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Bagno〜お風呂場で

「う゛〜」


むしょうに熱かった私はガバッと布団を剥いで目を覚ました。

目の前には天井の木目が見える。


「あれっ?ここは…」


首を動かして見渡すと、どうやら自分の部屋であるようだ。

辺りはまだ暗く、闇に包まれている。


「えっ、私いつの間に部屋に戻ってきたんだろう?」


先程までの記憶を手繰ろうと頭の中を模索する。


「確か夕飯の後、バーカウンターに連れて行かれて、それから歓迎会とか言ってお酒飲まされて‥で皆といろんな話して、それから…あれ?」


記憶が止まる。


(あれ?それからどうしたんだっけ…?)


腕をオデコに当てて考える。と妙に厚ぼったい自分の腕に気づく。


「ん?パーカー?」


驚いて胸元やお腹を触る。ベルトの金具が手に当たった。


「やば、私服着たままじゃんっ!」


慌てて体を起すと、私はベッドを抜け出してクローゼットに向かった。

クローゼットの電気を点けると、腕の時計を見る。


12:42


「もうこんな時間か。今からお風呂じゃ迷惑かな?でも明日は初出勤だし、汗かいてるし、シャワーくらいは浴びたいよな…」


私は少し迷った結果、収納ケースから着替えとバスタオルと入浴セットを取り出した。


「少しくらい大丈夫だよね」


自分勝手な事を言い聞かせると、私はそれらを持って1階のバスルームに向かった。



◇◇◇◇


1階のバスルームに着いて電気を点けると、私は棚の上に置いてあった籠に脱いだ衣服を畳んで置いた。

それから、ナイロンタオルとフェイスタオルと入浴セットを持ってドアを開いた。


モワッ、という熱気と共に視界が塞がった。

白い湯気がバスルーム一面に漂っていている。


私はそれをあおぎながら前へ進むと、洗い場のイスに腰掛けた。


洗い場には鏡が付いていて、その前にはシャンプーやらリンスやらボディーシャンプーやらが、ラックにごちゃごちゃと並んでいた。


有り得ない物に目が留まり、私は首を傾げる。


「…CDプレーヤー?なんで?」


ラックの一番上には黒いコンパクトなCDプレーヤーが置いてあった。


「壊れるだろ…こんな所に置いたら」


不思議に思いながらも無視して体を洗う。

一通り自分の体を洗うと、私はいよいよ待ちに待った浴槽に足を入れた。


「あれ?」


又不思議な物を見つけてしまった。

今度は浴槽の淵に掛けてあるスチール製のスタンドだ。シルバーのそれにはプラスチックの板が付いている。


足を止めると、スタンドに近づいて持ち上げる。


カタンっ、と言って広がると、ブックラックの様なものが現れた。


「これってまさか…」


(なんで男世帯のこの寮にこんな物が??)


その物体には見覚えがあった。

私も以前利用していたことがあった通販のカタログに載っていたもの…。


「これって、『半身浴セット』じゃないっ!?」


たしか、これは文庫本から雑誌までラクに置ける3段式スライドの半身浴ブックスタンド。


でも なんでこんな物が??


半身浴って女性しかしないものじゃないの?


ってか、誰がこれ使ってんだ?


「う〜ん…」


私は頭を抱えて皆の顔を思い浮かべる。



竜碼さん…ないない!!想像すら出来ない。


信吾君…だったら、水鉄砲とかオモチャとか持ち込んでそう。


名波 一…お花いじりにエプロン姿……ん、ありそうで怖いっ、



「……はぁ、」


一つ溜息をつくと、ブックスタンドを元の場所に戻す。


「まぁ、趣味は人それぞれだし…これは見なかった事にしよう…」




私は静かに浴槽に戻ると今度こそ、乳白色をしている浴槽に肩まで浸かった。


「ほ〜ぅ極楽 極楽ぅ〜」


オヤジ臭いセリフを吐いて両手、両足を伸ばす。


「う〜んっ、こんな伸び伸びとお風呂に入れるなんて、何年ぶりかな」


首を1回転させると、コリコリと鳴った。


どうやらここの風呂は有難い事に24時間循環風呂らしく、この時間でも浴槽に入っているお湯は程よい温かさを保っていた。


私は少し泳いで反対側の壁に動いた。そして四角いパネルを開くと、スイッチを押した。


ボッコ‥ボッコ‥ボコ、ボコ、ボコボコボコ…


浴槽の下の方から何かが沸き立つような音を立てて、無数の泡が浮かび上がってくる。


「わ〜泡だ泡だ、ジャグジーだ!」


その上に体を乗せると、上に押し上げられる感覚に襲われる。


「これがジャグジーなんだ。気持ちいいっ〜」


私は初めて体験したジャグジーの虜になってしまった。


「こんなのが毎日体験できるなんて、寮に入って正解だったかな?」


広いジャグジー付きの浴槽に、素敵なインテリアのある小洒落た部屋、それに至れり付尽くせりのお屋敷に楽しい仲間…


「これなら何とかやっていけるかも」



兄貴肌で頼りになる、だけどちょっと天然タイプの竜碼さん。


末っ子気質で悪戯っ子、でも何か憎めない信吾君。


そして


いつも人をからかって、何を考えてんだか分からない 超マイペースな名波 一。




「…みんな個性的ではあるけどね」


私は浴槽に頭の先まで潜った。



今迄体験した事のなかった出来事のオンパレードに、能天気で楽天家な私は制限はあるけれど、きっと楽しい生活が待っているんだろうと考えていた。


そうこの時までは


この後に何が起こるのか、私はまだ知らなかったから…。


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