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11 王都へ出発!


王都への出発の日。

さい先よく快晴だ。


王都までは約500キロ。東京から大阪くらいの距離だ。

アステーラでの移動方法は馬車で、一般的な乗り合い馬車だと移動に10日程度掛かる。

乗り合い馬車はカッポカッポと歩いていく感じで、1日50キロほどほどしか進めないのだ。歩きよりは疲れないし速いが。

辺境伯であるフォルトナー家には、改良した健脚種の馬が4頭で引くスピードの出る馬車があり、今回はそれに乗っていくように勧められた。それでも3日半かかる。

速いんだろうけど、現代日本からするとやはり不便さを感じる。新幹線なら5時間だしな。

帰りは転移で帰ってこれると思ったが、馬車で行ってしまうと帰りが御者のみになってしまい、魔物や盗賊に襲われる心配がある。なので帰りも馬車で帰ることにした。ま、暇だしね!転移先を増やしつつ観光しながらの馬車の旅にする予定だ。


オレにとっては初めての長旅であり、王都での国王への謁見も控えている。道中が心配なので叔父のロイが一緒に行ってくれることになっていたが、来たのはロイではなかった。


「ニコ、久しぶり。元気だったか?」

「あれ、リストさん?」

ロイの友人で、同僚のリスト。家族以外でオレの事情を知っている人だ。


「ロイは用事ができたから来れないんだと。代わりに俺が一緒に行くぞ。よろしくな」

「そうなんですね。すみません、付き合わせてしまって…」

「気にするな。護衛の仕事ってことで来てるし、俺もフォルトナー家の馬車に一度乗ってみたかったからな」

人がよさそうな彼は、日本人風の色合いがホッとする人物だ。話しやすくて面倒見のいい頼れるお兄さんという感じだ。

リストと2人で馬車に乗り込む。御者はセリロというベテランの馬丁にお願いした。


「フォルトナーの馬車は快適だってロイは言うけど、想像以上だな」


フォルトナー領は、アステーラの北部にある。

フォルトナー領の国境都市グレンツから王都までは約500キロ。現在乗っているこの馬車だと3日半で到着するらしい。

改良した健脚種の馬が4頭で引く馬車で、6人乗りだ。何でもロイが研究した魔石を使っていて、馬の負担を軽減する馬車らしく、自転車くらいのスピードだ。座るクッションもよく、揺れも他の馬車より少ない。電動アシスト付自転車みたいなもんだろうか。すごく揺れたり尻が痛くなったりを想像していたが、割と快適である。


王都からグレンツまでの街道はしっかり整備されている。比較的平らな道だ。物流は商売の要であり、それぞれの領地が力を入れる所でもある。


街道には10キロごとに馬の補給所があり、人間が休憩するスペースもある。宿屋はないが夜営も出来るようになっており、食べ物や飲み物を売って商売をする人もいる。高速のパーキングエリアのような感じだろうか。基本的に街の外は魔物が出るが、この補給所内は魔物避けがしてあり、安心して休息ができるセーフティーエリアになっている。

また、街道沿いの街や村では宿屋があり、馬の入替えも可能だ。


今日はフォルトナー領最南端の街道沿いの街、レイザンを目指す。グレンツからは150キロほどで、グリーベル領へ渡るための橋と、大きなワイナリーがある街だ。


レイザンの街の先は、グリーベル公爵領、エレディア子爵領、リュトガース伯爵領を通って王都となる。

お隣のグリーベル公爵領はニコの母ロレナの出身であり、親戚筋になるので、グリーベル領の領都であるリベルで公爵である叔父達に挨拶する予定だ。…母方の祖母が元気になったら顔を見せろと何度も手紙を送ってきているので、孫の務めとして挨拶は必要だろう。


街道の最初の村であるラカノンを過ぎ1時間ほど走ったので、補給所で休憩していくようだ。補給所は柵に囲まれた広場のようになっていて、トイレや水場などがある。オレ達以外に休んでいる人はいない。

馬が休憩中は自分達も休憩だ。御者も疲れてるだろうしね。


「リストさん、セリロ、水どうぞ。あとお菓子もあるよ」

水魔法で作った氷のグラスに、水魔法で水を注いだものを渡す。お菓子は日持ちするクッキーだ。料理人のチェリに作ってもらった。ナッツやドライフルーツが入っていて美味しい。


