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Bicicletta〜買い出し

「まだそんなカッコしてんのか!」


そう言って今私達の目の前に立っている瑞森レオは、先程の瑞森レオと違っていた。


何が違うか…といえば、

先程の彼は白いコックローブをなかなか様に着こなし、何処からどう見てもイタリアンレストランのメインクオーコにしか見えなかった。


が今私達の目の前にいる彼は、黒の細めのジーンズにブーツ。そしてロゴの入った体のラインが分かるような白いTシャツにちょっと薄手の合皮素材なジャケットに身を包んでいた。


(ちょっと格好いい…かも)


不覚にもそう思ってしまった。


だってしょうがない本当だから。

嘘はつけない。

例え…悔しくても。


瑞森レオは容姿端麗でまったく文句の付けどころのない男なのだから。(但し外見のみ!)


イタリア人のハーフというだけあって長身なスタイルな上、この神から授かった金色の髪がこの全身黒一色のコーディネイトにそれは良く映えていた。


―明と暗―

だ。


そして背が高く少し細身の自分のスタイルを熟知しているような完璧なまでの装いで(モデルか?)と思うほど輝いているのだ。



にしても…

さっきの言葉が引っかかる。



「そんなカッコ?」


瑞森レオのセリフの意味が分からず首を傾げて彼を見る。


「ほらっ!」


そんな私にお構いなしで、突然手に持っていた赤い物体を投げ寄越こす彼。


「ヘルメット?」


「他になんに見える、馬鹿」



…コイツ外見がカッコよく変わっても内面はまったく変わらない鬼だな。


少しがっかりする。


って、何で私今がっかりしてるの?

少しでも外見通りカッコ良くて、私を守ってくれる優しい王子様にでもなって欲しかったとでもいうの!?


確かに見た目は誰もが振り返るような、それは美しく麗しい男性だけれど。


だけれど―


人間見た目じゃないわ!

心よっ!


それにいくらコイツが優しくなったとしても

それはそれで違う意味として恐ろしいぢゃないっ!



「おい見習いっ、何トロトロしてんだよ。行くぞ!」


「は?」


自分も色違いのヘルメットを持った彼は、私をその場に置いたまま1人だけでドアへと向かう。


「行くって何処へ?」


投げられたヘルメットを抱えたまま彼の背中へ向かって呼びかけた。


「何処って、日吉青果に決まってんだろ?」


ドアの前で立ち止まると、呆れた顔で振り返る。

そして私の傍に立って黙って見ていた信吾君へと言葉をかけた。


「信吾!今からそいつと日吉青果行ってくるから留守番頼むな」


ドアから出て行こうとする。


「日吉青果って…」


私はその言葉を聞き返した。

その行動がどうやらカチンと来たらしく彼は足を止めると、今度は振り返って私を睨んだ。


「お前が地図読めねぇから、ついてってやるんだろ?置いてくぞ!」


彼はそれだけ言うと踵を返してドアから出て行った。


「あ、え、えぇっ?」


ワケも分からずオロオロする私に、先程から私達の会話を無言で聞いていた信吾君が、心配そうに口を開く。


「輪何してんだよ、レオ待たせると後で恐いぜ」


「えっ?」


「ただでさえお前目ぇ付けられてんだから、これ以上刺激しない方が身の為だと思うけどな」


「あ、後で恐いって…」


信吾くんはちょっとビビリ気味に聞き返した私をチラリと見る。


「…あいつって案外そう言うこと引っ張るタイプなんだよな…明日お前ここにいないかも」


ボソッと呟いた。



えっ?それって解雇通告ですか?

やっぱりあの男はオーナーの息子だけあって人事権も握ってるんですか?!


それはちょっと…

やばい…。


まだ辞める訳にはいかない!


だから私の答えは一つしかなかった。


恨めしいけど。



「い、行ってきまーすっ!!」


私は力強く信吾君に言うと、ヘルメットを抱え込んで慌てて瑞森レオの後を追った。


「ホントあいつって単純!ああしなきゃこっちにとばっちりが来るもんな」


キッチンに1人残された信吾君はそう言って、ニヤリと笑うのであった。


◇◇◇◇


「ちょっと…待って…下さいっ!!」


息をハァハァと切らしながら、駐車場にいる瑞森レオの元へ猛ダッシュで駆けていく。


私が駐車場に着くと、すでに彼は自分の愛車である黒と赤のスタイリッシュなバイクに跨り、ヘルメットを被っていた。


ボディには<HO○DA CBR>の文字。


「早く乗れ!捨ててくぞ!」


「捨ててく…。」


置いてくって言うならまだしも

捨ててくって…



(私は猫かなんかですか?)



そんな私の目の前にあるバイクからはエンジン音が聞こえ、すぐにでも走り出せるようになっている。


「は、はい!スイマセンっ!」


私は慌ててヘルメットを被ると、慣れない足取りでバイクに跨った。

しかし腰に巻いていたサロンのせいで上手く乗れない。


「あ、れ?」


「お前なんでサロン着てくんだよ!んなもん脱いでから来いよっ!」


「あ、すいませんっ、今から脱いできます!」


急いでバイクから降りようとすると、彼が制した。


「時間がねぇって言ってんだろ!ったく下りんな、そのまま行くぞ!」


「スイマセンっ!」


私は絡まっていたサロンをお腹の方に手繰り寄せると、バイクの後部座席に掴まった。


「はい、お願いします!」



ブオンッ!!


