05 幕間 第二王子レオンハルトの私室にて
2話目になります。
第一王子が王籍を抜けた今、第二王子レオンハルトが次期王太子の筆頭となっていた。
故に将来の重役を目指す者たちはレオンハルトの側近を目指して頻繁に部屋を訪れていた。
そうした訪問者がいなくなり、信頼を置く側近と侍従のみになったとき、レオンハルトはふと呟いた。
「やはりあの決定は、違和感が残るよな」
それを受けて側近の一人は顔をしかめつつ、
「ええ。婚約破棄は分からなくも無い。最大限に罰すれば王籍離脱もなくはない。しかし追放はいき過ぎだ」
これを皮切りに側近や侍従から、最近のハリスやアレクサンドリアの様子を含めて情報を交えて意見が飛び交い始めた。
「ハリス様のミリー嬢に対する態度はいただけないのは確かだ。しかしそれまではアレクサンドリア様にそうとう心を砕かれていたぞ?」
「アレクサンドリア様が厳しく接していたのはハリス様とミリー嬢だけだ。それ以外の人には昔から変わりない優しさで接し続けている」
「つまりアレクサンドリア様が先に愛想を尽かせていた?しかしそれでも婚約者という立場だからミリー嬢に強く当たっていた、と言うことか?」
「いやミリー嬢の他にもハリス様に近づく令嬢は沢山居た。そちらに対しては諭すように対応されていた」
「まさか、ミリー嬢が平民なのが原因なのか?」
「そんなことは無いはずだ。週末の度に医者の少ない遠方の街に足を運んでは、貴族平民わけ隔たり無く治療されておられる方だ」
「確かに、最近だとあちこちの辺境の開拓地近くの街まで出向いて、近隣の人を纏めて治療をなさっているしな」
「・・・個人的には、だが、ミリー嬢はそれこそハリス様と婚約された当時のアレクサンドリア様に似ている、と俺は思う」
「言われてみれば、髪の色以外は、似ていなくも無いな。だがそこまで似ているのか?」
「私は昔からアレクサンドリアに会う機会が多かったので皆より詳しいとは思うが、その上で似ていると言われれば似て、いるな」
「では昔の自分とハリス様が仲良くしているように見えて、アレクサンドリア様がああいう言動をされたと?」
「それが近いと思うのだが・・・、だがそれでは追放の理由にはならない」
喧々囂々と議論は続く。
そして最後にレオンハルトが出した意見はそれまでの流れを断ち切るものだった。
「それ以前に、だ。私が王太子候補筆頭になるのだから父である陛下からなにがしかの通達が来るのが筋だ。その類いの通達が未だに無い」
その発言を聞いた瞬間、部屋の中は一瞬で静まりかえった。
ある者は目を大きく開け、ある者は逆に目を鋭くし、しかし誰もが次の言葉を待っていた。
「と言うことは、今回の追放は王家に関わる重要な理由があり、そしてそれは恐らく追求してはいけない類いなのだろう」
誰かがつばを飲み込んだ。
その音が聞こえるほど、皆は神経を研ぎ澄ませて聞き入っていた。
「なれば、私がすべきことはただ王太子教育を受けるだけでなく、周辺国の動きも気にしなければいけないのだろう」
「周辺国、ですか?」
「そうだ」
侍従が思わず確認を行うと、レオンハルトはすぐに肯定した。
「国内での問題に関わるのなら『国外』追放にしていたはずだ。それが辺境とは言え国内だ。と言うことは『国外に出せない』理由がある事になる」
「だから周辺国の動きを調べることで、そこから何が起こっているのか逆算をしてみる、と言うことでしょうか?」
「そういうことだ」
側近の一人の確認にも、すぐに肯定が入る。
レオンハルトが断言した。
つまり、確実に何かとんでもない理由があると言うことだ。
「今日のことは他言無用だ。その上で各自、『自分の行動範囲内で』周辺国の動きを探ってくれ」
「「「はい!」」」
それから側近達が一人、また一人と帰っていき、ついに部屋にはレオンハルトと侍従だけになった。
辺りは既に暗くなっていた。
空では星の瞬きが増え始めていた。
夜空を見上げながらレオンハルトは侍従の入れたお茶を飲んだ。
その味の渋さに思わず顔をしかめながら、ふと母の事が浮かんできた。
兄のハリスはある程度放任していたにもかかわらず、何故か私にはことあるごとにお節介を焼いてくる母の事を思い浮かべていた。
レオンハルトがお茶を飲み終わった頃には、部屋にはレオンハルトと冷めたティーセットだけとなっていた。
頭を掻いて気を引き締めなおしたレオンハルトは、更に深く慎重に動くように気をつけた。
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