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10 治癒師メイドと治癒魔法


ロイに転移魔法を習った日から、誰か同行者がいればフォルトナー領内は自由に出歩いてもいいことになった。

転移魔法は行った場所にしか繋がらないので、少しずつ行動範囲を拡げている。


アステーラは、海と山脈に囲まれた国だ。北東部は隣国と繋がってはいるが、標高の高いフロンテ山脈が横断していて、隣国との間を隔てている。


フォルトナー領は、アステーラの北部にある。アステーラは暑い国だが、フォルトナー領の夏は他の地区より若干涼しく、冬は湿度が高く温暖だ。

今は5月。だんだんと暑くなってくる季節だ。アステーラに梅雨はないので、このまま暑い日が多くなって夏になる感じだ。日本と比べて湿気はないのでじめじめはしていない。


フォルトナー領には領都の他、街が3つ、村が8つある。オレが住んでいるのは領都である国境都市グレンツだ。隣国シャルロワと橋で繋がっている珍しい都市である。


グレンツから一番近いのは、ラカノン村だ。

街道沿いにあり、南に8キロほどしか離れていない。養鶏と様々な野菜を作っている村で、主にグレンツの市場に卵と鶏肉、野菜を供給している。

備蓄品を貯蔵しておく施設や、魔法で温度管理をして野菜や果物を育てる施設もあり、フォルトナー領の食料事情に一役買っている。

街道沿いのため、村への入口は北と南の2ヶ所。転移をするために場所をしっかりと覚えた。

ラカノンはグレンツの発展に合わせて作られた村なので、村の中は区画ごとに整備されている。備蓄庫などの施設が多い印象で、警備のため騎士団の詰所もあるためパン屋や酒屋、食堂などもあり、村の割には賑わっている印象だ。


ラカノンから街道を北に戻り、街道の分岐点から西にしばらく行くと、何もない荒野地帯に到着する。

海に近く塩害を受けるため、作物は育てられない土地だ。ここなら魔法を使っても大丈夫だろう。

ちなみにこのまま街道を西に行くと、海沿いにザウトの街がある。

ザウトは漁港があり、海鮮卸売市場と、塩作りをする工場があり活気のある街だ。漁師の街、といった雰囲気である。

グレンツからは50キロほどあり遠いのでまだ行けていない。


ちなみにここまでは馬車で来た。御者をしていたのはメイドのレラだ。フォルトナー家のメイドは御者もできるらしい。有能だ。

広いがここには馬を繋ぐ場所がない。このまま馬車を放置すると、魔法に驚いて馬が逃げてしまうかもしれないので、囲いを作ることにした。


上級魔法に、(カージョ)という魔法がある。魔力の檻を作り、対象物を閉じ込める魔法だ。魔物を捕獲したり、罪人を拘束する時などに使う。

教科書に載っている基礎魔法なので、5属性統一でできるのだが、火とかは不向きじゃないだろうか。魔物にやるならいいのか?丸焼きになりそうだけど。

「…火の檻(ファイロカージョ)って熱くない?」

「熱いですよ。人や馬にはやらないでくださいね」

一緒に来ていたメイドのレラに、念を押された。


「…土の檻(グルンドカージョ)が無難だよな」

大きめにしよう。馬がのびのびできる広さで。動物園の檻みたいな感じでイメージ。


土の檻(グルンドカージョ)

できた檻は、10メートル四方くらいの大きさになった。

「随分広い檻で…」

「はは…」

遠い目をするレラに笑ってごまかす。いいじゃないか。大は小を兼ねる!

2頭の馬を馬車から外してやる。水魔法で水を出し、馬車に積んできた飼葉を与えると、のびのびと檻の中を歩き回った。



ロイに指定された王都へ行く日程は1ヶ月ほど先なため、ロイに借りた魔法大全を読み込み、片っ端から試してみることにした。

例の広い庭で初級魔法から試していたのだが、馬も驚くし危ないから一人で魔法を使うなと皆に説教された。オレの初級魔法が初級魔法の威力にならないのが原因らしい。


それに対して父が専属で付けたのがレラだ。

レラは治癒師(クラシースト)の資格持ちで、魔法学校を出ているためオレの先輩に当たる。歳は18歳だ。

風と光の属性があって、ニコが病床にいる間は大分世話になった。気休めですが、と言いながら毎日治癒魔法を掛けてくれていたのだ。ニコは随分楽になっただろう。


「じゃ、防御魔法から試してみるか」

「防御魔法…(ムーロ)(シールド)あたりでしょうか」

「…(ムーロ)はこの前やったから(シールド)にしようかな」

中級魔法の(ムーロ)は、ロイ達との検証の時には魔法の威力を確認するために使ったが、実践では魔法攻撃などを防御する物理的な壁として使う。広範囲を防御できるので、使い勝手のいい魔法だ。ただ壁がある間は前が見えなくなるのが難点である。


