初めてのトラブル②
4話目です。
表示のされ方とか見ながら書いてますが読みづらければすみません。m(_ _)m
レイナさんと自分はトラブルが起きている『ル菅』の所に来ている。
下から眺めていたから細い管に見えていたが、実際に近くに育った杉の木の幹ぐらいと思われる太さの管だった。
「こんなに太かったとは思いませんでした…」
「これでも小さい部類だけどね」
スケールの違いを思い知らされる…。
「さぁ、処置を施していこうか」
「はい」
「まずは、発光している個所の周囲を確認、
千野も自分で気になった場所を覚えておいてね」
レイナさんがそういうと乗っている床が光だし、ゆっくりと『ル菅』の周りをまわり始める。
設備員時代の点検時に気にしていたことを思い出しながら『ル菅』を眺めていく。
自分が発見できたのは以下の2点だろうか。
・場所によって発光の度合いにばらつきがある
・光っている個所の『ル菅』に傷のような線があった
「どう? 気づいたことはある?」
「2点ほどあります…」
先ほど見つけた個所について説明する。
一通り話し終えた後、レイナさんは満足そうにうなずいてくれた。
「うん、問題なさそうね。
それじゃ、処置を施していきましょうか」
そういうとレイナさんは目を瞑り、右手を前に突き出した。
すると周囲から突き出した右手に光の粒子が集まり、ゲートルームに設置されていたような魔法陣が展開される。
その魔法陣から出現したエネルギーが発光していた『ル菅』の部分を覆った。
「これで処置は終了」
「レイナさんが今されたのって何なんですか?」
「『魔水』の力を使った『ル菅』の補強と補修ね。
調律者が使うスキルや魔法みたいなモノと思ってくれれば大丈夫。
千野にはこれからできるようになってもらうつもりだか、頑張って」
「なるほど、頑張ります。
それにしても、あんなスキルがあるなら『ル菅』すべてに施せば問題はおきないのでは?」
レイナさんはここで意見が上がると思っていなかったのか、少し目を見開いた後、すぐに元の表情に戻り指を2本立てて説明してくれた。
「面白いことを言うね、確かにそれも一理あるけど無理ね。
まず第一に裏世界の隅々まで伸びてる『ル菅』すべてに補強・補修をかけるための『魔水』が足りない、それこそ表世界に回っているすべての『魔水』を一時的に使用するぐらいの量がいる。
次にあくまで一時的にかける事しかできないのでそれを定期的にかけ続ける必要があるのだけれども、その作業に私の労力を割きたくないわ」
「なるほど、確かにそうですね」
レイナさんに言われたことは至極当然だと思えた。
何をするにしてもそれを行う為のモノが必要だし、定期的に裏世界すべての『ル菅』の補修・補強の労力も相当な物だろう、少なくとも自分には無理だ。
また余計な事をしてしまったかな…。
前の職場でもこういった意見をあげても「それもやるのがお前の仕事だ!」「いちいち上の命令に意見してるんじゃない、言われたことだけやっておけばいいんだ!」なんて言われ続けたしな。
「だけど、そういった意見を言ってくれることは新たな発見につながるかもしれないから、引き続きよろしくね」
「…………はい」
レイナさんに言われた一言が自分の中に募っていた陰に光をさしてくれた。
前の世界で良く『良い上司・ダメな上司』や『こんな職場はブラック企業』といった記事に目を通して働いていた職場と比べていたが良い上司とはどんな感じかなと思ってはいたが、レイナさんのように話を聞いてくれる人が、良い上司の条件の一つではないかと実感できた。
「ふむ、もう少し続くかもしれないな…」
レイナさんは目の前に開いていたデジタルチックなウィンドウを開きながら独り言をつぶやいていた。
自分がレイナさんの方を向くとレイナさんもウインドウを閉じてこちらを向く。
「今のは…?」
「ああ、この『ル菅』の先にある表世界の状況を確認していた、今後の『使用済み魔水』の量に影響するかもしれないからね。
君もある程度慣れてきたら確認してもらう予定だからよろしくね」
「わかりました」
「それじゃ、今日の実地研修はこれにと終了とする、戻って少し休憩でもしようか」
そういってレイナさんは上昇していた床を元の位置に戻るように操作し、元の床に戻ると元来た道を戻る。
