18 異世界のゲーム
「あー、やっと終わった」
「ありがとう。リアムのおかげだよ」
「ニコこそ、なかなかいい作戦だったよ」
馬車までは病人のふりをして歩いた。リアムがいつの間にか手配してくれていたので、公爵家の馬車に乗っている。
無事、騎士団入団は回避した。ほぼリアムのおかげだ。持つべきものは権力のある親友だな。
「本当はニコが魔法部隊に入ってくれたら楽しそうだと思ったんだけど仕方ないな。医局からも近いし、本部の食堂で一緒に食事したりできたのに」
確かに学生だった時みたいで楽しそうだけどね。
「転移も覚えたし、また来るよ」
「転移か…羨ましいな。ニコはもうフォルトナー領へ帰るのか?」
謁見は済んだし、錬金術師のゴードンに会って目的は達成したので明日帰るつもりだ。
「うん。明日帰ろうと思う。長居してまた呼ばれても嫌だし、リベルにも寄らないといけないし」
帰りにリベルに寄って、祖母の買い物とお茶に付き合う約束だ。
「…ああ、エルナおばあ様もニコのことすごく心配してたから。一日くらい付き合ってあげるといいと思うよ」
オレとリアムは母方の従兄弟なので祖父母は同じだ。そして祖母がどんな人なのかもよく知っている。
「家に寄っていくかい?母もニコに会いたがっていたよ」
「あ、そうだね。挨拶したいな。突然行って迷惑じゃない?」
「全然。夕食も食べていくといいよ」
リアムの家(完全に城)に到着すると、伯母のルシアナが出迎えてくれた。祖母エルナに似た美女である。おっとりしたニコの母のロレナとは少し系統が違う。
祖母のエルナを筆頭に年齢不詳な印象なのは血筋だろうか。
「ニコ、いらっしゃい。あなたが元気になって嬉しいわ」
「伯母上、ご無沙汰しております。ご心配をお掛けしました」
母の姉であるルシアナは王弟の妻だ。王妃の親友でもあり、身内ではあるが偉い人である。
「あなたたち、王城で一暴れしてきたそうじゃないの。うちの影が慌てて報告に来たわよ」
さすが公爵家。ついさっきの話なのに情報が速い。
リアムと顔を見合わせて苦笑いをする。
「魔法部隊の勧誘を断るなんて正気なの?」
「はは。縛られたくなかったので」
「リアムが手を貸したのも含めて陛下がうちの夫に相談されるでしょうから、また帰りが遅くなるわね…まぁいいわ。食事にしましょう」
王弟だし、陛下の相談役も兼ねているらしいしな。仕事増やしちゃってすみません。
メイドに食堂に案内された。ルーモディウス公爵家の食事はグリーベル公爵家と同じようなメニューのコース料理だった。流行ってるのかな?味はよかったのでおいしく頂いた。
デザートはオレンジのシャーベットだ。さっぱりしていて美味しい。
「王都で流行ってるお土産って何?」
母や妹のリーナに王都土産を買っていくつもりなので、リアムに何かいい案がないか聞いてみる。
「んー…流行ってる菓子店とかはあるけど、食べ物は日持ちしなそうだしな。小物とかアクセサリーでいいんじゃないか?」
「アクセサリーねぇ…」
選べる自信がないな。あと店に入る自信も…。
「いいものがあるわよ」
悩んでいるとルシアナから助け舟が出た。
「ヒューゲル領で綺麗な藤色の染料が開発されてね。何枚かハンカチを頂いたから、ロレナとリーナのお土産にするといいわ」
メイドからハンカチを渡される。
「綺麗な色ですね」
綺麗な発色の薄い紫の生地にワンポイントで花の刺繍が入っていて、女性が喜びそうなハンカチだ。
「ありがとうございます。二人とも喜ぶと思います」
元日本人のオレとしては遠慮してしまいそうだが、貴族のやり取りとしては笑顔で受けとるのが常識だ。後でお礼をすればいい。
「…そうだ。シャルロワに嫁いでいるクリシュナ元王女からカードゲームが贈られてきたんだ。父が一つ貰ってきたんだけど、最近シャルロワの貴族の間でも流行ってるらしいよ」
「カードゲーム?」
「そう。トランプ、っていう名前」
「…それ、オレ知ってるかも」
「え?」
「…前世のゲームだよ」