対して(シールド)は、属性魔力で作ったコンパクトな盾だ。例えば炎を吐く魔物には炎の盾(フラーモシールド)を展開することで威力を相殺する。利き手ではない方の手に付与するのが基本だ。一度攻撃を受けると消えてしまうので、かけ直す必要がある。


「必ず手から離れた位置に展開してくださいね。炎は火傷しますよ」

「おう…」

危険だな。火魔法。


炎の盾(フラーモシールド)……あっつ!」

手からは離したつもりだったが、身長より大きくなってしまったため、熱風がもろに当たった。慌てて魔法をキャンセルする。

「…いや、大きすぎないですか?」

「言わないで」

オレの魔法は普通にイメージしても、どうしても大きくなってしまう。オレは魔力量が異常に多くて前世のせいでイメージする力も強い。繊細な制御が苦手だ。


「ていうか、火傷しました?左手赤いですよ」

「少し。ちょっとヒリヒリするけどたいしたことないよ」

防御魔法で火傷とか…情けない。


「せっかくなので治癒魔法を練習しましょうか」

「え?いいの?」

試みたけどまったくできなかった治癒魔法を教えてもらえるらしい。怪我の功名だ。


「ご存知だと思いますが、治癒魔法は光属性限定の魔法です。光属性の加護がないと使えません」

レラの言葉に頷く。

特殊属性の光の加護を持つ者は希少だ。光属性の加護があったら、必ず治癒師(クラシースト)を目指すように言われる。この職業はどこへ行っても引っ張りだこで、食いっぱぐれることがない。人の役にも立つ幸運な職業だと言われる。


「光は悪いものを浄化し、再生し、生き物を循環させます」

レラが掌の上に輝く光を作った。その光を眩い光から静かな光へ変化させる。


「イメージは太陽と月の光。太陽は熱く輝くエネルギーに溢れた光、月は優しく冷涼な光です」

「なるほど…」

太陽は燃える星だ、というイメージがオレの治癒魔法を迷わせてる気がする。

太陽の光を浴びると人は活性化する。日光浴も健康にいいと認められている。


「よし。やってみよう」

火傷してヒリヒリする左手に右手を当てる。


「怪我を治す時は細胞を活性化させて治りを早くするイメージです。時魔法が使えると加速できるんですけど、私はないので。ニコ様は使ってみてください」

癒す、というより細胞が活性化する、と考えた方がよさそうだ。それから加速か。


癒し(レサニーゴ)

魔法は、イメージ。

目を閉じてしばらく細胞が活性化するのを想像していたら、痛みが退いていった。左手を見るともう赤くなってはいない。


「できましたね。さすがです」

レラが笑顔で言った。

治癒魔法はこの癒し(レサニーゴ)を覚えれば、後はその応用らしい。


「腕などが欠損している場合は時間が早ければ早いほど直せる確率が上がります。欠損した部分がないと元通りにはならないですね。くっ付けて細胞を繋ぐ感じになります」

あまり欠損に出くわしたくはないが、いざという時に使えるかもしれない。


「腹痛や頭痛などの体の内部の痛みを軽減する場合には、細胞を活性化するというよりは、患部を温めて痛みを和らげ、できるだけ悪い部分を取り除くイメージになります。痛みのある部分とは違う場所に病がある時があるので、私は診察を先にすることが多いです」

「診察?」

「まぁ、鑑定ですね。鑑定も光属性が入ると体の内部まで見ることができます。私には悪い部分がなんとなくモヤモヤした感じで見えますね。病名とかまでは分からないので、投薬などは症状で判断できる医者の仕事になりますが」

治癒師(クラシースト)の資格がある者は治癒院か騎士団で働くことがほとんどだ。魔法学校でもそれを想定して在学中に実践レベルで治癒ができるように教育される。レラもそうだろう。


