1 異世界へ転生することになりました
初投稿です。
遅筆ですがよろしくお願いします。
高校3年生になる春、受験生のオレは家から徒歩で5分ほどの所にある塾に通い始めた。
塾からの帰り道。時間は午後10時少しすぎ。道路を渡ればすぐ家だ。
横断歩道の信号は青。
半分ほど渡ったところで横から来た車のヘッドライトが眩しくて目が眩んだ。停まる筈の自動車のスピードは落ちない。
ヤバい、と思った瞬間、焼けつくような熱さと共にブラックアウトした。
「……さん、境 春樹さん」
誰かが呼んでいる。
「…あれ、」
呼ばれて目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。見渡す限り真っ白。何もない。目の前にいる女の人以外は。
「はじめまして。私はアストライア。世界を守る神の1人です」
「かみ」
すごい美人だ。しかもその体はうっすら発光している。金髪碧眼で白くて薄い衣装を着た、ザ・女神!という感じである。
「神様、か……オレ、死んだの?あの車すごい勢いだったもんな、即死だよなぁ…」
死後の世界ってやつか。短い人生だった。オレ、まだ17歳だったのにな。彼女もできたことないのに。はぁ…。
この女神様からこの先の身の振り方を指示されるのだろうか……、行き先が天国か地獄かみたいな?あれ?それは閻魔大王だっけ?
「確かにあなたは亡くなりましたが、ここは死後ではなく、狭間の世界となります。不干渉の、どこにも属していない世界です。実はあなたの魂は地球では特殊でして。このまま地球の輪廻に置いておくのは不都合があるので、別世界に魔法使いとして転生していただきたいのです」
「はぁ…??」
後半、女神様が言ったことが全く理解できず、訝しげな声になってしまう。
魂が特殊?地球に置いておけないから別世界に魔法使いとして転生………なるほどわからん。…ん?魔法使いって言った?なんで魔法使いに限定?ていうか異世界転生?ラノベか?それともこれも夢?病院で目が覚めたりする?
混乱する頭で考えても理解不能のため、とりあえず目の前の女神様に答えを求めることにする。
「ちょっとよく分からないんだけど」
女神様、分かるように説明してください。
「説明不足でしたね。申し訳ありません」
女神様は少し目を伏せると、オレの想像の斜め上を行く話をし始めた。
「まず、あなたの魂が特殊だということについてですが、あなたは魔力の器が非常に大きいうえに全属性加護なのです。魔素や魔力のほとんどない地球では完全に宝の持ち腐れですが」
「はぁ……魔力ぅ?」
地球人であるオレは今までそんなものは持ったことがない。もちろん魔法が出てくるファンタジーな本やゲームではよく使われる設定であり、その存在はなんとなく分かる。ゲームだとMPで表示されるやつだ。たくさんあると強力な魔法が使えて、減ると魔法が使えなくなるやつ。
「いや、魔力なんて全く感じたことないんだけど」
「地球では魔素がほとんど存在しないので、魔力は感じられませんが…あなたの魔力の器は巨大です」
「巨大」
「ええとても。そもそも何故地球にあなたの魂があったのか不明ですが……振り分けを間違えたのでしょうか」
不思議そうにそう仰る女神様に頭が痛くなる。
なに、オレ、間違って地球にいたの?勘弁してくれ。
「……その、魔力の器?が大きいって具体的にどういうこと?」
「魔力の器というのは魔素を大気中から取り込んで体に溜めておく容量のようなものです。魔素というのは魔力の素となるもので、大気中に溢れています。地球にはほとんどありませんが。魔素を魔力に変換し、魔法を発動します。魔力の器が大きいほど、魔力をたくさん溜めて使用することができます」
「ああ…なるほど」
魔力の器が大きいということは、やっぱりMPが高いということだな。職業魔法使いか。ファンタジーだな。
「地球では、あなたの魔力の器に惹かれて集まった僅かな魔素が歪みを起こし、静電気として発動していたようですね。電化製品が壊れやすいのはそれが原因かと思われます」
「なんと」
確かにオレは昔から機械と相性が悪く、家電がよく壊れる子供だった。確かに他の人よりも静電気の発生が高かったよ。冬なんかバチバチしていた。体質なんだと思ってたけど。
……死んでからその原因が解明されるとは!?