相変わらずゲートルームを通る際に『魔水』にあてられて頭がくらくらのにはもうしばらく時間がかかりそうだ…。
そういえばレイナさんはあの時のウインドウで何を見ていたのだろうか。
ーーー □ 表世界 □ ---
上空に暗雲が立ち込め、天から地面にかけて雨が吹き荒れる、とある国のとある平原、数時間前に行われた大きな戦争は、東軍の勝利に終わった。途中から導入された新兵器により東軍の右翼が持ち直し西軍の部隊を壊滅させたことが勝敗の決め手となった。
しかし、その新兵器は敵味方関係なくただ破壊する事だけを目的に作られていたため、西軍の部隊を撃破後、東軍の部隊にも襲い掛かっていた。東軍がこの戦いの勝利を収めたものの、払った代償は大きく、両軍合わせて多くの兵士達が犠牲となった。
そんな中、少し離れた丘から戦場となった平原を見下ろす一団がいた。
「くそ、だからあれを投入すべきではなかったのだ…。奴にこのまま政権を握らせるわけにはいかない、誰かが変えねば…」
一人の男が、その戦場を見ながら決意を決める。
ーーー ■ 裏世界 管理室 ■ ---
レイナさんと別れ『ル菅』のモニタリング用の設備機器が設置されている管理室の椅子に腰かける。今日対応したトラブルで学んだこと、レイナさんから言われたことを思い出す。
確かに設備の管理なのだが、スケールと技術力の違いに戸惑う。
しかしレイナさんに意見を聞いてもらえたことはうれしかった。
色々と前の世界とは違うかもしれないけど、この仕事を頑張りたいと自分自身の意思で思える。
これが充実しているという感覚なのだろうか。
新しく覚えなければならない事も出てきた、まだまだ覚える事はたくさんあるな。
様々なことを可能な範囲で思考して、一息つく。
ふと、長年やっていた設備管理のルーチンワークを思い出す。
「あ、そういえば今回の対応の報告書を書かなきゃ……。
とりあえずレイナさんに聞こう」
ーーー ■ 裏世界 神室 ■ ---
神室に戻ったレイナは長年使いなれた椅子にもたれながら表世界の様子をウインドウを通して眺めていた。
数百年ごとに起こる国同士の争い、世界の始まりから調律神として君臨していたレイナからすれば定期的に発生するイベント行事ぐらいの間隔でしかない。
そしてそれに伴い発生する大量の犠牲者に関しても裏世界のトラブルに発展するかどうかを判断するための数字でしかなく感情が動くことはない。
しかし、この先このような光景を千野にも確認させ、調律使としての対処をさせた際に起こる事を想像するとため息がこぼれる。
長年神として見てきた私にとっては何も感じることはないが、人間であった千野はどうか…。
その時はその時だと割り切ることにしてレイナは思考するのをやめた。
コン、コン、コン。
「ん? 入っていいよ」
レイナは返答しつつ、今見ていたウインドウを閉じて扉の方に向き直る。
「失礼します」
「どうしたの?」
「今回対応したトラブルの報告書を書いておこうと思うのですが、何が書けばよいでしょうか」
「ホウコクショってなに?」
「え…?」
「へ?」
何度目かわからない見つめあう時間が発生した。
さすがにもうわかってますよ、これが神と人のギャップ…。
自分が実際にオフィスビルの設備管理を行っていた際の報告書についてレイナさんに説明した。
現場ごとに多少の違いがあるかもしれないが、ビルで起きたことについては発生内容・対処内容・結果どうなったかなどを纏めた書類を作成する。
これらの書類は「上司」や発注元の会社への報告書類として使われるので、設備員をやっている人間であれば一度は書いたことがあるものだ。
「ふむ、どういったモノなのかは理解したが。
それって必要なのか?」
「調律神であるレイナさんであれば、知識として記憶できるかもしれませんが、人である自分にはちょっと難しいので記憶媒体として残させて頂きたいです」
「わかった、千野が必要というなら書いてもらおう。
どんな風にまとめるかは千野の好きにしてほしい。後、管理もよろしく」
「わ、わかりました。媒体は何で書けばよいのでしょうか?」
「文字を残すのであればこれでいいかな? 君の持っているクリスタルを貸してくれ」
