14 運のない盗賊と偽装ブラックホール
一泊して、早朝に公爵邸を後にした。
朝早かったのに朝食の用意がされていて、ありがたく頂いた。
お昼に食べるようにと、昨日の黒魔牛の肉が挟まれたサンドイッチも用意されていて、至れり尽くせりだ。公爵家の気遣いが心に染みた。
「おはようございます。ギルドマスターがお待ちですのでこちらへお願いします」
冒険者ギルドの建物に入ると昨日の受付の女の子が案内してくれる。今の時期、ギルドは朝6時半頃から開いているらしい。今は7時少し前だ。朝なのに冒険者達で既に賑わっている。
「待ってたぞ」
部屋に通されると、リストと、昨日のギルド職員が既に待っていた。
「俺はリベルのギルドマスターのアッシュだ。よろしくな」
あんた、ギルドマスターだったのか。
昨日無事に解体が済んだらしい黒魔牛は、既に買い手も付いているらしい。
「肉の品質は問題なかった。リストさんが解体した肉よりはグレードが落ちるが普通に市場に出回るレベルだ。内臓と骨は駄目だな。廃棄させてもらう。皮は少し劣化してるが買い取り可能だ。角と眼球、舌は問題ないな」
小さくされて戻された割には頑張ったんじゃないだろうか。予想以上の品質だ。
「解体料を引いて1体あたり大金貨1枚と金貨2枚だな。4体で大金貨5枚と金貨3枚」
1体20万強だ。なかなかのぼろ儲け率だな。
ちなみに倒してすぐ空間収納に入れてきた場合は大金貨4枚(約60万)にもなるらしい。高級食材だしな。うーん、空間収納超ほしい。
「ニコ、お前の取り分」
大金貨4枚だ。分配がおかしい。
「いやいや、いいですよ。倒したのリストさんですし」
オレは怪しげな魔法を使わせてもらって、運良く成功しただけだぞ。
「あのままだと魔獣のエサだったんだぞ?全部やってもいいくらいだ」
「いやいや、それにしても貰いすぎですよ。もともとこの旅自体リストさんに付き合ってもらってるんだし、リストさんが4枚、オレが残りで」
「いや駄目だろう。じゃあニコが3枚だ。これ以上は俺のプライドが許さないからな」
リストは譲る気はないらしい。
「貰っておけよ。先輩の面子を潰すな」
アッシュがそう言うので、オレが折れることにした。
「そこまで言うなら…ありがとうございます」
こんなに貰っちゃっていいんだろうか。大金だよ。
「そうだ、昨日のあの灯りって、フォルトナー領では魔道具になってたりするのか?」
アッシュが聞いてくる。ギルドで使いたいのかな?確かに夜でも解体ができれば便利だよな。
「ああ、まだ試作段階だけど。詳細はフォルトナー商会の商会長かディル、あ、ディルはオレの兄なんだけど、どっちかに問い合わせてくれ」
「分かった。早速今日問い合わせてみる。あれはぜひ導入したいからな」
アッシュの言葉にリストも頷く。
「俺も魔道具があるなら父に勧めたい。あの明るさなら昼と変わらないからな。値段にもよるがどこの領でも欲しがるだろう」
公爵邸でもそうだったけど、電灯はかなり需要がありそうだ。試作はできているけど魔石がどれくらい持つのかもまだ検証段階だし、量産体制もできていない。
「今年の夏からフォルトナー領で実用化する予定なんです。電灯は雷の魔石を使うから、定期的な魔石の提供をしてもらえるなら優先されるかと。グリーベル公爵領の次になるとは思いますけど」
リストは希少な雷属性持ちだからな。付与に協力してくれるとありがたい。
「そこは父と相談してみるよ」
冒険者ギルドを後にして、リベルを出発する。
グリーベル公爵領を南下し、エレディア子爵領、リュトガース伯爵領を通って王都になる。今夜はリュトガース伯爵領の街アイリスで宿を取る予定だ。
