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Bracco~無敵の名探偵

(えっえっえっえっ!?い、今の何っ!?私のオデコに何がふれた――――――っっ!?)


 その直後何をされたのか理解できず一瞬固まる私。しかし、


バチン!


 右手を勢いよく、その湯あがりのニホンザル状態になった己のオデコに当てると大声で叫んだ。


「な、な、何す――」


ベシッ!


 だが次の瞬間私の脳天に下る衝撃。


(ッた!?)


 その刹那目からキラキラキラと華やかな火花が飛び散った。


「いったぁ」


 私は驚いて衝撃を与えてくれた張本人に息を巻いて振り返る。


「瑞森さんッ!?」


 衝撃の理由――それは瑞森レオの脳天ビンタだった。

 彼は私の口を塞ぐように勢いよくスマッシュヒットを食らわせたのだ!


「いったい人の頭をなんだと……」


 私は口を尖らせる。が彼の様子に慌てて言葉を呑みこんだ。

 何故なら今私の目前にいる彼は片頬を上げ薄く微笑みながらもその蒼眼に般若の面影を残した状態で私を睨んでいたからだ。それはまるで


(黙れよ!アンジェラにバレたら殺すぞ)


 彼の鋭く光る碧い瞳はそう私に訴えているようだった。


(う~ムカつくッ!でも……確かにバレる訳にはいかないよなぁ。ここは我慢我慢だ)


 私は言い返せない悔しさに必死に耐えた。


 いつもと違って素直だった私の態度に調子に乗ったのか、その後も彼の大きな手は(分ってるよなぁ)とでも言いたげにグリグリグリ……と中々の力加減で私の頭を鷲掴みにして捏ね繰り回してくれた。


「レオの彼女!?」


 アンジェラはその言葉に驚くと靴音を響かせて足早に私達の元へとやって来た。そして二人の前まで来ると腕を組んで立ち止まって瑞森レオと私の顔を交互に見遣る。


「なんだよ、連れて来いって言ってたから連れて来たんだろ?悪ィか」


 彼は私の頭を捏ね繰り回しながら彼女にニヤリと笑う。


「悪ぃかって。にしても、いるならいるで何でもっと早く連れて来ないのよ。いきなり今日言われても今さら夫人に何て言うのよ」


 アンジェラが困った顔をして溜息を吐く。と次の瞬間私の瞳とアンジェラの瞳がぶつかった。


 すると彼女は暫く私を見つめた後、


「でも――怪しいわねぇ」


 と言って首を捻った。


「この子本当にレオの彼女なの?」


 アンジェラは突然現れた甥っ子の恋人に疑問を持っているようだった。


「んだよ、疑うのかよ!俺の女だ文句あるか!」

「でもねぇ……」


 尚も彼女は腕を組んだまま疑り深そうに私を見る。


(やばっ、アンジェラには気付かれちゃうかもっ)


 私はさりげなく彼女から顔を逸らす。


「だって今迄アンタにそんな素振り無かったし、第一レオが女の子と付き合ってる事自体がワタシには信じられないのよねー」


 アンジェラはスラッと細い人差し指を自分の頬にトントントンと当てながら、ジ――――ッと彼を見つめる。その瞳はまるで夫の浮気を疑っている妻のよう。


「んだよ、その目は……」


 その視線に流石の金髪王子もタジタジになる。


「それに、お店とかで女の子に言い寄られても、アンタさりげなくキツイ言い方して何度も女の子泣かせてきたし、その所為でうちの店一時期女の子のお客さんパッタリ来なくなっちゃうし、ほらあの子だってそうよ、去年だったかしら?あのツインテールの女の子!唯一アンタの毒舌に生き残ってた健気なあの子も、最終的にはアンタの『うぜぇ』の一言でお店来なくなっちゃったし。あ~あ、あの子アンタに会いに来る度に結構沢山オーダーしてくれてたのにぃ、ほんと勿体ないっ!」

 

 私はアンジェラの言葉を聞いて唖然とする。


(コイツ、店の中で女の子泣かしたの!?営業中に?なんてサイテ―な男っ!)


 思わず横目で彼を睨む。


「店の中で泣かせたんだ、酷いヤツ」


 ボソリと小声で彼だけに聞えるように呟いた。


「るせぇ、中じゃねぇ、外だ」


 彼は吐き捨てるように言った。


(一緒じゃん!中も外も!結局お客さん泣かせてるしっ!)


 私はふてぶてしい彼の顔を苛立ちながら見遣った。

 

 ――そう言えば馨子さんの事だってそんな言い方してたはず。


(少しは女の子の気持ち考えてあげなさいよ!この鬼っ!)


「やっぱ瑞森さんは女の子の敵ですね」

 

 心の中でそう思っていた所為か思わず言葉が洩れてしまった。


「んだと?仕事中に声掛ける方が悪ぃだろ。くだらねぇ事言ってんな!」


 しかし最もな理由を付けられて言い返された。


「てか、アンジェラ!」


 瑞森レオがアンジェラへと振り向く。


「なんでテメぇがその事知ってんだよッ!」


 そして食らいかかるように彼女を睨む。するとアンジェラはフッとほくそ笑んだ。


「なんでって、ワタシは店のオーナーよ!スタッフの行動を把握していないでオーナーなんて言えないでしょ!ワタシには極秘の情報ルートがあるの。アンタが何しようがワタシには全てお見通しなんだから!」

 

 アンジェラは言うと白くてほっそりとした美しい手を口元に当ててホホホと勝ち誇ったように笑った。


(アンジェラ――やはり恐るべし)


 私は高らかに笑うアンジェラを見つめたまま(何があっても彼女だけは敵にまわすまい)そう心に誓った。


「橙子だな」


 彼はチッと舌打ちする。


「あの女――黙ってろって言ったのに」


 それから握り拳を作ると悔しそうにその人差し指の関節を噛んだ。


(橙子さん?)

 

 どうやら瑞森レオがツインテールの女の子を振った現場を偶然橙子さんに押さえられてしまっていたようだ。――ご愁傷様。私は心の中で彼に合掌した。

 

 にしても――橙子さん口軽ッ。


「だからどうも信じられないのよ、女の子嫌いなアンタに彼女って」


 そして再びアンジェラは閑話休題とばかりに話を戻すと、再び疑り深そうな視線を私に向ける。

 彼女から顔を背けているにも関わらず、私の全身に蒼く鋭い矢が無数に放たれるのが分かる。


(どうしよう、このままじゃお見合い壊す前にばれちゃうよ)


 私は瑞森レオを見遣った。しかし彼は先程アンジェラに言い負かされたのが余程応えたのか、苦虫を噛み潰したような顔で「橙子めぇ」とブツブツ呟きながら床を睨みつけている。


(これじゃぁ瑞森レオもアテにならないよ。もうっ役立たずなフィアンセめ、取りあえず私が何とかして誤魔化さなくちゃ!)


 そう思った私は意を決して席を立った。そしてアンジェラに真っ直ぐ顔を向けると何か言おうと口を開いた。



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