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Sorpreso~彼の行方と謎の美女?

「もうそろそろ準備しようかな?」


言って私は読んでいた本を閉じベッドから起き上がると、部屋の奥にあるウォークインクローゼットに足を向けた。


中へ入った私がまず向かったのは背の高いハンガ―ラックだった。

そこには『戦闘服』としてハナさんからプレゼントされたインディゴカラ―のデニムのワンピースと、マンダリンオレンジのストールが掛けられている。 

私はそれを大事そうに手に取ると、次はその隣にある大型の収納ケースの一番下の引き出しを開いて、中から黒い箱を取りだした。そして中を開く。

中には、栗色に輝く、くるくるウェーブのロングウィッグが入っていた。


(いよいよかぁ……)


私はウイッグを慎重に手に持つと、ウォークインクローゼットを後にした。


◇◇◇◇◇


洋服を丁寧にベッドへ並べ、着替え始めようと着ていたシャツのボタンを外しかけた時、


pururururururururu……


突然携帯電話の着信音が部屋中に鳴り響いた。

慌ててチェストの上の充電器から携帯電話を取り上げる。そしてディスプレイを見て首を傾げた。


(誰?この携帯番号?)


そこに表示されていた番号は、学生時代の友人、知人でも、先日強引に登録された信吾君の番号でも、誰の物でもない。


(嫌だなぁ、変な電話だったらどうしよう……)

 

私は暫く携帯電話を無言で見つめていたが、再びチェストの上の充電器に戻すと無視を決め込んで、着替えを再開した。しかし――


purururururururu……

 

 一向に携帯電話は鳴り止まない。


(おかしいなぁ?私何秒で登録してあったっけ留守電)


 私は着替えながら、鳴りやむ気配のない携帯を不思議そうに見つめる。と、


プッ――。


 ようやく着信音がおさまった。


「良かった」


 私は安心した様子でワンピースのチャックを上げた。しかし安心したのも束の間――


purururururururu………。


 暫くして又携帯電話が賑やかに騒ぎ始める。


「えっ!?」


 私は驚いて固まったまま暫く携帯電話を睨みつけていた。だがやはり着信音は鳴り止む気配を見せない。


(なんだろう?こう何度もかかってくるなんて……もし間違い電話なら教えてあげないと)


 諦めたように私はフゥと溜息を吐くと再度チェストへと向かった。そして徐に手を伸ばし携帯電話を耳へあてた。


「もしも――」

「遅ぇぞチビっ!」


 私が定番の言葉を言い終わらない内に、聞き覚えのある怒声が耳をつん裂いた。

 その罵声を聞き、相手が誰なのか瞬時に悟った私は次の瞬間大声で叫んでいた。


「みっ、瑞森さんっっ!?」


 その声は――紛れもなく今朝失踪中だった瑞森レオだった。


「おう!当たり前だっ!」


 携帯口の彼はやたらと偉そうだった。


「当たり前って……」


 小さく呟く。


(『当たり前だっ!』て何決めつけてんのよコイツはっ!まぁ確かに第一声で私の事を『チビっ!』て罵倒してくれるのは、アンタぐらいだけどっ!)

 

 私は心の中で悪態を吐いた。


「何してんですかっ!?」


 突然の彼の電話に驚いてアワアワしていると、ヤツは一言こう言った。


「何って、お前に用があったから電話してんだろ?悪いかっ」

「悪いって……」

 

 言葉が詰まる。相変わらずの俺様節だ。

 私は先程から心の中でモヤモヤしていた疑問をぶつけた。


「って言うか、今何処にいるんですかっ!!それに何でオレの番号知ってるんですか!?」

 

 そうだ!まずそれを確かめないとっ!

 

 朝っぱらから姿が見えないと思ったらいきなり電話してくるなんて、不意打ちにも程があるっ!それに私の携帯電話の番号を瑞森レオが知っているなんて事絶対あり得ないはずなのにっ!?

