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2 ニコ・フォルトナーと魔法使い


オレは、今日からニコ・フォルトナーになった。

実感はないが魔法使い(チート)になっている予定だ。


記憶はニコと無事融合し、二人分の人生の記録が混乱なく思い出せる。人格はオレのまま。言葉はニコの方へシフトされたようだ。

日本語も話そうと思えば話せるが、自然と出てくるのはアステーラの言葉だ。不思議な感じ。ニコとは似通った性格だったようで、中身が変わっても特に違和感なく馴染むことができた。


ニコはフォルトナー辺境伯の三男。16歳。ちなみにアステーラの成人年齢は16歳。成人してるってことになる。

家族は父母と、兄が2人と妹が1人。貴族だけあって裕福だ。

ちなみに辺境伯と言っても辺境に追いやられている訳ではない。王都から離れてはいるが国境の警備を担う重要なポジションで、爵位は侯爵と同じ。まぁ貴族でも上の方の地位だ。

住んでいるのはアステーラの北部、グレンツという隣国との国境都市。フォルトナー辺境伯領の領都であり、異国情緒の漂う街だ。多国籍な食材が集まる美食の街でもある。


ニコという名前は、日本人の感覚からするとちょっと女の子っぽい名前だけど、ニコッと笑顔のイメージで悪くはない。あと二人分だからニコとか考えると、妙にはまっていて笑える。


容姿は春樹の時から大分変わった。日本人顔ではない。髪はダークブロンド、瞳は金色混じりの青。水色ではなく青で、瞳孔付近に金が入っている。ニコの瞳は普通の青だったが、中身がオレになってから金色が混じるようになったらしい。魔力が強いと出る色なんだとか。地球みたいな青に金色が混じっている瞳は綺麗だと思う。オレは気に入っている。

身長は臥せっていたせいか低めで、そして明らかに痩せすぎだった。骨と皮のレベルだ。残念ながら筋肉などついていない。まだ16歳だし、今後に期待だ。


ちなみにオレが目覚めた時はそれはもう大騒ぎだった。

今夜が峠、と主治医に言われて家族一同集まっていたところに、一度止まった心臓が動き出し、綺麗サッパリ病魔がなくなっていたのだから。それはもう奇跡だろう。まさしく生き返った、という表現で間違いない。まぁ中身違うけどね。申し訳ない。


母と妹はオレにすがり付いての大号泣で、父と兄も涙ぐんでいた。仲良し家族だな。まぁラノベでの貴族にありがちな親子や兄弟で確執とかなくてよかったけど。

ちなみにニコの記憶のお陰でちゃんと人の顔の判別ができる。この人誰だろうとかならないでよかった。


女神様からのギフトで状態異常無効がついたとはいえ、弱った体を元に戻すのはなかなか大変だった。食べ物も流動食から徐々に元通りにし、最初は歩くのもやっとの思い。必死でリハビリもして、一月後にやっと魔法を習う許可が出た。

そう、魔法だ。魔法!いよいよ念願の魔法だよ!!オレ、魔法使い(多分)!


オレは女神様のアドバイス通り、転生してからすぐに魔法を習いたい旨を父である辺境伯に伝えていた。生死の境をさ迷った際に全属性になったらしいので確認したい、と雑な感じだ。父は半信半疑だったがきちんと手配はしてくれたらしい。ありがたいことだ。


ニコの記憶から分かったことだが、もともとニコは魔法が使えたらしい。

この世界に住む人間の半分は魔法が使えると言われているが個人差があり、その中で魔法使い(ソルティースト)と呼ばれるのは1%ほどだ。

ニコが使えたのは火・土・風の3属性。きちんと国家試験にも合格して魔法使い(ソルティースト)を名乗っており、なかなか優秀だったようだ。

ちなみにこの世界で『魔法使い(ソルティースト)』というのは、資格のいる立派な職業である。

アステーラを含む周辺国で魔法使い(ソルティースト)を名乗るためには共通の国家試験に合格する必要がある。一定以上の魔力量は必須、教科書にある上級魔法をマスターし、実技と筆記試験に合格することで得られる国家資格だ。