グリーベル領では特に魔物が出ることもなくエレディア領に入る。
エレディア子爵領は小さな領地だ。生活用品の魔道具を作っている職人達の街がある。複数の家電メーカーの工場がある街、といった感じだろうか。
街以外にはあまり魔物の対策をしていない領らしく、何度か魔獣と遭遇した。
なかでも身長が2メートル近くありそうな大型の猿の魔獣である大猿が群れで出てきてセリロが大慌てだったが、これもリストに難なく倒されていた。
大猿は石を投げたり棒などの武器を持って攻撃してくる。知能が高く群れて生活しているため厄介だが、肉は食べられず、売るのにはあまり旨味のない魔獣だ。
持ち帰っても仕方ないので火葬して埋めておいた。
リュトガース伯爵領に入ると街道沿いは畑や果樹園が増えてくる。
リュトガース伯爵領は王都に隣接しているため、昔から王都向けの食料品等の生産を行っている。野菜や果物、花やハーブなど幅広く作っていて、フォルトナー領のラカノン村の大規模版だ。
街道沿いのアイリスという街の宿で一泊する。ちなみに領主とその家族は王都に住んでいるため、アイリスにある領主館はほとんど機能していないらしい。
領主館とは領主が仕事をする場所で、フォルトナーの領主館にはパーティーができるような広いホールや、執務室、会議室、貴賓室などがある。
隣に領主の屋敷が建っていることが多いが、アイリスにはなかった。うーん、大丈夫なんだろうか?
翌朝、アイリスを出発する。
この世界には魔物がいるので、街や村は2メートルほどの壁で囲まれていて、夜は出入口である門が閉まる。
街の外へ出た時の危険は、魔物と、それから盗賊だ。
フォルトナー領やグリーベル領では盗賊対策をしているためほとんど盗賊が出ないが、他の領はそういうわけにもいかない。気を引き閉めて行かなければ。
盗賊が狙うのは商会が遠くから運んできた荷馬車や高級そうな馬車だ。野菜などを積んでいる荷馬車はそれほど金にならないので襲わない。リュトガース領で扱うのは野菜や果物。領主は王都にいるうえに自領の荷馬車は狙われないため、盗賊対策があまりされていないのが現状だ。
フォルトナー領でもグリーベル領でも冒険者ギルドに討伐依頼を出したり、騎士団が見回りをしている。しかし王都の東側というのは、王都周辺を警備する第1部隊と、リュトガース領とエレディア領を警備する第13部隊の管轄範囲が曖昧で、逆に警備が薄いのだ。
商会は王都で売るために商品を運んでいるので、王都間近で迎撃されれば大損失だ。
道中は魔物も出るため、商会が扱う荷馬車には護衛が付いている。護衛は馬に乗り荷馬車の四方を固めていることが多い。休憩中も見張りをする。
オレ達が乗ってきた馬車は4頭立てで質のいい造り、護衛の姿も見えない、まさに絶好のカモだった。
「痛い目に会いたくなかったら馬車と金目の物を置いていけ!」
「うわぁ…」
テンプレ通りの盗賊だなぁ。
補給所で休憩していた所を囲まれた。他に馬車もいなかったのも狙いやすかったんだろう。
「リストさん、魔法使っていいんですよね?」
「ああ、構わないぞ。死なない程度にな。ニコの魔法だと初級魔法でも死にそうだから気を付けろよ」
「分かりました」
殺しちゃまずいよな。何がいいだろう?
馬車とセリロはリストに任せて、その場で立ち上がる。
「聞こえなかったのかぁ!?立ち去れば見逃してやるって言ってんだよ!」
盗賊達が何やら怒鳴っているがガン無視だ。
あ、ちょっとやってみたかったことがあるんだよね。ちょうどいい。実験にやってみよう!
