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(恐らく)乙女ゲームの悪役令嬢に異世界転生したようです。

王道の転生悪役令嬢ものが書きたくなったので書き始めました。よろしくお願いします。

「いた……」


頭がツキンと少し痛む。そっと目を開いて頭に手を当てる。二日酔いか?――いや、そもそも昨日お酒飲んだっけ――虚ろげにそんな事を浮かべたその時、自身の置かれている状況のかなりの違和感に、ぼうっとしていた頭が一気に冴えて目を見開き、はっとする。


見るからに完全に自分の部屋じゃない。見覚えもない、自室より遥かに広い部屋は、白とピンクを貴重とした可愛らしい部屋だった。天井にはキラキラ輝くシャンデリア。棚にはテディベアだとか、絵本だとか。壁には絵画が飾り付けてあったりする。

そして今まで自分が寝入っていたのは漫画でしか見たこともないようなプリンセスが寝るような天蓋付きのふかふかなベッド。寝心地は最高。じゃ、なくて。


ここはどこだ

慌てて布団をはぎ、ベッドから抜け出そうとして、視界に入ってきた短い手足に動揺する。おかしい、なんだこの小学生くらいの体は――


よたよたと彷徨うように歩き出すと、何か確認をするために、部屋にある、これまた縁に彫刻をされた花の装飾が可愛らしいドレッサーの、大きな鏡を恐る恐る覗き込む。

映りこんだのは、何かを察し、ハッとして同時に愕然としたような年に似合わない表情を見せる、10歳くらいの少女だった。紫がかったアッシュグレーの様な髪。少し釣り目気味な目にピンクグレーの瞳。雪のようなつるんとした白い肌。通った鼻筋。頬はふっくらとした綺麗な輪郭。今は幼く可愛さもあるが、きっと成長したら恐ろしく美しい美人になるのだろう。それこそ無表情だと怖いくらいの。


「嘘……でしょ……」


他にも確認をしてみれば、花がいけている花瓶は見るからに高級そうだし、部屋の大きなクローゼットの扉を開けば、ど派手で美しいドレスが大量に入っている。

この中世ヨーロッパを彷彿とさせるような衣服や部屋。見たこともないような調度品の数々。


これって噂の……異世界転生?!


手をついて鏡に写った麗しい美少女を見て、愕然としたまま固まる。よく見たウェブ小説にはそんな話が多く載っていた。正しくそれは、今の自分の状況にぴったりだった。その転生した主人公の多くは大概悪役令嬢へと転生していた。

そして断片的に思い出される自身このからだのわがまま放題して親や使用人に迷惑かけまくっている記憶。この身体の人物との過去の記憶を共有しているようだ。


この目覚める前、自分の部屋で寝るまでは、何一つ変わった事はなかったはずだった。仕事から帰って、母のご飯を食べて、ゆっくりお風呂に浸かって、寝る前に日課になっていたウェブ小説を読んで寝る。大学時に別れて以来彼氏はいないが、仕事は上手くやっていたし、趣味を満喫したり、実家の猫に癒やされて可もなく不可もなく、それなりに充実した日々を過ごしていた自分――広瀬優亜は、日本の普通の、平凡な24歳だった。そのはずだ。


確かに自分は広瀬優亜であるはずだが、この体の主である記憶と混線している。それでも自分は確信した。


間違いない。これは悪役令嬢に転生してしまったのでは?


そう結論づけたとき、コンコン、と扉をノックする音が聞こえ、その後に侍女らしきメイド服を着た女性が、少々ビクビクした様子で部屋へ入ってきた。


「お嬢様、失礼いたします……――お目覚めになられたのですね!」


そして彼女が鏡の前で呆然と立つ少女の姿を見つけ、驚いたように目を開き、急いで彼女の元へ駆けつける。


「お体は大丈夫ですか? どこか具合の悪い所などはございませんか?」


処理能力はついていかず、戸惑いは未だ収まらないが、返事をしなくてはならない。心配そうにそう声をかけてくる侍女の名前は知らないはずなのに、するりと口に出てきた。


「アン、私どうしてたんだっけ?――」

「階段から落ちてしまったんですよ。それで1日目を覚まさなかったのです。覚えておられませんか?」


階段から――あぁそうだ。次のパーティーに来ていくドレスについて父を階段まで追いかけて、気に入らないと駄々をこねていたとき足を滑らせたんだっけ――我ながら酷いし恥ずかしい。


「ぁあそうだった……迷惑をかけたわ。ごめんなさい」


そう謝ったとき、侍女のアンはギョッとしたような、信じられないような表情をした。


「……ねえ、私の名前はなんだっけ?」

「な……何を仰るんですか……セリーヌ様です。ランヴァート家の公爵令嬢、セリーヌ・ランヴァート様ではないですか」


彼女の質問に心配そうに焦るようにそう答えるアン。今すぐ旦那様と奥様に目を覚ましたと報告に行きますと言う彼女をよそに、彼女が今口にした名前を頭の中で反響させる。するとその時、頭の中にどっと濁流のごとく残りの今までの記憶が流れ込んできた。


『こんな事もできないの? 使えない』

『イヤよ! 私を満足させられないならクビにして!』

『私の視界に入ってこないでちょうだい。不快よ。出ていきなさいよ』

『すてき! 私、絶対に婚約者になりたいですわ! ねえ、お父様――』


それはそれぞれ、使用人や家族やら多くの人に向けたセリーヌのこれまでの悪役令嬢らしい振る舞いの数々だった。同時に猛烈に頭痛が襲ってきて、かくんと膝が崩れ、自立していることが不可能になり倒れ込む。


「――っお嬢様!?」


サァっと血の気が引いていく。舞台に上がるには十分すぎる条件だったからだ。

酷く痛む頭。遠くなる意識の中で思い巡らす。そして悟った。


これ……完全に詰んだやつ……か、も……


侍女の必死にセリーヌを呼ぶ声が聞こえるが、それも遠くに聞こえ、ぷつりと意識が途絶えた。

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