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08 戦地への道中

本日2話投稿します。

開拓地を出発してから1週間が経った。


私やミリーを含む一行は、ガネーシャ王国との国境近くまで来ていた。

あと一日、この森を進めば合流地点に着く。

そんな少し気の緩みやすい時に起きた事だった。


「魔物の群れだ!!!」


斥候に出ていた男が、声を上げながら戻ってきた。

数は・・・既に20を越えている!


「戦士は前に出ろ! 魔法使いは詠唱開始、男は即時攻撃、女は予備として待機! 盾使いは左右後ろを警戒しろ! 他は遊撃だ!」


開拓地の一団を率いていた男はすぐに指示を飛ばす。

ここに居る皆は魔物との経験が豊富なため、すぐに動き出す。

こちらの数は30と少し、対する魔物は・・・


「くそっ、分かるだけで100を越えてやがる!」


「しかも、別の種類まで!? これはもう、小規模なスタンピードよ!」


切り倒しても切り倒しても、次から次へと魔物が襲いかかってくる。

しかも様々な種類の魔物が混じって。

皆、少しずつ焦りが出始めている。


しかし、こちらはそもそも『様々な種類の魔物が出現するダンジョン』で普段鍛えているんだ。

これだけの人数が居て、対処しきれないはずがない!

そう思った矢先、


「普段よりちょっと数が多いだけでしょう!? なに、いつものことじゃない!」


ミリーの明るいよく通る声が響き渡る。

その声を聞いた皆は「そうだったな!」と言いながら落ち着きを取り戻し、魔物の数は順調に減っていくのだった。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


そして日が傾き始める頃、ようやく戦闘は落ち着いた。








「自分で手当の出来ない負傷者はいるか!?」


リーダーが声を上げながら皆のところを回っている。

私も自分の手当を済ませた後は、ミリーと共に他の人の手当へと回っていた。

皆、あちこちに傷を負っていた。

装備も所々に破損がある物が多かった。

しかし、死者はいなかった。

皆の様子が一通りわかり、ほっとした。


そんな時だった。


「っぐ、ぐうぅ・・・」


一人の男がうめき声を上げ始めた。


「おい、どうした!?」


「狼に噛まれた所が、急に・・・、ぐっ、うぅぅ」


私たちが駆け寄ったときには既に、男の左腕は黒ずんで腫れていた。

この症状は、確か!


「狼・・・黒狼の変異種の毒か! 滅多にいないから、解毒薬は持ち合わせていないぞ。誰か解毒魔法を!」


「私が行います!」


魔法使いの一人が解毒魔法を唱えると男の腕が光だし・・・しかし良くなることは無かった。


「私のレベルが足りていないの・・・? いや、もう一度、身を汚す不浄よ、祓い清めたまえ、キュアポイズン!」


二度、三度と魔法をかけるが、症状がよくなることが無かった。


「そんな・・・、すみません、力不足で・・・」


魔法をかけていた女性はうなだれ、男から離れていった。

合流地点まで行けば解毒薬があるかもしれない。

しかしそこまで行くのに急いでも半日近くかかる上に、これから日が落ちる。

日の落ちた森の中での強行軍、それも疲労が残っている状態で行えば、最悪全滅まであり得る。

リーダーもそう判断したのだろう、首を軽く左右に振ってから口を開けようとした。


「私が、私がやってみます・・・」


その時、ミリーが声を上げた。


「ミリー!? 君の魔法では傷を癒やすだけだろう? 解毒は出来なかったはずだ!」


ミリーの使う水魔法では、傷を癒やすことは出来ても、体内の毒を解毒することは出来ない。

解毒できるのは光魔法か聖女の祈りだけ。

この中で最も光魔法に熟練した魔法使いが失敗した以上、もう彼を助ける手立てはない。

そのはずだった。

しかし、彼女の口から意外な名前が出た瞬間、私の思考は止まってしまった。


「聖女様から口止めされている事ですので、他言無用を。何かあったときの、万が一の時のためにと、聖女様から癒やしの力をほんの少し預かっているのです。それを試してみます」


ミリーの顔つきは、普段の彼女からは考えられないほど険しかった。

私だけで無く、周りの人達も息を止め、彼女へと驚きのまなざしを向けていた。

誰も動かない中、ミリーは毒に犯された男の下へと向かい、その腕に手をかざしながら、


「聖なる加護を授けたまいし女神よ、今このとき、彼に癒やしの祝福を」


聖女の祈りを発動した。


ミリーが言葉を紡いだ直後、強い光が男を覆い尽くし、光が落ち着いた後には穏やかな顔で眠る男が残されていた。


誰も何も言えなかった。

何故、ミリーが聖女の祈りを使えるのだ?

ミリーの加護は『水の加護』だ。

だからこそ水魔法を巧く使えるのだ。

その、はずだ・・・


同じ疑問が繰り返し浮かんでは消えていく。

皆がミリーのことを見つめ、いや、凝視している。

そんな中でミリーは一呼吸ついたあと、少し困った様な笑顔で、


「機密・・・と言うわけではありませんが、聖女の力は波長の合う人に対して少しだけ預けることが出来る、とのことです。もちろん、余り広まっては困る内容ではありますが・・・」


何でも無いことのように話した。


ミリーが言うには、開拓地近くの街の宿で手伝いを行っていたとき、たまたまアレクサンドリアがその宿を訪れた。

宿の主人としては下手な人に対応させるわけには行かないので、一番礼儀作法に詳しいミリーが対応を任された。

もちろん、ミリーだと分かると問題になるので、髪型を変え、服もブカブカな物に着替え、できる限り口調を変えて対応を心がけていた。

しかしその時、アレクサンドリアから

「あら、あなた、私と波長が合うのね。この辺りには偶にしかこれないから、その間あなたが助けてあげてね?」

と言われて聖女の力を少しだけ借り与えられた、とのことだった。

少しだけ、という言葉の通り、そこまで強い力は使えず、回数も限られていた。

だからギリギリまで使うのをためらってしまい、名乗り出るのが今になってしまった、と言うことだった。


皆は聖女の力が、一部とは言え他人に貸し与えられることに驚き、しかし私はアレクサンドリアとミリ―が会っていたという事実に驚いていた。

私が言うのも何だが、アレクサンドリアは非常に優秀で聡明だ。

その程度の変装で、ミリーのことが分からなくなるはずがない。

なのに何故、ミリーに力を貸し与えた?


そのことをミリーに尋ねるべきかどうか、結局私は結論を出せなかった。

聞いてしまえば今ある全てが崩れてしまう、そんな漠然とした不安が何故か湧いてきたからだ。


その後、私たちはその場で夜を過ごし、日の出と共に移動開始した。

そして日が高く上がる頃、合流地点へとたどり着いた。

ミリーに尋ねることも無かった。



お読みいただきありがとうございます。


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