瑞森レオがアクセルを吹かす。

とその音と同時に



「ぬおっ!!」



体が仰け反った。



その私の奇声に反応して、瑞森レオが片足を地面に付けてバイクを止めてヘルメットの窓を開けた。


後ろを振り返る。


そこには、仰け反ったまま硬直している私の姿があった。



「お前何やってんだ?」


「何って、落ちそうになって」


仰け反った体勢を整える私。


「なんで落ちんだよ!」


「あ、手が滑ったみたいで…」


「手?」


彼はこの言葉を聞いて私がどうやって乗っていたのか理解したようだった。

呆れたように溜息を一つ落とすと口を開く。


「俺急いでるって言ったよなぁ、落とされたくなかったらちゃんと俺にしがみついてろ!」


「えっ?しがみつく?」


「当たり前だろ!スピード出すんだからそれ位分かれよ馬鹿!」


「しがみつくって…何処に?」


(まさか…)


私の不安は的中した。


「アホかお前!腰に決まってんだろーがっ!」


「腰!?」


やっぱり。


そうですか…。


そうじゃないかな〜とは思ってましたよ、はい。

でも…



異性の腰に手を回すなんて―



ちょっと刺激的すぎやしませんか?



ただでさえこんな真近に、広くて大きな背中があるだけで緊張してしまうというのに。


こ、腰に手を回せなんてっっっ!!


これが《タンデム》というヤツですか!


前の座席の人間と後部座席の人間が、ピッタリと密着して…


そう、密着…



(えっ、という事は私も瑞森レオと密着…)



ゴゴゴゴゴゴーッ……


只今体内血液逆流中!


見事に頭に上りつめておりますぅ!!



真っ赤な顔して瑞森レオの背中を見つめる。


(無理無理無理っ!!これ以上近づけないっ!)



でも

振り落とされたくないっっ!!


て、事は…

取り合えず掴めばいいんだよね。


「はい」


私はピッと、瑞森レオのジャケットの裾を掴んだ。


「何 してる…」


「だから落ちないように掴んで」


「はぁ?」


すると彼はジャケットを掴んだ私の両手をグッと引っ張る。


「えっ?」


と、

そのまま引っ張った両手を自分の腰に絡ませた。


「ちょ、ちょっと!」


自然私の上体は前のめりに倒れ、彼の背中に覆いかぶさる形になった。


ドクン‥ドクン‥ドクン…


自分の激しく脈打つ鼓動が彼の背中に伝わってしまう。


「な、何するんですかっ!?」


「何って、落ちねぇようにしてるんだろうが!」


「だ、大丈夫ですよ、落ちないですから!」


私は絡められた両手を解きほどこうともがく。

しかし彼の左手が、私の手を上から力強く握ってそれを遮った。


「えっ?」


一瞬躊躇する。


「そんなに強く握らなくても…オレ」


その言葉に何かを察したように、瑞森レオは頬を赤らめ慌てた。


「ば、馬鹿!そんな気はさらさらねぇっ!オレは至ってノーマルだっ、誤解すんなっ!」


「誤解って!」


「落ちられたらこっちが困るんだよ!」


彼が照れ隠しのように言い捨てる。



それって…



もしかして私が怪我でもするんじゃないかって心配してるの?

それって それって…

ちょっと嬉しい…かも。



しかし彼の言葉はそんな可愛いものでは決してなかった。



「労災払わなきゃなんねぇだろ!」


「ろうさい…」



私の命でなくて店の金が惜しいのか瑞森レオっ!


どこまで悪魔なんだよ、あんたはっ!


顔が歪んでしまった。


「何 不細工な顔してるんだ」


「不細工ぅ?」


花も恥らう乙女になんたる失言っ!


私はヤツを睨みつけた。


でも幸いヘルメットを被っていた為、はっきりとした憎悪の表情を彼には気付かれずにすんだ。


「んじゃ行くぞ!」


そう言うと彼は再びヘルメットの窓を閉じてアクセルを吹かした。


「振り落とされんなよ!」


「当たり前です!」


私のその言葉を合図に瑞森レオは、地面を蹴った。





挿絵(By みてみん)
















参考―


今回登場した瑞森レオの愛車ですが、HO○DAさんの『CBR』をモデルにさせて頂きました。

カラーはグラファイトブラックXイタリアンレッドでしょうか…。

イタリアンレッドなんて、なんか瑞森レオっぽいかな?なんて思いまして。ははは。


個人的な意見ですが、あまりバイクに詳しくない冴木は、バイクといえばホ○ダ、エンジンと言えばホ○ダという知人の意見を頑なに信じておりまして、今回もスピードがべらぼうに早いというイメージで参考にいたしました。


心の広いアンチホ○ダ派の読者さんは、無知な私を笑って許して下さいませ。  

宜しくお願いいたします。


冴木悠。

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