資格取得後に冒険者などになり活動する者はあまりいなく、活躍の場がある騎士団に入る者が大多数だ。騎士団を何らかの理由で辞めた後に冒険者になる者は多少いるが、魔法使い(ソルティースト)=騎士団というイメージは強い。

ニコも魔法学校卒業後は騎士団に入団予定だったが、卒業間近になっての突然の病により断念。

ニコの病気はおそらく白血病だろうと思う。血液のガンだ。ニコも怪我をした時の出血がなかなか止まらなかったことから病気が発覚した。貧血や頭痛、倦怠感、吐き気などが段々悪くなり、フォルトナー家は裕福だし色んな治療を受けたようだが、発症から1年ほどで亡くなった。


この世界にはいわゆる病院がない。あるのは治癒院と診療所。それから騎士団所属の団医。

治療は光魔法で治す治癒師(クラシースト)に頼むか、薬師(アポテキースト)が作る回復薬を飲むのみ。医者と呼ばれる者は薬師(アポテキースト)治癒師(クラシースト)の資格を持ち医学の勉強をした者であり、彼らが病状を判断して薬を作製したり、治癒魔法を施したりするのだ。

アステーラで行われる治療では一時的に痛みを取り除いたり、傷を治したり、骨をくっ付けたりはできるが、根本的な解決にはならず、内部疾患はだんだん悪くなっていく。

治癒魔法があることの弊害なのか、外科手術や輸血、点滴などは全く発展していない。ニコも診断不明の不治の病だったため、一時的に痛みを取り除くしかできなかった。



オレが転生したアステーラは、地球とそっくりな国だった。

太陽があり、月がある。夜空には星がある。山も海もある。空は青いし雲は白い。

1日は24時間。1週間は6日だけど5週30日で1ヶ月。1年は12ヶ月。新年を迎える時に年の入れ替わりとされる5日間ないし6日間の祭日があり、ぴったり365日プラス閏日だ。季節もある。もしかしたらこの世界は地球の並行世界(パラレルワールド)なのかもしれない。


ただ、この世界が宇宙の星の一つだ、という概念はない。アステーラは1つの国であり、隣国や他の国の存在はあるものの、例えば大陸から離れた場所にある国などについては、海に隔てられているためその先は誰も見たことがなく、この世界の枠組から外れた世界、という認識らしい。

アステーラを中心に太陽や月や星が廻る(月は実際廻ってるけどね)というのが常識だ。昔の天動説だね。


そして地球と大きく違う点は、なんといっても魔法だ。

大気中に魔素があり、魔法があって、魔物や人間以外の種族がいる。それを軸とした世界は、地球とは違う発展を遂げている。







その日の空は、雲ひとつない快晴だった。


「ニコぉー!元気になったんだってね!本当によかったぁーっていうかなんか魔力全然違う!?」

「おわっ!?」

念願の魔法を習う日、オレはやって来た人物に抱き着かれた。

ロイ・フォルトナー。オレの叔父だ。


「ロイ兄さん、苦しいから…オレ、病み上がりだから」

勢いよく抱き着かれるとよろけるからやめて。まだ体幹が鍛えられてないから。

オレがニコになったばかりの頃は、ガリガリで頬も痩けていて大きな瞳がギョロっとしていたが、一月で体重が増えて大分改善されたと思う。でもまだ完全に元通りではないのだ。


「あっ、ごめんごめん。魔力違いすぎて別人かと思った」

ロイがオレの体をペタペタ触りながら言うので、早速バレたかと思ってドキッとする。


父がこの場に呼んでくれたのは叔父のロイだった。

父の下の弟であるロイは、明るい茶髪に緑や金の混じったヘーゼルの瞳を持つイケメンだ。ちなみに金目なのはフォルトナーでオレと、この叔父と、2人だけ。ロイも魔力が高いんだな。


「とりあえずロイを呼んでおいたからな」

父がそう言うが、とりあえず、で呼んでいいのかと苦笑いするほど叔父は立場のある人だ。

ニコの記憶によると、ロイは魔法使い(ソルティースト)で、騎士団の魔法部隊副隊長だ。正式名称はアステーラ王国正騎士団。長いのでみんな騎士団と呼ぶ。王都の騎士団寮に住んでいて、叔父とは言ってもまだ28歳で未婚だ。父とは歳が離れていて叔父さんと呼ぶ歳でもなかったため、オレ達兄弟はロイ兄さんと呼んでいる。


