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Fiaba~昔話

 昔々ある所に――といってもそれほど昔のお話ではございません。それはそれは大変仲の良い二人の少年がおりました。

 一人の少年は――ここではS君と名乗っておきましょう。S君は同世代の少年から比べると背が低く小柄で幼い顔をしておりましたが、その性格はとても負けん気が強く、自分よりも大きい者に対しても立ち向かって行くような正義感の強い少年でした。

 そしてもう一人の少年――彼はK君と呼びましょう。K君はS君とは対照的に背がヒョロリと高く、性格も穏やかで、周りの者にも分け隔てない優しい心根の澄んだ少年でした。しかし幼い頃より体が弱く内向的だった為友達と呼べる者の少ない少年でした。

 そんな性格の全く違う彼らでしたが、それともそれが逆に良かった為か、二人は成長するにつれて益々友情の絆を深めて行きました。

 

 少年期から青年期へ向かう頃、二人はそれぞれに夢を持ち、お互い励まし合うようになりました。

 S君は今では体も丈夫で勝気な逞しい青年に育っていますが、実は彼もK君と同じに幼い頃は体が弱く、何度も病院を入退院する病弱な少年だったのです。

 その為両親はそんな息子を心配し、心身を鍛えるべく護身術を学ばせる事にしたのです。それは『ボクシング』。

 内向的ではありましたが、元々好奇心旺盛なS君だったので両親がその話を持ちこんだ時二つ返事でOKしました。

 

 そしてそれから十数年――彼は真面目に鍛練に励み、今ではその道では中々名の知れた存在になっておりました。

 勿論そんなS君ですから、目指したものはプロボクサーです。その為彼は試合以外では己の拳を封印する事を守りました。

 一方内向的なK君です。彼は友達が少なかった分、より多くの自分だけの世界を作り上げそれを文章として纏めておりました。時には自分が何不自由の無い体を持ち世界を旅する冒険家になった話、時にはS君のような頼もしいヒーローになった話……彼はそれを何冊ものノートに書き留め、唯一人の友人であったS君にだけは読ませておりました。

 S君もK君のお話が大好きで、いつも彼に感想を話したり、今度はこんなお話を書いてはどうか?と提案したりしてK君の執筆活動を励ましていました。

 そしてK君は決めたのです、自分の進路を。それは『作家になる事』でした。

 K君の独特な世界観に惚れて、そして憧れ、S君は彼の夢を応援しました。そして又K君も――。彼らは憧れ合うお互いの友の夢を応援しあったのです。


 そんなある日の事。

 二人の将来を左右するある事件が起きました。


 いつもは毎朝共に登校していた彼らでしたが、その日は違っていました。その日S君は家庭の事情により学校へ遅刻をしてくる事になったので、K君は一人だけで学校へ向かう事になったのです。


 そして昼休み――学校に遅れて来たS君は違うクラスのK君の元へ訪れます。しかしK君の姿は何処にも見当たりません。仕方なくS君は教室の前でK君が戻って来るのを待ちました。ですがやはりK君が戻って来る気配すらないのです。


 何処に行ったか知らないか?彼を何処かで見なかったか?――


 教室中のあちこちへ行って尋ねます。しかし皆都合が悪いように顔を背けるばかり――。

 そんな時一人の少年がS君の元へやって来て恐る恐る口を開きました。

 

 長谷川の仲間が連れて行った――と。

 今は使われていない古い体育倉庫の方へ行ったのを見た――と。

 

 その瞬間少年が止めるのも聞かずS君は走り出していました。体育倉庫のある場所へ。

 

 長谷川とはこの学校の不良グループの中でも最も恐れられている男です。身長は180センチはゆうに超える大男で、素行が悪く教師すらも避けて通ると言われている男でした。

 そんな長谷川は何故かいつもS君に対して敵対心を持った眼差しを向けていました。恐らく自分より強いと噂されているS君を疎ましく思っていたのでしょう。

 

 午後の授業の開始を伝えるチャイムが校庭に鳴り響きます。しかしS君はお構いなしに走ります。そして――

 

 そして漸く倉庫に辿り着き、S君は重く閉ざされていた鉄の扉を力任せに開きました。

 その中で彼が目にしたもの――それは一段高い場所に座する長谷川を筆頭にぐるりと円を描くように立ち並ぶ柄の悪い男達。そして――その真ん中で眼鏡を割られ額から血を流し顔を何か所も殴られ倒れているK君の姿でした。制服はボロボロ、体はピクリとも動きません。

 

 それから後の事は――もうS君は何も覚えていません。

 

 彼が己を取り戻した時、そこには――顔を赤黒く腫らしその場に力無く倒れ天井をもの云わず仰ぐ者や、外傷はあまり見当たらないが目を見開いたまま意識を失っている者や、それはそれは陰惨たる光景が広がっていました。

 しかし長谷川の姿はどこにも見当たらなかったのです。

 


 数日後――S君は己の夢を捨て学校を後にしました――。


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