「おー、ありがとう。なにこれ、うまっ」

「坊っちゃん、この水、冷たくてとてもおいしいです!」

水を受け取った2人が驚く。

「でしょ?氷のグラスだから冷えるし、治癒魔法の練習で軽く体力回復する魔法もかけてるから」

「出たよ非常識。あー、でもこの氷のグラスいいな。これで夏に麦酒飲みてぇ」

確かに麦酒はよさそうだ。前世でも飲んだことないけどさ。


馬が飲みたそうなので同じように治癒魔法をかけた水を注いでやる。美味しかったようで4頭ともガブガブ飲んでいる。

「馬にまで水を与えていたら魔力がなくなってしまうのでは…」

「気にしなくて大丈夫だ。ニコは魔力量が異常に多いから、減ったうちにも入らないぞ」

セリロの心配する声にリストが答える。


休憩したら出発だ。心なしか馬にもやる気が漲っている気がする。


「やっぱり水魔法はいいよな。旅にはすごく便利だ」

俺も水属性が欲しかった、とリストが言う。

「水魔法の加護があれば商人になれ」と言われるほど商人に水魔法持ちは重宝されるという。飲み物には困らないし、暑い時は荷物や人を冷やしたり、洗い物にも使える。

農業者にも重宝され、薬師(アポテキースト)にも必須属性で、一番需要のある属性かもしれない。


「俺の加護は雷・光・闇・時の4つなんだ」

「そうなんですね」

リストの加護は、特殊属性プラス希少な雷属性か。偏ってるな。


「魔法部隊に入れる条件て知ってるか?」

「?いいえ」

魔法部隊は、30名ほどの少数精鋭部隊だ。いわゆるエリート。その条件は聞いたことがない。騎士団の中で優秀な人をスカウトするのかと思ってたけど。


「転移魔法が使えること。長距離の転移魔法を使った状態で上級以上の範囲攻撃魔法または治癒魔法が3回以上使えること。複数人の推薦を受けていること。魔法部隊員の半数以上の同意があること」

「へー。狭き門ですねぇ」

リストの言う条件に納得する。

要は魔力が高くて、転移のために闇と時魔法の加護は必須ってことか。それから実力を認められた者でないと入れない訳だ。


「俺達は普段王都にいるんだが、有事の際には緊急召集がかかる。騎士団には薬学分室と錬金分室っていうのがあって、そこで薬や武器、魔道具なんかを作ってる。それを持ってすぐに向かえるように転移魔法は必須で、すぐに戦力になるように魔力も高くないといけないんだ。人柄も調査され、問題を起こした場合は推薦者の責任になる」

「なるほど」

やっぱり精鋭部隊って感じだな。


「ロイも含めてだが…俺達はニコに魔法部隊に入ってほしいと思っている」

「オレですか?」

転移も覚えたし、一応条件は満たしてるのか。ロイもその可能性について話してたしな。


「陛下との謁見のことも聞いてる。ニコの保護は魔法部隊の隊長が乗り気でな。おそらく隊長が特例での入団許可と魔法部隊への配属を申し出て、それを陛下が認める形になるんじゃないかと思う。できれば受けてもらいたいが…」

「それってやっぱり断れない感じです?」

「まぁ、一般的にはな」

リストはオレが魔法部隊に入る気がないことをロイから聞いているんだろう。


「病み上がりで体力も全然ないですし、とりあえず健康を理由に先伸ばしにしようかと思ってます」

「それならいけるかもな」

ロイに対策を立てないと断れないと言われたので、いくつかの案を考えたのだ。


「ロイ兄さんに、騎士団の規則とか、福利厚生が纏めてある本を借りたんです。そのへんから潰していけるかなと」

「そうか……ま、失敗しても俺はニコが魔法部隊に入ってくれるなら歓迎するぜ」

「頑張ります」

リストはいい人だな。ロイと友人なのが分かる気がする。


しばらく街道沿いを進むと葡萄畑が広がる。フォルトナー領名産の葡萄酒用の葡萄である。今は6月なので、まだ新緑の葉が広がっているだけだが、ちょうど花が咲いて実を付ける大切な時期だ。

