表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/74

Ricevimento〜歓迎会

「まあまあ 遠慮すんなよ」


信吾君が私の肩に腕をまわしながら言う。


私が肩を組まれ拉致られて来た先は、夕方名波 一に案内されたテレビルームのバーカウンターだった。


「い、いえ わた、お俺あまり飲めないんで…」


私はなんとかその腕を振り払おうとする。

そんな私に後ろから声がした。名波 一だ。


「あれ?君20歳でしょ、少しはお酒飲めるって言ってたよねぇ」


クク、と笑いながら部屋へ入ってくる彼。

キッチンの片付けが終わり、竜碼さんに言われたとおり彼もこの部屋へやってきた。


「そうですけど…明日は仕事ですし…」


「俺だって仕事だよ〜ん」


肩を組んでいる信吾君がニマニマ笑うとカウンターの席に私を座らせた。

カウンターにはすでにグラスが人数分置かれていて、竜碼さんがシャカシャカとシェイカーを振っていた。


「おおっ!いい腰使いですね〜兄貴」


信吾君がカウンターでリズム良く体を振っている竜碼さんに声をかける。


「まあな、今日は見習い君の歓迎会だから、俺が今特製カクテル作ってやっから」


楽しそうにシェイカーを振り続ける。


名波 一が私の隣に座った。


「もう観念したら?竜碼さんがあれ始めちゃったら、もう誰も逃げられないよ」


「そんなっ…」


「そんなじゃなくて、これはうちに来る新人は誰でも通る道なんだよ。いわばこの寮の洗礼ってヤツ?」


そう言うと信吾君は竜碼さんに「おつまみも〜」と叫んだ。


「うるせぇ、こっちはスペシャルドリンク作ってやってんだ!信吾、てめえが何か用意しろよ

!」


「え〜っ、俺もう動きたくね〜よ〜」


「んだと〜てめっ、酒ぶっかけるぞっ、嫌ならとっとと行きやがれっ!」


「ったく、人使い荒いぜ 竜兄」


「ああ〜ん?」


竜碼さんが厳つい顔を作り、上下に振って信吾君を威嚇する。


そんな怖い顔を作らなければ、竜碼さんは素敵な容姿をしている。

身長180cm以上はある長身にがっちりとした体つき。かといってマッチョ体系でもない彼は、サーフインでもやっていそうな浅黒い肌に程良く筋肉が付いている。

学生時代は恐らく毎日体育会系の部活で汗を流していたであろう雰囲気だ。

顔立ちはそう、目が鋭くてワイルドな印象。


そんな竜碼さんが、厳つい顔を作るとかなりの威圧感を与える。

冗談でもなかなか怖い。



「おおおっ、こえ〜こえ〜。んじゃ 行ってきま〜す」


信吾君は私達に手を振りながら、キッチンへと向かった。



◇◇◇◇


程なくして信吾君が両手にトレイを持って現れた。

トレイの上には色々な種類のチーズやグラスに入ったサラダのような物など、綺麗に飾り付けられて沢山乗っていた。


「おまっと〜さん!」


信吾君はそれをカウンターに並べる。


「すごい…」


私はその料理の素晴らしさに目をみはった。

まるで一流ホテルのビュッフェさながら色とりどりの一口サイズのオードブルが並んでいる。


「綺麗…」


その言葉を聞くと信吾君は嬉しそうに鼻先を掻いた。


「だろだろ?」


彼は弾けんばかりの笑顔で私を見ると、料理の説明をしてくれる。


「これがブルスケッタ。バケットににんにくとバターを付けて焼くんだ。その上にトマトのケッカソースを乗せてある。こいつはワインとかさっぱりした酒に合うんだぜ、でこっちが…」


一つ一つ料理を丁寧に教えてくれる彼は凄く幸せそうだ。

そんな彼を見て名波 一は私に彼を紹介した。


「信はうちのクオーコなんだ、料理人だよ」


「料理人?」


その言葉に信と呼ばれた彼が反応する。


「そう。俺は店で主にアンティパスト(前菜)とドルチェも担当してるんだ。だから安心して食えよ美味いから」


信君は私に料理を取り分けてくれる。


「おいっ!俺を置いて先に食う気かよ」


竜碼さんが笑いながらグラスに黄金色のカクテルを注ぐ。


「俺のスペシャルドリンクも美味いぜ〜」


「ありがとうございます。あ、と、貴方も料理人さんですか?」


カウンターの彼は眉を上げる。


「おいおい、貴方ってのはやめてくれよ。俺は三木竜碼みきたつま、竜でも竜碼でも好きに呼んでくれ」


そう言うと彼はワハハハハ、と豪快に笑った。


「じゃあ、竜碼さんでいいですか?先輩ですから」


竜碼さんはニッコリと笑うと嬉しそうに言った。


「今度の見習い君は礼儀正しくていいねぇ〜、礼儀知らずなどっかの誰かとは大違いだ」


横目で信吾君を睨む。


「何いっちゃってんの?俺と竜兄の仲じゃん。難い事は抜き抜きっ」

 