リアムにだけ聞こえるように言う。
「持ってきていいかな?遊び方がよく分からなくて」
リアムがメイドに指示をすると、すぐに運ばれてきた。
日本で見慣れたプラスチックではない立派なケースに入っていたが、中身は馴染みのあるものだった。
「…トランプだな」
スペード、クラブ、ハート、ダイヤのスート毎に13枚のカード、プラスジョーカー。ジョーカーは定番の道化師がモチーフになっている。
カードはこの世界用に改良されているようだ。端に1から13までの数字がふられている。11から絵札になっているのも同じで、11が騎士、12が王妃、13が王だ。1はスートが真ん中に大きく描かれている。
このカードはプレイングカードというのが一般的で、トランプと呼ぶのは日本だけだ。なので日本人、オレと同じく日本からの転生者が考案したものである可能性が高い。
…この世界には、オレの他にも日本からの転生者がいるってことだ。誰が作ったのか調べてみたい。
「これ一つで、かなりの種類のゲームができるよ。一番簡単なのは…ババ抜きかな」
「ババ抜き?」
「このジョーカーを最後まで持っていた人が負けるゲームだよ。人数は4人くらいいると楽しいかな」
リアムに道化師のカードを見せる。
「面白そうね。私もやってみたいわ」
伯母のルシアナが名乗りをあげ、もう一人、傍に控えていた30歳くらいの執事が入ることになった。カードを配りながらルールを説明する。
結果はオレが1位、ルシアナが2位、執事が3位で、リアムが負けた。
「ジョーカーを持っているのを悟られないようにするゲームなんだ。リアムみたいに表情変えるとバレるよ」
「単純だけど意外と面白いわね」
ルシアナは早くあがれたので満足そうだ。
「お茶会で披露されたらいかがです?他のゲームもできますよ」
「そうね。マギーにも教えてあげたいわ。クリシュナ姫が贈ってきたものだし、お礼のお手紙も書きたいでしょうからね」
ちなみにマギーというのは王妃の愛称である。正式にはマーガレットという名前だ。王妃の親友であるルシアナだから許される呼び方だろう。
王妃はシャルロワの王太子に嫁いでいるクリシュナ元王女の母であり、嫁いでくる前はシャルロワの公爵令嬢だ。
王妃と伯母のルシアナは魔法学校の同級生であり、王妃が在学中に現国王に見初められたというのは有名な話だ。ちなみに王妃は基本属性が全てあり、魔法使いの資格を持っている。
「それにしてもニコ……初めて見る玩具なのに、何故遊び方を知っているの?」
ルシアナの問い掛けにリアムと顔を見合わせる。
まぁ、聞かれるだろうとは思っていたが。設定の方なら言っても構わないだろう。
「これは内密にしていただきたいのですが……実は闘病中、前世を思い出したんです。このカードは前世のゲームですね。だから遊び方も知っています」
「まぁ……リアムは知っていたのね?」
「僕も今日ニコから聞きました。驚きましたが、全属性になったことも含めて嘘ではないと判断しました」
「…そうね。私もそう思うわ。魔力が別人だもの。初めて見たとき驚いたわ」
伯母も魔法学校の卒業生だ。鑑定は使えるだろう。
「オレの前世の国では、子供の頃からこのカードゲームに親しみます」
ババ抜きに神経衰弱、七並べ、ポーカー、大富豪など…オレが覚えているだけでもかなりの数がある。
「じゃあ、次は神経衰弱でもやってみましょうか。記憶力を試すゲームですね」
「不穏な名前ね」
「やってみれば分かりますよ」
オレはカードを裏向きに並べた。
その後も遅くまで盛り上がり、フォルトナー家に戻ったのはかなり遅い時間になってしまった。
伯母は満足したらしく、王妃にゲームを教えるのだと張り切っていた。
次の日の朝食はルチルとの約束通りパンケーキを食べて、王都でルチルお薦めのお土産を買い、午前中のうちに王都を出発する。
道中は数回魔物に遭遇したが、どれも低ランクだったので馬車を降りずに魔法で片付けておいた。
リベルの祖母のところに着いたのは次の日の午後だった。