東側の海まで流れる大きな川があり、川沿いにひたすら葡萄畑が続いていく。


「そういえば、リストさんて、パルシネン伯爵のご親族ですか?」

「ああ、俺はパルシネン伯爵の三男だ。もうすぐ兄が跡を継ぐがな」

ロイ達が魔法学校に通っていたのは十数年前だ。その頃はまだ父ではなく祖父が辺境伯だった。やっぱり三男だったロイとは、立場的にも気が合ったのかもしれない。


「オレも三男なんで、三男同盟ですね」

「そうだな」

リストが笑う。

リストも、ロイやニコと同じ三男。なんとなく親近感を感じてしまう。実は貴族において三男以降というのは大人になると微妙な立場になる。

まず、基本爵位は長男が継ぎ、二男はその予備だ。もちろん例外はあるが。

三男以降になると家を出ることが大半であり、爵位を得るためには別の貴族の家に婿として入るか、騎士団などで功績を認められ爵位を国王から授けられるかしかない。

ロイは騎士団の魔法部隊の副隊長であり、魔道具の発展にも貢献しているため、男爵の爵位を持っている。

貴族において男爵は領地を持たない。また一代爵位とも言われ世襲できないが、「国に認められた貴族」ということが大事であり、ステータスでもある。活躍や貢献度によっては子爵に上がることもあり得る。


ロイもリストも、そしてニコも跡を継げないことは分かっていたので、魔法学校を出て騎士団の寮に入り生計を立てることを選んだ。

ニコは志半ばで逝ってしまったけれど。その分はオレが生きるので次の人生こそ幸せになってほしい。




そうこうしているうちに最初の目的地に到着した。

フォルトナー領の最南端、グリーベル公爵領との境にあるレイザンの街だ。グレンツからは約150キロ。朝出発して夕方には着いた。特に魔獣との遭遇もなく、平和な道中だった。

泊まるのは宿屋ではなくレイザンの町長の屋敷だ。フォルトナー商会のレイザン支店長でもあり、フォルトナー辺境伯の分家であり親族になる。

あまり気を使わせるのも悪いので、夕食はリストと外でとることにした。



街道沿いの街であるレイザンは、グリーベル公爵領や他の領地へ分岐する中継地点であり、グレンツで仕入れた輸入品や、レイザンで作られた葡萄酒などを王都や他の領地へ販売する拠点となっている。

いくつかの大きなワイナリーがあることでも有名な街だ。ワイナリーで働く人は酒好きが多く、葡萄酒や麦酒などを料理と共に味わえる店も多い。葡萄酒を求めてやってくる観光客もいて、活気のある街である。


リストに連れられて入ったレストランは、富裕層向けのちょっと良さげなレストランだった。もともとはロイのお気に入りで、葡萄酒の種類がたくさんあるらしい。

レイザンは海から離れているので、肉料理が中心だ。

この店はビーフシチューとチーズフォンデュなどがお勧めらしく、リストが色々と頼んでいく。


「葡萄酒はこのお勧めで。グラス2つ…あ、ニコは飲めるのか?」

「実は飲んだことないんですよね」

「そうなのか!?」

ニコは病気してたしね。

アステーラは16歳で成人だから、一応飲める歳なんだよな。飲んでみたい気がする。


「こちらは、甘口で度数も低いですよ。成人のお祝いで飲まれる方もおります」

「じゃあ、それで」

店員の勧める赤葡萄酒をグラスで貰う。


「道中の無事と、ニコの初めての酒に乾杯」

「乾杯」

アステーラの乾杯は軽くグラスを合わせる。

この赤葡萄酒はジュースに近いな。飲みやすい。うっかりたくさん飲んじゃいそうな味だ。


「美味しいです」

「初めての酒なら、辺境伯と飲んだ方がよかったんじゃないか?」

「父とはまた飲みますよ」


前菜を摘まみながら葡萄酒を飲んでいると、注文した料理が運ばれてくる。

チーズフォンデュは、旅館とかで出る一人用のすき焼きみたいなやつだ。下に火の魔石を使った魔道具らしい。カットしたパンやソーセージ、温野菜が何種類も乗っていて豪華だ。ビーフシチューも肉が柔らかくて美味しい。


自分の分は飲み終わったので、リストが頼んだ葡萄酒も飲んでみることにした。

発泡葡萄酒(スパークリングワイン)の辛口の白だ。これも割と美味しい。料理も葡萄酒も美味しかったので2人で何本かの瓶を空けてしまった。


「もしかして、意外といけるクチか?」

「そうみたいです」

割と飲んだ筈なのに酩酊感がまったくないな。

…………。

もしかして女神様のくれた状態異常無効が『酔う』という状態を打ち消しているのではないだろうか。


…いいのか悪いのか。

まぁ、前世も含めて初めての酒の席は、楽しく過ごすことができた。


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