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MissioneⅠ~第一関門

 ウイッグは曲がってない!

 マスカラもOK!

  口紅は――大丈夫!はみ出してないよねっ!

 それに――ワンピースの皺もないみたいだし、ストールもちゃんと綺麗に捲かれてる!



 私は姿身に全身を写すと、まるで舞台で踊る踊り子のように体をクルリと一回転させて今日の戦闘服をチェックする。デニムのワンピースの裾が微風を纏ってフワリと軽やかに揺れた。


「スカートかぁ……どれくらいぶりかなぁ?」 


 そう考えながらもう一度後ろを向いて顔だけ鏡へと振り返ると、その勢いで栗色の緩やかにウエーブした長い髪がファサッと頬に触れる。


「あ……」


 私はそれを退かすように一束クルッと指に絡ませた。


「何か懐かしいなぁ、この感じ……」


 男装をする前までは、私の髪もこの位の長さはあったのだ。別にそれといった凝った手入れなどは一切していなかったが、友達にはいつも『綺麗な髪ねぇ』と羨ましがられていた。

 

 暫くそのまま指に絡まった髪束を弄って遊んでいたが、程なくして私は軽く絡ませた髪からスーッと指を静かに抜いた。


「さぁて!感慨深くなるのはこのくらいにして、遅刻なんてしたらあいつに何言われるか分かったもんじゃないわ!好き勝手言わせない為にも早目に寮を出なくちゃっ!」


 瑞森レオが今何処にいるのか私にはまったく見当がつかない。

 万が一、約束しているホテルの目の前……ってことは無いだろうが、そこから近い場所にあいつがいたのなら明らかに私はヤツより遅く着くはめになる!

 ただでさえ、このお見合いを心良く思っていない彼に、これ以上機嫌が悪くなる要素を与えてしまっては、今後私の身に確実に危険が及ぶ!


「えっと、今何時かな……」


 言って私は腕に嵌めた赤い時計を見つめた。

 時間を確認すると、まだ約束時間にはかなりの余裕があった。


「まぁ、これだけ早く出てれば大丈夫でしょ!」

 

 私は最後にもう一度姿身の自分を満遍なく確認すると、テーブルの上に置いてあったバッグとベッド脇に置いてあった細長い箱からブーツを取り出した。それから、それらをしかっり抱えるとドアノブをゆっくりと回した――。


◇◇◇◇◇


 ドアを慎重に、そして音を立てないように静かに開けると、私は恐る恐る顔を出してそこに誰もいないか首をキョロキョロ左右に振り確認した。


「よし!いない!」


 私は首を一回コクンと縦に振ると、安心したように一つ溜息を落としドアの中から姿を現した。


 先程朝食の際尋ねた通りなのか、寮の中は水を打ったように静かだった。

 いつも信吾君の部屋から聞こえてくるアップテンポな音楽も、名波さんが寛ぐTVルームの賑やかなTVの音も、今は何も聞こえない。ただ寮内はひっそりと静まり返っているだけだった。


「本当にもう皆出かけちゃったの……かな?」


(でも念には念を!)


 それでも私は尚も慎重にドアを閉めると、足音を立てないように階段へ向かってゆっくりと歩き出した。


◇◇◇◇


 寮の玄関を出て、青々と生い茂る木々に囲まれた細く湾曲した小道を暫く歩いて行くと、漸く目の前が拓け、立派な黒鉄くろがねで出来た寮の門が見えて来た。


「良かった。あと少しだ」


 有りがたい事に、今まで誰にも出くわさずに無事入口付近まで辿り着いた私は、安心してホッと胸をなで下ろした。そして手に持っていたハンドバックを上機嫌な様子で、クルクルとベルトの部分を持って回し出した。


「取りあえずは第一関門突破ってとこかな。なかなか幸先の良いスタートじゃない」


 気を良くした私は鼻歌なんぞをお気軽に歌いながら、バッグをグルングルン回したまま寮の門外へと一歩足を踏み出そうとした。と――


「うっ……」


 そのうめき声とも、驚きの声ともつかない声が洩れたのと同時に、リズミカルに回転していた私のバッグが動きを止めた。


「っと、危ないよキミ」


(!?)


 その声の主の顔を見た私は息を呑んだ。


(なっ、名波さんっ!?)


 先程まで大旋回を繰り返していたバックを、その華奢な細い腕一本で見事に鮮やかに制していたのは、『今日ホームセンターへ花の苗を買いに行く』と食後信吾君の前で渋々予定を立てていた名波さんだった。

 彼が宣言したとおり、私のバックを掴んでいないもう一方の腕には、大切そうに近所のホームセンターのビニール袋が抱えられていた。透明色の袋の中には小さな植木鉢に入っている花の苗が見てとれた。


(名波さんっ!?どうして!?)


 私は彼を見つめたまま、口をあんぐりと開けその場でフリーズしてしまう。


(まだあの時からそんなに時間が経っていないのに、どうしてもう寮の前にいるのよ!?)


 私は驚きのあまり声を出せずにいた。


 あの時とは、私が朝食の片付けを終えた時の事だ。

 私が自分の部屋へ戻ろうと階段を上りかけた時、外出する名波さんとすれ違ったのだった。

 それから時間はまだそう経っていない――。


 間抜け面のまま瞬間冷凍されているそんな私の様子を見た名波さんは、怪訝な顔をしながら呆れたように一つ溜息を落とした。


「僕の顔に何かついてる?君は意味もなくそんなに人の顔を見つめるの?」


 そして彼は自分の手で掴んでいたバッグを放すと、私の顔をジーッと見つめ返してきた。

 まるで精魂込めて人の手によって作られたような、その完璧なまでに美しい容姿と、その顔に影を落とす長い睫毛、そして何処までも深く落ちて行ってしまいそうな、闇色に塗り染められた漆黒の瞳に見つめられ、次第に私の胸は大きく脈を打ち、顔は火照り出す。


(こんな真っすぐ見つめられたら私……)


「すっ、すいませんっ!それではっ!」


 私は恥ずかしさで慌てて目を逸らした。そして腰を90度にカクンと折って大きな声で謝ると、足早に名波さんの元から去ろうとした。


 しかし今度は私の腕が強い力で掴まれる。


「えっ……」


 その勢いで振り返る。と、そこには不敵に微笑む名波さんの整った顔があった。


「君、まだ僕の話は終わってないんだけどな」


 そして名波さんはその美しい瞳を優しく細めた。



読者の皆様こんにちは!

更新が遅くなって申し訳ございませんっ!

これからも頑張って書かせて頂きますので、どうぞご愛読の程宜しくお願いいたします<m(__)m>


冴木悠。

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