そして信吾君はグラスの中のカクテルを煽った。


「うっめ〜。さっすがは竜兄、いい仕事してますね〜!おかわりっ!」


空のグラスを自分の前に突き出されたのを見て、竜碼さんは信吾君の頭をコ突く。


「痛って〜っ、何すんだよ!馬鹿竜っ!」


「馬鹿竜ってなんだぁ?てめえ主賓の見習い君より先に飲むなんていい度胸だぜ」


竜碼さんは私を見る。


「い、いいえ俺は別に…」


「ほら、気にしないって言ってるじゃん。楽しく飲もうぜ!」


「お前なぁ…」


呆れ顔の竜碼さんを後目に信吾君はチーズを口に放って「美味い、美味い」と絶賛している。


「はぁ…」


溜息を付きながらも竜碼さんは信吾君のグラスにお替りを注いだ。

その様子を黙って微笑ましく見ていた名波 一が私に話しかけてきた。


「あの2人はいつもああなんだよ。面白いでしょ」


クスッと笑う。


「仲が良いんですね」


私も名波 一と一緒になって笑った。



「なんだそこ、コソコソして。ほらグラス持て。1人足りないが取りあえず乾杯すっから」


私達は各々にグラスを持った。

そして竜碼さんの号令で


「「「「かんぱ〜いっ!!」」」」


グラスを軽くぶつけ合った。



◇◇◇◇


お酒が進んで饒舌になってくると、竜碼さんも信吾君も自分の事を陽気に話し出した。

唯 名波 一だけが、お酒が入る前と変わらないポーカーフェイスでニコニコと微笑んでいた。


「でお前 見習い君、名前は…」


「あ、春日 輪です」


「そうだ、輪君だっけ。輪君は何でこの店に来たんだ?」


顔をお酒で赤らめた竜碼さんが唐突に尋ねてきた。


「えっ、それは…」


「そうだよ。オーナーってなかなか新人入れないんだぜ?人が足りないっ、て俺が訴えた時だって『あんた達の頑張りが足りないっ』て逆に怒られたんだよな」


信吾君は膨れっ面をする。


(あのアンジェラなら言いそうだ)


私は熱く語っていたアンジェラの姿を思い出す。


『ここのオーナーの娘である事も、関係者である事も口外しないで!』


アンジェラとの打ち合わせの時に念を圧された言葉だ。

何と言って回避しよう…。


そう考えていた時 名波 一が口を開いた。


「きっと単なるオーナーの気まぐれなんじゃないの?彼見た目も悪くないし、素直で人当たりも良さそうだし、タイミング良くオーナーの目に留まったんだよ。それに…」


名波 一は私の頭を撫でる。


(!?)


「万年人手不足なうちの店に、来てくれただけでも有難んじゃない?」


私の瞳を見つめる彼。

少しお酒が入った名波 一の瞳は微かに潤んでいて、大人の男性の妖しい色気を漂わせている。


そんな瞳で見つめられたら…


ボンッ!


一気に私は沸騰点に達してしまった。


「おっ、赤くなってる!輪て可愛い〜っ」


信吾君がその様子に気づいて茶化す。


「赤くなんか!」


「なってるよ」


名波 一がニコッ、と微笑んだ。


(だからその顔で見つめないでよっ!)


彼から慌てて目を逸らす。

と、今度は竜碼さんと目が合った。


「ん?」


その瞬間 バツが悪かった私は思わず、


「お替りくださいっ!」


大声で叫んでしまった。


「おっ、嬉しいねえ」


竜碼さんは私のグラスを取り上げると次のお酒を注いだ。

私はバクバクしている心臓を落ち着かせようと、一気にそれを飲み干した。


「プハ〜ッ」


深く溜息を吐く。

治まるどころか、ますます苦しくなった気がする。


「なんだ、輪て結構飲めるじゃん!」


信吾君がいつの間にやら取り出した白ワインを私のグラスに注いだ。


「えっ、ワインなんて…」


「大丈夫、大丈夫!軽いヤツだからさ!お前の歓迎会なんだし」


そう言いながら私を煽ってくる。


(ええ〜い ままよっ、)


私はグラスに口を付けた。


初めてのワインの味。

苦いものだろうと思っていたけれど、サラッとしてとってもフルーティー。

何か お水みたいに飲みやすいかも…

うん。なかなかいける…あ、カァーッッてしてきた…なんか… ぼ〜っとしてき‥た…


ドンッ!!


近くで大きな音がした。

そして慌てふためく皆の声。


「おい!輪大丈夫かよっ!」


「信吾っ!お前何したっ!」


「彼、今頭打ったよ。大丈夫かな?」


「信吾っ!早く水、水、水持ってこいっ!!」


「水って、竜兄の方が近いじゃんっ!」


「そんな事より部屋に運んだほうがいいと思うけど」



フワッ、と急に体が浮いた。


(何…かな)



体が心地よく振動する。まるで揺り篭に揺られているみたいだ。


(あ、あったかくて気持ちいいな…)


傍にある柔らかくて温かいものに触れる。



「ハジメっ、後頼むなっ!」


「階段とか気を付けてよっ!」


竜碼さんと信吾君が叫ぶ声が微かに聞こえる。


ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ…


その心地よいリズムと、温かいものに包まれて

私は深い闇に落ちていった…。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