街だな」
ラソワはリベルから北、四方を山に囲まれた地域にある街だ。山を越えて行くため、ここからだと公爵家の馬車で丸一日掛かるらしく、明日の朝出発することになっている。
「セリロに悪いな」
オレがラソワに行っている間、御者のセリロには待っていてもらうことになる。
「あ、ニコが良ければ、俺がセリロと馬車で帰ってもいいか?実は王都に向かう商会の馬車に乗せてもらったから、帰りは乗合馬車になるんだよね」
「そうなの?じゃあお願いしようかな。オレなら転移も使えるし適当に帰るから気にしなくていいよ」
「良かった。助かるよ」
馬車はディルに任せることにする。
「レイザンまでは護衛を付けよう」
「ありがとうございます」
アルベルトにディルが頭を下げた。魔獣が出るかもしれないし、護衛が付くなら安心だな。
夕食後、部屋に戻り明日に備えて早く寝ることにする。
ラソワ、楽しみだな。