「はい」
クリスタルを受け取ったレイナさんは呪文を唱え始めた。呪文に合わせてクリスタルも発光し文字が浮かび上がって消える。
レイナさんからクリスタルを受け取る。
「そのクリスタルに、テキスト入力機能を追加した。
ステータスと念じてみてくれ」
「わかりました」
レイナさんに言わされた通り、クリスタルを持ったまま『ステータス』と念じると目の前に半透明のデジタルウインドウが表示された。
すごい…自分の世界にはなかった技術を見ると別世界なんだなと改めて感じる。
ウインドウ内にはいくつかの情報が表示されていた。
「ふむ、開かれたウインドウの右上にメニューが表示されているだろう。
その中に書類作成できる機能があるので作成してみてくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
そういうと千野は軽くお辞儀をして神室を後にした。
ーーー ■ 管理室 ■ ---
レイナさんの神室から管理室に戻った。
最近自分が座るようになっている定位置の椅子に腰かける。
「さて、レイナさんからテキスト入力できるようにしてもらえたし、とりあえず報告書を作ってみよう。」
クリスタルをつかみ、ステータスと念じると先ほどと同じようにデジタルウインドウが表示される。
右上のメニューから「テキスト入力」のアイコンをさわってみる。
すると新しいウインドウが表示された。
なんだろうパソコンのモニターに表示されていたものが立体的に現実に出現したらこんな感じなのと思う。
金属兵器のスーツを身に纏った海外ヒーローの映画で表現されていたような感じだろうか…。
「文字を入力する為のキーボードはないのかな?」
すると、口に出した言葉がそのまま表示されていた。
まさかの音声入力なのか…!?と新しいことに四苦八苦する。
「千野サマ、私がお手伝いしましょうか?」
背後から声がして振り返ると、そこには、以前自分を部屋まで案内してくれた球体のゴーレムがいた。
「あ、ゴーレムさん、手伝ってもらえるんですか?」
「ハイ、寧ろ我々はそういったシステムのサポートをすることがメインとしてつくられております」
「そうだったのか、でも今までなぜやっていなかったんですか?」
「調律神様に掛かれば我々がサポートする必要などございませんので」
これは助かる、自分にはレイナさんみたいになんでもこなすことはできない、助けてもらえるなら大いに助けてもらおう!
「実は先ほど対処した報告書が書きたいんですが、どう書いていけばよいですかね?」
「デワ、私がある程度フォーマットを作らせて頂きますので、ご要望を頂けますでしょうか」
「それは助かります、是非おねがいします!」
「ソレデハ少しクリスタルをお借り致します」
そういうと球体のゴーレムから掴んでいたクリスタルに向けて光のケーブルが接続された。
そこから、以前勤めていた現場にあったような報告書の話を伝え、ゴーレムさんにフォーマットを形作ってもらい。
テキストの入力などは自分のやりやすいようにカスタマイズしてもらった。
「ふう、とりあえずこんな感じかな…。
とりあえず報告先はないみたいだから一旦自分の所で管理しよう」
何とか自分が納得できるものができたので良しとする。
「ソノ報告書、私にも頂けますか?」
「もちろん、こんなもので良ければ」
「アリガトウございます」
先ほど教えてもらった情報リンクを行い、ゴーレムさんにも報告書を渡しつつデータ転送でレイナさんにも送っておく。
一通りの作業が終わったことで緊張の糸が切れたのか、どっと体に疲労がたまっているのを感じた。
時計を見たら丁度就業時間は過ぎていたので、自分も部屋に戻る。
「明日から魔法・スキルの練習もしなきゃな…」
ーーー ◆◆ 報告書 ◆◆ ーーー
裏世界 管理報告書
創世記 201年 牡羊月 05日(表世界) /記入者:千野義則
<場所>
A-1-05の『ル菅』にてトラブル発生
<内容>
『使用済み魔水』の急激な増加に伴い『ル菅』への圧迫が原因と思われる。
現場にて補助・補強スキルを実行し、ひとまず様子見とする。
表世界の状況によっては、引き続き同じ個所でトラブルの発生の可能性あり。
ーーー