「今回の事故もあなたの器による歪みが原因で起こったものです。あなたは地球で生まれ変わっても長生きできません」
「ええ―――…」
あの事故もオレが原因てこと?理不尽だ。しかも生まれ変わっても長生きできないとか。完全に詰んでるじゃないか。
すると、だ。
「えっと、生まれ変わって体が変わっても、その魔力の器っていうのは変わらないの?」
「そうです。魔力の器は魂に付属します」
女神様は頷いた。この女神様は無表情だな。さっきから全く表情が変わらない。それでも美人だけど。
「全属性加護っていうのは?」
なんとなく想像はつくが、すべての属性の魔法を使えるということで合っているのだろうか?
「魔法は魔力の器と、属性の加護がないと使えません。加護というのは属性魔法との相性のようなもので、全属性加護はすべての属性の魔法が使えます。あなたは魔力も非常に多いので制限がほぼないということになります」
…何かとても自分の話とは思えないんだが。これ完全に魔法チートじゃん。
まぁ、女神様が嘘を言うとも思えないし、本当なんだろう。そう信じたい。
「なるほど…。オレは魔力量が多くて全属性だから、しかるべきところに転生すれば色んな魔法が使える、ってことでいい?」
「そうなります。見過ごすのが勿体ないほどの才能ですので、地球ではなく、ぜひ転生先で活躍してもらいたいと考えています」
「う――ん……」
今までの話を総合すると、オレは魔法を使うための魔力の器が大きく、全属性。魔法の才能があるらしい。ただし、魔力や魔法の存在しない地球では無意味で、その器の歪みのせいで影響を受け長生きできない。この機会に魔法の使える世界に転生をさせたい、ということだろう。
転生をするのは別にいい。早く死んでしまったためやり残したことも多いし、長生きできないなら地球に拘る必要もないだろう。
まぁ、実際に行ってみないと分からないが、単純に魔法を使えるというのは楽しみではある。全属性らしいしね。
「分かったよ。で、転生先って、どんなところ?」
どうやら転生するのは決定事項のようだし、色々と質問をしておこう。
オレが転生を了承したことで、女神様はホッとしたような感じだった。無表情だからあくまでオレがそう思っただけだけど。
「あなたが転生するのは、第三魔法世界、『騎士団と魔法の国アステーラ』です。あなたには辺境伯の三男、ニコ・フォルトナーの体に入ってもらうことになります。年齢は16歳ですね。彼は不治の病で、まもなく命が尽きます」
「えっ、その人の体を乗っとるってこと!?」
いいの!?倫理的に。
「彼の魂が抜けた後ですので問題ありません。彼の魂は輪廻に入り、別人として生まれ変わります。それが数年後か、もっと後かは分かりませんが」
「うーん…」
テンプレ的に新しく作った体に入るか、自分の体で行くか、もしくは生まれたての赤ちゃんになるかと思ってたけど違うようだ。
乗っ取りとかちょっと気が引けるけどな。
「あなたが気に病む必要はありません。タイミング的にちょうどいい転生先なのです。一から体を用意するには時間がなさすぎますし、フォルトナー辺境伯は経済的にも裕福で魔法に造詣が深い。人柄もよく、あなたが新しい人生で魔法を使うには最適の環境と言えます」
なるほど。条件は悪くないと。16歳なら一人で行動しても大丈夫だろうし、経済的な問題もない。更に貴族の後ろ楯もあるってことか。確かに悪くない気がする。
「魔法って、オレもすぐ使える?」
その問いに女神様が頷く。輝いてはいるが相変わらず無表情だ。
「第三魔法世界において、魔法は魔力の器を持っていて属性に加護があり、イメージできれば誰でも使えます。魔力量と使いこなす素質によって使える魔法は限られますが、少し習えばあなたに使えない魔法はないでしょう」
オレは魔力が多いらしいし、全属性らしいので使える魔法に制限がない。イメージすれば魔法が使えるってことは、新しい魔法とかも作れちゃったりするかも?ちょっとワクワクしてきた。
「あ、その属性って何があるの?」
これも聞いておこう。作品によって種類がまちまちだからな。
「第三魔法世界では火・水・土・風・雷が基本の5属性。他に光・闇・時が特殊属性とされています。その他、例えば氷は水魔法の派生、瞬間移動をする転移は闇と時の同時使用となります」
おお、何だかファンタジーっぽくなってきた。転移とか心踊るね。ルー○だよ。ルー○。
「へぇー。その転移とか、あと空間収納とか鑑定とか錬金術とかオレも使える?」
異世界転生でお約束な便利魔法だ。使えると嬉しいぞ。期待をこめて女神様を見る。
「あなたが想像する魔法と同じかどうかは分かりませんが、すべて第三魔法世界に存在する魔法です。少々癖はありますが覚える気があるなら使えるでしょう」
「おお~」
俄然楽しくなってきた!これはもしや魔法チートじゃないか?ラノベ風に言うと『転生したら魔法使い(チート)でした』だな!