 だってこんなヤツに番号を教えたら最後、私はプライベートな時間までこの男に占領されかねないっ!それ程この男は人使いが荒いんだもん!だから私は一度たりともコイツに番号を教えた事はないのだ!なのに――。


 頭の中が今にも爆発してしまいそうなくらいパニくっている私の疑問に、瑞森レオは何とも呆気なく答える。


「あ?何慌ててんだよお前。番号ならアンジェラに訊いた」

「アンジェラ―――――っ!?」 


 思わず携帯口に向かって私は大声で叫んでいた。


(なんで勝手に人の番号をっ!?)


 恐るべし『女王アンジェラ』!

 やはり唯我独尊はこの血筋か?

 なんとも西太后並みに『強引ぐマイウェイ』なお人だっ!


「うるっせーなぁ!朝っぱらから人ん耳元で騒ぐんじゃねーよチビっ!キンキンすんだろーがっ!!」

 

 そう言った瑞森レオが、今度は朝っぱらから大声で携帯口の向こうから叫んでいた。


「す、すいませんっ!」


 しかしいつもの癖か、条件反射的に私の口から自然と謝罪の言葉が飛び出てしまう。

 

 暫し宿る沈黙の壁――。


 とその時、耳に当てた携帯電話の向こうから、上品で華やかな音楽が流れてきた。


(――何だろうこの音楽?)


「瑞森さん、今何処に……?」


 私は訊いた。


「あっ?あ、ああ……」


 しかし彼は動揺気味に曖昧な返事を返すだけで、はっきりとした答えを返さない。


(何を慌ててるのかなぁ?それに――)


 この音楽――何処かで聞いた事がある気がする。

 でも――思い出せない。


(何処――だっけ?)


 私は携帯口から流れて来る音楽に耳を傾け、記憶を辿っていた。すると、


「おいっ!」


 再び苛立ち気味の瑞森レオに、携帯口の向こうから呼びかけられた。


「てめぇ、寝てんじゃねーよな?」

「寝てませんっ!」


 ムカッとして答える私。


「そうか、なら俺が今から言う事ちゃんと聞いてろよっ」

「えっ」

 

 私は首を傾げた。と瑞森レオが慎重に口を開く。


「いいか、この前言ってあった見合いの予定時間より、少し早めにホテルのロビーに来いっ!俺がいなくても絶対そこで待ってろ、いいなっ!もし俺より遅かったら――」


 そこで瑞森レオは一旦言葉を切り、声を低く落とした。そして――


「殺すぞ」

 

 やはり最後にはお約束になった彼の物騒な決め台詞を吐いた。


「ええっ!?そんな勝手なっ!!なん――」

 

 私は余りにも自分勝手な彼の言い分に噛みつきそうになった。しかしその言葉を途中で遮られてしまう。


「レオっ!」


(えっ!?)


 瑞森レオの後ろから女性の透明感のある声が聞えてきて、『うるせぇなぁ、分ってるよっ』とその言葉へ嫌そうに返す彼の台詞が重なった。


「んじゃ、そういう訳だ!お前絶対遅れんなよっ!」

「ちょっ、瑞森さんっ!!」


 瑞森レオはそれだけ言い捨てると、私の話は聞かず慌てた様子でプツリと携帯電話を切ってしまった。


「な、なんなのよ一体。それに早目に来いって……」


(もうっ、どれだけ早く行けば殺されないのよっ!)

 

 ――て言うか、

 お前さんは何処にいる?

 瑞森レオがホテルに近い場所にいたら、私の方が絶対不利じゃんっ!


 そう携帯を見つめて心の中で問うても、彼が教えてくれる訳も無く、私は切られた携帯電話を充電器へ戻すとフゥと溜息を吐いた。


「にしても、あの声……」


 私は瑞森レオの声に被された女性の声を思い出す。

 

 あの良く透き通ったような高音の美しい声――。あれもななんだか良く耳にしているよなうな気がするのだけど――。


「あっ!!」


 と私の脳裏に一人の美しい女性の姿が浮かび上がった。


「ああ、なるほど。あれ?でも何で朝から一緒にいるんだ?」 


 私はそう呟くと不思議そうに眉根を寄せた。



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