06 不穏な気配
本日2話投稿します。
ミリーと開拓地に移り住んでから、3年の月日が過ぎた。
特にこの1年で安定してダンジョン攻略を行うことが出来るようになったため、気持ちにも生活にも大分余裕が生まれてきた。
「ハリス、さっきの一撃は凄かったね!」
「ああ、魔法剣のことか。ようやく安定して発動できるようになってきたよ。とは言え、まだ初級の魔法しか発動できないけどね」
「それでも凄いわ! あの堅くて堅くてイライラしていたゴーレムを、すぱっと一撃だったじゃ無い!」
「ありがとう。本当に、結果がでたのは良かったよ・・・」
この開拓地にあるダンジョンは、特定の魔物に偏ること無く様々な種類の魔物が現れた。
亜人、魔獣、植物系、鉱物系を始め、昆虫や鳥、巨人系まで出現する。
故に、特定の魔物に偏っている他のダンジョンとは違い、このダンジョンを安定して攻略するのは非常に大変なことだった。
魔法剣を取得した今なら自分一人でもある程度対処出来ると思う。
しかしミリーが居なければ、今には至らなかっただろう。
些細なことに気づく洞察力、ある程度の魔物に関する詳細な知識、強くは無いが巧く工夫することで幅広く対応する魔術操作。
彼女のおかげで私はある程度剣術に集中することが出来た。
「そもそも、ここまでこれたのはミリーのおかげだ。ミリーが支えてくれていたからこそ、私はここまで来ることができたんだ」
「そんなこと無いわ。私なんてほんの少しよ。ハリスが頑張ったから結果が出たのよ」
そう言いながら、目を細めて優しい笑みを浮かべる彼女を見ていると、胸が高鳴ってきた私はそれ以上言葉を続けることは出来なかった。
そうして、普段は私は周辺の魔物狩り、ミリーは近くの街へ手伝いに。
時には二人でダンジョンに向かい、他の人達と共に攻略を進め。
私たちの生活は順調に回り出していた。
その報告を聞いたのは、そんな日常の中のある日の事だった。
「ガネーシャ王国軍が侵攻してくる?」
いつものように武器屋に寄って武器を整備している最中に、聞き逃せない単語が耳に届いてしまった。
だから思わず反応してしまった。
「お、ハリスの坊主か。まだ確かな情報は無いみたいだが、少なくとも大軍を国境付近へと集め始めたのは確かだとよ」
話をしていたのは、魔物狩りやダンジョン攻略で時々一緒になる冒険者の男達だった。
「冒険者ギルドではな、ガネーシャ王国に近い国境付近での偵察依頼が増えているんだ」
「あっち方面から来た商人達も皆、かなり不穏な気配があると話しているんだ」
「もし戦争になると、ここにも声が掛かることになるな・・・」
「すまない、ここにも声が掛かる、というのは?」
戦争になると、何故この開拓地にも声が掛かることになるのだ?
思い浮かんだ疑問は、そのまま口から出てしまっていた。
「ん? ああ、坊主はこの開拓地の成り立ちは知らなかったのか」
「ダンジョン内の魔物を間引きつつ、攻略するために作られた、と聞いているが」
「それもある。が、もう一つ理由がある。他の地域で戦争やダンジョンスタンピードが起きたとき、駆けつけるための精鋭を育てる場所でもあるんだ」
「精鋭の育成・・・、ああ、なるほど、それでミリーが「ここって他の街よりも体格の良い人が多いわ!」と言っていたのか」
「そういうことだ。だからこの開拓地は他の所より優遇されているし、その分何かあれば働くことになるわけだ」
「まぁ、俺たち冒険者は住民じゃあ無いんで参加義務は無いんだが・・・、もし参加しないとなると今後ここを含めた開拓地とその周辺で活動出来なくなるんだよ。だから強制ではないけどそれに近いんだよ」
「当然だろう。開拓地での冒険者ギルドに関する取引は、そうでない場所よりも優遇されているんだからな」
「と言うわけで坊主、俺たちは他の奴らと情報交換しながら武器の整備をしていたんだ」
「住民・・・と言うことは、私たちもダンジョンに潜れる程度には戦えるので、戦力として参加しないといけないのか・・・?」
「いや、坊主達は例外だ。義務のある住民とは、自らの意思でここに住むことを決めた奴だけだ。追放されたお前達には、その義務はない」
「!」
追放された事を知られていた!?
いや、今はまず、
「・・・どうして、追放のことを・・・?」
動揺が顔に出てしまった。
しかし、それでも理由は聞いておかなければ。
「どうしてもこうしても、なぁ・・・」
「あのな、坊主。ここにも商人や旅人は来る。そいつらはあちこちの噂話も持ってくる。で、お前達がここにやってくる少し前に追放騒ぎがあり、同じ名前の二人組がやってきたとなれば、流石の俺でも察するぞ?」
あーーーー・・・
「そう、ですね・・・、少し考えたらすぐに分かることでした」
これはへこむ。
と言うか私は一体どれだけの簡単な見落としをすれば気が済むのだろう・・・
はぁ。
「・・・それにな、坊主。ミリーちゃん、結構うっかりで口を滑らしていたから、なぁ・・・」
「ああ、だからお前達はそんなこと気にしていないのか、と感心していたんだ」
「すみません、一人違ったみたいです・・・」
そうか、気にしていたのは私だけだったのか。
今までの警戒は一体何だったのだろう・・・
一気に力が抜けてきた。
っと、倒れ込む前に確認はしておかないと。
「先の話ですが、義務は無くても希望は可能でしょうか?」
私たちには参加する義務はない。
だけど、参加は出来るのか?
「ああ? 当然だろう。余程の足手まといで無ければ可能だ。というか、一人でも戦力は多く欲しいからな!」
そう言い、私の方をバシバシとたたきながら冒険者達は店を後にしていった。
王子時代、私は国民からの税金で暮らしていた。
しかし彼らには何も返せていなかった。
戦争に参加して、少しでも勝利に貢献できたのであれば、この国の国民に対して少しは返せるのではないか。
そう思い、私はミリーに相談することに決めた。
危険な場所に巻き込むことになるが、君が側に居れば私は普段の何倍も勇気が湧き、力が出せる。
だから、私のエゴの為に、どうか一緒に行ってくれないか、と。
おそらくは断られるだろうが、期限まで説得を続けてみよう。
それでも私は、彼女と一緒に行きたいのだ。
少しでも、彼女と一緒に居たいのだ。
「え、私は行くつもりだったけれど、ハリスは悩んでいたの?」
私の決心を返して欲しい。
「戦争に参加する名目があるなら、堂々とここから離れられるし、それに何より大手柄を挙げれば恩赦がもらえるかもしれないのよ!?」
当然でしょ! と胸を張って自慢げな顔をしているミリーは、相変わらず愛おしい存在だった。
こうして私たちも準備を整え、開拓地の人達と共にガネーシャ王国近くの国境へと移動することになった。
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