「その第三魔法世界って、オレが行くのはアステーラ、ってとこじゃないの?」
「アステーラは国名です。地球のような世界単位の名称がありませんので便宜上そう呼んでいます」
「星の名前がないのか…」
第三魔法世界。第一と第二もあるんだよな?
「それから、勝手に別世界に転生させるお詫びとして、一つだけですがギフトとして特別な能力を授けましょう。何か能力に希望はありますか?」
「…ギフト?何でもいいの?」
女神様からのギフト…いわゆる特殊スキルってやつだろうか。そんなおまけまでくれるのか。
「ギフトは常識の範囲内であれば何でも構いません。例えば身体能力を上げる、どんな武器でも使いこなす力、不老不死でも結構ですよ」
不老不死……いいんだ。それ願っても。ホントに常識の範囲なのか?でもちょっと怖いな。半身不随で死ねないとか嫌だし。やめとこう。
身体能力を上げるのは魅力的だな。どんな武器でも使いこなす力は、魔法が使えるだろうからそこまででもないかな……いや剣も魔法も最強ってどんなチートだよ。勇者にでもしたいの?
ラノベでよくある頭の中で質問すると答えてくれる存在とかどうだろうか……いや、普通に人に聞けばいいよな?転生先のニコにも家族がいるだろうし。
「あ、言葉は伝わるの?」
言葉、コミュニケーションツールは重要だよね。テンプレだと異世界言語補正されてることが多いけど。
「そこは心配いりません。転生先のニコ・フォルトナーの記憶と融合する形になるので、彼が持っている知識を引き継ぐことになります」
なるほど。ニコの記憶があるってことは、言葉も転生先の価値観も問題ない訳か。
ギフトは…咄嗟に言われると思い付かないな。何にしよう。
「んー、何にしようかな…。お金の心配はいらなそうだし……あ!病気しない健康な体とかはできる!?」
閃いた!病気とかやっぱり怖いよね。ニコはそれで死んじゃう訳だし。健康大事!
「できます。それではギフトは状態異常無効、としますがよろしいですか?病魔や毒などの心配はありませんが、心臓を刺されれば普通に死にますので過信しないようにしてください」
「分かった」
咄嗟に思い付いたにしては、なかなかいいギフトをもらったのではないだろうか。
「あ、オレが転生者で、女神様からギフトを貰ってるってことはバレても大丈夫?」
「駄目とは言いませんが、あまり言いふらさない方がいいでしょう。世の中、善人だけではないですから」
確かに、悪用されても困るしな。言うべきところを見極めよう。
割と人間臭い女神様だなと思って女神様を見ると、うっすら発光していた体が輝きを増している。
「時間ですね。それでは転生を開始します。目が覚めたらあなたはニコ・フォルトナーです。病床にいたので最初は思うように体が動かないと思いますが、状態異常無効も付いているので、しばらく養生すれば回復するでしょう」
女神様の体が一段と眩しい光に包まれる。
真っ白な世界がオレの視界も白く染めた。
「それでは良い人生を」
意識が薄れていく。
分解され、白く染まっていく意識の片隅で女神様が何か呟いたが、オレにはもうよく聞こえなかった。
「…この世界を、お願いします」