アステーラは騎士団と魔法の国と言われていて、騎士団は第1部隊から第25部隊まである。第1部隊が王都の配属、後は方面によって割り振られる。フォルトナー辺境伯領を警備するのは第10部隊だ。ニコも魔法使い(ソルティースト)として第1か第10部隊へ配属希望を出していた。

騎士団にはその他、ロイの所属する魔法部隊と、王族を警護する近衛部隊などがある。


魔法使い(ソルティースト)は騎士団の魔法部隊に入るのではなく、それぞれの部隊に配属される。割合的には部隊全体の1割程度だ。いかに魔法使い(ソルティースト)が少ないかが分かるな。

その中でも魔法部隊は、魔法のスペシャリストであり、選ばれた者しか入れないと言われている。そこで副隊長を勤めるロイは優秀な魔法使い(ソルティースト)だということだ。


魔法部隊は騎士団の要と言われていて、団員30名ほどの選抜部隊だ。そこに属する人は魔法使い(ソルティースト)の中でもいわゆるエリートで、ロイは火・水・土・風・闇・時と6属性が使えるらしい。ちなみに魔法部隊長も6属性。7属性以上は知る限りいないとか…。全属性のオレって一体。大丈夫?設定間違ってるんじゃないの?


「アベル兄さん、ロレナ義姉さん、ニコが元気になってよかったね」

オレを観察し終わったらしいロイは父母に声をかけた。

「ああ、本当にな…。ロイ、騎士団が忙しいのに呼び出して悪かったな」

「ロイさん、ありがとう存じます」

父と母ががしみじみと言ったので何だかほわっとした気分になる。家族もずっと心配していたんだろうし。ニコ、よかったな。いや、結局死んじゃった訳だしニコ的には良くないのか?


「いいよいいよ。ニコの元気な姿も見れたし…ってさ、全属性って聞いてはいたけど、ちょっとありえない変わりようなんだけど!」

改めてそうロイに言われ、父母がオレをじっと見つめてきた。


「私には全く分からないが…ロレナはどうだ?」

「私は…魔力が少し変わったと感じる程度ですわね」

母ロレナがオレを見て首を傾げながら言う。

母は加護はあってもロイのように魔法を専門としている訳ではないので、なんとなく以前と違う程度しか感じないようだ。


「これ、本気で全属性だよ。魔力も異常なくらい多い」

ロイの言葉に2人は顔を見合わせた。


アステーラに住む人の半分は属性の加護がないと言われている。父にも属性の加護がない。母は水と風の2属性だ。上の兄アルドと妹リーナにもなく、下の兄ディルは水だけ使える。

魔法の素質があるかどうかは、特に家系や遺伝とかはなく、本人の生まれ持った資質なのだ。女神様も魂に付属するって言ってたしな。


魔法の確認は裏庭でやるということで、移動することにする。

家から出ると、誰かいるのに気付いた。背の高い人物だ。


「一応リスト呼んでおいてよかったよ」

ロイが彼に向かって軽い感じで挨拶すると、こちらに近付いてきた。

「フォルトナー辺境伯、ご無沙汰しております」

「リスト、君も忙しいのに身内の事情に付き合わせてしまってすまないね」

「いえ」

リストと呼ばれた青年は背が高く、栗色の短髪に茶色の瞳で、ちょっと日本人に似た色合いで親近感がある。優男風なロイと違い、精悍な顔立ちをしている。


「ニコ、こっちは僕の同期、というか友人でリスト。僕の使えない雷と光が使えるよ」

ロイに紹介されると、リストは右手を差し出してきた。アステーラでは握手が初対面の挨拶の定番だ。それを握り返す。

「リスト・パルシネンだ。よろしくな」

「ニコ・フォルトナーです。リストさん、わざわざすみません。今日はよろしくお願いします」

ロイの同期ということは、魔法使い(ソルティースト)だ。

ロイの使えない魔法を使えるから連れてきてくれたらしい。ありがたいことだ。


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