「病気の時のオレの場合はどうだった?」

「ニコ様の場合はモヤが全身にまわってる感じでしたね。治癒魔法をかけてもモヤがなくならない状態でした」

ニコは白血病だったと仮定すれば、病は全身にまわっていた。オレにはもう喉元を過ぎた記憶しかないが、きっとニコはすごく辛かっただろう。


「病床で…いつもレラが痛みを取り除いてくれて、本当に楽になったんだ。レラの優しさに救われていた。ありがとう」

「…っ、いえ。少しでもニコ様の気持ちが晴れたのなら、良かったです……ニコ様が元気になられて、本当に嬉しいです!」

レラはそう言うと、食事の準備をしてきます、と馬車の方へ走っていってしまった。…照れたのかな?


残されたオレは炎の盾(フラーモシールド)氷の盾(グラシオシールド)を合体できないか試して…。

また治癒魔法を自分にかけるはめになった。



「お食事の用意ができました」

レラが呼びに来たので見ると、檻の中にパラソル付きのテーブルと椅子がセッティングされている。そんなものまで馬車に積んできたのか。


テーブルの上には色とりどりなサンドイッチと、手で摘まめるカナッペやピンチョスなどのフィンガーフード。一口サイズにカットされたフルーツ。それから葡萄ジュースが銀のグラスに注がれる。


「美味しそうだね」

「チェリにお願いしました。オシャレですよね」

チェリはうちの料理人だ。パンやお菓子が得意な若い女性で、フォルトナー家で出てくる焼き立てのパンは彼女が作っているらしい。


「レラも一緒に食べよう。休憩して」

「では遠慮なく」

おそらく二人分で用意された昼食は、二人で美味しくいただく。葡萄ジュースがぬるかったので、魔法で氷を出して入れたら「魔力の無駄遣い…」と呆れられた。羨ましそうだったのでレラにも入れてあげた。


「レラはどうしてうちの使用人になったの?」

治癒師(クラシースト)なら、もっといい就職先もあったろうに、彼女は魔法学校の卒業と同時にフォルトナー家の使用人になっている。

理由を聞くと魔力もそこまで多い方ではなく、治癒院や騎士団で治癒師(クラシースト)として働くのにも不安があり、フォルトナー家の使用人の待遇の良さと、住み込みで働ける仕事に魅力を感じたそう。


「フォルトナー家の使用人はとても人気なのです。私達3人は同時期に採用されましたが、幸運でした。300人以上の申込みがあったそうですよ」

「へぇー」

すごい倍率だ。


「フォルトナー家の使用人の待遇がとてもいいことは有名です。厚待遇の使用人が辞めることは滅多にないので、求人がかかるのもまれです。ロイ様のご実家なのもあり、大人気でした」


3年前にフォルトナー家から出された求人はとても魅力的だったらしい。

年齢15歳から30歳の女性。住み込みのメイドとして若干名募集。経験不問。やる気、体力、特技のある方。週1回の休暇、長期休暇あり。3食付き。給金は大金貨1枚(約15万円)から。

ちなみに大金貨1枚というのは高給取りと言われる騎士団の初任給と同じ金額だ。早朝から夜まで働くとはいえ、使用人に対しての初任給としては破格といえる。


「経験は不問とのことだったので、採用されればラッキー、くらいの気持ちで申込んだのです。魔法学校では寮生活でしたので、掃除や洗濯は普通にしていましたし、面接で特技を聞かれましたので治癒魔法と答えましたら、興味を持っていただけたようで採用となりました」

治癒魔法が使えるメイドなんてレラくらいだろうしな。受かって当然のような気がするが。


「ジーンは王都の貴族の家でメイドとして働いていたそうです。休みも取れず、給金もあまり良くなかったそうで、フォルトナー家は天国だとよく言っています。カリナはグリーベルで服を売る仕事をしていたそうですよ。流行に敏感ですし、お裁縫も得意です」

同時期に採用されたジーンは即戦力、カリナとレラは特技が採用されたのだろう。

3人とも明るくてよく働く気立てのいい女性だ。採用をしたクラウスはさすがの審美眼だと言える。



食事休憩の後、また魔法の試し撃ちを再開した。

上級魔法まで試してみて、威力が強すぎるとレラに止められたので、最上級はイメトレのみにした。


それから王都へ行くまでの間、レラと何度かこの場所を訪れ、様々な魔法の練習をするのであった。


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