「ブラックホール」
隣に作り出したのは人一人が入れるほどの黒い空間。宇宙空間をイメージして闇魔法で作った。
「うっ、動けねぇ…!?」
「くそっ、魔法使いか!」
既に闇魔法の影縛りで影に実態を持たせ、足元を縛ってある。盗賊達は足元が動かせないので既にパニック状態だ。
「さて…捕獲」
一番近くにいた奴にターゲットを絞った。黒い大量の手がブラックホールからにょきにょき生えてくるのをイメージして。大量の手がターゲットを掴み、ブラックホールに向けて引き摺り込む。
「なんだこれ!?引き摺り込まれる!?」
見ている側の恐怖心を煽る大量の手がブラックホールから伸びてくる。
「やめろっ!やめてくれ……うわぁぁぁ…」
叫び声を上げながら一人吸い込まれた。ちなみにブラックホールの中は時空間に接続しており、真っ暗な広い空間に放り出されている状態だ。これもちょっとした恐怖だろう。後でまとめて放出する予定だ。
「はい、次ー」
次は二人まとめて。再びブラックホールから手が延びる。捕まえて引き摺り込む。
この魔法、イメージは真○の扉だけど、予想以上にうまくできたな。
「なっ、なんだ!?この魔法!?」
「ぎゃあぁぁ」
うまく恐怖を煽ったようだ。
残された盗賊達は完全に戦意喪失している。だが、許さん。盗賊滅びろ。
「ねぇ、あんた達のアジトはどこにあるの?ボスもそこにいる?」
「っ…答える義務はない!」
「ここから近い?そんなに遠くはなさそうだよね…」
「言うわけないだろう!?」
「へぇ…」
残された盗賊達の目の前で、ブラックホールを徐々に大きくする。馬車が丸々入るくらいの大きさになった。盗賊の残りはあと7人。
「コレに吸い込まれた後、切り刻まれるか押し潰されるか死ぬまで暗闇か……どうなると思う?」
「……………」
「さっき吸い込んだ3人はどうなったかな?ちなみにコレ、容量ないから何人でもオッケー」
「……………」
顔面蒼白になった盗賊達だが、影に足を縛られているため逃げられない。
「さて、アジトはどこだ?」
「いっ、言うからっ、やめてくれ!」
「お前っ!裏切る気か!?」
「こっ、ここから西に行った岩場を少し登ると洞窟がある。そこがアジトだ」
「ボスに殺される…!」
「どうせ今殺されたら同じだ!」
なかなか怖いボスであるらしい。アジトも聞き出したし、まるごと潰しておこう。
「捕獲」
黒い手が残りまとめて捕獲しにいった。
「教えれば殺さないって言ったじゃないか!?」
「オレは何も言ってないけど?」
叫び声と共にブラックホールに吸い込まれていく盗賊達。全員が吸い込まれると静かになった。
「…えげつないな」
リストが遠い目をしている。
「…今の、何魔法だ?」
「闇魔法メイン、あと時魔法ですね。リストさんにもできると思いますよ」
「初めて盗賊に同情したよ」
ブラックホールはただの暗闇の空間だ。別に入ったら死ぬわけでもない。初めて見た人にはちょっと刺激が強いかもしれないが。
「放出」
少し離れた空間からぺいっと放出された盗賊達は粗相をしていた。
「うわ、きたなっ!」
半分は気絶している。残りは泣いているか呆然としている。縛った方がいいんだろうが汚いので触りたくないぞ。
「おーい、大丈夫ですかー!?」
ちょうどそこにリストが魔道具で救援を出していたらしく、騎士団の騎馬隊がやってきた。
「リストさんでしたか!ん?これはどうしたんです?」
騎士団の皆さんが積み重なった盗賊達を見て首を傾げる。リストがことの詳細を説明していた。
盗賊達は騎士団に引き渡して終了。アジトの方も今から調査に行くらしい。
懸賞金のかかった盗賊だったらしく、後で冒険者ギルドから支払いがあるらしい。オレは冒険者登録をしていないので、リストに受取りを依頼しておいた。




